「こんぴらふねふね、追風に帆をかけしゅらしゅしゅしゆー」
釣竿を載せて小舟を漕ぐ。瀬戸内は今日も平和だ。
良さげな場所まで漕ぎ着けて、釣り糸を垂らす。少し釣れるだけでいい。私たちはそんなに食べないから。
「かかった」
引き上げて魚を一匹、また垂らす。しばらくしてまた一匹。この繰り返し。
お日様が沈む頃には、魚籠の中にそれなりの数が溜まる。売ることができるほどあれば万々歳。無くたって海を眺めていればいい。
「さてさてそろそろ引き揚げるかー」
櫂を使ってどんぶらこ。有明浜を目指してゆっくり漕ぎ出す。今日も平和な日だった。
「簪さんの事が載ってますよ」
ある春の日の朝、イストワールが新聞を読みながらそう言った。
「何でも簪さん、ハンドメイドの機体を作る活動を始めて、ほぼ自力で完成させたみたいです」
新聞を読んでみると確かに、簪ちゃんが私が見た事のない機体を装着している写真があった。
「よく頑張ったね、あの子」
「心なしか生き生きとしていますね」
「重荷になるものがないからじゃないの」
「夕凪さーん」
明くる日の朝、船を出そうとすると懐かしい声がした。
振り返ると簪ちゃんが自作の機体を装着してこちらに飛んできた。
「ありゃ簪ちゃんー。お久しぶりー」
「お久しぶりです」
「この間、新聞で読んだよー。それが自作の機体かなー」
「はい!紫陽花って言うんです」
「紫陽花ねー。確かにそれっぽい色をしているねー。綺麗な青紫色
だー」
「ありがとうございます」
間近で見ると分かるが、本当に元気になったな、この子。
「作業用の機体だから競技大会には出られないんですけどね。それでも自分で作り上げたから、自信はつきました」
「成る程、それで元気があるんだねー。いいことだよー」
何にせよ自信がつくのはいいことだ。この子にはそれがなかったから。
折角だからイストワールも混ぜて3人で空を行く。風もなく穏やかな陽光に照らされつつ海の上を飛ぶ。
「なかなか良い機体じゃないですか、簪さん。型落ち品やジャンク品から組み上げた機体とは思えませんよ」
「ありがとう、いーすんさん」
「リサイクルして組み上げたのか、大したもんだね」
「こうすればお金もかからないですから。機体データも倉持が打鉄弐式用に用意したものを流用しましたし」
「賢いじゃない」
お金かからんよね。捨てられる物を使えば。
「さてとここいらで一休みといこうかな」
何時ぞやのバスケットと水筒をコールする。中身は勿論、抹茶のカップケーキと紅茶。
「はい、久しぶりのこれ」
「これ、初めて会った時に貰ったのと」
「そう。おんなじ」
「いただきます」
さてさてお味はいかがかな。
「そんなに苦くないです。甘いです」
「そりゃー、良かったー」
この子の心は、落ち着いたみたいだ。
めでたしめでたし。