死ぬ神ちゃんアカデミック   作:もるがな好きな隊長

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なんとか2ヶ月以内には更新でけた……。

中学時代にかっちゃんの後ろにいた二人の、あの黒髪の方の子すこ。多分ちょっとつっぱってるけど何だかんだデク君のこと気にしててちょっぴり罪悪感覚えてるよ絶対(偏見)




モブに救われた爆豪勝己

 

 

その日、折寺市ではヴィランによる大きな事件が立て続けに2つ起こっていた。

 

朝の通勤時間。巨大化の“個性”を持つヴィランが引ったくりを働き、ヒーローに追い詰めらてどうしようもなくなり苦肉の策でとでも言うべきかその“個性”を発動させてしまい、線路上で暴れ回るという暴挙に出た事件。

 

そしてその朝の騒動に乗じるような形で、多くの学校が下校時刻としている時間帯に発生したのがヘドロのような流動体になる“個性”のヴィランによる強盗事件。

 

いずれも少なくない被害を出した許されざる犯罪行為。だが一般大衆はそれをどこか達観したような目で見て、勤め先へ冷静に遅刻の連絡を入れる者、野次馬根性に誘われるまま遠巻きにヴィランを観察する者など、その対応は良くも悪くも実に落ち着いたものだった。

全ては今の社会の犯罪率の高さによる慣れと、それらを毎回的確に排除する練度の高いプロヒーローたちと、そんな彼らの活躍への確かな信頼によるものだ。

 

中には上記のようにヴィランを野次馬することでそれの対応に駆けつけたヒーローたちの戦いをお目にかけようという、端からヒーロー目当ての猛者も少なくない。

 

 

平和の象徴の登場と共に加速度的に発展したヒーロー文化と、それによって確実に下がっていく犯罪率。

それでもまだまだ起こって当然のヴィランによる犯罪と、それを止めて当たり前のヒーローたち。

 

そんな奇妙な均衡の保たれた“平和”が、今の社会の現状なのだ。

 

大衆は犯罪を常に身近に感じながらも…否、身近すぎるが故に、凶悪なヴィランによって引き起こされる犯罪も、それが優秀なヒーローの存在によって阻止される光景も、まるでテレビ越しの映像かのような現実感の無さを伴い「まさか自分が」という一種の平和ボケのような感覚を有して今を生きている。

 

本当は、いつ、どこで、誰が、どんな悪意を爆発させようとしているとも知れないのに、だ。

 

 

そして、件のヘドロ個性のヴィランも一旦はとあるヒーローの活躍によって拘束されたかに思われたが……──

 

 

 

 

 

 

 

と、ここで話は切り替わる。

 

 

 

折寺の低層ビルが並ぶ街の一角を、まるで悪鬼羅刹の類いとでも見紛うかのような醜悪な顔で闊歩する少年がいた。

 

その風貌はさながら、今現在、ここ折寺で、どこまでも自己中心的な悪意を爆発させようとでもしているかのようであった。

 

 

「クソがぁ!!」 BOM!!

「「わっ」」

 

 

……訂正。文字通り、物理的に悪意を爆発させていた。

 

 

この少年、名を爆豪勝己という。

どこからどう見てもヴィランにしか見えない彼であるが、見た目で人を判断してはいけない。

 

彼は公立校の折寺中学校の3年生、成績優秀、運動神経抜群、日本有数の超難関校とされている雄英高校のヒーロー科を志望校としているエリート高校生で、自分以外のクラスメイトや面識のない同級生などを他人だったらとりあえず『モブ』と呼んで憚らず、自分がヒーローとなった暁に残す逸話として『公立校からの唯一の雄英進学者』という箔を着けたいがためだけに無個性の幼馴染みが自分と同じく雄英を志望していると知って激昂しそんな健気な幼馴染みの心をポッキリと折るべく様々な罵詈雑言を浴びせた挙げ句にその身に宿した強力な“個性”・『爆破』を使い幼馴染みが大切にしているノートを爆破し窓から投げ捨てた後に捨て台詞として『ヒーローになりたいなら来世に期待してワンチャンダイブ』と息を吐くように華麗な自殺教唆をかまして堂々と帰路に着く、という、覇道も王道も自ら無理やり手繰り寄せて熨して踏み潰して歩いていくスタイルの実に優良な少年なのである。なぜヴィラン認定されていないのか不思議なまである。

 

 

そんな勝己の後ろには、彼のクソの下水煮込み仕立てな性格に共感する所があるのか、あるいはただ単に虎の威を借りたいだけか、二人のクラスメイトが並んで歩いていた。

彼らはいつもに増して激しい今日の勝己の荒れように苦笑を溢しつつ、そんな彼を軽く茶化すように言った。

 

 

「お前らさぁ、幼馴染みなんじゃねえの?」

「さすがに今日のはやりすぎ」

 

 

しかしそんな苦言も何のその。勝己は一向に態度を改める気配もなく

 

「俺の道にいたのが悪い」

 

と言い放つ始末。

 

指摘した当の彼らも勝己がそんなことを気にするだなんて端から思ってもいないらしく「まぁそうなるわな」とでも言い出しそうな分かりきった表情で懐から取り出した煙草に火を付けようとする。

