BanG Dream! 少年とパレットで描く世界   作:迷人(takto

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珍しく時間があり、かつアイデアがバッと出てきたので、とりあえずはキリの良いところまで書きなぐってみました。よろしくお願いします。
このお話ではパスパレ以外のキャラクターが登場します。


カラー2:ゆらゆらrelationship
2.1 上


「拓人!そろそろ起きろよ!拓人!?」

やや遠くから聞こえてくる自分の名前を呼ぶ声。

拓人はそれに気づき、重いまぶたを開けて起き上がる。昨晩はベースとにらめっこしながら打開策を考えていたのだが、結局ベースに触れることも、新しい策を思いつくこともできず、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。時計を確認すると、本来であればとっくに起きている時間だった。普段から決まった時間に早起きをしているため、少しくらい遅れて起きたとしても遅刻することはないが、滅多にない出来事のため拓人自身も驚いていた。とにかく今は支度をして朝食をとらなければ。それからきびきびと着替え始めた。

 

登校するにあたり忘れ物がないかを確認してから居間へと向かうと、父の雅樹が荷物をまとめて家を出る準備をしていた。

「今日はやたらのんびりしてるな。体調でも悪いのか?」

心配そうな表情で声をかける雅樹に対して拓人は答える。

「そんなんじゃないよ。昨日ちょっと考え事してたら寝るのが遅くなっちゃってさ。」

そういいながら、既に朝食が用意されている卓につく。その様子を見ながら雅樹は少し表情を曇らせる。拓人が遅く起きてくることなど、高校に入学してからはほとんどないことだったからだ。ただでさえ拓人にはジストニアの件があるのに、ほかの病気にかかっている可能性があるとすれば、心配をして当然である。

「そうか、大丈夫ならいいんだけどな。てっきりバイトのし過ぎが体調に影響を与えてるのかなと思ってな。昨日も帰り遅かったろ?」

その表情は先ほどよりも神妙な面持ちになっていた。

「前にも言ったが、治療に関する資金面はお前だけが工面する必要はないんだ。無理に一人で稼ごうとしなくてもいいんだぞ…?」

拓人には雅樹が自分を心配して言っているということはよくわかっていた。それでも、拓人は自分自身やると決めていた。

「大丈夫だって。こうして高校にだって通わせてもらってるんだし。他のことは極力自分で何とかしたいんだよ。それに、バイトのことだって自分の好きでやってるわけだし。」

拓人の表情から、確かに無理をしていないだろうということは分かったが、それでも心配になってしまうのは親心というものだ。一時期の拓人を知っている身からすれば尚更である。

「いくら好きでやっているからと言って、それで体調を崩すようなことがあれば元も子もない。無理そうならすぐに休めよ。あと、学校生活に支障が出るようであればバイト先を変えることもちゃんと視野に入れおくことだ。」

雅樹の言葉ももっともだ。本来やるべきことをおろそかにしては元も子もない。けれど、今やっていることを途中で投げ出すわけにはいかない。自分のことを少なからず信用してくれているメンバーのためにも。

そんな話をした後、雅樹は拓人に戸締りを頼んで仕事へと向かっていった。

拓人も朝食を食べ終わると約束をはたしてから学校へと向かった。

 

拓人の通う高校は自宅の最寄り駅から乗り継いで5分弱、そこからまた10分ほど歩いた先にある。普段は電車賃を節約するために自転車で通学しているのだが、今朝は時間に余裕がないため仕方なく電車を利用した。あまり利用しないため、朝の人の数にはあまり慣れておらず、少し窮屈だなと思いながら電車に揺られていた。

ふと視線を窓際に向けたとき、ある人物が目に飛び込んできて、拓人は唖然とした。背中まで伸びる銀色の髪の毛、目に映るすべてを見透かすような金色の瞳。この地域のライブハウスで働くものなら知らない者はいないであろう。孤高の歌姫、湊友希那という少女がそこにいたのだ。いつごろからかふとその姿を現して、その絶対的な歌唱力でいくつもの会場を沸かせ、ライブが終わると音もなく去っていく。そして、けして他の人と組むことをしない。だからこそ彼女は孤高と呼ばれている。噂によると、本人が本当に組みたいという相手としか組む気がないのだというが、あの歌唱力に合わせられる人もそうそう居ないだろうし、きっとその通りなのだろうと拓人は納得していた。そして、彼女を見て同時にもうひとり、別の人物のことを思い出してしまう。その人物も自分の目標を高く持って活動しているからか、バンドを組んだとしても長く続かずに解散してしまう。そんな姿を一度見てしまっているためか、彼女のこと、そして目の前の友希那のことが心配になってしまうのだった。

そんなことを考えていたら、いつの間にかぼうっと一点を眺めていることに気づいて、はっとする。若い少女をじっと見ているなんて、これではまるで不審者ではないかと。しかしそれから気づく、彼女もまた拓人のほうをじっと見据えているのだ。それに気づいた拓人は咄嗟に視線をそらした。

(ナズェミテルンディス⁉ やばい、変な奴だって思われたかも…!)

