「クーリェちゃんのご両親の改葬が、終わったよ。別次元の墓地に移し終えた。書類上の改葬場所には、重りとマネキンを入れた偽の棺を埋めてある。墓を開けられない限り、バレはしないだろう」
2週間後、スカイハートさんからの連絡が来た。成る程ね。改葬の準備ならば、それなりに時間はかかるか。
「あと移住先の女神とも、話しは付けてある。向こうも了承してくれて、ここまで迎えに来てくれているから、今度、公園までおいでよ。それと不測の事態に備えて、私が行った事ある二つの世界には、連絡も入れてあるから安心して。万が一、そこに流れ着いても、保護してくれることを承知してくれたから。何せ、絶対天敵よりもずっとおっかなくて、ISじゃ歯が立たないのがいるからね。尤も最近は、其奴らも居なくなったり、出没する事が少なくなったりしてるから、そうそう恐ろしい目には遭わずに済むと思うよ。それにそういうのを専門に相手にする人達がいるからね。クーリェちゃんにも教えておいて。それじゃ」
かなり話は進んでいたようだ。クーリェに置いていっても困らない物を選定しておくように、言っておいた甲斐があった。
「クーリェ。そろそろだよ。貴女のお願いもみんな聞いてくれた。いつでも抜け出せるようにしておいて」
メモ帳を使い、クーリェと会話する。
「わかった」
「怖い思いを最後にすることになるかもしれないけど、我慢出来そう?」
「頑張る。もう乗らなくていいなら」
「よしよし、良い子だ」
もう苦労はかけさせないからね。
「はじめましてー。プルルートだよー」
クーリェを連れて公園に行くと、だぼだぼの服を着た眠たそうな顔をした人が、夕凪さんと一緒に居た。いつもの夕凪さんと話し方が似てる。
「貴女がエリルちゃんの言ってた子かなー」
エリル?聞いたことのない名前だ。会話から察するに、夕凪さんのことらしいけど。
「ああ、それは私の本名。こっちでエリルなんて名前じゃ、目立つから夕凪で通してたんだ。夕凪でいいよ」
確かにエリルなんて名前、日本人には無いしなぁ。
「それでそこの子が、クーリェちゃんかなー?宜しくねー」
「よ、宜しく…、お願い…します…」
「よろしくねー」
クーリェが、チラチラ周りを見ている。誰かを探してるみたいだ。
「どうしたの。クーリェ」
「ママが居ない…」
ああ、いーすんさんを探してたんだ。そういえば、この子はいーすんさんとしか会った事ないものね。
「夕凪さん。いーすんさんは、今日は公園に来ないんですか」
「来るよ。そろそろ」
10分くらいして、いーすんさんが紙袋を抱えて、公園に入ってきた。
「ママ!」
「クーリェ。よく来ましたね。元気そうでなによりです」
いーすんさんの小さな身体に、クーリェが飛びついている。いーすんさんはクーリェよりも小柄なんだけど、不思議と本当の親子にも見えてくる。この歳だもの、お母さんが恋しい筈だ。
「おお、よしよし…」
「ママ、ママも一緒に来てくれるよね?」
「ええ、貴女を1人にはしませんよ」
潰されそうになりながらも頭を撫でて落ち着かせている。手慣れている様子だ。どうやらこの人、子供の相手をするのは、一度や二度じゃないみたいだ。
「あと少しの辛抱です。あと1週間待っててくださいね?」
「うん!」
学園にいる時とは、まるで違うクーリェ。やっぱりこの子は、戦いに巻き込むべきじゃなかったんだ。この様子を見ているとそれがよくわかる。あと1週間で、この子は苦しみから解放される。
「簪ちゃん…、ちょっといいかい…」
いつのまにか背後にいた夕凪さんが、服の袖を引っ張っていた。おまけに指で頭を叩いている。念話で話したい事があるみたいだ。
「クーリェちゃんのISって、普段はどういう形をしてるの?」
「あのクマのぬいぐるみです」
「あの大きいのがかい…。ということは、あのぬいぐるみがISに変化してるのかな?」
「いえ、中にあるコアが変化するだけです。ぬいぐるみは、何も変わりません」
「それ聞いて安心したよ。ぬいぐるみ其の物が変化したんじゃ、壊すわけにもいかないからね」
「確かに。あのぬいぐるみは、クーリェの安心毛布ですから」
「あともう一つ、聞いておきたい。ISって展開したまま、脱ぐ事は出来るよね」
「はい。それは大丈夫です」
「良かった。そうじゃなかったら、クーリェを痛め付けることになるところだったからね。機体は、もう使い物にならないレベルで破壊する予定だから…。あと、荷物は今日の夜取りに行くね。そろそろ運び出した方がいいだろうから。あと最後に……、一つだけ聞いておきたい事があるんだけどね…」
「何ですか?」
「あの子の所属は、確かロシアで良かったよね」
「はい、そうですよ。予備代表候補生という妙な立ち位置ですけど」
「それで君のお姉さんも、ロシア所属だよね」
「ええ、それが何か?」
「少し気になったんだが、お姉さんはクーリェちゃんの監督役なんて事はないよね」
「それはないです。監督役は、担任の織斑先生が担当しています。姉さんはまだ未成年者ですから。そこの所は、大人の人が担当することになってます」
「妥当なラインだね。しかしそれならば、クーリェ失踪の責任が、君のお姉さんに及ぶことはないと見ていいね」
「恐らく大丈夫だと思います」
「わかった。手筈通り進めよう。では1週間後」
「はい」
如何でしたか。
楯無さんが責任を追求されないようにする為に、こういう設定にしました。本人が与り知らぬところでこんな計画を立てて、そのとばっちりを食う羽目になるのは、申し訳ないですから。