最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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【あらすじ】

ドクター殼木が用意した試験空間を使い、実際に個性を使ったテストを行った魔理沙。耐久テストと能力テストにおいて自身の力を存分に発揮した結果、ドクター殼木から信用を勝ち取ることに成功し、いつでも試験空間を利用出来るようになった。

収監初日にしては随分と濃厚な一日だった。




監獄の魔女(4.625話)

 

 

 

 その後、結依魔理沙は着々と力を溜め続けた。午前は戦闘訓練で体の動かし方を学び、午後は自主勉強を停止した時間分含めて5時間勉強し、終わったらドクター殻木の研究室でひたすら能力を磨き続けた。

 

 一日5000個の能力習得が目標だったが、今の体力的にどう頑張っても1800個習得するのが限界だったため、一日2000個習得を目標に能力を会得してきた。その結果、魔理沙は累計停止時間10年で700万個の能力を開放し、さらに属性魔法と時間操作能力の練度が異常なまでに向上した。

 

 度重なる戦闘訓練と実験の繰り返しによって魔理沙の感覚は研ぎ澄まされ、自身の魔力の流れと外界の自然エネルギーの流れを能力を使わずに読めるようになり、魔法をより素早く精密に発動できるようになった。さらに相手の動きを能力を使わずにある程度先読みできるようになったため、能力非使用でも負けなくなってきた。

 

 あまりの成長ぶりに、ドクターは絶句して暫く口を聞いてくれなかった。そこまでショックを受けるとは思わなかったが、次の日にはいつも通りの声と顔で「マリサ……初めて見た時から随分と面構えが変わったのぉ」と、しみじみとした表情で私の肩を軽く叩いた。

 

「ドクターのおかげだよ」

 

「そんなことない。魔理沙が常に研鑽を絶えず積み重ねた結果じゃ。ワシはそれにあやかっただけじゃよ」

 

「いや、ドクターのサポートがなかったら瞬間移動の魔法なんていつまでたっても習得できなかったし、ベクトル反射も物質透過も精神操作もほとんどドクターのアドバイスとか、送ってもらった資料のおかげで使いこなせるようになったし、本当に感謝してる」

 

 魔理沙はここ最近、本当にドクターのお世話になった。毎回瞬間移動をするたびに壁にめり込む魔理沙に対し、ドクターは試験空間内での"座標"を視覚的に明らかにする機能を使って瞬間移動のイメージを固定化してくれたり、ベクトルの方向性を見えるようにしてくれたり、あれやこれやとサポートしてもらった。

 

「今日も練習するか?」

 

「いや、今日は用事があるから」

 

 じゃ、と魔理沙は手を振って管理センターから離れた。今日は両親と会う約束をしているので練習はしない。

 魔理沙は研究センターの外に出た後、外出の手続きを行うべく4層総合管理センターへ向かう。

 

「面構え……ねぇ」

 

 ドクターに言われて、魔理沙はここ半月の出来事を思い返す。

 

 初めてここに来たあの日から、たったの半月で色んな出来事を経験した。

 まず初めて研究センターに訪れた次の日、前日無視した成人男性グループのうち3人が戦闘訓練中に茶々を入れてきたので私が即薙ぎ倒した。するとさらに仲間が5人現れて私に容赦なく個性を使ってきたが、爆裂魔法で地形諸共消し飛ばした。するとさらに20人の仲間が私を囲い始め、もはや抗争と言っても過言では無い規模に発展しかけた瞬間、グループのボスが止めに入ったことで一旦集結。明後日の午後に訓練場でボスとその仲間と対峙することになった。

 

結果として、私が初手薙ぎ払いマスタースパークで仲間諸共消し飛ばし、ボスの横腹に粘菌を纏った急流のごとく荒ぶる連続打撃《水流連打》をぶち込むことでボスを打ち倒した。その後ボスからこの4層における3つの勢力と私の現状の立場について熱く語り尽くし、最後は私の未来を案じてバタリと倒れた。

 

 その日から1ヶ月間、ずっと他の受刑者と争い続けた。私に3勢力のことを教えてくれた暴力(バイオレンス)グループのボスやその仲間が何度も殺しに来たのもそうだが、私の存在を目障りだと思っている支配(ドミネート)グループの連中による妨害工作、暗殺等の嫌がらせ、そして噂に乗せられてやってきた混沌(カオス)グループの一部のイカれた連中がイカれた強さで私に襲いかかったり、さらに勘違いで私を封じこめに来た警備員の人達や、全ての受刑者をフィジカルで押さえ込んで来る頭のおかしい4層の番人との死闘を経て、魔理沙は強くなった。強くならざるをえなかった。でなければ本当に死んでいた。

