「そんなことがあったのか。流石は指揮官だな。加賀、聞かせてくれてサンキュー!」
「今思えば、かつての未熟な私のみっともない話だったな」
加賀に話を催促したクリーブランドが話し手に礼を言うと、頃合いを見計らったエンタープライズが会議の進行を再開した。
「ーーーさて。加賀の
「グレイゴースト、今度の出撃では背中に気を付けることだ」
「貴女は姉と似たような事を言うんだな」
エンタープライズと加賀が線香花火程の小さな火花を散らしていると、プリンツ・オイゲンが呆れかえったようにため息を漏らして言った。
「ここまでアナタ達の思い出話を聞かせてもらったけど、何も進展してないじゃない」
プリンツ・オイゲンの一言によって、会議に参加している者達は指揮官との思い出話に花を咲かせて、肝心の議題がほとんど進展していないことに気付く。
「はぁー........結局こんなことになるんじゃないかって思ってたら......」
「ま、まぁ、指揮官がロリコンじゃないって分かったり、指輪を渡すのを怖がるような人じゃないって分かったじゃないか」
クリーブランドは会議の雰囲気を落とさないように前向きなことを言うが、結局会議が振り出しに戻ってしまったことには変わりなかった。
「やっぱり、私達がここで話しても何も解決しないんじゃないの?」
「今まで私達が何もしなかったからこそ、この惨状がある。なにも、会議そのものを否定することはないだろう」
エンタープライズはプリンツ・オイゲンにそう言うが、どうやら彼女の考えは少し違うらしい。
「私は会議がダメだって言ってるんじゃなくて、このメンツで会議しても結局何も分からないでしょ? って言ってるのよ」
「む、そうだったか。すまなかった」
エンタープライズはプリンツ・オイゲンの考えが自分の思っていたことを謝った。
すると、何か思いついた様子のプリンツ・オイゲンが片手を上げる。
「私から、参考人として初期艦の召集を提案するわ」
「我も賛同する。もはやここにいる者達で導き出すのは限界だろうな」
プリンツ・オイゲンの提案にグラーフ・ツェッペリンが乗った。他の面々も会議が煮詰まり始めていることを悟ったようで、誰もその提案に『待った』をかける者はいなかった。
「艦隊の最初期ならば、ロング・アイランドとジャベリンだな。しかし、ロング・アイランドはおそらく会議の中継を見ていないだろう。となると......」
このまま消去法でいくとこの場に呼ばれるのはジャベリンなのだが......なのだが......
(ジャベリン......ダメそう......)
という考えが、声に出さなくとも全員の共通理解だった。
「じゃ、ジャベリンを呼んでもいいのだが、ここは電話を通して簡単な質問をするのはどうだろうか」
ジャベリンがアーク・ロイヤルの時のように「ジャベリン、全力でいきまーす!!」と言って、急に大講堂に突撃してくる可能性を察知したエンタープライズが機転を働かせた。ジャベリンをここに通してしまった場合、彼女は指揮官との思い出をノンストップで夜明けまで延々と話し続け、会議が崩壊しかねない。
エンタープライズの意見に皆が無言で首を縦に振る。エンタープライズは端末を手に持ち、ジャベリンへの通話ボタンを押した。会話の内容が会議室にいる全員に伝わるように、スピーカーになっている。少し待つと、通話が始まった。
「こちらエンタープライズだ。中継を見て分かっているとは思うが、君に幾つか質問がある。構わないだろうか」
((は~~~い! 私です! ジャベリンです!! 全然オッケーですよ! ドンと来い! です!!))
この台詞を聞いた瞬間、大講堂の全員が「電話で良かった......」とそれぞれの心の中で呟いた。
「では、指揮官が最初にジャベリン......君を選んだ理由を知っているだろうか」
((はい! 前に指揮官に聞いて教えて貰いました!))