そう思って再び友希那のほうを見たとき、既に視線は外され、窓の外を眺めていた。拓人はほっとして正面に向き直る。ひょっとしたら気のせいだったのかもしれない。

数分経ってから、目的の駅に停車する。そのまま歩いて学校へと向かった。

「それにしても、朝からすごい人を見たな…。地味に生で見るのは初だぞ…。」

以前ほかのライブハウスで働いている知り合いからライブの映像を見せてもらったことはあったが、さすがに本物は雰囲気が違った。制服を着ていた分、いつもよりはオーラも抑えめだった気もする。

「あんな風にまっすぐ雑念なく音楽に没頭できたら、俺もまた弾けるようになるのかな…。」

“自分には歌しかない”

それが、湊友希那がよく口にする言葉だという。今の自分には絶対に同じように言い切ることはできないと拓人は考えていた。 

 

拓人が電車から降りて数分後、客席に座っていた友希那はふとつぶやいた。

「さっき私のほうを見ていた人、どこかで…。」

 

それから、ごく普通というのにふさわしい学校での時間が流れた。バイト以外で特に変わったことはなく、目の前の教科にただ没頭するのみ。中学後半の生活に比べれば、かなりましな姿勢で取り組めるようになったであろう。それほどまでに、当時の拓人はひどく落ち込んでいた。それを立ち直らせたのはやはり音楽の存在があったからだろうか

(今思えばやっぱり、それでも音楽にかじりついてたかったんだよな…。)

授業中の小テストを書き終えてから頭の中でそうつぶやく。本当のところ、確固たる理由というものは、拓人自身もわからないでいた。とにかく続けていれば何とかなる。そう思うに至る理由。それを探すためなのだろうか、今でもこうやって考え続けている。結局それは、授業が終わるまで続いた。

 

本日の授業がすべて終わり放課後となった。拓人は荷物をまとめてバイト先へ出かける。今日はPastel*Palettesのレッスンがないため、以前から働かせていただいているライブハウスへ向かう予定になっていた。目的地に着くと店長に挨拶をしてすぐに、制服を兼ねているライブハウスオリジナルTシャツに着替える。黒を基調として蛍光イエローのロゴか入ったデザインを拓人は結構気に入っていた。着替え終わると受付で待機、利用するお客の対応をする。お客が来るまでの待ち時間に考えるのはレッスンの方法について。あれこれ考えてはみても、結局のところ思いつくのは教本を使った基礎学習。それより先はいつまでたっても考えつかなかった。

「なんでこんなに頭が固くなっちまったかな…。」

そうつぶやいた直後

「バイトの途中に客を無視して考え事とは、如何なものでしょうか?」

真横から聞こえた声に拓人は肩をびくりと震わせた。

そこに立っていたのは、青緑色の髪の毛の少女、氷川紗夜だった。何度かスタジオを利用しているよく知った顔である。

「い、いらっしゃいませ氷川さん。ごめんなさい、気づかなくて。」

それを聞いた紗夜は、あきれてため息をつく。

「ダメじゃないですか、自分から働きたくてやっているのであれば、時間中はもう少ししっかりしていないと。」

このはっきり、且つしっかりとした話し方は確かに紗夜だ。最近知り合った日菜とは、見れば見るほど顔がそっくりであるが、性格は似ても似つかない。それもそうだ、日菜曰く、二人は双子なのだから。

「さっきから私の顔をじろじろ見て、何かついてますか?」

気づけば紗夜の顔を凝視していたようだ。少女の顔を凝視する行為は本日二度目。またやってしまったと思いつつ即座に謝罪した。若干頬を赤らめながら、紗夜もとりあえずはよしとしてくれた。

「それはそうと、今日はどれくらいのご利用で?」

「1時間は集中して練習しようと考えています。」

「いつも通りの設定時間だ。相変わらずかっちりしてますね。」

その相変わらずの姿勢に拓人は感心する。

「練習時間をこれ以上減らしたりはしません。決められた時間内に確実に力が身につくように意識して練習すれば、さらなる目標が見えてきて上達につながります。それにこれからは、余計に手を抜くわけにはいかなくなりましたから。」

その言葉を聞いて拓人は首をかしげる。

「余計に、といいますと?」

拓人に尋ねられてから一拍おいて、紗夜は静かに口を開いた。

「実は、また新しくバンドを組むことになりまして。」

その言葉を聞いて拓人は心から嬉しくなりすぐさま祝福の言葉をかける。

「本当ですか⁉おめでとうございます!」

予想以上に喜んでいる拓人を見て紗夜は少し驚きつつ、ありがとうございますと小さく答えた。

「以前、見苦しいところをお見せしてしまったので、ちゃんと報告しておかなくては思いまして。」

 

