最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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【あらすじ】

 勉強しに行ったのに教育プログラムが崩壊していた。原因はさまざまあるようだが、このままではカメリアの治安がさらに悪化してロクなことにならない。

 そんな最中、魔理沙は個性研究センターから呼び出しをくらった。この施設では月に二回健康診断を行うそうなので、そういうことだろう。
 この施設のことについて聞くのに丁度いい機会だったので、魔理沙は健康診断を受けるべく4層個性研究センターに出向いた。



個性・魔法・異能力(4.500話)

 

 

 おじいちゃんの誘導により、魔理沙は個性を計測するための部屋に案内された。

 部屋の外壁はまさにブラックボックスと言わんばかりに黒かったが、中に入ると鮮やかな青色と縦横のホワイトラインが交差していて、試験用バーチャル空間のような雰囲気が漂っている。

 部屋の大きさとしてはかなり広く、体感縦横50m、高さは80mくらいだろうか。天井がまあまあ遠い。

 

「どうじゃ、苦しくないか?」

 

「全然OK」

 

「ならばよし」

 

 老人は試験空間内の設定をチェックした後、電子パッドを操作して魔理沙の右腕に着けているリストバンドに信号を送った。

 

「今君の腕輪に停止信号を送ったから、異能を使っても痺れはせんよ」

 

 おじちゃんの粋な計らいに感謝しかけた魔理沙だが、途中であることに気づいた。

 

(……痺れたことあったっけ?)

 

 魔理沙はリストバンドを付けてからも普通に能力を行使している。例えば訓練の時に使用した属性魔法や、情報を引き出すために使用した洗脳能力、そして屈強な男たちから逃げるために使用した無意識を操る程度の能力、どの場面においても痺れたことは1度足りとも存在しない。

 

(あぁ…………"個性"と"魔法"は違うのか)

 

 この世界における異能とは"個性"のことを指し、魔法や他の能力とは全く別系統の力。能力発動の仕組み自体が根本的に異なるのである。

 なので魔理沙が魔法や他の異能力を使っても、リストバンドは"個性"しか検知しないので引っかかることは無い。

 

「じゃ、さっそく異能を使ってもらいたいが、その前に一つ確認事項がある」

 

「マリサ・ケツイ、君の異能は『魔法』で合っているかい?」

 

「……あぁ」

 

「君の魔法はあらゆる自然現象を手の上で再現できる、で合っているかの?」

 

「合ってるが違う。自然現象の他にも、時間や空間、概念、常識、心、その他全てに干渉することが出来る」

 

「これは嘘ではないのか」

 

「……それは、"魔法"の範疇を超えてないか?」

 

「出来ないことが出来るから、"魔法"でしょ?」

 

「……そうか」

 

 老人は少し考え、再び魔理沙に質問する。

 

「マリサ……君が扱う魔法の中に、身体能力を向上させる魔法はあるか?」

 

「あるよ」

 

「具体的にどういう機能が向上するか教えてもらえるか?」

 

「筋肉増強、皮膚の硬質化、跳躍力上昇、翼の獲得、鱗の獲得、全身の形態を一から構築し直す魔法、再生能力、細胞の劣化防止、毒に対する耐性、火傷に対する耐性、傷に対する耐性、その他もろもろ」

 

「……多くない?」

 

「私もそう思う」

 

 初めて意見が一致したかもしれない。

 

「……分かった。ではマリサには、『耐久試験』と『能力試験』の両方をやってもらおうかの。まずは『耐久試験』からじゃ」

 

 おじちゃんがとあるボタンを押すと、魔理沙の体重がガクンと重くなった。

 

「重……ッ!!」

 

「今その部屋の中の重力は通常の約1.5倍になっておる。ここからドンドン荷重するから、魔法を使ってどれほど軽減できるか試してみぃ。キツかったら叫ぶんじゃぞ」

 

「じゃ、ポチ」

 

 じいちゃんが起動したことで部屋の中の重力が徐々に強くなり、4歳の筋肉ではとても支えきれないほどの重さがのしかかる。

 

 

 

 

「グラビトンッ!!」

 

