BanG Dream! 少年とパレットで描く世界 作:迷人(takto
アイドルバンドPastel*Palettesの楽器指導をする事になった江古田拓人は、後日改めて担当者に呼び出され、依頼内容の説明を受けた。楽器を弾いたことのないメンバーのフォロー、ライブ時の機材セッティング、会場移動時のフォロー etc…
「ちょっと待ってください。なんか増えていませんか?」
ある程度説明を受けたところで拓人はたまらず声を上げる。
拓人が問いかけると担当者は不思議そうな顔をしながら首を傾げた。
「何か?」
「いや、何かじゃありませんよ。確かに楽器教えるって話はしましたけど、こんなに仕事やるなんて聞いていませんよ?」
これではまるで本当にアシスタントだ。
「黙っていれば気づかれないと思ったのに・・・。」
「なにか言いましたか?」
「いえ何も!」
そう言うと担当者はバツの悪そうにいう。
「いやぁ、人が少ないせいでそのあたりのフォローに手が回せなくてですね・・・できればそちらの作業もお願いしたいと思いまして・・・。もちろん、今のバイトよりもしっかりとした給与は出させていただきますのでご安心を。」
それでも1学生にそれをやらせるのか?給与以前に、よくこんな体制でアイドルバンドなんて企画したものだ・・・と内心思ったが、拓人はあえてそれを口には出さなかった。確かに聞いていた内容よりもやることは増えていたが、今までとやっていることはほとんど変わらないからだ。いつもの作業の合間に手伝いが増えると思えば、たいしたことではない。また給与が増えればリハビリ治療のための資金になる。
もし少し作業が増えたとしても、楽器に触れなくなってからこれと言った趣味を見つけられなかった拓人にとっては、時間を潰す機会ができたと思う程度だった。
何より、こういった仕事に携われることは新鮮で、興味のほうが若干勝っていたため、改めてこの内容で承諾した。
その後、麻弥と共にライブハウスの店長に経緯を話し、上の人間の意向であればしょうがないと、若干納得していない様子ではあったが、アシスタントの仕事と並行しながらアルバイトもすることになった。
ライブハウスをあとにし、拓人は途中まで道が同じ麻弥と会話をしながら帰路についていた。
「ってことで、やることが増えちゃったわけなんだけど。」
「アハハ、なんというか申し訳ありません・・・。一応ジブンも小耳に挟んではいたのですが、こんな事になっているとは・・・。」
麻弥がこのことを知ったのもどうやら今日店長に話に言ってかららしい。
「だから大和さんが謝ることないって。ろくに人員の確保もできてなかったあの人に問題があるんだから。だいたい学生にそれやらせるかって話だよ。大和さんもパスパレの人たちも同じ学生だから何も言えないけど。」
麻弥は頬をかきながら、
「ジブンはもともとこういうことがやりたくてやってますからね。急にやれと言われた拓人さんとはちょっと違いますから、そう言いたくなる気持ちもわかりますよ。」
そう言ってフォローしてくれる。
「まぁ、自分でやるって言ったわけだし、もうこれからはこういうことは言わないさ。言っていられる暇もないくらい、やれることはやらせていただくよ。」
「はい、よろしくお願いします。」
そう言ってから、拓人は少し表情を曇らせる。それに気づいた麻弥はどうしたのかと彼に尋ねる。
「やるって言ったのはいいけど、本当は少し不安なんだ。この手で実際に弾いて見せることもできないのに教えることなんてできるのかってね・・・。」
フォーカル・ジストニアを患った拓人の左手は、簡単なコードの練習くらいであれば問題ないが、少し複雑な動きをするようになると正常な動きができなくなってしまう。今はまだどの程度教えればよいのかわからないため、もし複雑なテクニックを求められた場合、どのように対応すればよいのかという不安があった。
それを聞いてすぐさま麻弥がフォローを入れる。
「大丈夫ッスよ!とても熱心な方々ですから、簡単なところさえ覚えてもらえば、応用的なところはなんとか自分でも覚えてくれると思いまっす!」