 

その間も勝己は爆発音を轟かせながら喋り続けた。

思い出すのは放課後のこと。いつも自分にビクビクして何も言い返せなかったはずの幼馴染みが、その時はどこか様子が違っていたのだ。

いや、もしかしたらその時だけでなく、或いはもっと前から、実は……

 

……どうでもいい。どちらにしろ──

 

 

「───ガキのまま夢見心地なバカはよぉ、見てて──」

 

 

 

腹が立つ、と続けようと掌に小さな爆発を起こしていた勝己。

だが、不意に声をかけられたことでその先の言葉は噛み殺すことになった。

 

 

「──ごめんください、映えある学生の青少年諸君」

「──……あん?」

「ヤッベ……って」

「なんだ、タメか」

 

 

突然現れた第三者。彼女が私服だったこともあり、一瞬大人に見られたかと思ってしまったのだろう。反射的に煙草を隠す素振りをしたが、相手が自分たちと同年代かそれ以下の少女であることを確認するとホッとしたようにため息を吐く腰巾着2名。

 

 

「『タメか』じゃねぇよ! お前ら煙草やめろっつったろ! バレたら俺の内申にまで火の粉飛ぶだろが!!」

「そうだね、未成年の喫煙はいかんよ」

「わ、悪かったって……」

 

 

暴論と正論のフルコースを味わい、たまらず煙草を懐に仕舞いなおす2人。

 

すると勝己はゆらりと不機嫌そうに少女の方へと顔を向ける。

 

 

「んで? 何の用だよ」

「いやね、君たちをここらの地理に詳しい通学生と見込んで聞きたいことがあるのだけれど」

「回りっくどいんだわモブが。 用があんならサクっと要件だけ伝えんかい!」

「モ? ……あ、ああ。そうだね、すまない」

 

 

日常会話ではおおよそ飛び出ることの少ないであろう単語に思わず面食らう少女であったが、すぐに気を取り直して肩にかけたナップサックからチラシのような物を取り出して勝己たちの目の前に広げた。

 

 

「ここにある折寺市民文化会館という建物の場所を確認したいのだけれど、慣れない土地でどうにも辿り着けなくてね。宿もその近くに取ってあるものだから困っていたんだよ」

「あ? ……期日は明後日じゃねぇかよ。あんな小せぇ建物でやる講演のためにどっから来たんだお前」

「うーん……一応隣町から来てるのだけど、少し事情があってね」

「なんじゃそりゃ」

 

 

チラシには『個性教育研究発表会』などという大仰な題目が記載されてはいたが、建物の広さからいってどれ程の規模の会合かはある程度察せられる。せいぜい地元の幾つかの組織のお偉いさんがお暇な講演をして終わりだろう。

そんな行事がために二日前から宿を取ってまで来る者など遠方の関係者くらいしかいないだろうに、事もあろうか彼女は隣町に住んでいるという。当日電車で来れば事足りるものを、なんと無駄の多いことか。そしてそんな無駄をするだけの「事情」というのも彼らには皆目見当も付かなかった。

 

 

「そんな訳で、申し訳ないのだけれどこの私にどうか道を教えてはくれないだろうか」

「……そもそも君さ、携帯持ってねぇの?」

「あいにく私の相棒は二つ折りタイプの年寄りでね。道案内だなんてとてもしてくれそうにないんだよ」

「うっわ、横のボタンで開くタイプ! うちの親父が昔使ってたやつだこれ!」

 

 

指が伸びる金髪学生の化石でも見たようなはしゃぎように少女も「そうそう、これが中々どうして画期的で」などと言いながら実際にボタンを押してパカッと開けて見せた。

待ち受け画面にしている低画質の画像を見て「マジもんだ」とケタケタ笑っている指の学生をよそに、勝己は少女に向かってぶっきらぼうに言う。

 

 

「てめーがどこに行きたいかなんて俺にゃ関係ねえんだよ。道案内が欲しかったらその辺の交番かヒーロー事務所にでも行ってろ」

 

 

勝己の言葉に、後ろのツンツン黒髪少年もまた「それもそうだな」と小声で呟きながら緊張感なく浅いあくびを洩らした。

 

心無いようにも思えるが、きっと彼らの言葉は正しいのだろう。急に縁も所縁もない他人から道を尋ねられても、答えなければいけないという義務はどこにも発生しない。あるとすれば断った時に少々良心が痛むという程度の可愛いものだ。むしろそんな罪悪感なんて毛ほども感じなさそうなこのチンピラ三人組のドンから代案という助言が出てきただけ今回は奇跡にも等しい例だろう。まあ、これは助言というよりも、迷子の少女という面倒事を公権力に押し付けてるだけなのだが。

 

しかし、その真意は必ず誰にでも伝わるとは限らないもので。

 

 

「そうか……。そうだね。確かにそっちの方が確実だった」

「いやまあ、確実っていうか……なぁ?」

「この子ヤベェって、ヤベェよww」

「いいから分かったんならとっとと失せろや!」

 

「うん、忙しいところを急に申し訳なかったね。ところで──」

 

「ああ? まだ何かあんのか!」

 

 

 