 全身が淡い紫色に輝き、未知のエネルギーが体中を駆け巡る。重力は地球が持つ引力と地球の自転によって発生する遠心力を足したものだが、重力を操作する際は引力や遠心力には干渉せず、『グラヴィトニウム』を操作する。

 グラヴィトニウムは重力に干渉する素粒子的存在であり、これを操作することで重力の影響を大幅に軽減することができる。今この部屋はあの爺ちゃんのおかげで部屋全体に200Gほどの負荷が全身に掛かっているが、負荷の上昇に合わせて調整しているので、潰れることは一切ない。

 

「……エネルギー上昇に反比例して負荷が軽減されている。バイタルを見ても体重にほぼ変化はなく、血液循環も問題ない……」

 

「よし、もう楽にしていいぞ」

 

 重力装置のスイッチが切られた瞬間、重力操作で軽くしていた分だけ自身の内蔵が無理やり下から持ち上げられ、地面から足が離れ始める。

 魔理沙は慌てて能力を解除したことで事なきを得たが、ちょっと危なかった。やはり初めて使う能力は慎重に行くべきか。

 魔理沙は左右の腕を交互にクロスしながら、少し凝り固まった筋肉を軽く解す。

 

「……なるほど。では次に刺突攻撃への耐性および回避能力の向上を計る。全方位から金属製の槍が時速160kmで飛んでくるから、魔法を使って弾くか回避するじゃ」

 

「…………待って時速160k」

 

「スタート」

 

 落ち着く間もなく試験空間内の内壁に無数の射出口が展開され、本物の金属製の槍がランダムに射出される。

 弾くか避けるか、その選択に迷っている暇もなく、魔理沙は反射的に背後から飛んできた槍を避けた。

 

 

 

「変身」

 

 魔理沙の肉体がかつてないほどに膨張し、全身の皮膚が分厚い鱗で覆われ、黒く染まった無数の棘が全身にびっしりと生えそろう。そして2本の捻じれた太い角と漆黒の翼が展開し、魔理沙は正真正銘の怪物へと変化した。

 

「凄い……! 凄いぞマリサくん! 君の魔法は最高にイカレている!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 全長約20mの巨体からは想像できないスピードで、飛んできた2本の槍を前足でガッチリと鷲掴みし、そのままへし折ってしまった。だが槍はまだまだ射出され、今度は全方向から4本の槍が同時に射出される。

 魔理沙は先程と同様に2本の槍は捕まえられたものの、残り2本の槍は顔面と翼に直撃してしまった。だが、圧倒的防御力を誇る古龍の皮膚の前では傷1つ付けられず、逆に金属部分が砕けて宙を舞う。

 

 初めての変身と究極の暴力に酔いしれる魔理沙。このまま暴力に身を委ねてもいい気がしてきたが、何度も槍が時速160kmでケツや背中など前足が届かない位置に衝撃が来るので、痛くは無いが鬱陶しいことこの上ない。

 

「……いや待て」

 

 老人が大興奮している最中、少し考えた魔理沙は変身を解除し、元の姿へと戻ってしまった。

 

「スマブラ版マホカンタ」

 

 魔理沙が呪文を唱えると、今度は魔理沙の全身に紫色に光る魔法陣が展開された。その後、魔理沙は槍のことなど一切気にせずに地面に寝っ転がり、惰眠を貪り始めた。

 命を放棄したのかと、そう思われかねないが全く問題ない。スマブラ版マホカンタは原作と違い、"飛び道具"なら何でも反射できるので当然槍も反射されてしまう。

 案の定飛んできた槍は全て反射され、試験空間の内壁に全て突き刺さった。

 

「変形以外にも物理法則に反した力まで……! これは凄い、連中がビビッてここに収容したのも頷ける」

 

「よし、次で最後の耐久テスト。今から君に特殊な電波を送って精神に揺さぶりをかける。しばらくの間、耐えてもらうよ」

 

 そういって老人はスイッチを押し、特殊な電波を空間全体に照射した。

 

「……別に何とも…………あ」

 