 

 最初は面倒事を起こすのが嫌で争いを避けていたが、何もしなくても勝手に事件が起こる上に、どんなに足掻いても強制的に巻き込まれるので、最終的に魔理沙は逃げるのを止めた。この施設のほとんどの人間はみな隙あらば訓練場に人を呼び付け、難癖をつけては争い合うのがここの"常識"。何よりここの連中は鉛玉を脳天にぶち込まれても死なない連中ばかりなので、争いのレベルは当然戦争級。一歩間違えれば人間としての尊厳が失われるレベルの攻撃を平気でぶつけ合うのがここの人間である。

 

 こうした人達に囲まれた結依魔理沙も当然彼らに毒され、魔理沙は施設の連中に対してのみ冷酷な殺戮マシーンへと変貌してしまった。訓練場に呼び付けてきた戦闘狂たちを拳一つで叩き潰し、治安維持の名目で潰しに来た暴力グループと支配グループの連中を無数の能力で完封しながら全員訓練場の壁に埋め込み、さらに暴動を止めに来た警備員や番人達をパイルドライバーで全員訓練場の床に頭から突き刺した。

 

 結果、魔理沙はたったの1ヶ月で混沌グループの最強格として君臨し、周囲から『極悪殺戮マシーン』、『例の人』、『名前を言ってはいけない人』、『鬼神』、『深淵の悪魔』、『破壊神』、『鬼畜の権化』……

 

『地獄の帝王』『監獄の魔女』『無限復活クソゾンビ』『死神』『終末』『終わり』『絶望』『この世の暗黒面』『人間災害』『カス』『外道』『人でなし』など、様々な異名を付けられるようになった。もう彼女に歯向かおうとする人間はほとんどおらず、今でも殴り合うのは暴力、支配グループのトップ層と混沌グループの上位勢のみ。それほどまでに魔理沙の立ち位置は劇的に変化した。

 

 そして今日、魔理沙は緊急の用事ということで暴力グループと支配グループのボスから呼び出しをくらっており、魔理沙は仕方なく集合場所のミーティングルームへと向かっている。

 

「今日は両親と会う日なのに……アイツらァ……!」

 

 握り拳をつくりながら憎い相手二人を思い浮かべる魔理沙。それほどまでに両親に会いたかった……というわけではなく、昨日『お前に関係する重大な事件が起きたから参加しろ』と、普段邪魔しかしてこないボス連中から急に連絡が来たことで、予定が大きく狂ったことに腹を立てていた。

 魔理沙は指定された部屋の扉の前に瞬間移動し、勢いよく扉を開く。するとそこには、呼び出した張本人2名とその取り巻き達がズラリと並んで座っていた。

 

「お前にしては随分遅かったな、死神」

 

「わざわざ貴女の都合に合わせて時間を変更しているのだから、もっと手早く行動しなさい」

 

「…………」

 

 魔理沙は無言で左腕をギルガメッシュと呼ばれる弓に変形し、コズミックエナジーを凝縮させて形成した矢を二人に向けた。

 

「待て待て、何をそんなに怒ってる? 俺たちはただお前を呼んだだけで殺し合いをしに来たわけじゃない」

 

「それにここでの能力の使用は禁止、厳罰対象です。これ以上狼藉を重ねると然るべき対応を取りますが」

 

 脅しが全く効かなかったので、魔理沙は仕方なく弓を下ろし元の姿へと戻った。

 

「…………分かった、今日はやらない。が、こっちも用事があるから手短に頼む」

 

「お、用事って何? 殺し合い? 俺も混ざっていい?」

 

「違ぇし仮にそうだとしてもお前だけは絶対に許さないし真っ先に潰す」

 

「はァ……」

 

 議論が全く進みそうにない雰囲気に支配グループのボス、『ロル』は頭を抱えた。

 普段は『支配』の個性のおかげで統率を取ることが出来るが、今回の相手は部下ではなくライバルグループのボス『レヴォ』と、未だ正体不明の暴力装置『マリサ』。レヴォは私の個性の弱点を把握しているし、マリサには何故か個性が通用しないので支配できない。

 なので一切統率が取れない。全く不便極まりないのである。

 

「早く本題に入りましょう」

 

「そうだぞマリサ。お前があーだこーだ言うから時間長引くんだろうが。お前がチームの輪を乱してることを自覚しろ」

 

