BanG Dream! 少年とパレットで描く世界 作:迷人(takto
「以上で本日の練習を終わります。お疲れさまでした。」
「「「「お疲れさまでした!」」」」
結局、レッスン終了時刻まで千聖はスタジオに顔を出すことはなかった。
事前に千聖の直近のスケジュールについて確認していたため、レッスンが終わるまでにスタジオに戻って来られないということは知ってはいたのだが。
少しの遅れでも周りとの差を生んでしまう。いくらレッスンが始まったばかりとは言え、油断は禁物だろう。
「とはいえ、まだ次のライブは決定してないから練習する時間はあるはず。それはプロデューサーも考慮してくれているだろうし、あまりあせっても仕方ないか…。」
そしてそれまでに、拓人はやらなければならないことがあった。
千聖にベースを教えるために自分がベースを、せめてコードをおさえられるくらいにはならないといけないと言うことだ。
ジストニアの影響でいつのまにか自分のベースに触れること自体がトラウマになっていたが、もはやそうも言っていられない。千聖とほかのメンバーのためにも、一刻も早く克服する必要があった。
「大丈夫ですか拓人さん?」
後ろから声をかけてきたのは麻弥だった。しばらく自分の世界に入り込んでいた拓人は驚き少し肩を震わせた。
「や、大和さん。お疲れさま。なにかあった?」
「いえ、また難しい顔をして考え事をしていたようなので心配になりまして。」
「あ、ごめん。そんな顔してた?」
「はい。何か悩み事ですか…?」
「いや、別に何でもないよ。」
「そうですか・・・以前も言いましたが、もしジブンになにか手伝えるようなことがあるなら言ってください!」
麻弥の言葉有難かったが、同時に拓人は申し訳なさを感じた。この件については彼女の協力があっても、おそらくどうしようもできない。これは自身で解決しなくてはならない問題だからと、拓人は考えていたからだ。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。また何かあったら相談させてもらうね。」
拓人がいうと、麻弥はわかりました、とだけ言い、帰り支度をするためにその場を離れた。
その後、支度を済ませたメンバーが次々出口へと向かう。
拓人はというと、まだスタジオで次のレッスンのスケジュールと千聖のスケジュールを確認していた。
「あれ、たっくんまだ帰らないの~?」
未だスケジュール表と向かい合っている拓人を気にして日菜が声をかける。
「あぁ、うん。もう少しやりたいことがあるからね。もうそろそろ帰るよ。」
「そっかぁ。じゃあアタシ達先に帰るね!」
「またね、江古田くん。」
「次もよろしくおねがいします!!」
メンバーたちはそういうとスタジオをあとにした。
それから、スタジオの照明の確認や窓の戸締まりを確認した拓人もスタジオをあとにし、帰路につこうとしていた。直近の千聖のスケジュールとレッスンに割ける時間を算出し、予定を立てようとしていたのだが、さすがは売れっ子女優だ。中傷の件があったにもかかわらず、仕事が減ってもあまり空き時間ができることはなかった。あとはもし本人に会えた時に何時ならば練習する時間があるか聞くことができればまた変わってくるのだが。
合同レッスンとして決まった時間には来られないかもしれないが、ほかのメンバーはレッスン後に自主練を行っている。その時間に間に合えば、メンバー間で音合わせをすることができる。しかし、本人に次に会うことができるのはいつになることやら…。スタジオを出てすぐ、事務所の前を過ぎようとしたとき、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「やはり、現状は変わらないということですね。」
「はい、こちらも沈静化に努めてはいるのですが・・・。」
それは千聖とプロデューサーの声だった。話の内容からして、今までに受けている誹謗中傷の件であるということは容易に想像できた。今のPastel*Palettsのイメージを何とか払拭しなければ、ライブの再チャレンジは夢のまた夢だ。また千聖に限ってはそれだけではないだろう。Pastel*Palettsのなかで最も知名度のある千聖は、一番その影響を受けているといっても過言ではないだろう。彼女自身の営業力と器量によって何とか仕事がなくなるようなことにはなっていないが、今後はどうなるかわからない。現状を一刻も早く解決したいと最も考えているのは彼女なのかもしれない。しかし、その必死さを見ていて、拓人は初めて千聖に会った時のことを思い出してしまう。彼女の目に映っているもの、焦点は定まっているが、ほかのメンバーと明らかに違うような、そんな感じがした。それが気のせいであればいいのだが。
「それでは、我々も引き続き交渉を進めます。今日はもう終了してしまいましたが、白鷺さんもレッスン参加、よろしくお願いいします。」
「わかりました。お疲れ様でした。」