「──ここから最寄りの交番はどこだろうか?」

 

 

「「「………………」」」

 

 

 

振り出しに戻るとはまさにこのことか。

しかも言われてみれば不運なことに、この近くに分かりやすい交番は存在していなかった気がする。

 

何とも言えない表情で固まる三人を見て、その沈黙を少女はこれ以上の会話の拒否と受け取る。仕方ないので彼女は三人へと別れの挨拶をすることにした。

 

 

「すまない、どうやら君たちに甘えすぎてしまったらしい。後は自分の力でどうにかしてみるよ。ありがとう」

 

「お、おう……」

「……ヤベェって。あの子ぜってーヤベェって……」

 

「…………」

 

 

踵を返し、腕時計を見ながら「やっぱり駅からタクシーでも拾った方が賢明だったかな。今から戻って間に合うだろうか……」などとブツブツ呟いて遠ざかる少女と、それを何となしに見送る少年たち。

 

 

そして……どうやら、明日は空から槍でも降ってくるらしい。

 

 

 

「……おいクソ女!!」

「ク? ……って、あ、私のことかな?」

「テメー以外に誰がいんだボケ!!」

「か、勝己?」

 

 

勝己は眉間の皺をより深くして先ほどまで話していた少女を呼び止めていた。その形相に、さしもの同級生2人も思わず「ヒッ」と短い悲鳴を洩らしてしまう。

だがそんな恐ろしい顔で怒鳴られた少女本人はと言うと、特に何か怯えた様子を見せるでもなく、至って普通にその呼び掛けに答えた。半身で3人の方向へと向き直り、訝しげに首を傾ける。

 

 

「うん? どうしたのかな? 今度は君から私に何か用事でも出来たかい?」

「んなわけあるかい! テメェの要領の悪さにこっちはイラつかされてんだよ!!」

「……? 私が要領悪いというのは一先ずいいとして、それが君の精神に何か直接的に害を及ぼすとは考え難い。仮に何かを及ぼしたとしてそれは私の自覚の及ばない範囲の問題なので、申し訳ないがその問題の根本的解決を果たして君に詫びるのはとても今すぐに出来るようなことでは──」

「ダアァァァァめんッッッッどくせぇ!!」

 

 

先ほどから何となく勝己は思っていたが、少女の1人でブツブツと言葉を連ねる話し方は、どこか彼の気に入らない幼馴染みを彷彿とさせるのだ。そして、呼び止めたことで返された言葉はさらにそれをまざまざと見せつけられたようで、勝己は彼女を呼び止めたことに苛立ちを越えて最早後悔までしそうなレベルだった。

 

しかし、声をかけたまま何も言わずに「やっぱ何でもねぇ」と踵を返してしまったのでは格好がつかない。

そう。いつの時代も不良少年というのは吐いた唾を飲み込むことを良しとしない生き物なのだ。

 

 

「ここまで来て今から駅に戻るなんてどう考えてもバカのすることだろうがッ! 目障りだからしゃあなしに交番の場所言ってやるから有り難く耳の穴かっぽじってよく聞いとけこの方向音痴が!!」

 

 

そして何より。お忘れかもしれないが、一応爆豪勝己はオールマイトをリスペクトする、ヒーロー志望の男の子なのである。一応。

 

 

 

 

「そこの角バッって曲がって突き当たりそっち側に行けば大通りでそこガァーッて行きゃ何個目かのでっかい交差点のあっち側のビルの反対に交番が見えんだよ!! わかったかクソ方向音痴!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──え、なんて??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────静寂。

 

 

 

全ての時が凍りつき、そしてその凍結は急激な過加熱による爆発的状態変化を経て粉砕された。

 

 

 

「──……ッざけんなァァァァ!!!」

「ええ!?」

「うわぁ勝己ィ!!?」

「ア、アンタ逃げろ!! 爆破されるぞ!!」

 

 

ボフンバフンと両手を爆発させながら鬼のように目を吊り上げて大股歩きで肉薄してくる勝己。「殺気」という空想の産物とされるような第六感的雰囲気を物理的に捻り出す彼を見て、腰巾着たちは勝己から一目散に距離を取る。

ツンツン黒髪の方が辛うじて少女へと警告の言葉を発することができたが、それを聞いた当の彼女はその文句のシュールさに「いや、爆破されるぞって言われても…」とどこか他人事のように遠い目をして笑っていた。指が伸びる方の少年は「あ、あいつら終わったな」と一周回って冷静になって、勝己がついにヴィランになるのか~と達観したように携帯電話へと手を伸ばして通報の準備をしていた。

 

勝己が次に訝しげに笑う少女へと意味のある言葉を発したのは、少年が携帯電話に110の番号を入力し、いつでも発信できる状態にし終えたのとほとんど同時のことであった。

 

 

「んだその返事は!? 今の俺の声量で聞こえなかったとは言わせねぇぞゴラ!!」

「え? ああ、うん。それは勿論。とても大きくて聞き取りやすい声だったとも。……だがしかし……」

「アァン!?」

「……しかし、教えてもらった身でこんなことを言うのは憚られるが……君の説明は、その……お世辞にも分かりやすいとは言い難いものだったよ」

「俺の案内が悪かったって言いてぇのかテメェ!!」

「……そういうことになるかな?」

 

