公園の滑り台の上で佇んでいるとイストワールが来た。調査が終わったみたいだ。
「お疲れさん。イストワール。調べはついたかい」
「つきましたよ。倉持技研内には、必要なデータは全て揃ってました。そして何でデータが渡されなかったのかも…」
「流石だね、あなたは仕事が細かいよ。それで結果は案の定かい?」
「はい。あの子の被害妄想は妄想じゃなくて……現実です…」
「そうかい…、きっとあの子のお姉さん、焦り過ぎたんだろうね…。関係を何とか元に戻そうとはしたが、避けられているから取りつく島もない。それで多少強引にでも接点を作ろうとしたのかも…」
だとしてもやり方が酷過ぎたからなんとも言えないがね。
「どうしますか、この情報。私は見せない方がいいと思います」
「同感。そもそも探ること自体、不味いしね。それに2人の関係なんて部外者の私たちが安易に手を出していいことなんかじゃないしさ」
「そうですね。データは処分しておきましょう」
「そうしよう。さてと私は今日はここで寝るからイストワールは塒に帰っていいよ」
「分かりました」
イストワールが帰っていった。後姿を見送りつつ、私はコイーバを取り出して一服した。
「ほんと、やだねぇ…」
2日後、簪ちゃんが泣きながら駆け込んできた。何があったんだな、こりゃ。
「どうかしたのかな」
「聞いてください、実は…」
聞いたところによると、お姉さんの付き人に思い切って自分の考えているようなことがなかったかどうか聞いたらしい。そしたらドンピシャで当たってたんだとさ。その付き人さんも災難だねぇ。こんなこと教えられてさ、一体どうしろというのさ。
「本当に姉さんの掌で踊らされていただけなんて……、情けない話です」
「うーん、悪い形で当たっちゃったね…」
「機体作りに協力することで仲直りしたかったんでしょうか…。だとしてもこんな真似されたらたまったもんじゃないです」
「まぁ、そうだよね。そのせいで候補生向けの訓練や行事に参加出来なかったんだし」
「参加できるできない以前の問題ですよ…。機体データを外国の機体から流用したなんてどう説明すればいいのか…」
「外国の機体?どういうことかな?お姉さん、外国人?」
国籍を移したということかな?基本的に誰にでもできることだし。
「姉さんはロシアの国家代表なんです…。なので姉さんの機体もロシアで開発されたもので…」
「へぇー」
データを渡したって、それみようによっちゃスパイ行為でしょ。何てことしたんだ。妹のためにというのはわからなくはないが……、それでもやっていいことと悪いことがあるだろうに。
「バレると外交問題だねー」
「もうバレてるかもしれません…、あの学園にはテロリストが紛れ込んでいたことがありましたし、何度も外部からの攻撃を許しているし、扱っているもののわりに警備はザルなんです…」
大丈夫かね、その学校?聞いている限りでは、なんだかとっても危ない場所なんだけど。
一週間後、簪ちゃんが少々疲れた表情で報告しに来た。
機体に関しては、国で回収することになったみたいだ。データを消去し、倉持技研にて元々あったデータを改めて入力するらしい。
それと簪ちゃんは一連の事件から専用機を持つ権利を放棄することにしたらしい。序でに代表候補生も辞めることになるらしい。ロシア政府からの追求があるかもしれないというのが表向きの理由だが、本人自身が色々と振り回されてやってられなくなったんだと。お姉さんがそれを聞いて血相変えて飛び込んできて思い留まるように説得したらしいが、突っぱねたんだと。かなり粘られたらしいが、ロシア政府にデータを流用したことをバラすと言って抑えつけたらしい。凄い手を使ったもんだ。本当にそんなことしたら自身の身も危ないのに…。
「まあ、これでゴタゴタは収まりました…。多分、専用機や代表候補生の座に手を出し続けている限り、姉さんの干渉は続くと思いますし…。これで良かったと思います。未練がないわけではないですけど…、姉さんからお節介をかけられるのはもう嫌ですから…」
ちょっと悲しそうだが、鬱陶しいものがなくなって吹っ切れたみたいだ。
「少し飛ぼうかー?気晴らしにー」
「それじゃお願いします」
再び簪ちゃんを背負い、空を飛ぶ。
随分静かなので後ろを見ると背中でぐっすり寝ていた。大分ストレスが溜まっていたのだろう。
「お疲れ様。いい夢見なよ…」
背中を寝床に提供するくらい安いものさ。
「簪さん、大分、お疲れのようでしたね」
「ありゃ相当苦労したみたいだからね。まぁ、ストレス源から離れられるのだからいいのかもしれないね。未練はあるようだけど…」
「それに関してはどうしようもないですね。私達はここでは何の力もありませんし」
「まぁ、そうだねぇ」
イストワールとブランデーの水割りを飲んで話をする。公園ではなく、別の場所にある塒でだ。公園だと見た目が見た目なので、何かあると面倒くさいことになる。だから塒に篭っている。
「かと言ってゲイムギョウ界に帰ったって、私を追い出した連中が望んだ女神が統治しているから結果は同じさ…」
「すみません…、やはりあの時…」
「やめておくれよ。イストワールに育てられたとはいえ、他所の次元の女神メモリー呑み込んだだけの捨て子じゃ、潰れかけの国を存続させる為の苦肉の策だったとはいえ、いい顔されないもんさ…。誰も望んでないもの…。その結果、本来の女神が生まれて国が持ったんだから、良しとしようよ…。それよりもイストワール」
「何ですか」
「…いや、何でもない…。今日は一緒に寝てくれないかな。悪いけど…。私も少し疲れたから…」
「いいですよ…」
「その前に少し抱きしめてくれない…」
「どうぞ」
イストワールの胸に飛び込んだ。後ろから小さな腕が私の頭を抱きしめてくれた。
「やっぱり落ち着くよ、イストワール。いや、お母さん。プラネテューヌに居た時からやめられないんだ…」
「あの時とは違って、貴方を消そうとするものはもうないですが…、安心してもらえたなら嬉しいです…。お休み、夕凪……いや、エリル」
そう言いながらイストワールは私の頭を撫でくれた。ありがとう、お母さん…。
その感触に私は心地良さを感じながら、そのまま寝てしまった。
簪さん同様、夕凪にも心の拠り所が欲しい時もあるのです。
なお、エリルは愛称です。本名はもう少し長いですが、本人はあまり好きじゃないという理由で、エリルを実質的に本名として扱っています。
夕凪という名前は、ここで生活しやすくするために名乗っているだけで、本名ではありません。