 じわじわと何か、不快な感情が心の奥底から湧き上がるのを感じる。次第に胸がチクチクと痛み始め、呼吸が浅くなり、頭の中が窮屈になっていくような、心地いいようで気持ち悪い感覚が全身に襲いかかった。

 

(死にたい)

 

 急にそのワードだけが頭の中に浮かび上がり、流石にマズイと感じた魔理沙は一旦時を止めた。

 

 

 

「……危ない。あやうく自殺するところだった」

 

 時を止めたことで電波も停止し、魔理沙は次第に落ち着き始めた。

 

「今更だけど、これどう考えても人体実験だよな。しかもかなりアウト寄りの」

 

 すんなり乗り越えてきたせいで気付かなかったが、槍も重力も精神汚染も全部ライン越えだ。倫理観が欠如している。

 

「……この世界の刑務所、ヤべェな」

 

 とんでもない世界に足を踏み入れたことを自覚しつつ、取り敢えず精神汚染耐性に関する能力を頭の中から頑張って引っ張り出す。

 

「これだな」

 

 

心理掌握(メンタルアウト)

 

 本日2度目の心理掌握。なお今回は自分を対象にしているため、前にやった時とはまた別の感覚で楽しい。

 やっていることは前と特に変わらなくてムカつくが、人の数億倍能力がつまっているのでめちゃくちゃ慎重に操作する必要があって虚しい。ヤバいさっきから手振れが激しくて感情がくぁwせdrftgyふじこlp

 

 笑ったり泣いたりとコロコロ表情が変化する魔理沙を見つつも、老人は真剣な表情でデータをチェックする。

 

「大脳皮質への干渉、通常では有り得ない脳波の変化……あの様子だとまだ不慣れなようだが、自分の精神状態を操作できるとは…………」

 

「この子なら」

 

「……よし耐久試験は終了! しばらく休憩じゃ」

 

「ほれ、飲み物差し入れちゃる」

 

 爺さんは水入りのペットボトルを差し出し用口にセットしてボタンを押すと、試験空間内の内壁に再び射出口が展開され、ペットボトルが発射された。

 

「あひん」

 

 なお、魔理沙は先程の心理掌握で精神が乱れたため、射出されたペットボトルに反応出来ずそのまま頭に直撃した。

 

「……ありが、ンクス」

 

「マリサ、今の魔法は精神を操作する魔法じゃな? かなり不慣れに見えるが、大丈夫か?」

 

「……あぁ、うん。大丈夫。ホント、強過ぎる能……魔法は制御が難しくて、試行回数を繰り返さないと制御出来ない」

 

 魔理沙は朧気ながらゆっくりとペットボトルの蓋を外し、水を飲み始めた。

 

「……そういえば、じいちゃんは何て名前なの? 昔からここで働いているの?」

 

 

 

「アレ、言ってなかった? じゃ、改めて自己紹介するかの」

 

「ワシの名前は殻木勝真(がらき かつま)。皆からはドクター殻木と呼ばれとる」

 

「殻木……?」

 

 妙に引っかかる名前だが、よく思い出せな。

 

「不思議に思ったじゃろ? 実はワシも日本出身なんじゃよ」

 

「……ああ日本語!! そういうことね」

 

 今まで英語で会話していたのに急に和名が出てきて違和感を感じたが、日本人なら納得出来る。

 

「じゃあ、何でドクターはここで仕事してるの? こんな狭くて薄暗くて治安の悪いとこ何かよりも、もっといいとこあったんじゃない?」

 

「……そうじゃのぅ。……簡潔に言うと、"ここでしか出来ない研究"をするため、かのぅ」

 

「ここでしか出来ない?」

 

「そう。マリサもそうじゃが、ここの人間は他の人よりも強力な個性を持っておるじゃろ? 観察するだけでも十分なデータが得られる。それにこの施設に所属してる人間は個性研究に対して協力的じゃし、現世と違って面倒な書類作業をやんなくても実験出来るから、色々と便利なんじゃよ」

 

「へぇ〜」

 