 

どこか笑いを堪えているような仕草している少女。そんな彼女の言葉に、ただでさえ手から爆発を起こしているにも関わらず、さらに口から火まで出しそうなほどに逆上する勝己。目とかもうどうなってるのかわからない。ヴィランを通り越してモンスターにまでなりつつある気がする。

勝己はそんな怒りを自らの後頭部を豪快に掻くことでどうにか抑え、次の言葉を続ける。

 

 

「上等じゃねえかよこのクソ方向音痴女!! こうなったらもう交番までとかしゃらくせぇこと言わねぇで会館までの道を教え尽くしてやんよクソがぁ!!」

「うん……? それは直接私を連れて行ってくれるということかい?」

「誰がテメェなんぞのためにそこまでしてやるかよ!! 口頭でに決まってんだろが!!」

「口頭……。……いや、気持ちはとても嬉しいのだけれど、今回は遠慮しておくよ……ありがとう」

「クソモブのクセして口頭って聞いてあからさまに引いてんじゃねぇぞゴラァ!!」

「あはは……参ったなぁ」

「聞こえてんだよ!! クソッ、いいかよく聞け、まずはそっちの──」

 

 

まさに鬼の形相で道案内をする勝己と、それを迷惑そうにしながらも何とか理解しようと眉毛を曲げて話を聞く少女。しかし少女は勝己のそんな頭に血が上った説明ではやはりとても理解できそうにもなく、左手首につけた腕時計をチラチラと確認するようになる。そんな彼女の態度に勝己は余計に腹を立て、またまた振り出しに戻ったように同じ話を繰り返す。

 

 

「「…………」」

 

 

そんな二人の会話を聞いて、腰巾着たちは顔を見合わせた。自分たちが想像していた光景と遥かにかけ離れたある種コントのような応酬に、呆れたような肩透かしをくらったような実に微妙な気分にさせられたのだ。

 

 

「──だ!! どうだ! 今度こそわかっただろクソ女!!」

「…………ありがとう! 君の説明の雰囲気が何となくいい感じのヒントになりそうだ。本当にありがとう! というわけでもう案内は十分──」

「ふわふわしたこと言って逃げんじゃねぇ殺すぞ!! テメェが完全に理解するまで教え殺してやるから覚悟しやがれ!!!」

「教え殺す……?」

「うるせぇ黙ってろ殺すぞ!!」

「ああ、ごめんごめん……。……もう勘弁してくれ……」

「だから聞こえとるっつってんじゃろがい!!」

 

 

「「……プッ」」

 

 

腰巾着たちが何かを吹き出しかけた。しかしそれを吐ききってしまえば自分たちの命が危ぶまれる。しかしこれはあまりに──

 

腰巾着たちの中に葛藤が訪れる。それもそうだろう。学校生活で普段から誰よりも上に立ってきた男が、あんなどこにでもいそうな少女に激昂した結果やることが道案内ときたものなのだから。

 

しかし彼らは賢い。

決して短くない付き合いから、もし今この欲求のままに口を開いてしまえば間違いなく彼の怒りはこちらに矛先を変えることだろうと。

故に、彼らはそれに平静を保つことで対抗する。

 

 

「──あと、『殺す』だなんて言葉は軽々しく使うものではないよ。最低限の言葉遣いは気を付けた方がいい」

「知るかッ!! じゃあテメェが勝手に死ねッ!!!」

「だから、そういう所だよ」

 

 

 

「……ッグフ、クッ……ハハハハハハ!!」

「ブッ、ギャハハハハハハハハ!!」

 

 

彼らは賢い。

しかしそれと笑いを堪えられるかは無関係だ。

彼らは止めを刺されたように堰を切って笑い転げ始めた。

 

まるで子が反抗期になった時の親子のような会話。笑ってしまった彼らはきっと悪くないのだろう。まあその後の命は保証できないが。

 

 

「テメェらはテメェらであに笑ってんだ!! アァ!?」 BOM!!

「「ヒッ」」

 

 

結果、勝己がそんな大きな笑い声を聞き逃すはずも、それが誰に向けられたものなのかを理解できないはずもなく。案の定その怒りは腰巾着たちへとベクトルを変えることとなってしまった。

勝己は彼らに向き直り、もう何度目かの爆発による威嚇行為を行った。

 

いつの時代も不良少年とはナメられたら生きていけない生き物だ。当選、自分の下僕程度にすら思っていないモブ2人に笑われたとあっては勝己も黙っていられない。爆発威嚇だけでは足りないと判断した彼は、再びズカズカと来た道を戻っていき、

 

 

勝己が少女と少年たちの間にある裏路地に続く角を通りすぎたその時────

 

 

 

 

 

「「あっ……」」

 

 

 

 

 

勝己を除いたその場の三人は───路地裏から勝己を覗く、巨大な不定形の生物を目の当たりにすることとなった────。

 

 

 

「お、おい……!」

「うしうしっ、うし、うしろッ……!」

「テメェらただじゃおかね──あ?」

 

 

 

