最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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【あらすじ】

刑務所のほとんどの囚人を殺したクローン人間K427号を撃破し、ドクターを追い詰めた魔理沙。しかし、ドクターの友人を名乗る人物が突如現れ、ドクターを別の場所に転移させてしまった。

魔理沙はドクターの友人、オールフォーワンと戦ったものの、最後の最後で逃げられてしまった。刑務所の秘密を知ってしまった他、自身の個性の秘密もバレた魔理沙はオールフォーワンとドクターの口封じしに行かざるを得なくなった。だが無断外出は契約違反、出た瞬間警察組織と周囲のヒーロー事務所に連絡が行き、魔理沙は完全なヴィランとして扱われる。留まったとしても、おそらく囚人皆殺しという濡れ衣を着せられて処刑される。
どうしようもない状況に悩んでいると、父がある作戦を思いついた。その内容はあまりにも荒唐無稽で、適当で大雑把で無茶苦茶だったが、魔理沙はこれに賛同。刑務所を脱出し、さっそく実行するのであった。

作戦名は【魔女革命(Witch's Revolution)




魔女革命(4.999話)

 

 

 

 

 

 世界はさまざまな問題を抱えている。身近な例としては各国における犯罪発生率の上昇で、個性登場以降、犯罪発生率は年々上昇の一途を辿っており、先進国であろうと20%を超えるケースが多発していた(日本は独特な国民性とオールマイトの登場で犯罪発生率がかなり抑制されており、5%となっている)。黎明期ではとある国が独裁政権で国民を支配していたところ、個性に目覚めた複数の人たちが反抗組織を形成し、一夜で独裁政権を崩壊させたという話も存在している。『国家間戦争における個性使用に関する条約』において個性の使用が原則禁止(ただし治療行為は可)されているように、個性というのは化学兵器に匹敵するほど強力なものである。なお戦争に関しては各国の治安低下の影響で戦争をする余裕がなく、個性登場以降での国家間戦争は1、2回ほどしか存在しない。そこだけ見ればはある意味平和と言えるかもしれないが、新たな兵器開発は現在においても続いているので油断出来ない。

 何はともあれ、強力な個性を一般人一人一人が持っている以上、世界平和実現の道は個性登場前よりも遠くなったと言える。

 

 環境問題も重要な問題といえる。西暦2000年よりも前から存在するこの問題は現在においても続いており、特に個性による異常気象の発生、個性による自然破壊、個性による設備等の破壊によって発生した熱や二酸化炭素等の温室効果ガスの発生等が注目されている。

 エネルギー革命以降、化石燃料の使用量が大幅に減少したことから二酸化炭素排出量は減少し、車やAI搭載型ロボットのクリーン化、エコ化の影響も相まってかなり改善されてきている。また南極再生プロジェクトや砂漠の緑化プロジェクトの進捗により、世界は少しずつ綺麗になってきているが、やはり治安低下による破壊行為の増加の影響で、壊されて使い物にならなくなった物の代わりにまた新しい物を生産し、また壊されを繰り返して大量のゴミを生産したりするケースも多く見られる。

 

 食料問題は犯罪発生率の上昇と同レベルに深刻で、一時期世界人口が100億人を突破した際は十数億人の人が餓死してしまった。現在は人工肉や人工野菜といった人工食料の開発や昆虫食開発などの開拓が進んだことである程度マシになってきている他、個性登場による世界人口の減少の影響で餓死者は以前より減少している。

 しかし割合的にはまだまだ多いので、対策が必要である。

 

 人種差別問題は個性の登場で無くなったかのように思われていたが、その後人種差別は"個性差別"へと変貌し、大きな問題となっている。特に"異形"個性と呼ばれる、人と異なる姿になる個性に目覚めたものは周囲から虐待やイジメを受けやすく、人間関係のトラブルやDV、ネグレクトの原因となっていった。またそういった迫害を受けた者たちが団結しデモを起こすことはもちろん、復讐を誓って人々に危害を加える者や、国家への反逆を企む者、また開き直って犯罪を起こす者など、犯罪発生率の上昇にも大きく関与している。