「よし、訓練場行こうか。もう一度お前を壁の中に埋め込んでやる」

 

「お? やれるもんならやってみろや青二才が。見た目女児だからって手加減されると思うなよこのクソ〇ッチ」

 

「本題に入りましょう」

 

 殺し合いをしかねない二人を諌め、会議を進行させるロル。本当に『支配』の個性さえ使えれば今すぐにでもこの二人を抑えられるというのに、何故私はわざわざ"言葉"で二人の暴走を止めなければいけないのか、考えれば考えるほどウンザリしてしまう。

 とにかくこの二人が殺し始める前に、ロルは部下に"例のもの"を用意させた。

 

「センス」

 

「はい」

 

 センス、という名の部下がロルの指示の元、5枚の写真を机に並べる。

 睨み合っていたレヴォとマリサも写真の方に意識が向き、まじまじと5枚の写真を見比べる。

 見る限り、これらの写真はどれも悲惨なものばかりで、場所や被害者もバラバラのようだ。

 

「破壊神、この写真に見覚えはありますか?」

 

「魔理沙な。…………これは誰かの遺体か?」

 

 惨い写真の正体、それは人間の死体であった。しかもただの死体ではなく、何者かの攻撃を受けたかのような痕跡が見られた。

 ただ不自然な点として、5つの死体の損傷具合がどれもバラバラで、統一性が無いことが分かる。一方の死体からは上半身をスッパリ切られて斬殺されたことが分かるが、もう一方の写真だとまるで血を全部抜かれたかのように干からびて死んだかのように見えるし、さらに別の写真だと胴体に風穴を開けられて死んでいたりと、どれも死に方がバラバラなのである。

 おかしい⋯⋯ということは何となく分かるが、それが答えにどう結びつくのかは全く見当がつかない。だがそれでも魔理沙は必死に頭をひねるが、何も思いつかない。

 そんな最中、ロルが口を開いた。

 

「これらは支配グループのメンバー、すなわち私の部下の()()です」

 

「⋯⋯⋯は?」

 

 ロルの口から告げられた言葉に驚きを隠せない魔理沙。死体の共通点が全部支配の連中だとは全く思わなかった。

 4層最強勢力である支配グループに手を出すとはあまりにも無知無謀で命知らずのアホか、頭のイカれたチートサイコパス野郎のどちらかで間違いないだろう。ただこの施設内の人間のほとんどは後者なので全く候補は絞れない。

 

「彼らは先週の午後16時28分以降連絡がつかなくなり、昨日遺体として発見されました。リングの識別コードから私の仲間であることは確定です」

 

「どちらも全く異なる手法で殺されていて不自然なのですが、貴女が犯人なら話は別です。死になさい」

 

 あまりにも早い結論に魔理沙の脳が一瞬停止したが、魔理沙は即座に弁明した。

 

「待て、確かに私なら出来なくも無いが、私は基本的にドクターの研究センターに篭ってるから関係ないぞ」

 

「お前なら休憩中に時止めて暗殺くらい容易いだろ」

 

「いや動機がねェだろ」

 

「黙ってください」

 

 ロルは魔理沙の弁明を制し、この場にいる全員に睨みを効かせる。支配の個性が使えない以上話の主導権を取られるわけにはいかず、ロルは内心必死で暴力装置2名を押さえ込んでいた。

 その他にも、どうにかマリサを弱体化させたいがために、マリサを弁明の余地なく全勢力から袋叩きにされる構図を意図的に作り出すためにも、こうしてマリサを抑え込んでいる。

 しかし4層の勢力を全てかき集めたとしても彼女をボコボコに出来るのかどうかは怪しいところではある。

 だが少しでも4層最強の座に近づくべく、ロルはマリサをここぞとばかりに追い詰めようとする。

 

「仮に貴女じゃないとしたら、他に誰がこのような事をしたと思いますか? 調査の結果、彼ら5人は"短期間でほぼ同時刻"に、"全く異なる殺害方法"で殺されています。それを可能にするのはやはり『鬼畜の権化』が持つ複数個性の力以外にありません」

 

「魔理沙な。後別にこれ"一人の犯人がやったこと"ってわけじゃないだろ。少数グループによる計画的犯行じゃないのか」

 

 マリサの反論に少し表情を曇らせるロル。圧をかけて押し切れば事実であろうとなかろうとすんなり認めるのではないかと思っていたが、案外そう上手くは行かなさそうだ。

 

「その可能性も"一応"考慮し、現在調査中です」

 