『──良い“個性”の隠れミノ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、折寺市ではヴィランによる大きな事件が立て続けに2つ起こっていた。

 

朝の通勤時間。巨大化の“個性”を持つヴィランが引ったくりを働き、ヒーローに追い詰めらてどうしようもなくなり苦肉の策でとでも言うべきかその“個性”を発動させてしまい、線路上で暴れ回るという暴挙に出た事件。

 

そしてその朝の騒動に乗じるような形で、多くの学校が下校時刻としている時間帯に発生したのがヘドロのような流動体になる“個性”のヴィランによる強盗事件。

 

 

前者のヴィランはその日デビューの新人ヒーローの華々しい門出を飾るための踏み台となって終わり、そして後者のヘドロ個性のヴィランも、一旦はとあるヒーローの活躍によって拘束されたかに思われたが……そのヒーローと1人のファンとの間にあったやり取りをきっかけに、知らずのうちに脱走されてしまっていた。

 

そのヴィランは脱走して早々に己をペットボトルに詰めたヒーローに復讐すべく、一般人の体を乗っ取ろうとし……そこから悪夢が始まった。

 

 

ヴィランの体が流動的でなかなか相性の合う“個性”を持つヒーローが現場に集まらなかったのもある。

その上ヴィランが乗っ取ろうとしている一般人が人質となって、ヴィラン本体へ攻撃しにくくしているのもあった。

 

だが、それだけならばここまでの惨状は生まれなかっただろう。

 

現場には小規模ながらもなぜか爆煙が立ち上ぼり、そこまで被害は広がってはいないが軽い小火騒ぎにまでなっている。古い建造物は壁が焦げて砕け散り、その爆発の侮れない凶悪な破壊力を如実に表していた。

 

 

ヴィランが仲間を呼んだとも取れる状況であるが、決してそんな事実はない。

何故なら────

 

 

「離せェェェェェ!! いいからさっさと離しやがれクソがァァァァ!!!」

「お、落ち着けおま…ってアッチ!」

 

 

 

────ただでさえ難しい現場をさらに荒らしていたのは、ただの男子中学生に過ぎなかったのだから──。

 

 

 

「離せェ! あのクソ女、モブのクセして……俺を……この俺をォッッ……!!」

「だから、いい加減落ち着けって!! これ以上やるようなら学生だろうと個性の無断使用でお前までヴィランとして確保しなきゃならなく……いってぇ!?」

 

 

増強型の“個性”と思われる大男のヒーローが暴れる少年──もとい、我らが爆豪勝己君をなんとか取り押さえようとしているが、その度に爆発や中学生らしからぬフィジカルでそのヒーローを翻弄している。なんとも面倒な状況であった。

 

 

「私二車線以上じゃなきゃムリぃ~!」

 

 

朝の事件の手柄を横取り……もとい、解決に導いた新人ヒーローもその体の大きさから参戦できず、

 

 

「爆炎系は我の苦手とするところ! 今回は他に譲ってやろう!」

 

 

体を樹木のように変化させて操作できる“個性”のヒーローはその特性上爆心地に近づくことが難しいらしく、巻き込まれた一般人の救出に注力しており、

 

 

「そりゃサンキュー! 消火で手一杯だよ! 状況どーなってんの!?」

 

 

水を操る“個性”のヒーローは、救急車が来るまでに少しでも火の手が広がらないように消火活動に勤しんでおり、

 

 

「ヴィランはベトベトで掴めねぇし人質まで取られている! 苦しそうに抵抗しているからどんな酷いことされているか分かったもんじゃねぇ! しかも人質のボーイフレンドがご覧の通り我を忘れて暴走中!! おかげで地雷源だ! 三重で手が出しづれぇ状況!!」

「誰がボーイフレンドじゃァ!!」

「そのへんはどうでもいいだろ!」

 

 

他のヒーローたちもそんな最悪な状況からか、なかなか飛び込みあぐねて苦い顔をする他なくなっていた。

 

そんな中、大男のプロヒーローに組み付かれている勝己は奥歯をギリリと鳴らし、ヴィランと少女の元へとどうにか辿り着こうと暴れていた。

 

 

(冗談じゃねぇ……! この俺があんなモブに庇われて助かりましたってか!?)

 

「──ナメんな!!!」

「まだやるかこいつ!!」

 

 

そう。あの時勝己たちの元に現れたヴィランは最初、明らかに『爆破』という強力な“個性”を持つ勝己の体を狙って襲いかかっていた。あのままであればまず間違いなく、ヴィランに捕らわれていたのは勝己の方であっただろう。

しかしそうならなかったのは勝己がヴィランに取り込まれる直前、少女が勝己を突飛ばして場所を無理やり入れ替わったからだった。

 

ヒーローに復讐したかったヴィランとしては“個性”すら把握できていない少女を間違えて捕らえてしまったのは明らかな痛手であったことだろう。しかし近場にいた学生がなぜか準備でもしていたかのように即座に通報を入れていた上に、直後から本来自分が狙っていた少年が素早く攻撃に移ってきたりなどもあって踏んだり蹴ったりだった。そんな様々な状況から、やむを得ずこの少女を人質兼新たな隠れミノとして1秒でも早く彼女と同化することをヴィランは選んだのだ。

