BanG Dream! 少年とパレットで描く世界   作:迷人(takto

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なぜ少年はアシスタントをすることになったのか


カラー0:白紙
アイドルバンド


あるところに、江古田拓人(エゴタ タクト)という少年がいた。

彼は小さい頃から音楽が好きで、小学校の頃から自分の楽器を持つのが夢だった。

 

しかし、拓人の家庭は裕福ではなく、楽器一つ買うのも大事だった。

ひたすらに両親の手伝いをして少しずつ資金をため、小学校4年生の頃ついに中古のギターとベースを購入した。大好きな楽器をうまく弾けるようになるのに、そう時間はかからなかった。その上達ぶりには、低学年の頃から拓人を知る担任も驚いていた。

 

すぐさま拓人は学校一ギターとベースがうまいことで有名になった。

中学校に入学してからもその噂を知るものは多く、それに感化されて音楽を始めるものもいたという。

 

好きなものを好きなだけ弾く、それは拓人にとって”生きる意味”といっても過言ではなかった。

 

しかし、そんな中ある悲劇が拓人を襲う。

 

“フォーカル・ジストニア”という病気をご存知だろうか。

ピアノを引く、ギターのコードをおさえるといった規則的な動きをとろうとすると、その動きに不必要な筋肉まで動いてしまい、動作不良や痙攣などを起こす運動障害である。

 

普遍的な効果のある治療方法は未だに見つかっておらず、難治病としても知名度が上がりつつある病気である。

 

江古田拓人もまた、その病気にかかった患者の一人となった。

きっかけは中学2年のころ、ベースを弾いていたら突然規則的なリズムが取れなくなった。

はじめは疲れからくるものだと気にしていなかったが、どれだけ休んでも治らなかった。

心配した父とともに病院に向かい、そこで初めて、フォーカル・ジストニアという病名を知った。長期的に治療を行わなければならず、症状は緩和されても癖になってしまうこともあるらしい。それはつまり、彼の好きな楽器を満足に弾けなくなってしまうことを指していた。

 

それから数ヶ月、拓人はまるで抜け殻のような生活をおくった。今まで好きだったものにも触れられず、金銭的にも治療を受けられない状態で、ただ時間だけが過ぎていった。

 

 

 

それでも楽器を嫌いになれず、高校に入学後は、ライブハウスでアルバイトを始めた。機器のメンテナンスをしたり、会場のセッティングをしたりして、少しでも好きなことに携わる道を選んだ。どんな形でも、音楽に触れていればいつか、再び音を奏でることができると。

 

 

高校2年生になった拓人は、今日もライブハウスで台帳を見ながらスケジュールを確認していた。

彼の働くライブハウスは有名なプロダクションが経営に携わっていることで知られている。

毎週どこかでライブが開かれ、そのたびに多くの人が集まるのである。

本日もライブの予定が何件か入っていて、その準備をしているところだった。

「お疲れ様ッス、拓人さん!」

ふいに声をかけられて拓人が後ろを振り返ると、そこにはメガネをかけた少女が立っていた。

「ああ、大和さんこんにちは。今日も機材の調整、お願いしますよ。」

「はい!任せてください!」

 

大和麻弥、拓人と同じライブハウスでスタジオミュージシャンとして働いている同級生である。自他ともに認める機材オタクで、機器の設定でわからない事があればとりあえず麻弥に聞けば答えてくれると言われている。

二人は予定を確認し終わると、すぐに設営に取り掛かった。

「そういえば、上の人から呼び出しがあったみたいだね。何かあったの?」

アンプの位置を調整しながら拓人は麻弥に声を掛ける。今日はもう少し早く設営を始めるつもりだったのだが、麻弥から「用事があるから少し遅くなる」と連絡が入り、10分ほど遅れてから作業することになったのだ。

 

「それが、とある企画でしばらくドラム担当として働くことになったんですよ。」

「へぇ、すごいじゃないか。大和さんドラムうまいもんね。」

「そういうふうに言われると照れますね・・・。」

 

けしてお世辞で言っているわけではない。麻弥は機器を弄れるだけでなく、ドラムも嗜んでいる。拓人も何度か聞かせてもらった事があるが、その腕前はかなりのものであった。

「それで、どういう企画なの?」

「はい、なんでもただのバンドではなく、アイドルバンド?として売り出すらしいんですけど。」

まだ公式発表前だからあまり詳しいことは話せないらしいが、なんでもアイドルとバンドをかけ合わせた新しい試みで売り出していこうという話らしい。

それだけならたしかに良い話なのではないかと思った。しかし。

 

「それ、ほんとに大丈夫なの?」

「やっぱりそう思いますよね・・・。」

なんでもそのバンド、“実際に演奏はしない”らしい。演技力だけで、あたかも弾いているかのように見せる、いわゆるエアバンドだというのである。だがドラムは弾いているフリをするのが難しいため、機器の調整もできて実際にドラムも叩ける麻弥に白羽の矢が立ったのだという。とはいえ正式なメンバーが加入するまでのつなぎらしく、いずれはお払い箱になってしまうようだ。

そんな話をきいたら心配しないはずがない。

「それはそうさ。いくら演技派がいたとしても、それをずっと隠し通すことなんてできるわけがない。きっと経験のある人間にはすぐバレるし、機材トラブルなんてあった暁には一瞬でその場の全員に露見してしまうだろう。」