会話が終わり、誰かが部屋を出ようと歩いてくる音が聞こえる。そして扉が開かれると、そこに立っていたのはプロデューサーだった。
「おや、江古田さん。お疲れ様です。スタジオの戸締り確認はしていただけましたか?」
「お疲れ様です。照明の消し忘れと電源の抜き忘れがないことも確認しました。鍵をお返しします。」
「申し訳ありません。これから打ち合わせで少し席を外しますので、私のデスクに返却していただいてもよろしいですか?」
「あ、はいわかりました。この時間から打ち合わせなんて大変ですね。」
時刻はそろそろ21時を過ぎようとしていた。一般的な企業であればとっくに定時を過ぎているころであろう。業界で働く人間は相手方もいたるところを飛び回っているだろうからスケジュール合わせに苦労しているようだ。
「我々にできることはこんなことしかありませんから。江古田さんと白鷺さんは明日も学校があるでしょうし、あまり遅くならないようにしてくださいね。それでは。」
そういってプロデューサーは事務所を出た。最初はいい加減だと思っていたが、彼なりに何とかしようとしているということが分かり、少しだけ見直した。
それから、事務所に残った千聖に声を掛けられる。
「お疲れ様。江古田さん。」
拓人は未だに、千聖に名前を呼ばれることに慣れていなかった。今まで有名人から声を掛けられるなんてないと思っていた。アイドルや芸能人は偶像。そういった考えが根付いてしまっているせいで、実は今も夢を見ているのではないかと錯覚してしまう。
「お疲れ様です白鷺さん。」
「ふふっ、そんなに緊張しないで。年齢は同じだし、“これから仕事をする仲なんだから"。」
気を使って言ってくれていると分かったが、まただ。社交辞令的定型文、彼女の言葉のどこかに裏があるように感じてしまう。それが言葉の一部からなのか、はたまたすべてからなのかはわからないが、何となくそう思える。それから千聖は表情を変えずに拓人に話しかける。
「もうレッスンの時間はかなりすぎているけれど、こんな時間まで何を?」
「ああ、先生と少し相談して、楽器に慣れていない人にどういったレッスンをするのがいいのかをまとめたり、あとはどのタイミングでメンバー間の音合わせをすればいいのか考えたりしていたら時間が経っちゃってました。」
それを聞いて千聖はすこし心配そうな表情をする。
「江古田さんは今まで、何か運営する作業をしたことがあるんですか?」
「え?う~ん…考えてみれば誰かの進捗やスケジュールを見ながら予定経てたりするのって初めてかもしれないですね。」
それを聞いて千聖はますます申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい…本来専門でないこともお願いしてしまって…。」
千聖にそう言われて拓人は慌ててしまう。
「そんな!白鷺さんがあやまる必要はありませんよ!これは俺が引き受けようと思って引き受けたことだから。むしろ、そういうセリフはスタッフの方に言ってほしかったです。」
そういうと千聖の表情が少しだけ戻る。
「そういっていただけるとこちらもうれしいです。」
それから拓人は千聖の対面のソファに腰を掛けて、直接聞こうとしていた話題を切り出した。
「白鷺さん、今時間が大丈夫だったらお聞きしたいことがあるんですが。」
千聖は時計を一瞥すると拓人のほうに向き直る。
「ええ、この後明日の仕事の打ち合わせがあるけれど、あと10分くらいは余裕があるので、それでも良ければ。」
「ありがとうございます。そうしたら手短に。」
以前千聖に聞いたスケジュールに変更があったかどうか、レッスン時間と自主練時間のいずれかで参加できるタイミングがあるかどうかを改めて確認した。スケジュールの変更についてはやはり、例の件によって空きができてしまったところがあったため、そこにレッスン時間をあてられるか交渉した。千聖はそれに了承し、ほかのメンバーとともにレッスンを受けられるようになった。予定は2日後。拓人のリミットも近づくことになった。
「これでスケジュールは何とかなりそうです。白鷺さん、ありがとうございました。」
思っていたよりもすんなりと了承した千聖を見て、自分の考えていたことも杞憂だったかと拓人は胸をなでおろした。
「ごめんなさい。本当は私も積極的に参加したいのだけれど、どうしても本業をおろそかにするわけにはいかなくて…。」
それもそうだ。Pastel*Palettsはあくまで企画でやっていることで、本来彼女が専念するべきは女優業。その気持ちがわかるからこそ、みな千聖に対しては強く音楽に専念するような発言をすることができないでいる。それでも拓人は、たとえ一瞬になるかもしれない企画とは言え、少しでも音楽を奏でることの楽しさを知ってほしいと思っていた。
「白鷺さんは、今回の企画を初めて聞いたときは、どう思ったんですか?」
それを聞いてから千聖はすこし考えこむようなしぐさをしてから話し出した。