 

 

他の者なら、もし勝己と同じ立場であれば少女に思わず感謝してしまいそうなこの状況でしかし、プライドの塊のような男である勝己はその心を荒立てていた。

 

 

「ふざけんなよ……! 誰も助けてくれだなんて頼んだ覚えはねぇぞッ……! ぜってー許さねェ!!」

 

 

余計な恩を着るつもりなどさらさらない。自分を勝手に助けて勝手に被害を被ったのなら、こちらも勝手に助け返してさらに上乗せで恩を売り付けてやる。

今の勝己の頭の中は偏にそれだけだった。

 

それが許されないことだというのもわかっていた。下手をすれば内申書に傷が付くどころの話では済まなくなるかもしれない。

それでもなお、自分がただのモブに助けられっぱなしだなんてことは、決して許せることではないのだ。

 

だが、現実はそう上手くいくものではなく。

 

 

「──加勢に来た! とりあえずその小僧を取り押さえんことには始まらん! 俺に任せろ!!」

「すまねぇ助かった!」

「少し頭冷やせ、小僧」

「なっ!? ……ってぇ……!」

 

 

捕縛に有利な“個性”のヒーローが加勢に駆けつけ、本格的にヴィランになりかけている勝己を地面に叩き伏せた。

粘着性のある布のような何かで簀巻きにされた勝己は腕の自由まで利かなくなり、とうとうその“個性”も封じられることとなった。

 

 

「クソッ……! 解きやがれ!!」

「よし、一先ずやんちゃな火種は鎮圧できたぞ! あとは誰か有利な“個性”が来るのを待つだけだ!」

「それまで被害を最小限におさえよう! なに、すぐに誰か来るさ! あの子には悪いがもう少し耐えてもらおう!」

 

 

ヒーローたちとしては心苦しい方針かもしれないが、他にやりようがなかった。ヘドロヴィランは掴めないだけでなく本体の攻撃力も存外馬鹿にできず、さらに流動的なだけにこちらから攻撃しても少女のように取り込まれ、人質が増える結果に終わる可能性すら否定できなかった。

先ほどまで勝己と取っ組み合っていた大男のヒーローは「吹き飛ばせるようなパワーがあれば」と拳を握って己の無力を悔しがる。

 

その時、あるヒーローがあることに気づいて声を上げた。

 

 

「いや……おいマズいぞ、人質の抵抗が無くなった!!」

「「「「!!?」」」」

 

 

見れば、どうやらヘドロの中の少女は意識こそまだ手放してはいないようだが、明らかに疲弊した様子で脱力していた。ただ疲れただけならいいが、ヴィランの“個性”の詳細を知らないヒーロー側からすればそれが何を意味するのか全く想像がつかない。

ヒーローたち全員に、「最悪の事態」が脳裏を過る。

 

そしてそれは、勝己も同じで。

 

 

「──俺がッ……! 俺がやるんだよ……!!」

「気持ちはわかる! けどここはお前の出る幕じゃ……」

「そういうんじゃねぇ!! あいつはなぁ、単なる石っころにも及ばねぇようなモブなんだよ!!」

「おい……!」

 

 

勝己を捕縛する物体がギシギシと音を立てるが、それだけだ。勝己がそこから自力で脱出する未来なんてお世辞にも見えてこない。

それでも勝己は身動ぎをやめない。

 

 

「そんなパッと出の道音痴なモブはなぁ、せいぜい俺に道を聞いて感謝して消えてくぐれぇが丁度いいんだよ!! 間違っても俺を助けるなんて番狂わせはあり得ねぇんだ!!!」

「……もういい、やめておけ」

 

 

勝己を包む物体の中で爆発音が響くが、それが何か効果を果たしたようにはとても見えない。むしろその反動を受けた勝己本人の方がダメージが大きそうだった。

 

 

「俺がッ……助けるんだよ……! 俺が……ッ! 助けてッ……!!」

 

 

『「──ハハハハハハハハ!!」』

 

 

「なんだ!? ヴィランが人質の声帯を使って……笑った……!?」

 

「俺が、助けてッ…………!」

 

 

勝己が必死の抵抗をする中、ヴィランは突然奇妙な笑い声を上げた。

それは先ほどまでヒーローたちを煽っていた野太いそれとは打って変わった、さながら少女がタールでうがいでもしながら発した笑いのような、甲高くも濁った不気味な声だった。

 

 

「おい、まだ有利な“個性”持ちは来ないのか!?」

「もう行くぞ!! 俺はもう飛び込むぞ!!」

「待て! 早まるな!!」

 

「助けて……!」

 

『「──ゴボッ」』

 

 

笑い声が途切れた途端、少女の周囲にあるヘドロがその体積を一回りほど減らした。無論それは事態の好転ではなく、恐らくはその逆。減った分の体積が少女の中に取り込まれたということだろう。ヒーローたちに不安が募っていく。

 

 

「たす、けて……────!」

 

 

万事休すか。

誰もがそう思った、その時────

 

 

 

 

 

「馬鹿ヤローーー!! 止まれ! 止まれ!!」

 

 

 

 

 

小心者な『ヒーロー』が、少女に向かって駆け出した──。

 