「あ、俺ら暴力グループも部下が何人か不審死を遂げたって報告受けてるからよろしく」

 

「それはどうでもいい〇ね」

 

「おいマリサ。俺にだけ冷たくないか?」

 

 レヴォに対しては全く心を開かない魔理沙。それもそのはずこの男が一番魔理沙のことを直接的に妨害してきた人間なので、嫌われるのも当然であった。

 

「……ハァ、ちなみにこれらの不審死に関する情報は既に4層の治安維持組織に届いています。アチラの方でも調査しているそうですが、犯人は未だ特定出来ていません」

 

「……被害者が全員4層の人間なら犯人も4層の人間だろ? 収容リスト洗いざらい調べあげれば済む話だろ」

 

「いえ、4層だけでなく全階層で被害者が続出しているので4層だけに絞ることはできません」

 

「……そこまでの規模で暴れられるなら、なおさら犯人が誰か絞れそうだが……」

 

 と、魔理沙が言った瞬間、ボス連中二人が真顔で魔理沙の方に指を指した。

 

「いやだから違うって!!」

 

「「お前(貴女)以外ありえない」」

 

「お前ら揃いも揃って仲良いな!! どんだけ私を目の敵にしたいんだ!?」

 

 二人が露骨に自分を潰しにきているのは誰の目から見ても明らかで、魔理沙もロルと同様に頭を抱えた。

 

「……仕方ありません。犯人が口を割らない以上実力行使に移る他ありませんが、今日は忙しいのでここまでにしておきます」

 

「犯人じゃねぇし」

 

「俺は暇だからこれ終わったらお前に実力行使するけど良いよな?」

 

「お前は黙れ」

 

「では皆さん、緊急会議はこれにて終了です。撤収」

 

 ロルが二回手を叩くと、部下全員が手早く机と椅子を片付け始め、荷物を持って即座にその場から撤収した。

 

「ご機嫌よう」

 

 そしてロルもその場から退出した。

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

 会議室に取り残された二人とレヴォの部下達。魔理沙がこれからどうすべきか迷っている中、レヴォが口を開いた。

 

「マリサ……」

 

「……何」

 

「殺し合わん?」

 

 この男は相変わらずであった。

 

「……」

 

 そして魔理沙の方も、彼の根気に負けて仕方なく戦うことにした。なおレヴォとの戦いは今週で5回目である。

 

 魔理沙とレヴォは二人仲良く管理センターに向かい、許可を取ってから訓練場へ向かった。

 

 

 

 ■

 

 

 

「ぐあああああああああああああ!!!!!!」

 

 レヴォの体が"く"の字に曲がりながら壁に激突し、あえなく撃沈した。

 

「じゃあな、レヴォ」

 

 レヴォとの殺し合いに決着を付けた魔理沙は今度こそ両親に会いに行くべく、再び4層総合管理センターの方へと向かっていく。

 

「……マリサァ、……お前、前より強くねェか?」

 

「毎日心身能力共に鍛え上げてるんだから当然」

 

「…………クソがァ……」

 

 レヴォはまたしても魔理沙に敗北し、未練を残して気絶した。

 暴力グループのボス『レヴォ』、彼のもつ個性『フルパワー』はあらゆる身体能力を極限まで上昇させ、強烈な物理攻撃を放つことが出来るが、結依魔理沙が相手だと全く効果が無くなってしまう。

 

 特に相手の攻撃を倍にして跳ね返す『フルカウンター』と常時相手の物理攻撃を反射する『アタカンタ』が彼にとってネックであり、フルカウンターは嘘行動(フェイク)で誘発させることが出来ても、アタックカンタだけはどうしようもない。

 

ただアタカンタはパンチやキック、斬撃は跳ね返すが、まれに自身の攻撃が反射されずに貫通することが最近判明したので、レヴォは今回フェイクを混ぜてから個性『フルパワー』を発揮し、殴り掛かると見せかけて膝蹴りをブチかました。しかしアタカンタは貫通せず自身の膝蹴りと同等のダメージが反射され、レヴォは後方に大きく仰け反ってしまった。

 

 隙を晒したレヴォを魔理沙が見逃すはずなく、瞬間移動で距離を詰めてから光速ハイキックで天井まで蹴り上げ、さらに瞬間移動と急降下攻撃を連続で交互に行う『アクロバット』を叩き込んでから、火炎系最強呪文である『カイザーフェニックス(メラゾーマ)』を浴びせたことでレヴォの体が"く"の字に吹き飛び、今に至る。

 