「知っての通り、私は今まで女優としてこの業界に身を投じてきた。そんな私が急にアイドルで、しかもバンドをすると聞いたときは正直戸惑ったわ。けれど、そんな新しい挑戦をすることで、何か得られることがあるんじゃないか、そう思ったの。なので“今は”精一杯頑張ろうと思っているわ。」
途中まで普通に会話をしているつもりでいた。そして何も強調するような言い方もされていなかったはずなのに、なぜか一か所だけ気になる点があった。
拓人はけして露骨な反応をしてはいなかったと思うが、かすかな雰囲気の変化を感じたのか、千聖は拓人をみて心配そうに眉を曇らす。
「どうかした?もしかして何か気に障るようなことを言ってしまったかしら…?」
「え?いや、そんなことないですよ!挑戦するというのは素敵なことだと思います!ただ…。」
肯定された後にそのように続けられ千聖は少しだけ眉を顰める。
そして拓人は少しだけ顔を伏せながら続ける。
「何となく、直感というか、俺の勝手な妄想というか。実は白鷺さんはPastel*Palettsという選択肢からどこか別の何かを探そうとしてるんじゃないかなって、そう思ってしまって…。もともとは女優さんなんだから当然だろうなとか、そんなことを…。でも気のせいですよね!じゃなきゃこうやって相談に乗ってくれるわけないですし---」
そういって再び千聖のほうを向き直ったとき、一瞬だけ、千聖の表情が曇っていたような気がして、拓人は言葉を詰まらせてしまう。
その後、何事もなかったかのように元の表情に戻った千聖は
「ええ、私はちゃんとパスパレのメンバーを続ける気でいるわ。」
それだけ言ってから千聖はソファから立ち上がり、荷物を肩にかける。
「それじゃあ私は打ち合わせがあるので、これで失礼するわね。明後日のレッスン、よろしくお願いします。」
そういって千聖は足早に事務所を出ていった。
千聖が出て行ってから拓人は、ふと自分が口に出した言葉を思い出して頭を抱える。
「なんであんなこと言ったんだ俺は…。」
思い返せばあの発言は、今から取り組もうとする人に対して言うには失礼すぎる言葉の数々だった。あまりにも千聖に音楽に対する関心が見られなかったから、それに対して何か憤りのようなものを感じて言ってしまったのか?自身に問いかけてもその答えは出る答えは出ることはなかった。そうして悶々としたまま拓人はしばらく事務所に座り込んだ。
事務所を後にした千聖は拓人の言葉を思い出しながら別のスタジオに向かっていた。
(短期間で二度も同じようなことを言われるなんて思っていなかった。日菜ちゃんといい、鋭い人だわ…。)
数日前、千聖はスタッフに対してPastel*Palettsの脱退を申し出ていた。不祥事を起こして問題となってしまったバンドでこれからも活動をすることは、今後の自分の活動の妨げとなると考えたからだ。今まで自分が気づいてきた信用も崩してしまうかもしれない。千聖は芸能界で活動する中で様々な問題に直面してきた。そのたびに、周りの人たちがするように、自分にとっての最善の選択肢を考えるようになっていた。拓人に言った言葉は本当だ。最初は自分が活動を広げるためにこの仕事を受けた。しかしこんな状態になってしまっては、ただただ悪いイメージがつくばかり。そのため脱退の交渉をしにプロデューサーのもとを訪れたのだが。
「守ることができるのは“Pastel*Palettsの”白鷺千聖だけ…今は耐えるという選択しか用意されていないなんてね…。」
脱退をしてからも心無い誹謗中傷は続くであろうが、Pastel*Palettsとして活動していけばスタッフが払拭に努めてくれる。しかし、関係のない一人の女優になってしまってはその恩恵も受けることはできない。
「やはり、この活動を続けて次を成功させるしかない。そのためには練習にくわえて、スタッフに次のライブをいち早く取り付けてもらえるように交渉しなくては。
それが、今私がやるべきことならば…。」
事務所から帰宅した拓人は、再び自らのベースと向かい合っていた。せっかく千聖がスケジュールを合わせてくれたのに、今の自分にできることは教本をもとに初歩の初歩といえる部分を教えるのみ。今は練習が少ないから問題はないだろう、しかし今後を考えたとき、それでいいのだろうか。初心者とはいえ今まで様々な挑戦をして身につけていった千聖のことだ、きっと上達だって遅くはない。
「何をやってるんだよ俺は…何とかやってみるだろ?そうやって引き受けた仕事だろう?」
頭ではわかっていても体は拒絶する。まだ、拓人の中では何かが引っ掛かったままでいた。
今はライトイエローの彼女とどう向き合うべきかひたすらに考えることしか、拓人にはできなかった。
ちゃんとした文章にしなきゃってなるとなかなか展開が出来なくなっちゃうんですよね(物書きとしてそれはどうなのか…)
結果読みにくくなってしまうのであればなんとか台詞回しとかでもうすこし簡単に展開できるようにしてみたいと思います。