遂にケッコンカッコカリ用の指輪が明日送られてくる。
練度は皆申し分無しだが、限界まではあと少しという子が多い。
後から来た朝潮たちも急激に練度を上げ、限界付近にまで達しようとしている。経験値ブーストでも起こってるのかと思うレベルだった。
まあそれはいいんだ。問題は誰に贈るかだ。
ケッコンカッコカリの詳細を確かめると、限界突破は勿論のこと、燃費の向上、運の向上、耐久の向上、桜の花びらが舞い落ちる、等。
最後が違和感しかないが、有用な装備なんじゃないか?と思ったよ。てか最後のこれは何?演出か何か?
妖精「わたしたちがさくらのはなびらをおとします」
妖精「ふんいきはたいせつです」
妖精「ゆかにおちたらきえますので、そうじのしんぱいなし」
お前らがやるのか...(困惑)
まあ変な事しなけりゃなんでもいい。
システムは大体把握したが、贈る相手をどうしようか絶賛迷っている。
まず大型艦たちは間違い無く指輪の恩恵を最大限に受けられる。駆逐艦たちは効果が薄いから候補に上がりにくいと考えるのが妥当だろう。
ここまでは事務的な考えだ。俺はそれよりも内情にかなり偏っていた。
カッコカリとあるが、やってる事は結婚式とほぼ同じだ。緊張もあるが、どうしてもマイナスイメージが浮かんでしまう。
指輪だから変に意識してしまうのが悪いんだが、拒否されたらどうしようか。俺と艦娘の思惑が違って破局してしまわないか。相手の気持ちを考慮できず、無理やり渡してしまうのではないか、と。
不安で胃が痛くなる。以前とは違うと思ってても、身体が震える。
彼女たちは大丈夫だと思っても、僅かな疑問も生まれてしまう。
こういう所は、まだ変われていない。
夜の帳が下りても、俺はそのことで頭がいっぱいだった。
不安で食べ物が喉を通らない。皆の視線が怖い。何を考えているのか想像もつかない。
俺は無理やり料理を口に押し込み、逃げるように埠頭へ向かった。
潮風に当たっていると、少しずつ落ち着いてきた。単調に繰り返す波の音は、俺の緊張を和らげていく。
光をも呑み込んでしまうような漆黒の海を見ていると、不思議な気分になっていた。
その暗闇に身を投じてしまえば二度と戻らなくなりそうなのに、恐怖が一切感じられない。
飛び込んでしまっても、波の音が全てかき消してしまうような気がする。
もし溺れても、苦しまずに死ねるような気がする。
だから、俺は....
『だ、ダメです!』
提督「...はっ!」
後ろから聞こえた叫び声で、俺は正気に戻った。
片足がほぼ浮きかけていたところで、俺は尻もちを着いた。
そして、一気に恐怖がこみ上げてきた。
提督「磯...波...?」
磯波「はぁ、はぁ、何を、してるんですか...」ゼェゼェ
提督「何って...」
磯波「て、提督、なんで、そんな、みんなが悲しむようなことを...」
提督「俺は...」
磯波「死んじゃダメです...提督が死んだら、皆が悲しみます...!」ウルウル
提督「...すまない」
***
磯波「提督さん、何だか様子が変だったので、急いでご飯を食べてきたら...」
提督「...すまない、俺もどうかしてた」
磯波「何か、そこまで思い詰める事でもあったんですか?」
提督「...少し、な」
磯波「...磯波でよければ、話して下さい」
提督「...ケッコンについて、少しな」
磯波「け、ケッコン!?提督、結婚するんですか!?」
提督「お、落ち着け!俺はまだそのつもりは無い!俺が言ってるのは...」
提督、説明中...
磯波「す、すいません。取り乱しちゃって...」カ-ッ
提督「いや、俺も皆に言葉足らずだったのが悪い」
磯波「...それで、ケッコンカッコカリの相手でお悩みに?」
提督「ああ。戦力強化と割り切ればいいんだが、俺はどうにもそれが出来ないみたいなんだ」
磯波(そんな事、考えないでほしいです...)
