提督「艦娘からのアプローチが怖い」   作:かむかむレモン

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鈴谷は伝えたい

 

 

 

 

 

 

提督(先日、他の鎮守府から演習が申し込まれた。相手はかなり格上の高練度艦隊。敵主力艦隊を容易に叩き潰せる面子だった)

 

提督(俺は勝てる気が全くしなかったので、新しく来た子たちと他の三人を組ませ、胸を借りるつもりで挑ませた)

 

 

 

 

 

 

 

 

提督(そしたら、何かS勝利してきた)

 

 

 

 

 

 

提督(意味わからん。なぜ勝てたんだ)

 

 

 

提督(昼戦では一人しか大破判定を出せなかったが、夜戦で全て巻き返したらしい。未だに信じられない)

 

 

 

 

提督(MVPは何と鈴谷。相手の旗艦をワンパンしたかららしい)

 

提督(ちなみに鈴谷の練度は演習艦隊内で一番低い。だから、大番狂わせでもあった)

 

 

 

提督(演習後、相手の提督と旗艦から拍手を頂いた。Congratulations!とか素晴らしいラブパワーデース!とか言ってた)

 

 

 

提督(格上の鎮守府に勝てた事に浮かれた俺は、鈴谷に何かご褒美をやると言ってしまった)

 

 

 

提督(鈴谷は少し考えると、満面の笑みでデートを要求してきた)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督(心が折れそうだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

提督(来るデートの日、俺は昔着ていた服を引っ張りだそうとしていた)

 

 

 

 

提督(すると、鈴谷が俺の部屋に入るなり、

 

 

 

 

 

鈴谷「あ、提督ー。部屋デートにしない?」

 

 

 

 

 

と言ってきた。部屋デートとかハードル高いってばよ)

 

 

提督(外なら軽く定番コース回って終わりだと考えていたが、部屋デートは終わりにするサインが全く思いつかないのだ)

 

 

 

 

 

鈴谷「だからさ、着替えなくてもよくない?」

 

提督「それは...」

 

鈴谷「今日だけなんだから、時間も惜しいの!だからこっち来て!」グイッ

 

提督「おわっ」

 

 

 

 

 

提督(鈴谷に腕を引かれ、ソファに座ることになった。ぴったり隣に座られ、少し息が荒くなる)

 

 

 

 

 

鈴谷「にひひ、提督ってば照れてる?」

 

提督「...そう、見えるか?」

 

鈴谷「んー、わかんないけど、初めて会った時よりかは見てくれてるよね」

 

 

 

 

 

 

提督(...そうだったな。初めて会った時は目すら合わそうとしなかったよな)

 

提督(あの頃よりかはマシになっているようだ。でも、まだ鈴谷は苦手な部類に入る)

 

 

 

 

 

鈴谷「そーそー!こないだの演習凄かったでしょ!もっかい褒めてよ!」

 

提督「あ、ああ。凄かったよ」

 

鈴谷「何か足んないよね?」ニヒヒ

 

提督「な、なんだ?」

 

鈴谷「ほら、頑張った子にいつも何してるっけ?」

 

提督「...撫でろと?」

 

鈴谷「正解ー♪」

 

提督「...わかった」ナデ

 

鈴谷「おーぅ!これこれー♪」

 

 

 

 

 

提督(撫でられている鈴谷は本当に嬉しそうな表情をする。嘘偽りが見受けられないような、心からの表情に見える)

 

提督(同時に、俺は自己嫌悪に陥る。信用していないのは俺だけなのではないかと)

 

提督(鈴谷の笑顔を見る度、俺は自分が嫌になる)

 

 

 

 

 

 

 

鈴谷「んふー、まさか撫でてもらえる日が来ようとはねぇ」ンフフ

 

提督「...そうだな」

 

鈴谷「みんな喜んでるよ。提督に触れられて」

 

提督「...本当なら、嬉しいな」

 

鈴谷「昔とはだいぶ変わったって」

 

提督「...そうか」

 

鈴谷「そうだ。昔の事聞きたいな。この鎮守府に配属された時とか」

 

