BanG Dream! 少年とパレットで描く世界 作:迷人(takto
某スタジオにて、アイドルバンドPastel*Palletsが次なるライブに向けての練習をするなか、
ボーカル、丸山彩は緊張を隠せないでいた。
動くたびに熱のこもった汗が額を伝う。それは練習が厳しいからというだけではなかった。同じスタジオ内に、中学時代の同級生であった江古田拓人がいて、Pastel*Palletsの練習している様子を見学しているからだ。
中学時代から知り合いで、彩がアイドルであることを知っている者は少ない。そのため自分の練習している姿を見られる機会などなく、しかも間近で見られているため、練習から数時間経ってもその緊張がほぐれることはなかった
「(どうしよう・・・お客さんの前でならまだなんとかなるのに・・・江古田君が近くで見てるって考えたら、集中できないよ・・・。)」
そんな雑念まじりに練習していると、自分の汗がたれてしまっている床に足を滑らせ、体制を崩してしまう。
「うぁっ・・・!」
このままでは倒れてしまう。そんなとき、誰かが彩の手を掴み、床に倒れるのを食い止めた。つかまれた手の先を見ると、先程まで彩たちの練習を眺めていた拓人が手をしっかりと掴んでいた。
しばらく状況が飲み込めずにいると、拓人が口を開く
「丸山さん、大丈夫?ケガとかしてない?」
「う、うん、大丈夫。平気だよ!」
彩はそういってから改めて自分の置かれている状況を思い出し、徐々に顔を赤らめる
「あ!手!もう大丈夫だから!!」
彩が慌てて手を離すと、拓人は本当に大丈夫なのか、と心配そうな表情を向けてくる。
自分は必死に平静を装おうとしているのに、拓人はその表情を全く変えていなかった。
「(なんかちょっと悔しい・・・)」
と彩は内心そう思った。
「ありがとう江古田くん。」
「気にしなくていいよ。それより、大丈夫?ずっと緊張していたみたいだったけど。」
拓人に言われてどきりとしてしまう。
「アハハハ…そう見えた?お客さんの前だとそうでもないんだけど、やっぱりこのくらいで緊張してるようじゃまだまだだよね・・・。」
「別にそこまで気にしなくてもいいんじゃないかな?むしろ少しずつ慣らしていくのにはいい経験になると思うよ。」
拓人の掛ける言葉は、彩の緊張を少しだけほぐした。
拓人は用意していたスポーツドリンクを彩に渡すと、ありがとうと言ってからそれを受け取り、床に腰掛けた。
「それにしても、改めて考えるとすごいな。まさか同じ中学出身の人がアイドルになってるなんて。もしかして中学の時からそうだったの?」
「うん、とは言っても候補生として入ったばっかりだったんだけどね。」
スポーツドリンクを一口飲んでから彩は続ける。
「私には憧れてるアイドルがいてね、その人みたいにみんなを笑顔に出来る人になりたいって、そう思ったんだ。」
「最初は両親に反対とかされたりしたの?」
「うん、それに最初はできっこないだろうなって思ったりもしてたから。なかなか自分の意志を伝えられなかったんだ。」
彩の話を聞いて、拓人も昔の記憶を思い出す。最初に楽器に触れようとしたときには、自分に弾くことなんて出来るのか、不安でいっぱいだったことを。それをとあるきっかけから乗り越え、弾けるようになったことを。この少女のそのときの葛藤は、まさに自分と同じであった。
「それでね、ちょっと色々あって、真剣に考えてみることにしたんだ。
そうしたら、やっぱり目指してみようって思うようになった。だから思い切って話してみたんだ。アイドルになりたいって。」
そうして両親を説得することに成功し、丸山彩はアイドルへの道を進むことになったのだという。
練習で何度もミスをしたり、うまく行かなかったりすることはあっても、努力すれば必ず成功すると信じ練習をしてきた。そして今、Pastel*Palletsというバンドのセンターに立つことができたのだ。
「やっぱりすごいな・・・丸山さんは。」
現状から抜け出すことが出来ないでいる拓人は、自分のやりたいことに対して一生懸命に進んでいる彩に対し、ただ、そんな言葉を口にすることしか出来なかった。
だが拓人がそうつぶやくと彩は慌てて弁解する。
「そ、そんなことないよ!私はただがむしゃらに努力してきただけで、そんなすごい才能があるわけでもないし!だからいままでも研修生だったわけだから・・・。」
「いや、そうやって努力できるっていうのは立派な才能だよ。努力しても諦めてしまう人だっているし。」
「そういってもらえるのは嬉しいけど・・・。」
彩はそれからもなにか言いたそうにしていたが、拓人のどこか遠くを見るような目を見て、言い淀んだ。
しばらく無言の二人だったが、ふと時計をみて我に返る。
「あっ!やば!もう結構時間経っちゃってる!」
「ホントだ!ごめん丸山さん!ちょっと休憩するつもりが。」
「ううん、気にしないで!それじゃあまた練習に戻るから。飲み物、ありがとうね!」
「ああ、あと30分後には全体で合わせるから、それまで頑張って!」
「うん!」
そういって彩は再びレッスンに戻った。
拓人は、彩との会話を思い返し、昔の自分が目指していたものを思い出した。
思い出したとき、胸が締め付けられるような感覚に襲われ、また少し、押し黙った。
そして彩もまた、先程の拓人の表情を見て、同じように胸が苦しくなっていた。
互いにこの気持ちをのこしたまま、レッスンは進められた。
次のライブが決定するまで、あと、数日・・・。
多分一年くらい経ってますよね、申し訳ありません。
相変わらずの駄文です。