 また"無個性"という、異能力をもたない者たちがイジメを受けるといった事案が先進国を中心に(最近では発展途上国においても)増加しており、能力至上主義をより加速させている。知力、財力、運動能力の他に"個性"という新たなステータスが加わったことで、新たな格差が生まれ、自殺の原因になるなどかなり深刻である。

 現在は個性に関する法律の整備や異能個性や無個性等に対する世間のイメージ改善、メンタルケア等のサービスの増加などといった対策が行われているものの、差別問題は未だ各国で根強く残っている。

 

 他にもさまざまな問題が残っているが、もしこれらを一挙に解決する人間が現れた場合、人々はどう思うだろうか? 純粋に感謝する人もいれば、その人を神だと祭り上げる人も現れるだろう。そんなこと出来るはずがないと疑ってかかる人もいるだろうし、それほど強力な力を持つ人間は危険だから捕まえるか殺すべきだと言う人もいるだろう。

 

 しかしそんな人間がいれば、誰であろうと必ず認めることになる。

 

『そいつがこの世で最も革命的で最強のヒーロー』、だということを。

 

 

 

 

 

 

【オーストラリア ニューサウスウェールズ州】

 

 

【ボンダイビーチ】

 

 

 ここは昔からサーフィンスポットで有名なビーチで、年中多くの観光客が集まっており、人気を博している。

 今日も多くの観光客が訪れ、サーフィンや日光浴をしながらバカンスを満喫していた。

 

「パパぁ、アレ何〜?」

 

「ん〜?」

 

 オーストラリア旅行に来ていたとある家族の父と子が、海でプカプカと浮かんでいると、遠くから謎の影が迫ってきていることに気づいた。

 背鰭のついた影が一度潜水し姿を隠すと、水上に向かって飛び上がって全身を晒した。その飛び具合はまるでイルカのようだったが、残念ながらその影はイルカではなく、異様に元気なサメであった。

 

「サメだ!!」

 

 その一声で海で遊んでいた観光客全員がサメの方を見つめ、理解した瞬間一斉に砂浜の方へと逃げていく。だがサメは異様な速さで人間のいる方に向かい、ジャンプを繰り返しながら距離を詰めてくる。

 父も子を抱えながら全力で砂浜へと向かうものの、サメは完全にその二人を捉え、セーフティネットを超えてサメは大ジャンプし、空中から二人の首を噛みちぎらんと襲いかかる。

 

 死を覚悟した父は子どもだけでも生き残れるよう遠くに投げ飛ばし、後は子どもが無事砂浜にたどり着けるよう神に祈りを捧げた。

 だがいつまでたっても首は折れず、サメの餌になることもないまま時が過ぎた。おかしいと思った父は恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこにサメはいなかった。

 いたのはサメではなく、不思議な格好した16歳ほどの金髪ロングの少女。その少女は投げ飛ばした息子を抱えながら宙に浮いており、彼女の足にはサメの血らしきものが付着している。どうやらサメを蹴り飛ばしたようだ。

 だいぶツッコミどころがあったが、父はまずその少女に息子を助けてくれたことを感謝した。

 少女は振り返り、無言で父に息子を渡す。少女の顔は狐の仮面で隠れていてよく見えなかった。そして少女は父と子に旗のようなものを渡すと、颯爽とその場から離れた。

 

 旗には、『Witch's here(魔女が来た)!』と書かれていた。

 

「魔女……?」

 

 父は首を傾げながらも、飛び去った魔女の後ろ姿を見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

【イタリア】

 

 

【シチリア島のとある旧市街地】

 

 

 シチリア島の旧市街地は、個性登場以前まではのどかな地方都市だったが、個性登場以降の治安低下により、新たな街が旧市街地とは別に形成された。一定以上の財力を持つ一般層や富裕層はみな新しく作られた街へと引っ越したものの、貧困層は旧市街地へ取り残され、さらに旧市街地と新市街地の間にバリケードが設けられたことでふたつの街は遮断されてしまった。