確かに、若いながらも今まで芸能界で活動を続けていた人たちだ、そのあたりの努力は人一倍だろう。そう言われて拓人は少し安心した様子で。
「ありがとう大和さん。そう言われたらやれそうな気がしてきたよ。」
「いえいえ、ジブンはほんとにそう思っているだけッスから。」
「よし、それなら俺も、できることからやってやるさ。大和さんも頑張ろう!」
「はい!」
「ヴェイ!!」
「なんスかその掛け声?」
そんな会話をしてから、二人は帰宅した。
帰宅後、自室に戻った拓人は部屋の隅に置かれている自分の楽器を眺めていた。麻弥との会話ではああ言ったが、正直まだ不安だった。教えるということは、長年触れていなかった自分の楽器にふれることもあるということ。再び触れようとすれば、ショックを受けたときの記憶がよみがえる。それがあるから、今まで触れることはなかった。
「少し、持つくらいだったら・・・」
そう言って手を伸ばすが、動機が早くなり、そして途中で手が止まった。
結局、この日は触れることはできなかった。
「どうにかして、触れずに教えるしかないか・・・。」
教える人には申し訳ないが、今はそうするしかないと、方法を考えながら拓人は眠りについた。
・・・・・・・
翌日、スタッフから拓人のもとにメールが入った。昨日予定した通り、パスパレのメンバーとの顔合わせをするからスタジオに集合してほしいという内容だ。
学校が終わるとすぐさま拓人は集合場所に向かった。
パスパレの事務所こと、拓人の務めるライブハウスの大元は、ライブハウスから少し離れたところにあった。
「失礼します。」
そのスタジオに向かうと、そこにはすでに3人待機していた。
一人は見知った顔である大和麻弥、そして残り二人はピンク色の髪の毛を肩くらいまで伸ばした少女と、白銀の髪の毛を三つ編みに束ねた少女だった。
そこで真っ先に声を上げたのは、見知った顔の麻弥ではなく、ピンク髪の少女だった。
「あれ?もしかして、江古田くん・・・!?」
彼女が自分の名前を呼んで拓人は疑問符を浮かべた。なぜなら拓人に彼女と合った記憶がないからだ。
「失礼ですけど、どなたでしたっけ?」
拓人が申し訳なさそうにいうと、ピンク髪の少女は少し残念といったような顔をしながら口を開こうとする。だがそのタイミングで部屋に入って来た人がいた。
「ごめんなさ~い!ちょっと遅れちゃった!」
そこにいたのは青緑色のショートヘア、もみあげを三つ編みに束ねた少女だった。そしてその顔は確かに見覚えが合った。
「あれ?氷川さん、なんでここに?」
拓人はよく自分のアルバイト先を訪れる少女の名前を口にする。だがそれを聞いてもピンときていないのか、少女は首を傾げながら返す。
「あれ?君あたしと会ったことあったっけ?あ、もしかしておねーちゃんの知り合い?」
お姉ちゃんと言われて思い出す、確か拓人の知っている少女には双子の妹がいるということを、まさかここまでそっくりとは意外であった。
そして青緑色の髪の少女は当たりを見回しながら言う。
「あれ、まだ千聖ちゃん来てないんだ。」
メンバーは5人、そのうち一人が来ていないことを確認したようだ。
それからボフッと勢いよくソファに座った。
「まだ前の仕事が押してるみたいなんです。」
麻弥がスマートフォンの画面の文字を見ながら答える。
「じゃあ仕方ないか。それよりも。」
青緑色の髪の少女が拓人の方に向き直る。
「君がアシスタントをしてくれるって人でしょ? 思ってたよりしっかりしてそうだね!」
人の印象をさらっと口にする。どういう人間を想像していたんだろうか? スタッフがあんな人達ばかりであればそう言われるのも仕方ないとは思うが。
「千聖ちゃんが来る前に自己紹介しちゃってもいいよね!あたしは氷川日菜って言うの!パスパレではギターを担当してるんだ。よろしくね!」
明るく挨拶をする日菜を見て、つい彼女の姉、氷川紗夜と比べてしまう。しっかりしていてクールな印象を持つ姉に対し、妹の日菜は明るく天真爛漫な印象を受ける。まるで正反対な性格の二人が双子というのは、不思議だと思ってしまう。
