BanG Dream! 少年とパレットで描く世界   作:迷人(takto

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乗りに乗っておるわい


2.3 下

拓人がパスパレのアシスタントとして練習に関わってからしばらく経った。メンバーたちは上達していき、客観的に聴いてちゃんと演奏できていると言えるほど上達してきていた。もともと麻弥や日菜は申し分無いが、イブや千聖も負けずについてきていた。

特に驚くべきは千聖だ。未経験だった最初に比べてかなり上達している。これも自主練の賜物であろう。それは喜ばしいことだがと思ってはいるがそれだけではなかった。実力はまだまだとはいえ、ある程度のことができるようになってくると、今度はもう少し上の段階の練習が必要になる。そうなれば教本や口頭だけではどうしても教えられないことが増えてくる。今の状態では、今度は自分が千聖の足を引っ張ってしまうのではないかと拓人は危惧していた。ベースに再び触れられるようにするリハビリは未だに続いており、触れる直前で体が強張るような感覚は少しずつ無くなってきているが、今もなお触れることはできない。

 

 「今日はお疲れ様でした。この調子で続けていきましょう。」

 「はい、ありがとうございました。」

拓人は今、フォーカルジストニアの治療のため隣町にある病院に足を運んでいた。

月に数回、薬の処方とカウンセリングを受けるために病院を訪れる。ジストニアの治療に効果があるとされる薬を内服することで症状を抑えるという試みだ。ジストニアというものには特効薬や効果的なリハビリというものは一定した見解が存在していない。そのため、拓人に有効な治療を模索しながらの治療となっている。手術や特効薬ですぐに直せるものであれば苦労することはないのにと、拓人はいつも心の中でつぶやいていた。

 

 

病院を出た拓人は帰路についていた。帰宅中に考えることといえばパスパレの今後について。今のまま続けていればライブをしても問題なく終幕まで続けることができる。多少はつたなくても、知識の少ない一般人であればそれほど気になるものでもないだろう。問題はその先だ。もしその次があったとしたら、今の実力のままではさすがに気にし出す人間が現れてもおかしくない。

「いっそのこと、知り合いにベース経験者がいる人に相談してみるか…?だけどそれは・・・」

一度やると決心した手前、簡単に他人に押し付けてもいいものなのか。拓人は顎に手を当てながらうなり声を上げていた。

その時、ふと自分の腹も同じようにうなりをあげていることに気づいた。

「そういえば、もう飯時か…すっかり忘れてた。」

今日は父、雅樹が出張中のため食事は一人でとることになっていた。いつもは自炊することで食費を節約しているのだが、今は何故か帰って作る気にはなれなかった。

「近場で買って帰るか…。」

そうして、少し歩いたところにある有名ファストフード店に足を運ぶことにした。決め手はコストパフォーマンスの良さ。セットメニューを頼むだけで十分に腹を満たすことができる。しかもそれが1000円以内で済む。頻繁に食べるものではないため、仕方ない事だと口では言いつつも、少し楽しみでもあった。店につき、事前に決めていたメニューを早速注文しようとカウンターに向かおうとした時だった。

「あら? 江古田さんじゃないですか。」

後ろから聞き覚えのある声が掛けられる。振り向くと、そこにはギターを担いだ紗夜が経っていた。

「あれ?氷川さん、どうも。珍しいですねこんなところで会うなんて。」

拓人は正直意外だと思った。優等生気質の紗夜のことだ、きっとこの手の体に悪そうなジャンクフードは嫌いだろうと思っていたからだ。

「こんにちは。今日は練習後に少し小腹が空いてしまったので寄りました。江古田さんこそ、あまりこの手の店には立ち寄らないものだと思っていたのですが。」

拓人は雅樹の出張の件を話すと、紗夜もそれに納得した様子で頷いた。

「習慣を貫くべきだとは思いますが、たまの息抜きも確かに必要だと思います。」

ただ注意されるだけだと思いきや、以外にもフォローするような声をかけられて拓人は驚いていた。

「そういうわけなので、俺は買って持ち帰りますね、s」

それじゃあまた、と言いかけたところで紗夜が言う。

「もしよろしければ、相席していきませんか?少し、ご報告したいこともありますので。」

またしても紗夜にしては珍しい誘いだった。拓人には特に断る理由もない。それに、表情こそいつも通りの無表情であったが、耳元が少し赤みがかっていることから、それなりに勇気を出しての誘いであったのだろう。ならば尚のことだ。

「わかりました。氷川さんさえよければ、ご一緒させていただきます。」

紗夜はそれでは、と言って先にカウンターへ向かう。振り返ったとき、少しだけ息をつくような音が聞こえた。

 

注文を終え、商品を受け取ってから二人で適当に席を選びそのまま座る。拓人はこうして同年代の異性と食事を共にするのは久しぶりだった。食事に手を合わせてから早速バーガーの包みを開ける。

「それで、報告したい内容って何ですか?」

尋ねると、紗夜はフライドポテトに伸ばしていた手を止めて答える。

「ええ、実は先日、ついにメンバーが揃いまして。正式にバンドが結成されました。」

それを聞き拓人は歓喜した。以前あったときはボーカルと紗夜だけだと聞いていたが、ようやくふさわしいメンバーを集めることができたようだ。聞くところによるとパートは、ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードの5つだという。ギターやベースの重厚感あるサウンドに加え、軽快にリズムを刻むドラム、そして場面によってさまざまな音で世界観を作り出せるキーボード。曲を聞いていないためまだどのような方向性なのかはわからないが、きっと芯の通った力強いイメージがあるバンドなのだろうと想像できた。