 貧困はさらなる貧困と治安低下を呼び、無法地帯と化した。窃盗、薬物売買、売春、強盗が蔓延り、誰一人として介入出来なくなったこの街に、外から来た犯罪組織が身を潜めるようになったことでさらに手が出せなくなった。

 犯罪発生率は当然のごとく100%。そんな悪辣な環境において、二人の兄妹が街の外に出ようとしていたところ、不良集団に絡まれてしまった。

 

「妹を返せッ!!!」

 

「残ねぇん、返しませぇん! 妹ちゃんはこれから俺たちと遊ぶ約束があるから、さぁ?」

 

「ヒヒヒヒ! 最近アレが溜まって溜まってショーがなくてよぉ! もう我慢の限界だよォ!!」

 

「手頃な女はみんな大人に連れてかれるからなァ!! ちょーど良く現れてくれたぜぇ!」

 

「止めろッ!!!」

 

 兄は自分よりも大きな男たちに抑えられ、地面に組み伏せられていた。どんなに抵抗したくとも子どもの力ではどうしようも出来ず、己の無力さを自覚した。

 

「そうだァ! コイツの目の前でヤるのはどうだぁ!?」

 

「「賛成ェ〜〜!!」」

 

「止めてくれ!! 妹には手を出さないでくれ!!!」

 

 兄の必死な懇願も、性欲に脳を支配された男達には一切届かない。ここで何も出来ず、全てを奪われるのかと絶望した兄だったが、ここで奇跡が起きた。

 

「…………誰だテメェ」

 

 兄の背後から、誰かが歩いてきていた。足音から察するに身長160cm前後の女。だが異様な強者のオーラを感じる。

 

「女……? いや男……? どっちだ?」

 

「…………いや女だ!! 匂いで分かる! 仮面で顔を隠しているが女だァ!!」

 

「わざわざ俺たちと遊ぶために来てくれたのかァ? 大歓迎だぜェ?」

 

 男達は息を荒くしながら、オールマイトのお面を着けた女を見つめる。

 女は組み伏せられた兄の方に目を向けた後、不良集団に向けて無数の氷の弾丸をぶつける。弾丸に触れた不良たちは一瞬で凍結し、見事な氷像へと生まれ変わった。

 

「テメェ!! 何しやがる!!!」

 

「よくも俺たちに楯突いたなァ……? 殺してやるからそこで大人しくしろ!!」

 

 不良集団は妹を突き飛ばし、お面の少女を囲み始める。完全に逃げ場を失った少女だったが、呼吸は一切乱れておらず、冷静に状況を見据えていた。

 囲んでいた一人の男が少女に殴りかかったが、少女は回避しつつ拳を顔面に当て、男を完全にのしてしまう。続けて2、3人の男たちが襲いかかってきたが、裏拳、回し蹴り、肘鉄で全てダウンさせ、残りの男たちもまとめて魔法で吹き飛ばした。

 

「なんだ……コイツ……!」

 

「女の癖に……強過ぎだろ……」

 

 不良集団がうめき声をあげながら地面を転げ回っている中、女は少年の方に目を向けた。

 

「そこのキミ」

 

 少女が兄の方を見ながら言う。

 

「キミはこの街をどうしてほしい?」

 

「え?」

 

 兄は、どう答えればいいのか困惑した。どうしてほしいかなんて、少年は今まで考えたことがなかった。この街は親も周りも何もかもゴミで、今すぐにでも抜け出したい地獄のような場所であって、人ひとりの力でどうこうできるような場所ではないと本気で思っていた。

 しかし聞かれた以上答えるしかない。この女がこの街をどうする気なのかは分からないが、少年は昔からずっと思っていたことを口に出した。

 

「……妹が、のびのびと過ごせるような、街になってほしい……?」

 