 

人間だって完璧じゃない。1年経って仕事になれてきた拓人も、そして何年もこの道で仕事をしているものでも、機材のトラブルをなくすことなんてできないのだ。

それを知っている人間であればそんな企画は挙げないはずだが、よほど自身があるのか、いざというときの対応は特に考えられていないらしい。

 

「それだったら、今は録音に頼っているけど練習して弾けるようにしますくらいの意気込みでやったほうがいい。けどそんなこと考えているような感じでもなさそうだね。」

あまりの無謀な考えに、拓人は呆れると同時に苛立ちを覚えた。

 

「拓人さん、やっぱりこの手のことになると辛辣ッスよね。」

「当たり前でしょ?アイドルを売るために音楽を利用して、演技だけでなんとかしようとするなんて、馬鹿にしているとしか思えない。とはいえ、大和さんのドラムは本物だからね。それに普通に楽器弾ける娘もいるんでしょ?だったら応援するさ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

麻弥はまたすこし照れながら返事をする。

「うん、できればそのバンドの全員が音楽を奏でているところを見てみたいけどね。」

これは拓人の本心である。多くの人に楽器を弾く楽しみをしって欲しいから、これをきっかけに、そのバンドメンバーみんなにも楽しさを知ってほしかった。

「自分もできればそうありたいです・・・。」

「今の俺には応援しかできないから、さっき言ったことが現実にならないよう祈ってるよ。」

「はい!」

拓人の言葉に麻弥は元気よく返事をした。

 

その数日後、拓人の危惧していたことは現実となった。Pastel*Palettesと名付けられたアイドルバンドは、機器の不調でエアバンドであることが会場の全員に知られてしまった。

麻弥の誘いで会場に来ていた拓人は、心配していたことが現実になってしまい頭を抱えた。そのときのメンバーの悲しいような、焦っているようななんとも言い表せない表情は、後に忘れないほど深く脳裏に焼き付いた。

 

後日、拓人は麻弥に呼ばれて事務所まで向かうと、一人の男が立っていた。

「はじめまして、江古田拓人さんですか?私はPastel*Palettesの企画担当をさせていただいているものです。今日はあなたにお願いしたいことがあって来てもらいました。もちろん、ただでとは言いません。」

 

なんでも、麻弥がバンドについて話したときに拓人が言ったことを聞いて、力になってくれると思ったらしい。自分はまだ大きな企画を行ったことがないため、今回の企画は協力してくれる人員も少なく困っているとも語った。今回の件で反省し、Pastel*Pallets、パスパレをちゃんと演奏のできるバンドとして売り出したいが指導できる人間が見つからない。そこで楽器の知識のある拓人に講師をしてもらえないかと、そういう話らしい。

 

確かに教えるくらいなら拓人にもできる。アルバイト仲間である麻弥の協力もしたいとも思っている。だから協力すること自体には賛成だったが、拓人はどうしてもこれだけは言わずにいられなかった。

 

「普通に考えれば、ずっとエアバンドで売ることに限界があることはわかると思います。それを企画の時点で考えられていなかった時点で、失敗することは決定していた。まだあなたの企画者としての力は不十分です。この企画に参加しようと思ったメンバーと、そのメンバーに期待して見に来ようとする人たちを裏切ることは今後無いよう、気をつけてください。」

 

その言葉を聞いて男性は深く謝罪した。それが嘘か真であるかは置いて、その行動で拓人は少し許そうと思えた。

 

「他ならぬ大和さんの頼みでもあります。ただのガキの僕で良ければ協力させていただきますよ。」

 

その言葉を受け、再び男性は頭を下げた。

そうして正式に、拓人はこの企画に携わることとなった。

詳しいことは後日連絡するといい、男性はその場を去っていった。

拓人と麻弥がスタジオに戻ると、気まずそうな顔をしていた麻弥が口を開いた。

「すみません拓人さん、この企画に巻き込んでしまって。一応拓人さんの病気のこともわかっているはずなのに・・・。」

演奏したくてもできず、我慢している拓人を紹介してしまったことを後悔しているらしい。それでも他にベースを教えられる人間は他にいなかったから本当に困っていたのだ。

 

他に人がいないとわかったから拓人は協力することに決めた。自分にもそれくらいであればできると思ったからである。

 

「気にしなくていいよ。俺がやりたくてやるんだからさ。自分で弾かなきゃ問題ないし、それに前から言ってると思うけど、少しでも多くの人に音楽を好きになってほしい。だから協力するんだ。」

 

その言葉を聞いて安心した麻弥は改めて拓人の方に向き直り頭を下げる。

「拓人さん、ジブンは途中で抜けてしまうと思いますが、暫くの間、よろしくおねがいします!」

 

麻弥はそう言ったが拓人は考えていた。

(大和さんビジュアルいいんだから正式メンバーになればいいのに。)

 

こうして拓人は、Pastel*Palettesのアシスタントを務めることとなったのである。

 

はたして、パスパレは本当のバンドとして復活することはできるのだろうか。

 

今はまだ、誰もわからない。

 

 

 

 

 

つづく・・・・・

 

 

 

・・・・・といいな

 




こんな駄文を読んでいただきありがとうございます!

あらすじにも書いてあるとおり、次はいつになるかはわかりません。

よろしければまたよろしくお願い致します。

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