「ちなみにバンド名はもう決まってるんですか?」

「ええ、“Roselia”と名付けられました。」

「ろぜ・・・りあ・・・?」

確か、何かにそんな名前のモンスターみたいなものがいたような気がする。

「ええ、『不可能を成し遂げる』という意味を持つ青薔薇をイメージした、と。名付けた人はそう言っていました。」

拓人の予想していた通り、紗夜のイメージにピッタリの名前だった。

「すごい…改めておめでとうございます!!」

「あ、ありがとうございます。」

拓人の勢いに少したじろぎながら紗夜は礼を言った。

「ちなみにライブの予定はもう決まっているんですか⁉」

「一応、数日後に開催される合同ライブに参加する予定ですが・・・。」

「いつですか!見に行きます!まだチケットってとれますか!?」

「まだ販売は行っていますので、大丈夫ですよ。」

ここまで興奮している拓人を見る機会もないため紗夜は少し圧倒されていたが、なおも冷静に続けた。

「バイトの予定が入ってるか確認しないといけませんが、行けたら絶対行きます!」

「ええ、ありがとうございます。」

紗夜はそういうと、天井を仰ぎながら続けた。

「やっと、私の求める音楽を表現できます。」

紗夜の言葉から感じ取れるそれは、単純に音楽への熱意だけではなく、執着に似た何かであったようにも感じ取れた。

 ライブの話を聞いて、拓人はふと日菜の顔が浮かぶ。何度か紗夜と対面しているが、日菜のことについてまだ聞いていなかったことを思い出し口にする。

「そういえば、そのライブって家族は呼んだりするんですか?姉妹とか。」

それを聞いて紗夜の表情が明らかに曇ったのが分かった。

「私、江古田さんに姉妹がいるなんて、一度でも話したことありましたか?」

拓人は瞬時にこの雰囲気はまずいということを察した。

「い、いえ、実は友人伝手に最近知り合いまして…。あまりにそっくりだったから驚きまして…。」

「ええ、それはそうですよ、双子なんですから。」

口調はいつも通りであるはずなのに、言葉の節々から何か黒い感情がにじみ出ているように感じた。

「あの娘が、日菜がもしも来たいというのであれば考えますが、そうでないのなら呼ぶ必要はないと考えています。理由は知りませんが、最近何やら忙しいようですし。」

「そう、何ですか…。なら仕方がないですね…。」

口振りから、日菜がパスパレとして活動を始めたと言うことはしらない様子だった。まさかこんな雰囲気になってしまうとは思わなかった拓人は、先程の自分の発言をひどく後悔した。

 

 

 

「では、ご都合がよろしければ、次はライブで。」

「はい、また今度。」

あれから別の話題に持っていき、何とかあの重苦しい空気から脱することに成功した。

まさかあれだけ見てわかるほどに、紗夜が日菜のことをよく思っていないなんて思っていなかった。日菜は普段から姉の紗夜のことが大好きだと言っていたし、ある程度良好であることを予想していた。しかし紗夜の気持ちも何となく察することはできる。自分より秀でた力を持つものに、人はいい感情は持たないものだ。近い存在である双子とあればなおさらだ。何とかできる方法はないのか、双方のことを知る拓人は帰宅しながら考えた。

 

 

そしてまた数日後、Pastel*Palettesの練習日。この日拓人は通院のため参加できず、その日決まったことを確認するためにスタジオを訪れた。メンバーのみんながレッスンをしているドアの前に立った時、誰かがドアをしっかりと閉じていなかったことに気が付く。こんなんじゃ中の声が丸聞こえになってしまうと思いながらノブに手をかけようとしたとき、中から不穏な会話が聞こえてきた。

「でも、それじゃあ努力しなかったら何を…!」

彩の声が聞こえてすぐ、聞こえたのはいつもよりも冷たく、真剣なトーンで話す千聖の声だった。

「努力は結構、夢を見るのも結構、だけど…

 

 

努力が必ず夢をかなえてくれるわけじゃないのよ。」

 

 

その言葉を聞いて、一瞬拓人の中の時間が停止する。その言葉はまるで、存在のすべてを否定されたように重く、強く響いてきた。それから中で少しだけ会話が続いていたようだが、何を言っていたのかは耳に入ってこなかった。それからドアが開かれ、中から身支度をした千聖が現れる。千聖は一瞬拓人を見て静止したが、そのままお疲れ様と声をかけると立ち去ろうとする。

「あ、あの…!!」

それに対して拓人は咄嗟に声をかける。千聖も何かしら?と振り向く。声をかけたのはいいが、いざ話すとなると何を言えばいいのかわからなくなっていた。

何か察したのか、千聖が先に口を開く。

「いつから聞いていたのかはわからないけれど、あれが私の考えよ。ただの努力だけで解決できるのなら、苦労はない、あなたもそれはよくわかっているでしょう?」

その言葉が再び拓人にぐさりと突き刺さる。

「今のままでは何も変えられない。彩ちゃんも、そして、あなたもね…。」

事の顛末については中にいる人に聞いてと言い残すと、千聖は去っていった。

しばらく、拓人は立ち尽くすしかなかった。

 

 

「努力…だけじゃ…。」

 

時を同じくして、拓人の自室に立てかけられているベースががたりと音を立てて傾いた。

 




やはり多くの人に見ていただくのはモチベーションにつながりますねぇ!
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