 素直に答えてみたものの、途中から自分でもよく分からなくなった。言ったところで何の意味もないのに、何故自分は意味もなく願いを口に出しているのか。仮面の女の凄さに頭をやられてしまったのだろうか。

 

「分かった」

 

 仮面の女は少年の願いを聞き届けると、両手を地面についた。そして女を中心に街全てを飲み込む巨大な魔法陣が形成され、大量の魔力が流し込まれる。

 すると、錆びれてボロボロだった街の建物や道路が息を吹き返すように再構築され、新市街地と変わらない姿へと変化していった。

 

「えっ? えっ? えっ? え?」

 

 少年は目を疑った。現実とは思えない現象に腰を抜かし、立ち上がろうにも立ち上がれない。

 

「インフラは整備したから、あとは治安と食料と経済復旧かな? 長居出来ないから早めに終わらせるか」

 

 仮面の女はその後、潜伏していた犯罪組織全てに訪問し、()()()()()、元犯罪組織の人達にこの街の住民として暮らしてもらい、店を経営してもらうことを約束した。必要な技術や知識に関してはネットなどで得た情報を直接脳に植え付けることで即記憶してもらい、仕入れルートも仮面の女が確保。さらに元々この街を取り仕切っていた人間たちともお話をし、新しい市役所の公務員として働いてもらうこととなり、街の運営を任せることにした。そして女は隣の新市街地の市長と直接連絡を取り、お話した後、旧市街の支援を要請。市長はこれを容認し、旧市街地の復興を援助することとなった。

 

 この間、たったの3日。そして1〜2週間後には店も開店するらしく、近々小中学校が建てられることも決定した。さらに街の中央には無限に水を生成する水晶が設置され、水道が復旧するまでの期間限定だが、綺麗な水がタダで飲めるということで街の住民は喜びの声をあげた。

 また食料に関しても少女が1年分の食料を市役所の倉庫に大量補給したことで、街の食料問題も一時的にだが解決した。さらにさらに街の復興を記念して祭りが開催され、少女が住民たちに大量のお酒を振舞ったことで大盛り上がりし、街の人達は互いに肩を組み合いながら大声で合唱した。

 

「え?」

 

 少年は理解できなかった。地獄だと思っていた場所が、たった数日で天国に変わってしまったのだから。

 

 ハッキリ言って意味不明だった。なんで、険悪だった大人たちが互いに肩を組んでいるのか。なんで妹を襲った連中が反省して謝ってきたあげく、平和にサッカーを楽しんでいるのか(しかも誘われた)。なんでたったの数日でここまで変わってしまったのか。

 

 少年の常識は完膚なきまでに破壊され、その元凶たる仮面の女を見て得体の知れない恐怖を感じた。

 もしあの時、少年がお面の少女に『この地獄みたいな街をぶっ壊してくれ』と頼んでいたら、どうなっていただろうか。本気でぶっ壊したのだろうか。それとも想像を遥かに超えるようなエグい方法で、街ごとリセットしたのだろうか。

 

「少年?」

 

「ヒッ!!?」

 

 お面の少女に話しかけられ、兄は酷く驚いた。死んだかと思うくらいに心臓が飛び上がり、バクバクと音を鳴らす。

 

「そんなに驚く?」

 

 仮面の女は首を傾げながら言った。

 

「ま、そんなことより、キミもあっちに混ざんないの? 妹はさっきまで私が見守ってたから無事だけど、そろそろ兄貴が恋しいだろうし」

 

 女はそう言うと、少年の顔を見据えながら地面に座った。

 

「あぁもしかして、街がめっちゃ変わったことにビックリしてる? ……いやぁゴメンね? 本当は悪いヤツぶっ飛ばしてハイ終わりにしようと思ったんだけど、この街悪いヤツしかいないからどうしようもなくてさ……」

 

「仕方ないから街ごと改造するしかないと思って全部ひっくり返したんだけど……戻した方がよかった?」

 

 戻す……と聞いて全力で首を横に振る少年。その様子に少女はクスッと笑うと、また話を続けた。

 