だが、ギター担当というのは納得がいった。姉の紗夜もギターを担当しているからだ。
聞くところによると、やはり姉の影響でギターを始めたのだという。姉の腕前を知っている拓人は、彼女の演奏を聞くのが楽しみになった。
「次は私ですね!」
次に声を上げたのは白銀の髪色の少女だった。よく見ると日本人離れした整った顔立ちをしている。
「私の名前は若宮イヴといいます。Pastel*Palettesでキーボードを担当しています。父がフィンランド人なので、少し前までフィンランドにいました。」
道理で整った顔立ちをしているわけだと、拓人は納得する。
「ブシドー精神を忘れずに、日々精進したいと思います!押忍!」
イヴの顔と言動のギャップに困惑する。
「イヴさん、武士は押忍、とは言わないッスよ?」
「え?そうなのですか?」
麻弥がすかさずフォローを入れ、誤解を解く。
その光景を見て、同じ場にいた全員が笑いに包まれた。
拓人の中で、イヴは面白い娘という印象を得た。
そして、最初に声をかけてきたピンク髪の少女が口を開く。
「私、丸山彩って言います。一応、同じ中学校に通ってたんだけど、覚えてない、かな?」
丸山彩と名乗った少女に、拓人は通っていた中学の名前を聞いて納得する。確かに同じ学校に通っていたようだ。しかし拓人は中学2年のときにジストニアを患ってからクラスメイトとは必要な内容以外話すことがなかったため、正直誰が誰、ということは覚えていない。
もちろん、それ以前に話した人間のことは覚えているが、あくまで交流があった人間のみ。彼女との記憶は一切なかった。
「ごめん、やっぱりクラスが違う人のことは覚えてないかな・・・。」
そう言うと彩は再び残念そうな表情で続けた。
「そっか、さすがに他クラスの人のことは知らないよね・・・。」
そう呟いてから表情を一変させて続ける。
「この前までアイドル候補生をしてたけど、今はパスパレでボーカルをやってます! 改めてよろしくね!」
アイドルらしい仕草で言う彩に対して、拓人は彼女がメインである理由がわかった気がした。そしてこれだけ目立つ少女が近くにいたことを知らないでいたことを不思議に思った。
最後は麻弥だが、今更自己紹介をするような仲でもないので、軽く名前を言うだけで終了した。
こうして今いる全員の自己紹介は終わったが、それでも、最後のメンバーである千聖という少女は訪れない。
それよりも先に入室してきたのはパスパレの担当者だった。
「お疲れ様です。まだ白鷺さんは来ていないようですね。とりあえず江古田君、ここにいるメンバーにだけでも自己紹介をお願いします。」
そう言われて拓人が立ち上がろうとした瞬間に勢いよく扉が開かれる。
「すみません、前の仕事が長引いてしまって遅れました!」
入ってきた少女は金色のロングヘアを背中まで伸ばしていて、整った顔立ちに落ち着いた雰囲気を漂わせる。少女は呼吸を整えると拓人に向かい姿勢を正す。
「あなたがアシスタントをしてくださる方ですね。はじめまして、私は白鷺千聖、一応女優をやっています。よろしくお願いしますね。」
道理で見たことがあるはずだった。彼女の姿はテレビで度々確認していた。小さい頃からメディアに出演し活躍している人気女優。そんな彼女がアイドルバンドに参加するのは貴重だと騒がれていたのを思い出した。以前ライブ会場で見たときは気にしていなかったが、近くで見るとオーラが違うと思える。
千聖が入ってきたことを確認してから改めて担当者が拓人に自己紹介を促す。
「えっと、江古田拓人と言います。普段は大和さんと同じところでバイトをしています。皆さんの活動を少しでも円滑に行えるようがんばります。」
実に平凡な自己紹介ではあるが、拓人の気持ちは伝わった様子だった。だがあまりいい空気ではなかった。あれだけの事件があったあとというのもあり、全体的にメンバーのテンションは低めだ。この空気から改善していかないことには活動再開は夢のまた夢であると悟った。
