「機体作りまで手伝ってもらったから、なんか出来すぎているとは思ったけど…」
あまりにもしつこく頼んでくるので、私の機体の状態を見せて断ろうとしたら機体の開発を手伝うと言い出した。
それで整備科の上級生や本音を連れてきて機体の開発を手伝ってくれた。そのおかげで機体は完成した。これに関しては彼に感謝している。ただ問題はその後だ。
彼への御礼にと、抹茶のカップケーキを作って持って行ったら、彼の部屋から彼と姉さんが喋りながら出てきたのが見えた。咄嗟に角に隠れるとこんな言葉が聞こえた。
「私の機体データ、役に立ったでしょ?」
これを聞いた時、なんか納得した。やっぱり糸を引いていたのは、あんただったのかって。
「嫌な予感が的中しちゃったよ。やんなっちゃうなぁ」
馬鹿みたい。
大会までまだ数日あるから…、あそこに行こう。
「うわぁー、あの嫌な予感は当たってたんだー」
「えぇ、機体が完成したからいいけど…」
色々と理由を付けて外出して、夕凪さんに愚痴をこぼしに行った。流石にこれは吐き出さないと耐えられない。
「まあねー、機体作りのお手伝いをしてくれたその坊やに関しては責められそうにないねー、言い方悪いけど仕事を押し付けられたようなもんだからねー」
「押し付けられ…た?」
「そうそうー、本来ならばお姉さんがやんなきゃいけないことをねー、彼が押し付けられたようなもんさー」
「嗚呼、なるほど…」
言われてみればそうかもしれない。見る限りでは、彼は頼まれただけだしね。別に機体だって、彼自身の意思は関係ないし。
「尤もー、お姉さんは失言でそれすら出来なくしちゃったようだけどねー」
まあ、「無能でいなさいな」と言っておいて、しれっと顔を合わせられるようなタイプじゃないしな、あの人。
「これを機会に仲直りしようとでも考えていたんでしょうか」
「さあねー、そればかりはわからない」
あの人の真意は一体何なんだ………、そういえば。
「私の専用機なんですけどね…、未完成の機体を引き取るときに動かすのに必要なデータは一切渡してもらえなかったんです。機密保持だの何だの理由を付けられて。よく考えたら変なんですよね。機密保持が理由なら何で機体を引き渡すのかって…。あれだって本来、企業秘密が沢山詰まった物なのに…、何でデータだけ引き渡さなかったんでしょうか。被害妄想かもしれませんが、姉さんの介入があったのかもと考えてしまいます。自分が機体データを提供するからとか言って…。もしそうだとしたら私、とんだ道化ですよ。姉さんの掌で踊らされていただけのね…。馬鹿みたいに悩んで…、一人で頭を抱えて…。全部が全部、無駄だったとしか思えないです」
本当に、ただの被害妄想かもしれない。でも今回あったことを考えるとこういうことがあったとも考えられる。そうだとしたら…、そうだとしたら…。
「前みたいに本当のことかどうかわからないから、こうとしか言えないけどね…」
前みたいにぎゅっと私を抱きしめた夕凪さんがこう言った。
「そう考えちゃうのも仕方ないよ…、貴方はそれほどお姉さんのことが信じられなくなってるんだから…、やり方は他にもあったはずなのに…、貴方を傷つける手段しか選ばなかったんだから…」
前みたいに泣いた。やっぱり耐え切れない。疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた……………。
「もうやだよ…、もう姉さんに追いつくとかどうでもいい…、これ以上したらもっと痛い目にあいそう…、辛い、痛い………、逃げたい…」
「それじゃあ、逃げ出してもいいと思うよー」
「えっ」
思わず顔を上げた。
「何だか世の中は逃げることを悪いことみたいに考える人ばかりだけどさー、そんなことないよー。逃げないと心が死んじゃうことの方が多いからねー。死んじゃうくらいなら安全なところに居てゆっくり落ち着けばいいよー」
「そうでしょうか…」
「簪ちゃんが逃げ出したければ、私はその事にとやかく言うつもりはないよー。貴方が耐え切れないと思ったら、ゴーサインが出たようなものだからー」
「今日はありがとうございました…。ちょっと落ち着きました…」
「どうってことないよー、また来てねー」
簪ちゃんが帰っていった…。うーむ、あそこまで追い詰められているとはねぇ。
「かなり重症のようですね」
「ああ、イストワール。来てたのかい」
「散歩がてら公園に立ち寄ったら、何だか声をかけない方が良さげだったので隠れてました」
「そうかい。イストワール、簪ちゃんの言ってることってあり得るかな?証拠がないからどうとも言えないけど、なんかありそうなんだよね」
「調べてみましょうか?」
「そうしてくれ」
イストワールを見送りつつ、コイーバを取り出して一服する。厄介なことになってないといいものだが、おそらく期待通りにはいかないだろう。
「さてと、私も少し外に出ましょうかね」
如何でしたか。
こうなると何だか逃げ出してもいいような気がするんですよね。
無理してまでも逃げないことは、壊れかけの機械を修理せずに使うのと同じでしょうし。