「そういえばキミって親とかいる? いなかったら代わりに私が市役所に相談するし、何なら一から親作って記憶改竄してあげられるけど、どうする?」

 

 何やら不穏なワードが聞こえたが、一応片親はいるので問題ないと伝えると、女は納得した。

 

「じゃ、最後にキミと妹にも渡しておこう」

 

 少女は少年に旗のようなものを2つ分渡した。

 

「魔女が……来た……?」

 

 少年は旗に書かれたメッセージを読んだ。

 

「そう、これは魔女からのプレゼント。もし魔女を知らない人に出会ったら、私のことについて広めてほしい。あぁ、暇な時でいいから」

 

 女はそう言うと立ち上がり、少年に背を向けてどこかに向かっていく。

 

「どこ行くの?」

 

 少年は女に聞いた。

 

「…………次の街に向かうよ。あんまり長居するとみんなに迷惑かけるし、困っている人は他にもたくさんいるからね」

 

 迷惑と、自ら口にした彼女は少し悲しげな表情をしていた。

 

「……気を、つけてね」

 

 少年は声をかけた。少女の旅の無事を願って。

 

「……分かった」

 

 お面の少女はそう言うと、指を鳴らして箒を取り出し、それに跨って空を駆けた。その姿はまるでおとぎ話に出てくる魔女そのもので、とても美しい。

 

 彼女が分かったと言った以上、本当に大丈夫なんだろう。それだけは自信もって言えた。

 

「…………ありがとう、魔女さん」

 

 少年は月を見ながら、そっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

【アフリカ スコーンダゴン国】

 

 

【国境付近】

 

 

 スコーンダゴン国はアフリカ大陸の中央付近に位置する国で、内戦が絶えない国として有名である。

 個性が世界中で発現する前から内戦が続いており、ヨーロッパ諸国のバックアップを受けた北部と中国のバックアップを受けた南部による代理戦争が行われていたが、個性の発現により事態は悪化。特に南部の人間の一部が異形個性に目覚めたのを利用し、北部上層部の人間が宗教団体を焚き付けたことが内戦激化のきっかけとなってしまった。

 ある宗教団体の宗主は異形個性に目覚めた人間を"悪魔"や"邪神の使い魔"、"異端者"、"異教徒"と罵り、浄化と称して次々と異形個性持ちの人間を虐殺していった。また異形個性でなくても"隠れ異教徒"であると決めつけ、子どもだろうと女性であろうと関係なく殺害していった。

 その結果、拗れに拗れた北部と南部の関係は停戦協定を結んだ後でさえも争いを繰り広げ、特に北部と南部の境目では常に互いを睨み合っている。きっかけさえあれば殺し合うという、非常に危険な状態がここ十数年間続いており、国連や国際ヒーロー連盟が内戦防止に働きかけてはいるものの、未だ止む気配はない。

 

 そして今日も、北部と南部は互いに不審な動きがないかチェックし合っていた。

 

「……北部のクソ共、いつまでも大人しくしやがって。さっさと本性を現しやがれ」

 

 南部で北部の人間たちを監視していたある男は、壁の中の小さな穴の近くで自動小銃を構えながら様子を伺っていた。

 

「…………ん?」

 

 男は銃を構えたまま空を見上げると、見知らぬ人間が箒に乗って空を飛んでいた。北部の連中が寄越した人間、……にしては随分と格好が奇抜で、しかも飛んでいる場所がちょうど北部と南部の境目という、挑発行為だと受け取っても差し支えないほどの暴挙。これはつまり、北部の人間からの宣戦布告ということだろうか。

 

「上等だ、撃ち落としてやる」

 

 男は照準を空飛ぶ人間に合わせた。そして他の監視者たちも空飛ぶ人間に気づき、同様に照準を合わせる。完全に捉えた、そう思い監視者たちは一斉に銃弾を放ったが、空を飛んでいた人間はそれに気づくと謎の力で銃弾を空中で制止させた。