「個性研究者になったら分かると思うが、普通の研究室で研究するなら、まず協力してもらう人を用意する必要があるじゃろ? 当然この場合ワシが雇い主ってことになるから人件費が発生するじゃろ? 個性研究だから当然個性の使用許諾を上の機関から取る必要があるじゃろ? この実験における副作用とか、あらゆる事故の可能性についてまとめた資料を研究協力者に渡して、その上で実験に参加して貰えるよう承認してもらう必要もあるじゃろ? 」

 

「その上、実験終わった後も報告書類やら何やらかんやら色々提出しなきゃいけないから、もう面倒臭いことこの上ない。じゃが、この研究施設は半分治外法権というか、色々事情があって法律ゆるゆるだからそういう面倒なことはやらなくて良いの。もう超楽なんじゃよ」

 

「……そうなんだ」

 

 何だか研究者の闇と施設の闇が同時に見えたような気がしたが、魔理沙は気にしないことにした。

 

「さて、そろそろ休憩も頃合じゃろ。次のテストに取りかかるが、準備は良いか?」

 

「いいよ。結構落ち着いてきたし行ける」

 

「よし、その意気じゃ。じゃ、行くぞ」

 

 

 

 ■

 

 

 

 魔理沙はドクター殻木の元で様々なテストを行った。純粋なパンチ力の計測から、個性による精密射撃実験、属性魔法の比較、瞬間移動の練習(失敗した)、時間停止の計測(計測出来なかった)、常識改変能力のメカニズムの調査(解決には至らず)、変身のメカニズム調査(未解明だが一部データは取れた)といった様々なテストをこなして行った結果、時刻は次の日の朝6時を示していた。

 

「これ絶対管理人にシバかれるヤツだ!!!」

 

「大丈夫、昨日のうちに連絡しておいたからお咎め無しじゃよ」

 

「というかお咎めがあっても、マリサなら返り討ちじゃろ?」

 

「…………面倒事を起こしたくない」

 

「えぇ……?」

 

「変に返り討ちにして争いを生むくらいなら、何も口出しせず静かに過ごした方がずっといい。その方が傷つけずに済む」

 

「……随分と臆病じゃのぅ」

 

「黙れ」

 

 見透かしたかのような発言にキレる魔理沙。確かに臆病かもしれないが、むしろ臆病にならなきゃ世界が壊れる。

 あと仮に私がヴィランに襲われたとして、正当防衛で仕方なく個性を使ったとしよう。その時私はメラミ撃って迎撃したつもりが、うっかり手元が狂ってメラガイアー撃ってしまったらどうする? 当然人は死ぬ。そして私はもれなく殺人少女として、良くて少年院悪ければ死刑だ。

 そして死刑になったとしても異形魔理沙の体だからそう簡単には死なないし、全部返り討ちにしたら多分人口が5%くらい減る。そうなったらもう私は後戻り出来ない。時間は戻せても心は一生戻らないから、いや心は戻らなくても記憶は消せるが、罪は消えな……くもないスキルはあるが、違うそういうことじゃない。

 

 人らしくある為に、私は私を制限する。ただそれだけの話だ。

 

「そういえばマリサの個性『魔法』は、まだ未完成なんじゃったか?」

 

 魔理沙が思考を巡らせる中、ドクターが聞いてきた。

 

「……まぁそうだけど」

 

「じゃったら、練習したいときは何時でもここに立ち寄るといい。ワシの研究も捗る」

 

「え、いいの? 超助かる!!」

 

 魔理沙はドクター殻木の手を掴み、上下にブンブンと振り回した。

 

「ホホ、いつでも待っとるぞ」

 

 ドクターは満面の笑みで魔理沙の手を握り返す。何というか、私とドクターの間に同盟関係が結ばれたんじゃないかと思うくらいに、かなり長い時間握手を交わした。

 

「ちなみに朝の6時半までに部屋に戻すと言っといたから、早く戻った方がええぞ」

 

「それを早く言え」

 

 魔理沙は軽くドクターに向けて手を振った後、駆け足で出口の方に向かっていった。

 

「よろしく頼むよ、マリサ」

 

 

 

 

 to be continued.

 

 

 


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