 もう一度言うがレヴォは別に弱くない。ただ相手が絶望的に悪過ぎただけだ。

 

「手続きしに行こ」

 

 早めに決着が着いたことを良いことに、魔理沙は4層総合管理センターに出向いた。

 

 

 

 ■

 

 

 

【4層総合管理センター】

 

 

「管理番号0198さん、手続きが完了いたしましたのでカウンターまで来てください」

 

 レヴォとの決闘を終えてすぐ管理センターに出向いた魔理沙は、さっそく外出手続きの申請を行っていた。

 

「はい、0198さん。許可が下りましたので外出することが可能になりました。また、殼木ドクターの推薦と日頃の生活態度及び性格の適性、能力の安定化等が評価され、カメリア刑務所外での活動も許可します」

 

「⋯⋯マジ?」

 

 刑務所の外に出ることはいかなる理由があっても許されなかったはずが、何故か許された。

 こんなことはここに入ってから初めてのことだが、これ以上無いほど申し出に断る理由もなく、魔理沙は甘んじて権利を受け入れた。

 

「ただし、明日の21時までには戻って帰還の手続きを完了し、部屋に戻ってください。また、ニューヨーク市外に出ること、他国へ逃亡することは原則禁止です。違反した場合、脱走者として処理される場合がございますのでご了承ください」

 

「また、刑務所外での能力使用も当然禁止です。使用した場合リングが反応し、貴方の全身に特殊な電流が流れます。さらに貴女様の場合、能力の不正使用を考慮して監視者を1名つけさせてもらいます。リングの反応に限らず、監視者の判断で貴女の処遇が決まることをお忘れなく」

 

「以上で説明を終わります。何か質問はございますか?」

 

「無い」

 

「分かりました。ではあちらの部屋でリングの調整を行い、係員の指示に従って行動してください」

 

 説明を受け終わった魔理沙は指示に従って行動する。

 

「……毎度毎度長いんだよなアレ」

 

 外出は今回で3回目なのだが、出る度に毎回聞かされる。出来ることなら聞かずにさっさと外に出たいが、収容者は説明を聞かずに外を出ると外出許可が取り消されるし、説明する側も毎回説明することを義務付けられているので仕方がない。何度も何度も言い聞かせることで規範意識を高めるのが目的だとか何とか。

 

 

 しかし今回は刑務所の外に出られるので別にヨシ! 

 

 

 魔理沙は専用の係員に頼んでリングの調整を行い、その後別の係員2名の案内の下、目隠しされたまま4層から1層までエレベーターで移動する。

 

 このエレベーターは地下研究施設で唯一のエレベーターであり、第1階層から第8階層まで行き来することが可能。基本的に収容者を収容するときや個性研究者が学会で発表する時などに利用される。当然だがここのエレベーターの警備は厳重で、番人と警備員が常駐している他、ハッキングや個性によるシステムへの干渉や施設内で異常が検知されると即座にシステムが秘匿状態に移行し、全てのアクセス権限をブロックしてから自動的に電源をオフにするプログラム"クマムシ"が搭載されているため、脱走はほぼ不可能。

 

 さらに第1階層から地上への移動にはワープ装置を利用する必要があり、こちらにもクマムシプログラムが搭載されている。そのため少しでも不審な動きをすれば即座に閉じ込められ、個性を使えばリングの効果で全身が硬直し、無数の番人と警備員に囲まれてそのままジ・エンドである。とはいえワープや瞬間移動、透過などといった個性に関してはリング以外に対処法は少なく、現在は個性による物質透過を防ぐ技術を搭載した新たな素材の開発を行っている。

 

 第1階層についた魔理沙は何も見えないままワープ装置の下まで案内され、係員がワープ装置を起動した。

 ……目隠しされても"波動"で自分の位置や他の人の配置、物体の位置まで把握出来るので正直意味はない。が、公言したとしても対策されるだけなので何も言わない。

 

 ワープ装置を介して地上に出た魔理沙は再び係員の案内を受けてカメリア刑務所内を移動し、30分歩いてようやく門の前に到着した。普通に歩けば地下刑務所の入口から門までの距離は大したことないのだが、暗記系の個性等で道を覚えられるのを防ぐためにわざと遠回りしているようだ。本当にこの刑務所は徹底的に対策している。

 

 目隠しを外すと、巨大な門がそびえ立っていた。空には天然の太陽が燦々と光を照らし、青々とした景色が広がっている。

 