ーーーーーそして、彼女達の不安はすぐさま現実のものとなる。
((そうですね~~~あれは確か私が改造してもらった時のことです私が指揮官にどうして綾波ちゃんやラフィーちゃんじゃなくて私を選んでくれたのか聞いたんですけど最初は指揮官は恥ずかしがって話してくれなかったんですでもどうしても知りたくて気になったので粘り強く聞いてみたら私を改造してくれた時にやっと教えてくれたんです指揮官は「恥ずかしながら、当時の私は艦船少女との関わり方について不安や疑問があった。天真爛漫な君ならばそちらから話しかけてくれて、会話に困ることが無いと思った。君達の指揮官としてなんとも不甲斐ない話ですまない」って言ってたんですよ指揮官って普段は厳しそうで笑うことも少ないし全然振り向いてくれないけど偶にお茶目なところがあるんですよねもうホントこういうジャベリンにだけ見せてくれる可愛い所がたまらな「よし分かった、微笑ましい話だなジャベリン」
((え? そんなこと言わずにもっと色々聞いても良「ありがとうジャベリン。実に有力な情報だった。協力感謝する」
その時、誰しもが「あ、こいつ面倒くさくて切ったな」と思ったそうな。
ジャベリンから話を聞くことは失敗に終わったが、プリンツ・オイゲンはめげなかった。
「最初の秘書艦に話を聞くのはダメだったけれど、秘書官じゃなくて艦隊が発足してすぐに着任した子に聞くのもアリなんじゃない?」
「そっか。ジャベリン達とその後に着任した子達の時間の違いって、ほとんど無いもんな」
クリーブランドも彼女の意見に賛成的であり、手元にあった建造関係の資料に目を向けた。
他のメンツは先程のジャベリンの件で士気の大半を削り取られていたが、クリーブランドが読み上げた資料の中にとある艦船少女の名前が出てきたことで、それは一変した。
「えっと......着任記録によると、ロング・アイランドとジャベリンの次は古い順に、ハムマン、ノーフォーク、クレセント、レパルス、ノーザンプトン、シュロップシャー、エンタープライズ.........って、エンタープライズ!? そんなに昔からいたのか!!」
「確かにそうだが、そんなに驚くことでもないだろう」
現在この大講堂にいるメンバーの中で最も古く着任したのはエンタープライズである事は全員が承知していたが、まさか指を折って数えるレベルの古参であることは誰も知らない事実であった。
「何で今まで黙ってたんだよ......その頃に着任したんだったら、秘書艦になった回数も多いんだろ? 今まで何回なったんだ?」
クリーブランドを含めた全員がエンタープライズの着任時期に驚いたが、そんな彼女の次の言葉は大講堂内にさらに強い衝撃を与える。
「指揮官は着任した私をすぐに秘書艦に任命して、第3海域を突破する頃までは常に私が秘書官だったんだ。だから、今までの秘書艦業務を回数で答えるのは難しいな」
(なん......だと!?)
現在、このマドラス基地での秘書艦業務は1週間毎の交替制である。しかし、それは指揮官が着任してから現在までずっと続いてきたのではない。ーーーーーある時期から交替制になったのだった。そして、交替制が始まるより前にこの艦隊でずっと秘書艦を務めてきた人物こそ、エンタープライズである。
(あれ? でもこれって......)
彼女達は気付いてしまう。
艦隊が発足して間もない頃から秘書艦として指揮官をサポートしてきたエンタープライズが、何故この場で指揮官に関する会議に参加し、司会を務め、自分の後に着任した艦達のエピソードを聴いているのか。
「その時の私が分かっていたのは、指揮官が真面目で......そう、彼は真面目過ぎるんだ.......私だって何もしなかった訳じゃない......けれど彼は秘書艦を交替制にしてしまって......」
当時の事を思い出しているのであろうエンタープライズの目からはハイライトが消え、深く暗い瞳になっている。
当時の彼女はまだ好感度が愛に達していなかったとはいえ、指揮官に少なからず好意を寄せていた。戦闘では常に旗艦として出撃してMVPを取り、艦隊最高峰の練度と秘書艦の座を欲しいままにしていたが......それがある日から、秘書艦から外されて旗艦を務めるどころか、海域に出撃することも少なくなったのである。その時の彼女の落ち込み様は、それは凄まじいものだったという。「本物のゴーストにならないか心配で、気が気じゃなかった」とはホーネットの談である。
ーーーーーーある意味、一番可哀想なのはエンタープライズなのかもしれない。
「アナタ大丈夫? 随分顔色が悪いようだけど......」
「あぁ、大丈夫だ。司会進行としてここで沈むわけにはいかないからな......コッフ」
クイーン・エリザベスが心配する程顔色が悪いエンタープライズであったが、謎の嘔吐きを挟みながらも席を外さないのは流石といったところか。
「エンタープライズ、我から1つ良いだろうか」
エンタープライズが過去の苦い思い出に打ちのめされて会議全体の雰囲気も悪くなってきていたが、そんな中でもその威厳を保ち続けているのは、グラーフ・ツェッペリンである。
「先程の着任記録の話だが、初めての建造で着任したのはノーフォークだそうだな。ここまで艦隊発足当初の話はあまり参考にならなかった聞けなかったが、彼女なら我々に有益な話をしてくれるのではないだろうか。ハムマンも考えたが、彼女はあまり指揮官の話をするのは得意ではないだろう」
グラーフ・ツェッペリンは心の中で台詞に棒線を引きながら、艦隊で3番目に着任したカウンティ級重巡洋艦のノーフォークを推した。
「ノーフォーク......あの盾を出すロイヤルの重巡か。グレイゴーストよりも先に着任したのなら聞いてみる価値はありそうだ」
加賀の『盾を出すロイヤルの重巡』という覚え方はいささか失礼だが、ノーフォークは内気な性格と海域への出撃頻度の低さが相俟って、この大講堂に集まっている各陣営の主要人物達のような有名人ではない。
ーーーーーしかし、彼女もれっきとした好感度:愛の艦船少女であり、指揮官に想いを寄せる一人である。
ここが好機と読んだクイーン・エリザベスは半ばダウン気味のエンタープライズの言葉を待たずに、アーク・ロイヤルの時と同じように中継カメラに向かって指を指す。
「ノーフォーク! 女王命令よ! 今すぐ大講堂に来なさい!!」
(陛下、良かったですね)
クイーン・エリザベスはアーク・ロイヤルの時に格好がつかなかったことを割と根に持っていたようで、今回の女王命令がビシッと決まったことをひどく喜んでいる様子である。
そしてその数分後、召集を受けたノーフォークが大講堂に到着した。