「ええ、前回も言いました通り、皆さんには改めて楽器を弾けるように練習をしていただきたいと思います。」
そんな空気を気にもとめず、淡々と話しを進める担当者。この中で楽器に触れたことのある人間は3人、残り2人は全くの初心者だが、彩はボーカルのみのため楽器は弾かない。すると必然的に、拓人が重点的にレッスンする相手は千聖ということになる。
「私はその間に、ドラムの正規メンバーを探そうと思いますので、各自アシスタントの指導の元、レッスンに取り掛かってください。」
その言葉を聞いて声を上げたのは日菜だった。
「あのー、それならそのまま麻弥ちゃんにやってもらったほうがいいと思うんだけど。」
それを聞いて一番困惑していたのは麻弥だった。
「ひ、日菜さん!?何を言い出すんですか!どうしてジブンなんですか!?」
「だって麻弥ちゃん、面白いし、楽器できるし。これ以上の適役っていないと思うんだよね。」
その言葉を聞いてイヴも賛同する。
「そうですよ!私もマヤさんと一緒にやりたいです!」
次に声を上げたのは彩だった。
「それに麻弥ちゃん、メガネを取るととても美人なんですよ。」
「ほんと!? そりゃ!」
それを聞いた日菜が麻弥のかけている眼鏡をヒョイと取り上げる。
「あ!日菜さん!返してくださいよ!」
麻弥がメガネを取った姿に皆が注目する。確かに、メガネをかけているときとかなり印象が変わる。もともと麻弥のビジュアルはいいと思っていた拓人でも改めてそう思えるほどである。
「あ、あの拓人さん・・・そんなに見られると流石に恥ずかしいですよ・・・。」
「あ、ごめん! つい!」
いつもと違う印象の麻弥につい目が釘付けになってしまった。そんな魅力があれば、確かにアイドルバンドのメンバーとしては申し分ない。
「というわけで、麻弥さんはアイドルとして十分なものを持っています。それに楽器を弾ける人はこの中ではとても貴重です。他に適任はいないかと。」
あまり口を開いていなかった千聖も声を上げる。
「俺も、てっきり大和さんがそのまま続けるものだと思ってたから。むしろ自然な流れだと思うよ。もっといろんな人に大和さんのドラム聴いてほしいし。」
拓人も以前から思っていたことを口に出した。
最初は自分には無理だと言っていた麻弥だったが、全員からの抜擢に心打たれたのか表情を変える。
「皆さん、そこまでジブンを必要としてくださるなんて・・・ジブンも、みなさんと一緒にライブがしたいです!」
皆の意思は固まった。そしてそれを担当者に伝えると、しばらく何か考える仕草をしてから口を開く。
「わかりました、大和さん、正式にパスパレのドラムとして参加してくださいますか?」
「は、ハイ!」
そこにいたメンバー全員の表情がぱぁっと明るくなり、麻弥を囲む。
「良かったね!麻弥ちゃん!」
「はい!ありがとうございます」
他の人間が喜んでいる中、一人だけ違う表情をしている人間がいることに拓人は気づいた。
そう、それは千聖だった。他の人は気づいていないようだったが、明らかに一人だけ作り笑いだった。その真意がわからず、拓人は困惑していた。
「それでは、私は事務作業に戻りますので、江古田さん、あとはよろしくお願いします。」
「わかりました。」
そう言って担当者は部屋を出ていった。
そしてこれから、拓人の初仕事が始まる。夜中まで考えていた教え方で、どこまで覚えてもらうことができるか、まさに腕の見せ所だ。
そして、千聖に向かい声を掛ける。
「それじゃあ白鷺さん、ベースは俺が教えますんで、早速準備しましょうか。」
拓人がそういって練習が始まる、そう思っていたが、千聖の返しは予想していなかった。
「ごめんなさい、どうしても優先しないといけない仕事があるんです。今日のところは参加できそうにありませんので、また次の機会にお願いします。」
早くも、暗雲が立ち込めているような気がした。
読んでいただきありがとうございます。
相変わらず文章力がなくて辛い・・・。
もう少しうまい表現ができるようがんばります。