 

 

 

 

 

提督(昔話か...たまにはいいかもしれないな)

 

 

 

 

 

 

提督「...そうだな。俺がこの鎮守府に配属された時のことか」

 

鈴谷「鈴谷、まだ提督のことよく分かってないから聞きたいな」

 

 

 

提督「...軍学校卒業を目前とし、鎮守府に配属される少し前、俺は教官に呼び出されて、別室で待機させられてな。しばらくすると、五人の少女が入ってきた」

 

 

提督「俺は何だろうと思っていたら、一人ずつ自己紹介が始まった。名前は吹雪、叢雲、漣、電、五月雨だった」

 

 

鈴谷「え、それって、初期艦ってやつ?」

 

 

提督「ああ。自己紹介が済むと、教官が入ってきた。そして、誰が一番信頼出来そうかと質問してきた」

 

 

提督「当時の俺は、表には出さなかったものの、精神はボロボロだった。少女ですら嫌悪感を催したほどだ。だから、正直なところ、誰も信頼出来なかった」

 

 

提督「叢雲は語気から気の強さを感じたが、俺は突っかかられるのが面倒だと思い無しにした。電は叢雲程ではなかったが、はわわの一言で台無しになった。漣はご主人様呼びでアウトにした。五月雨はオドオドしてるところが逆に胡散臭く感じた」

 

鈴谷(うわぁ...)

 

提督「それで、この中で最も真面目そうな吹雪がマシかなと思って選んだ。これから先、共に生きるとなって、ストレスを最も感じないであろう子を選んだ」

 

鈴谷「...吹雪ちゃんにその話はした?」

 

提督「ああ。とても悲しそうな顔をしていた」

 

鈴谷(...そういやその時は提督の事情を知らなかったんだっけ)

 

提督「それから一艦隊組めるよう建造した。来た順は確か...磯波、霰、五十鈴、妙高、霞だったかな」

 

鈴谷「へぇー、来た順とか覚えてるんだ」

 

提督「何故だか覚えているんだ。そして、ドロップでは長良、村雨、弥生、隼鷹、羽黒、時雨、飛鷹、睦月、卯月、酒匂だったかな」

 

鈴谷「おぉー」

 

提督「その後も建造をして、長門、陸奥、蒼龍、飛龍、青葉、如月、そして...朝潮、瑞鶴、鈴谷が来た」

 

鈴谷「明石さんは?」

 

提督「大本営から転属してきた。何故かはわからないが、改修では世話になってる」

 

 

 

 

 

 

 

提督(今思えば、これまでに会えた艦娘たちの対応は酷いものだったと思う)

 

提督(目を合わせず、誘いに乗らず、仕事以外では距離を空けて過ごしていた。愛想を尽かされなかっただけ幸運だった)

 

提督(当時の俺は、彼女たちは保身の為に従っていると思っていた。すり寄ろうとするのは、権力を手に入れるため、とも)

 

 

提督(轟沈させなかったのも、後味が悪いし、後から立つ噂を回避するためだった。大破以前に、中破したら撤退していた。他の提督からは、甘いと言われた)

 

 

 

 

 

提督(全て自分の為と言い聞かせていた)

 

 

 

提督(そう、自分に嘘を言い聞かせていた)

 

 

 

提督(心がズタズタにされていても、人の為に尽くしているという事実を否定したかった)

 

 

 

提督(自分が未だに否定された理念に縋っているという事実から目を背けたかったから、自分を騙していた)

 

 

 

 

 

提督(結局のところ、俺はそれすらも出来なかった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴谷「...提督、一つ聞いていい?」

 

提督「ん...」

 

鈴谷「その、ここに着任した日に、妙高さんに案内されたじゃん?」

 

提督「ああ」

 

鈴谷「その後、提督の過去を聞いて、気になったんだ」

 

提督「...そうか」

 

鈴谷「その...裏切られた時の気分って、どんな感じだった?」

 

 

 

 

 

提督(...鈴谷は、知ろうとしている。俺を、感情を、人の悪意を)

 