 門番が管理棟に連絡し、巨大な門がゆっくりと開く。門の先に広がっていたのはこれまた青くてデカい湖。普段は刑務所の外には出れない魔理沙にとって湖を見るのはこれが初めて……いや2回目だったが、やはりこの湖は綺麗だ。

 

「魔理沙」

 

 誰かが近くで私の名を呼んでいる。それが誰かは容易に想像がつくが。

 魔理沙は声が聞こえた方向に振り返り、ピースサインをした。

 

「ただいま」

 

「「おかえり!!」」

 

 両親が私の下に駆け寄り、ギュッと抱きしめる。3回目なのに喜んでる様子が全く変わらない。

 

「大丈夫? 怪我とかしてない?」

 

「全然大丈夫。むしろ強すぎて困る」

 

「それはよかった」

 

 強すぎて困るというのは100%冗談だし、むしろ強くないとこの施設ではまともに生きていけないのが事実だが、親が安心するならそれで良し。

 

「てっきり警備の人が出てくると思ったが、外に出られるようになったのか?」

 

「うん、普段の行いが良かったおかげ。あと世話になってる人からの推薦」

 

「今度お礼の品を送っておくわね」

 

「…………差し入れって、許されるのか?」

 

 ただでさえ規律の厳しい施設だというのに、外部から品物を送るとか出来るのだろうか。する気のない脱走とか疑われたりしないだろうか。

 

 魔理沙が悩む最中、父が何かを思いついたようだ。

 

「よし、今日は娘の出所祝いということでニューヨークの街を探検しよう!! 魔理沙、どこ行きたい?」

 

 突然の申し出に魔理沙が顔を上げ、とりあえずパッと思いついたものを口に出す。

 

「う〜ん、自由の女神像!!」

 

「よし行こう!!」

 

 父の面白そうな提案にガッツリ乗っかかることにした魔理沙は、両親と共にニューヨーク中を観光することにした。

 

 

 

 ■

 

 

 魔理沙と両親はその後、ニューヨーク市内に存在する有名な観光スポットを片っ端から観光し始めた。まずは自由の女神像の前で記念写真を撮り、次にタイムズスクエアでショッピングをし、その後セントラルパークでゆったりとした後、アメリカ自然史博物館で大きな恐竜の模型を見たりと、思う存分満喫した。

 観光した場所のほとんどがニューヨーク市のマンハッタン区内にあるものばかりになってしまったが、時間と距離の都合上仕方が無かった。だがマンハッタン区だけでもこんなに面白い所がたくさんあるのだから、アメリカは本当に凄い。

 

「外、めっちゃ楽しい……!」

 

 刑務所内の施設に収監されて以降、一度も刑務所の外に出たことが無かった魔理沙はあらためて外の世界の素晴らしさを実感した。個性が使えなくてもこんなに楽しいなんて、今まで思いもしなかった。

 

「連れてきたかいがあったな」

 

 魔理沙の楽しそうな顔を見て、父は頬を緩めた。

 

「あ」

 

 適当に街中を歩いていると、とある店が目に付いた。

 

「ヒーローグッズ専門店……!」

 

 何ともワクワクが止まらない名前に魔理沙は嬉々として店の中へと入っていく。

 そこにはアメリカで活躍中のヒーローのフィギュアや、キーホールダー、アクセサリー、ハンドタオル、人形に至るまで様々な物が売っており、見ているだけでも中々面白い。

 

「……! オールマイトのもある……!」

 

 アメリカのヒーロー達と並んでオールマイトのグッズも多く販売されており、シルバーエイジやゴールデンエイジのオールマイトフィギュアの他に、ヤングエイジと呼ばれるアメリカ留学時代のオールマイトのフィギュアまで売られていた。

 

 どうやらアメリカ人にとってはヤングエイジ時代のオールマイトが一番馴染み深いらしい。

 

「魔理沙はオールマイトが好きなのか?」

 

 追いついた父が魔理沙の肩に手を乗せながら問いかける。

 

「……いや? 別に?」

 

「…………本当にウチの子は変わってるねぇ……」

 

 思ってた反応と全く異なり、若干対応に困る魔理沙パパ。女の子といえどこれくらいの歳の子は皆オールマイトが大好きだと思っていたが、彼女はどうやら違うようだ。

 

 ただヒーローに興味が無いわけでは無さそうだ。少し変わってると言えど、やっぱり娘もちゃんとした人の子であると実感する。

 

「魔理沙、ヒーローに興味はあるか?」

 

「ヒーロー?」

 

 突然の質問に魔理沙は驚き、少し考え始めた。

 

「…………まぁ、ある」

 