 

 

 

『あのガキ!』

「デク!?」

 

 

 

無謀にも飛び出てきたのは、勝己がよく知る幼馴染み。クソナードで木偶の坊の、緑谷出久。

 

そして彼と関わりがあるのは勝己だけでなく、実はこのヴィランと、それに──

 

 

『殺す』

「ヒッ……!」

 

 

 

ヴィランが出久に不定形の腕で掴みにかかる。しかし出久はヴィランの顔面に向かって鞄を投げつけることで視界を狂わせてそれを避けた。

 

 

「しぇい!!」

『グッ』

 

 

出久はヴィランの懐に潜り込み、必死に少女の顔周辺のヘドロを掻きむしっていく。

ほとんど無力に思われたその鞄アタックとヘドロバシャバシャが少しは効いたのか、暫しすると少女の「ガハッ」という息継ぎの音が聞こえてきた。

 

 

「何で、テメェが……!!」

 

 

一方勝己はと言うと、再びこれでもかというほどに目を吊り上げて出久を睨み付けていた。

 

 

言いたいことは山とあった。しかし一番は『自分がどんなに足掻いても辿り着けなかったそこに、なぜ“無個性”のザコが立っているのか』ということ。

そして、

 

例えそんなザコであろうと、少女を助けに入った人がいることにどこか安心してしまった自分がいることに気づいてしまったこと。

 

 

「………………ッッ……!!」

 

 

しかしそんな勝己の思案をよそに、少女と出久は話し始める。

 

 

「ぶはっ! ゲホッ、ゴホッ!」

「大丈夫!? 僕のこと分かるかな!?」

「ええっと……。君、誰だったかな……?」

「……! えっと、僕は緑谷出久!!」

「あー……覚えてるような気が…しなくも……」

「緑谷出久!! 図書館! ヒーローのノート!!」

「……ああ、緑谷君か。そうか、そうか……」

 

 

苦し気な顔に、ヘラっと朗らかな笑みを浮かべた少女。恐らくは出久を気遣っての強がりだろう。

しかしその顔に出久は、少女がまだ簡単な会話と笑顔を作ることが出来る程度の体力が残っていることに安堵した。

 

 

「また会おうとは言ってくれたが……よりにもよってこんな時に来られるとは思ってもみなかったよ。……来てしまったんだね、緑谷君……。何で……」

「足が勝手に!! 何でって! ……分かんないけど────」

 

 

自分でも何を考えているのか分からないようなぐちゃぐちゃな表情。

とても人を助ける側の人間の顔には見えないそれを、出久は作り変えた。

 

迷い、恐怖、罪悪感。様々な物が彼の背にのし掛かっていただろう。

しかしそれらを全てひっくるめて、出久は笑った。

ニカッと笑った。

 

笑顔で全部助けちゃう、オールマイトみたいに。

 

 

「かっちゃんが、助けを求める顔をしていた! そして、君の───君の名前を、まだ聞いてなかったから!!」

 

 

その瞬間、出久はこの場で、誰よりも“ヒーロー”であった。

 

 

 

「──……ああ、あの日の馬鹿な私が、名前を告げなかったばっかりに……君に…ゲホッゲホッ!」

「いいから! もう喋らないで!!」

 

 

出久は頻りに手をバシャバシャと動かしてヘドロを削ろうとするが、少し横に移動したりするだけで一向に少女を出すには至らない。当然だ。“無個性”の出久にできるのなら、プロヒーローがとっくにやっているはずだ。

そこで、怯んでいたヴィランが出久に再び腕を伸ばした。今度こそさっきのようなラッキーパンチはあり得ない。避けることは不可能だろう。

 

 

『邪魔するなぁ!!』

「無駄死にだ! 自殺志願か!!」

 

 

出久に悪の手が迫り来る。

その手に掴まれれば、出久に待ち受けている運命は一体どのようなものだろうか。

単純に殴られるのか。それとも窒息させられるのか。或いはヘドロの比重を変えて圧死させられるのか。

 

嫌なヴィジョンがその場の者たちの脳裏に浮かび、そして──

 

 

 

 

 

 

「君を諭しておいて……己が実践しないなんて!!」

 

 

 

 

現れたのは、平和の象徴。

オールマイトが、目にも留まらぬ神速で駆けつけてきた──。

 

 

 

 

 

「プロはいつだって命懸け!!!」

 

 

 

 

 

拳を振りかぶる。

その拳こそ、勝利の女神の祝福を受けた渾身の一振り。

 

 

 

 

 

「DETROIT────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────!?」

 

 

 

 

 

────SMASH。

 

 

そう続くはずの掛け声が、不自然に途切れた。

 

 

何故なら、ヴィランの出久を狙う腕が、急に力なく垂れ下がり──

 

 

 

 

 

「────ゴボボファッ」

 

 

 

 

少女が口からヴィランのヘドロを大量に吐き出しながら、オールマイトの方へつんのめるように倒れてきたからだ。

 

 

 

「!───SMASH!」

 

 

 

しかし罠の可能性も放棄できないオールマイトは少女の体を受け止め、かつなお他の技に比べて比較的威力の低いパンチの風圧でヴィランのヘドロを彼女から振り払った。

 