 

「は?」

 

 鉛玉が通用しない、その事実に男は驚かされる。今までは銃弾を避けたり、わざと銃弾をくらいながら敵陣に突っ込んできた人間はいたが、眼前まで迫った弾丸を制止して無力化させた人間は初めて見た。兵器を無力化出来る人間なんて北部にいただろうか。

 

 男が首を傾げていると、空を飛んでいた人間はゆっくりと地上に降り立ち、箒をパッと消してしまった。

 どういうつもりかは知らないが、これ以上うろちょろされるわけにも行かないため、男は仲間の監視者たちを連れて壁の裏から飛び出し、降りてきたヤツに銃口を向けた。

 

「女……? しかも、北部の連中も銃を向けてる……?」

 

 色々と理解出来ず苦しむ。連中の差し金では無いとしたら、この人間はいったいどこの人間なのか。中国からの援軍……にしては1人しかいないし、連絡も来ていないが、見た目はアジア人。ということはやはり味方……ということなのだろうか。

 

「……撃ったのはお前か?」

 

 推定アジア人が自分に向けて指を指し、アジア人にしては流暢な言葉遣いで問い詰めてきた。

 

「……てっきり北部のゴミ共が開発した殺戮兵器だと思ってよ、つい撃っちまったよ」

 

「あ"ぁ? コイツは南部の猿共が召喚した異形の悪魔か何かじゃねぇのか?」

 

「だれが猿だァ?」

 

「あぁ、お前らは猿じゃなかったわ訂正するよ。猿にすらなれない猿以下の化け物共が」

 

「魂すら腐り果てた脳無しの妄執信者共がご大層な面して見下してんじゃねぇよカス」

 

「「あ"?」」

 

 思わぬ飛び火が可燃物の大量投下によって勢い良く燃え盛り、今にも北部VS南部の大戦争が起きようとしている中、そのちょうど境目にいた推定アジア人がおずおずと口を開いた。

 

「……あの、撃ったことに関してはぶっちゃけどうでもいいとして、撃った理由だけ知りたいんだけど教えてくれない?」

 

「引っ込んでろ部外者」

 

「黙ってろよクズ」

 

「えぇ…?」

 

 腰を低くして聞いてみたものの、罵倒しか返ってこなかった。

 

「……分かった、そんなに言いたくないなら勝手に心を読むから」

 

 そう言うと、アジア人の体から赤いコードが生え始め、第3の目を形成しつつコードと脳を接続する。

 そして閉じた第3の瞳が開眼した瞬間、相手が今考えていること、感じていること、それら全ての情報が頭の中に入っていく。さらに深く見つめれば記憶の断片を覗き見ることができ、そこからさらに欲しい情報だけを頭にインプットする。

 これによりこの国の状況について大まかに知ったアジア人こと結依魔理沙(分身)は、国境の上で両腕を組みながら頷いた。

 

「昔から続く北部と南部の戦争、北部の宗教団体による異形個性の弾圧、虐殺が激化の原因、何度も破れられた停戦協定、……後は私怨だな」

 

「撃ったのは北部の人間の襲撃だと勘違いしたから、で合ってる?」

 

「黙れ。さっさと金置いて中国に帰れ」

 

「イエローモンキーは大人しく檻の中でバナナでも食ってな」

 

「……怒るよ?」

 

 あまりに目に余る態度に魔理沙は拳を握りしめた。だが暴力を振るったところで何も変わらない。むしろ彼らの闘争心や腹黒魂を刺激してしまい、悪化する危険性がある。というかもう悪化している。私がうっかり国境線上を飛んだ時から。

 

「じゃあ分かった、私は今から神様代理です。もしこの場でもう一度北部と南部が停戦協定を結んでくれたら何でも望みを叶えてあげます。北部と南部それぞれ2回までで」

 

「「は?」」

 

 戯言のようにしか聞こえないセリフに、魔理沙以外の全員が首を傾げた。

 