「……! そうか! 興味あるのか!」

 

 娘が初めて、ヒーローに興味があると、ハッキリと言葉にして伝えてくれたことに父は驚きと嬉しさで溢れかえった。

 

 父はヒーローと違って表舞台に立って動く人間では無かったが、かつては重要危険人物や暴力団等を取り締まる活動をしていたこともあり、治安維持に貢献出来る素晴らしさをそれなりに実感していた。

それに今はヒーロー達と関わる機会も増え、間近で彼らの活躍を見聞きすることが多くなったことから、娘がヒーローになるとしたら全力で応援しよう……くらいの気持ちも持ち合わせてはいた。

 

 しかし本当に娘がヒーローに興味をもっていたとは思わなかった。あんなに秘密主義で自己主張もせずに黙々と何かをやっている魔理沙が、今日初めて自分の気持ちを打ち明かしたのだ。これは嬉しい誤算ではなかろうか。

 

 もし娘がヒーローになったら、オールマイト級の活躍を見せてくれるのは間違いないだろう。なんてったってウチの子の個性は現代科学でも解明できないほどに強い個性を複数持ち、4歳の頃から成人男性を圧倒できるほどの逞しさを持っている。力だけで言えば娘は世界中のヒーローを含めてもナンバーワンに匹敵するほどの力を持っているだろう。

見た目的に民衆受けはしづらいかもしれないが、活躍次第ではその見た目も1つの特徴として受けいられるかもしれない。そうすれば魔理沙は強さだけでなく民衆からの支持も厚い最高のヒーローへと変貌するだろう。いや、いずれ必ずそうなるに違いない。

 

 ただ、時折心配に思うことがある。強い個性を手にした子どもは基本的に他者に対して強気な態度を取る傾向が見られるが、娘はその傾向と真逆の道を歩んでいる。個性を使うことに躊躇が無い所は他の子と変わらないが、あの子は基本一人の時にしか個性を使わないし、日本の幼稚園に通っていた時もほとんど問題を起こさず、友達も作らずに一人でのんびりと過ごしている。

 

 子どもというのはもっと自由奔放で、人との距離感など気にせずに多くの子と関わろうとするものだと思っていたが、彼女は何故か生まれた時から他人との関わりをなるべく避けようとしている節が見られる。個性がおかしいのは突然変異のせいでギリ説明がつかなくもないが、この異様なまでに熟した精神性はいったいどこからきているのか。このまま熟したままの精神状態で人生やっていけるのか、父として少々不安である。

 

 この精神形成は個性の影響でそうなったものなのか、それともあの子自身の元からの性格によるものなのか、判断は難しい。だがどちらにしろあの子にはもっと多くの人と関わって過ごすべきだと父は思っている。人との繋がりが彼女の足りない部分を埋めてくれるはずだと、父はそう思っているからだ。

 

「魔理沙、もしヒーローになりたかったらパパに言うんだ。全力で応援してあげるから」

 

「へい」

 

 魔理沙は父の手にグータッチした。

 

「……魔理沙の手、こんなに硬かったか?」

 

 まるで巨大な岩石に触れたかのような重くて硬い感触にパパは驚いた。

 

 かつて公安委員会として働いていた身だったので分かる。自分の娘がこの短期間で驚く程に成長し、想像を絶する強さを手にしていることが感触から感じられる。それだけでなく、魔理沙はまだ発展途上だと言うことも父は何となく察した。末恐ろしい娘である。

 

 とはいえ、何であろうと娘の成長は親として喜ばしいものだ。成長を記念して何かプレゼントでも渡したいところだが、魔理沙の趣味嗜好が分からないので何を渡すのが一番良いかパッと思いつかない。

 

「⋯⋯⋯これは?」

 

 魔理沙父の目に付いたのはヒーロー達の名言をまとめたキーホルダー。色々と勇気づけられる言葉が数多くあるが、中でもオールマイトが"I'm here!! "と叫んでいるキーホルダーと、オールマイトが"Plus ultra!! "と叫んでいるキーホルダー、それとアメリカのヒーローが"loving freeeeeeee!!! "と叫んでいるキーホルダーが個人的にしっくり来たので、父は内緒でキーホルダーを3つ購入。後で魔理沙に渡そうと思う。

 用事が済んだので父と母と魔理沙は別の店に向かうこととなった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 こうして私と両親は街中(マンハッタン区)を観光した後、少しお高めのレストランで料理を食べた。

 観光の最中やレストランで注文する時にもちょくちょく見られたが、私の顔を見た人は軒並み怯えたり、目線を逸らすといったことが多々見られた。

 