そう、拓人は以前、紗夜とそのバンドメンバーたちとのもめあいをたまたま目撃してしまった。バンドで楽しく音楽を奏でたいというほかのメンバーと、より高い技術を磨いて観客を魅了したいという紗夜の考え方が見事に食い違ってしまったのだ。いわゆる、“方向性の違い”というやつだ。拓人はどちらの考え方も理解できた。すべてのものが人によって特定の意義や意味がないように、音楽に対する考え方もそれぞれだからだ。

バンドメンバーと別れた紗夜がライブハウスの通用口を出たところで、拓人と目が合い、ふと足を止めた。それから消え入りそうな声で言った。

「私の考え方は、間違っているのでしょうか…?」

その問いに対して拓人は一瞬迷いながらも答えた。

「氷川さんの信じていることは、けして間違っているわけではないと思いますよ…。ただ残念ながら、そういう考えでやっている人ばかりではないというのも事実です。」

それを聞いて紗夜はうつむく。彼女のことだ、きっと納得してくれてはいるのだろう。しかしそれを受け入れられないのもよく分かった。

「おかしなことを聞いてしまいました。申し訳ありません…。ありがとうございました。」

そういって立ち去ろうとする紗夜の背に向かって拓人はすかさず声をかける。

「氷川さんなら、すぐに新しいバンドを作って、うまくやれますよ!」

それを聞いた紗夜は足を止めてから拓人のほうを向き直り、軽く会釈をした後に去っていった。

 

「氷川さん、あの時はかなり落ち込んでいたので心配だったんですけど、そうか…また組めたんですね。でも合わせて練習をしないということは、まだ担当は集まってないんですか?」

「ええ、今のところは。私たちの理想とする人はなかなか見つからなくて…。」

紗夜の理想と一致するような人、それだけでなかなかハードルが高い気がする。

「いま決まっているのって、ちなみに何ですか?」

「恥ずかしながら、まだギターとボーカルしか決まっていません。」

ギターが紗夜ならば、新メンバーはボーカルか。紗夜が認め、紗夜と組みたいというような人物、いったい誰なのかと考えたときにふと頭をよぎるのは一人だけだった。しかし、もしその人物だとしたら、ほかの人と組みたいだなんて思うのだろうか。あえて拓人はそれがその人であるかどうかを問いただすようなことはしなかった。

「もしメンバーがそろってライブをする機会があれば、聴いていただけると嬉しいです。」

「うん、その時はぜひ行きたいです。バイトの予定がまだわからないので確定とは言えませんけど…。」

そうしてしばらくしてから「そういえば」、と紗夜がつぶやいた。

「先ほどぼうっとしていたのは、何か悩み事ですか?いろいろと話を聞いていただきましたし、私でよければ相談に乗りますが。」

急に自分の話題に戻って、拓人は肩眉を下げながら

「ははは…大したことじゃないんです…。それに、これは俺の問題ですから…。」

しかし、ひとりで考えているだけではどうしようもないこともわかっていた。少しの沈黙の後、拓人は意を決し、紗夜に尋ねる。

「例えば、誰かに何かを教えなければならない日が決まっていて、今の自分では教えるだけの力がないとき、氷川さんはどうやって期日までにそれをものにしますか?」

それから紗夜は、あまり考えこむようなそぶりも見せず言った。

「そんなこと、その日までに、自分ができるようになるまで練習する以外ないと思いますが。」

予想していた通りの反応だった。これが一般的な考え方であるから当然なのだが。

「しかし…どうしても間に合わなければ、今持っている技術を最大限に活用して伝えられるようにするというのも、手段に一つだと思います。私は中途半端が嫌なので、意地でもできるようにしますが、江古田さんは私ではないですから。けれど、いつかはできるようにしたほうがいいと思います。」

「今持っている技術を…。」

結果的に先延ばしにしてしまっているだけにも思えるが、残り日数の少ない今、どうしてもできないことだけに時間を使うのも得策とは言えない。まずはできることを。その過程でできるようになっていくしかない。そもそもこの仕事を受けるまで、まったく触れていなかった時期があるのだから、急にできるようになるわけがないのだ。そう考えたら自然に胸が軽くなっていた。

「ありがとうございます氷川さん。おっしゃる通り、俺には今できることしかできないので、まずは少しずつ取り組んでみようと思います。」

「そうですか。私も応援しますよ。」

それから紗夜にスタジオのカギを渡すと、その場を離れていった。悩み事の一つが解決して拓人はほっとしていた。

目先のことばかり考えて基礎について考えることをしていなかった。そもそも千聖がすぐに上達するかどうか確定してもいないのに早くその先のことを教えられるようにしなくてはと焦っていた。

「今はやっぱり、じっくりやるしかないさ。」

紗夜のおかげでつかえがとれた拓人は、その後も黙々と作業を進めたのであった。

 




パスパレの話なのに今回は出てきませんでしたね…申し訳ございません。次回はいよいよ千聖とレッスン!

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