提督「ほら、相手がその気じゃないのに結婚の真似事されたら嫌だろ?」
磯波「...そうですね。私だったら嫌と言います」
提督「だろ?だから慎重に...」
磯波「...その必要は無いです」
提督「え?」
磯波「この鎮守府にいる人たちは、みんな提督さんから指輪を貰えたら嬉しいと思ってます」
提督「そりゃ冗談...」
磯波「私も、本気です」
提督「...ゑ?」
そ、それって、みんな戦力強化出来るからか?
それとも...いや、まさかそんな事は...
磯波「たとえ真似事だとしても、私たちは提督と結ばれたいんです。仮初であっても、心から嬉しく思いますよ」
提督「...」
磯波「ずっと距離を置かれてましたけど、みんな提督の隠れた優しさを知っているんです。そこに私たちは惹かれて、もっと知りたくて、もっと近付きたくて、ずっと夢見てるんですよ」
提督「...本当なのか」
磯波「はい。今こうしている時間も、本当は舞い上がってしまうぐらい嬉しいです。ずっと...ずっと好きだった人と二人きりなんですから」
...え、俺今告白されたの?
あかん、何かめちゃくちゃ変な雰囲気になっとる。
俺は嬉しいようなそうじゃないような変な感じがしている。
磯波「今ここにいるのが私じゃなくて、他の人だとしても、その人は私と同じ...いえ、もっと嬉しく思うでしょう。それぐらい、みんな提督さんの事を慕っているんです」
提督「じゃ、じゃあ...誰に指輪を渡しても...」
磯波「必ず受け取ってくれます」
提督「そ、そうか...いや、でも...」
こんな事で悩むのは贅沢の極みであろう。
配備される指輪は一つだけ。だから渡せる子も一人だけ。
皆が俺を好いているとしたら、選ばれなかった子は何を思う?
今まで俺を支えてくれた子たちの中から、一人だけ選ぶというのは、あまりにも残酷で、非道だと思った。
俺は...皆の幸せを願っている。
皆が笑顔になってくれさえすれば、それでいいんだ。
それが、大多数の子たちを悲しませる事になるかもしれないなんて...
俺は...
磯波「提督さん、一つだけ、アドバイスします」
提督「な、何だ?」
磯波「この鎮守府に着任してから、一番安心と信頼の置ける子は、誰ですか?」
提督「誰って...」
磯波「今、真っ先に頭に思い浮かんだ子は、誰ですか?」
提督「それは...」
磯波「あ、名前は言わなくていいです。その子が、きっと提督の答えだと思います」
提督「答え...」
磯波「そして、きっとその子も、提督から指輪を貰えるのを待ってると思います。だから、その時が来たら...」
提督「...」
磯波「その時が来たら、提督の想いを、ありのまま伝えて下さい」
提督「...いいのか?」
磯波「みんなはどんな結果になっても、それを受け止めます。だから、提督は迷わなくていいんです」
...何だか、元気付けられた。
この子から、とても強く真っ直ぐな想いを伝えられた。
普段大人しい磯波が、ここまで話すのは珍しいことだ。おそらくありったけの勇気を振り絞ったのだろう。
なら、俺はどうする?
今までみたいに臆していればいいのか?
いや、そんな訳にはいかない。
本当に、覚悟を決めるんだ。
今度こそ、艦娘たちを、皆を信じるんだ。
提督「...ありがとう、磯波」
磯波「あ、はい...では、私は戻りますね」
提督「わかった」
磯波「て、提督さんも、早く戻って下さいね。それでは...」スタスタ
提督「...そうだな。もう戻らないと」
あの頃のように、純粋に、一途に想っていた時に戻るんだ。
もう、迷う必要は、無いんだ。
磯波(青葉さんが外側を固めて、私が何とか内側を固められた...)ホッ
磯波(後は...頼んだよ...!)
新元号おめでとナス