 まぁ、周囲の人から見れば私も"異形系"の個性の人に見えているのだろう(本当は違うが)。

異形魔理沙は他の異形に比べたらまだちゃんとした人らしい見た目をしているが、他の異形妖怪だったら完全に化け物として扱われていたかもしれない。

 

 まだ人寄りでマシだというのに、それでも怯えられてしまうのは、この世界に根付いた異形系個性に対する偏見と差別も影響していると考えられる。まぁ見た目が同じ人間に見えない、というだけで敵扱いするのはこの世の中においてそんなに珍しいことでは無い。現に私の前世でも肌の違いだけで争いが生まれていたのだから、それよりもさらに見た目が段違いに違う異形の個性となると話はさらに拗れてくる。

 

 だが今のところこのレストランは店員が少し怯えただけで私を出禁にする気はなく、ちゃんとお客さんとして対応してくれているようだ。異形系個性は出入り禁止の飲食店など、この世では対して珍しくないというのに随分と優しい。ここの店はかなり寛容的のようだ。

 だが店側がどんなに心の広い人間であろうと、()()が優しくなかったらイザコザはすぐに発生する。

 

「異形が何呑気に高い飯食ってんのよ」

 

 ふくよかな体型の婦人、らしき人がわざわざ私らの前まで出向いていちゃもんを付けてきた。

 

「アンタらにこの店は似合わない。不愉快極まりないからさっさと出て行って!!」

 

 優越感に浸りながら堂々と退去命令を出すも、魔理沙と両親は婦人をガン無視しながら食事を続ける。

 ここまで大胆に行動する人は初めてだが、変に反応すると裁判沙汰になる可能性も無くはないのでとりあえず無視。

 流石の相手も取り合ってくれなければ大人しく引き下がるだろうと、私はそう思った。

 

「聞いてるの!!?」

 

 婦人が机を何度も強く叩く。どうやらまだ引き下がるつもりは無いらしい。

 その後婦人は私の胸ぐらを掴んで持ち上げ、額と額を合わせて至近距離で脅し始めた。

 

「アンタに言ってるのよ化け物。さっさとこの店から出t」

 

 鬼気迫る表情に流石の魔理沙も困惑したが、そんな最中父親の

 魔理沙が目線を横にズラすと、そこには婦人のこめかみに拳銃を向けた父親の姿があった。

 

「ウチの娘に手を出すな」

 

 普段の父とは到底思えないほど怒気に溢れた言葉に、その場にいる全員が戦慄した。

 

「⋯⋯⋯ヒッ!?」

 

 流石に拳銃を向けられて平気でいられるはずもなく、婦人は魔理沙の胸ぐらを手放してその場にへたりこんだ。

 

「大丈夫か、魔理沙?」

 

「··········まぁ」

 

「そうか」

 

 父は娘の安全を確認した後、店員の所に行って食べた分の料金とチップ分をまとめて支払った。

 

「迷惑を掛けて済まない。注文した料理分の代金は全て払ったのと、チップを多めに支払ったから店員皆で分け合ってくれ。本当に済まない」

 

「魔理沙、母さん、行くぞ」

 

「⋯⋯⋯はい」

 

 父の後を追い、魔理沙たちは店から退出した。こういうことはよくある。日本にいた時、初めて家族で外食しに行った時も似たようなことがあったし、検査施設内でも恐れられたし、日本国内を観光してる時にヴィランと間違われてヒーローを呼ばれたことも少しだがあるにはある。

 しかしよくもまぁ嫌われたものだ。ただそこで同じ空気を吸って同じものを食べているだけだと言うのに、私がいったい何をしたというのか。

 

(⋯⋯⋯あぁ、そうなのか)

 

 嫌われる理由を探すべく先程の女の人の心を読んだが、どうやら彼女の息子さんは異形系個性のヴィランに傷を負わされて入院中らしい。息子は重症では無いものの、それが原因で母親の中での異形系個性に対するイメージは最悪のものになっている。

 

 偏見を直せ、というのも酷かもしれない。

 

 

(難儀だなぁ)

 

 

「魔理沙」

 

「⋯⋯⋯何?」

 

 父の呼びかけに魔理沙は反応した。

 

「ニューヨークの夜景でも見るか?」

 

 悩みを吹っ飛ばすほどに魅力的な提案をされた魔理沙は嬉々として「見る!!」と叫び、両親の後をついて行くことにした。

 

 

 

 to be continued.....

 

 

 

 


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