提督(鈴谷は建造されてからしばらく経っているが、それでも知らない事が多い。特に、俺に関しては尚のこと)

 

提督(彼女は彼女なりに、理解しようとしてくれていると思いたい。だから、俺も話そうと思う)

 

 

 

 

 

 

鈴谷「あ、言いたくなかったら言わなくて...」

 

提督「...あくまで俺の主観だが、まず目の前が真っ暗になるんだ」

 

鈴谷「え...」

 

提督「その後すぐにライトアップして、目の前にいる奴が何者か分からなくなった。でも、そいつに全く関心が向かず、ただのオブジェクトに見えた」

 

提督「そんで、少し時間が経つと怒りが込み上げて来たな。何にぶつけたらいいか分からず、哀しさだけが残った」

 

提督「さらに、自分が拠り所にしていたものが消えたから、何を信じりゃいいか分からなくなった。だから、今まで信じていたものを信じるな、と思う他無かった」

 

鈴谷「...怖かった?」

 

提督「そうだ、怖くもあったな。全てが敵に見えたりした。そんなところかな」

 

鈴谷「じゃあ...ずっと辛かったんだ」

 

提督「そうだな。酷いフラれ方したから引きこもったなんて恥ずかしくて言えなかった。今思えば情けない話だ」

 

鈴谷「んー...わかった。鈴谷の聞きたいことはおしまい。言ってくれてありがと」

 

提督「どういたしまして」

 

鈴谷「次は、鈴谷が伝えたいことを言うから、ちゃんと聞いてね」

 

 

 

 

 

 

提督(鈴谷は一度深呼吸をして、俺を見た)

 

 

 

 

 

 

鈴谷「鈴谷ね、妙高さんに案内されるまでは、ちょっと感じ悪いかなって思ってた、でも、話を聞いて、一度考えを改めたの」

 

鈴谷「何日かここにいてわかったのは、提督がちゃんと鈴谷たちの事を気遣ってくれてること。ただ、距離は縮まらなかったけど」

 

鈴谷「でも最近は、距離も縮まったし、提督ありきの楽しさが出来たから、とても過ごしやすくなった」

 

鈴谷「だから、こうして二人きりで話すのも夢だったりしたんだ。叶えてくれて、ありがと!」

 

 

 

 

 

提督(...やっぱり、いい子じゃないか)

 

 

 

提督(俺の偏見とは真逆の、人を思える優しい子だった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴谷「提督って、過去から立ち直ろうと頑張ってるんだよね?」

 

提督「...ああ」

 

鈴谷「きっと、治るよ。お医者さんは完治は難しいって言ってたみたいだけど、鈴谷はそんなことないと思うよ」

 

提督「どうして?」

 

鈴谷「だって、こないだの鈴谷、演習で旗艦撃破出来たでしょ?練度も2倍以上違う相手に勝てたんだよ?勝てないと思ってたけど、出来ない事なんてないんだよ」

 

提督「出来ないことなんて無い...」

 

鈴谷「うん。だから、絶対提督の傷も治るよ。鈴谷は信じてるから」

 

提督「...鈴谷は優しいな」

 

鈴谷「ふふーん!鈴谷は褒められて伸びるタイプなんです。これからもうーんと褒めてね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督(...その後は、他愛ない話を続け、日が沈んでからデートを終えた)

 

 

提督(鈴谷が部屋を出た後、我慢していた涙が少しずつ溢れてきた)

 

 

提督(ただ単純に、嬉しかったのかもしれない

 

 

提督(とても心に響く、貴重な時間だった)

 

 

 

 

 

妖精「ていとくさん、うれしそう」

 

妖精「みんなともなかよくなってる」

 

妖精「もうすこし。もうすこし」

 

 

 

 

 

 

提督(わかってるよ。いつになく真面目な妖精たちも久しい)

 

 

 

提督(まだ課題はある。でも、解決出来ない事は無い)

 

 

 

提督(鈴谷の言った通り、出来ない事なんてないのだから)

 

 

 

 

 

 

 






鈴谷は元からいい子って、それ一番言われてるから(迫真)


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