折寺の裏路地に、小さな突風が吹き込む。

 

 

 

 

「す、すげぇ、本物のオールマイトだ!」

「今の風、オールマイトのパンチの風圧かよ!?」

「うおぉオールマイトォォ!!」

 

 

 

野次馬たちがナンバーワンヒーローの登場に興奮する中、当のオールマイトの表情は晴れない。いつもなら敵を倒したらファンサービスも怠らない彼なのだが……

 

 

「あ、あの、オールマイト……その人は……?」

 

 

出久が真っ先に少女の安否について問うた。

オールマイトは何も言わずに少女の首筋へと指を当て──

 

 

 

「──関係者以外をここから遠ざけてくれ!」

「え、」

 

 

出久がその言葉の真意を問う前に、既にそれを聞いていたヒーローたちは動き出していた。

一般人たちを押し退け距離を開けたら、体を樹木にするヒーローが腕を伸ばして壁となった。

 

 

「え、何!?」

「これシンリンカムイのだよな?」

「おいこれじゃ何も見えないぞ?」

「ちょっと! 我々には報道の自由が」

「オールマイトォォォ!」

 

 

野次馬やいつの間にか駆けつけていた報道陣たちのブーイングにも似た困惑の声が通りに響き渡るが、その壁の向こうのヒーローたちの空間には、鉛のように重たい空気が漂っていた。

 

 

「……救急隊員を連れて来ました」

「……わかった。この子は私が担架に乗せよう」

 

「……い、一体何が……?」

 

 

担架を持った隊員たちを見て、支えていた少女の肩と腰に手を回して抱え上げようとするオールマイト。少女の顔はオールマイトの肩に隠れ、オールマイト自身の顔も出久からの角度では見ることができなかった。

出久は混乱する。ヒーローたちが何を話しているのか全く理解できなかったのだ。

 

或いは、理解したくなかった、と言った方が正確か。

 

 

立ったまま何も出来ずに固まる出久とは反対に、何かを確かめるようにオールマイトの方へと歩き始める者がいた。

 

 

「───おい」

 

 

爆豪勝己の声だった。

彼を捕縛していたヒーローは、彼が抵抗をゆるめていたことからもう大丈夫だと判断し、オールマイトの呼びかけに応じる方を優先して勝己を解放していたのだ。

 

 

「───……」

「む? 君は……」

 

 

平時からは想像もできないようなふらついた足取りで歩く勝己。

取り乱した学生として手加減されていたとはいえプロヒーローと相見え、捕縛されてなお抵抗し続けたのだ。タフさに自信のある流石の彼であっても、もうしばらくは疲労がこたえて不思議はない。

 

だが彼は、そんなのは知ったことかとでも言い出しそうな様子で、揺れる足元を無視してオールマイトへと詰め寄った。

 

 

「オールマイト……そいつは今どうなってる」

「……私はこの子を担架に乗せて救急車に運ばせなければならないんだ。どいてくれ、少年」

「────ッ」

 

 

ギリッと奥歯を噛み締める音がした。

目を見開いた勝己は、オールマイトから受けた願いを真っ向無視して、彼の腕──の中にいる少女──めがけて掴みかかり揺さぶった。

 

 

「ふざけんな!! ふざけんな!!! おいテメェ、起きろやゴラ!!」

「おいお前! 何してるんだ!!」

「なんもねぇ、ただそのクソ女殴ってやるだけだよ!! おい目ぇ覚ませ方向音痴!!!」

「ゲホッ──しまっ……!」

 

 

勝己の再びの暴挙に他のヒーローが止めに入るが、勝己に揺さぶられていたオールマイトが何故か突然咳き込んで少女を抱える腕をゆるめてしまう。

支える力が無くなった少女の体は重力のままにオールマイトの胸板を滑り落ち、アスファルトの上に落下する……かという直前に、オールマイトが再び支えることで難を逃れた。

 

 

たが、最も────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

「………………うっぷ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その少女は、もうとても生きているようには見えなかったのだが。

 

 

 

 

少女の目と舌は本来あるべき場所を飛び出し、赤黒い体液と暗い緑色のヘドロが混ざりあった粘液が至るところに付着し、その不気味なほどに青白くなった肌を物々しく染めていた。

惨い。その一言に尽きた。

 

 

 

 

「オールマイト、こちらへ」

「……ああ、すまない。…………頼んだよ」

「心肺停止。急ぎ病院に運ぼう」

 

 

 

 

 

 

静かに担架へと移された少女は、そのまま救急隊員たちによって救急車へと運び込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「………ッ、……ッ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救急車のドアが閉められ、車両はサイレンを鳴らしながらゆっくりと消えていった。

 

 

 

 

二人の少年が、その様を何も言わずにただ見続けていた────。

 

 

 

 

 





前回しばらくオリ主さんはデク君とは会わせないつもりでそんな感じの描写しちゃってたけどそんなことなかったよすぐに再会できたよよかったねデク君!

原作との相違点?
後半かっちゃんがなんか熱血っぽくなってたとこくらいじゃないですか?(鼻ほじ)

これからどうするか何にも考えてないです……。助けて下さい
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