「……お前が、神様代理?」

 

「そう」

 

「バカじゃねぇの?」

 

「バカじゃありません、神です」

 

「本当に何でも叶えるんなら、試しに何かやってみせろよ」

 

「じゃあデモンストレーションで死人を蘇らせます。誰でもいいので死体を持ってきてください」

 

「……分かった」

 

 南部の男の一人がその場を離れ、最近死んだとされる男の遺体を荷車に乗せて戻ってくると、魔理沙の目の前でゆっくりと下ろした。

 

「コイツは俺の親友だ。昔、北部との戦争中に銃弾が頭に命中して、ずっと寝たきりの生活をしてたんだけど、つい昨日死んだんだ」

 

 運ばれた遺体を前にして魔理沙はしゃがみこみ、じっと顔を見つめた後、右手の平に破壊の目を形成した。魔理沙はその目を握り潰すと、頭の中に残されていた銃弾が跡形もなく破壊され、その後回復魔法(ベホイミ)で傷ついた部分を修復。最後に復活の呪文(ザオリク)を唱えると、死んだはずの男は元気に蘇った。

 

「嘘……だろ……?」

 

 親友が蘇ったことで男は親友とハグしながら喜びを分かちあっていたが、それ以外の人間はただただ今起きた事実を受け止めきれず、呆然と立ち尽くしていた。

 

「本当に……神様?」

 

「違うけど、似たようなもん」

 

「もし停戦協定組んだら、戦争中に死んでしまった家族も生き返るの……か?」

 

「もちろん」

 

「俺を大金持ちにすることは!?」

 

「お金はつくれるけど重罪だからダメ」

 

「俺の個性を、別の個性に変えることも出来るのか!?」

 

「それは………出来なくもないけど、今は出来ない」

 

「俺を強くすることは!?」

 

「どう強くなりたいのか知らないけど、個性をさらにもう一個追加したり、骨格変えたり筋肉モリモリにすることは出来る」

 

「伝染病を治すことは出来るか!?」

 

「出来る。何なら伝染病の根絶も可能」

 

「おそといきたい!」

 

「……国内ならどこにでも連れてってあげるよ」

 

 その後も魔理沙は質問に答え続け、出来ることと出来ないことを説明した。

 

「ちなみに願いを叶えるって言っても、北部と南部からそれぞれ代表者を一人決めてもらって、その人の願いを叶えるという形式だから。全員は叶えられません」

 

「それともし結んでもらった停戦協定をまた破棄した瞬間、契約違反で代表者および関係者席全員にペナルティが課せられるから注意するように」

 

「ペナルティ……!」

 

 不穏なワードに戦慄する人たち。人間を生き返らせる力を持った存在が課すペナルティ、その内容について想像するだけで背筋が凍る。

 だが実際のところ魔理沙はペナルティを課すつもりは無い。あくまで脅しであり、契約が破棄された場合は叶えた願いがリセットされるだけ。それ以上の罰は発生しない。

 

 私はあくまで第三者、これ以上深入りしないし干渉もしない。あとはここに住む人たちが決めるべきだ。

 

「願いは決まった?」

 

「……代表者を決める時間含め、あと3日ほど時間をください……」

 

「分かった」

 

 申し入れを受け入れた魔理沙は3日間、国境線上で待ち続けた。その間、北部と南部の子どもたちが遊びに来たため、魔理沙は魔法を使った手品などを披露し、子どもたちと交流を深めていった。

 

 そして3日後、北部と南部の代表者が集い、魔理沙の元に訪れた。

 

「要望をどうぞ」

 

「……我々北部の願いとしましては、直近10年以内の戦死者の蘇生がひとつ……」

 

 北部の代表者は一呼吸置くと、再び口を開いた。

 

「そしてもうひとつは……、()()()()()()()()()させていただきたい」

 

 代表者は笑みを浮かべる中、南部の人たちは全員驚きの声をあげた。

 

「それはズルくないか?!?」

 

「もし貴方様が北部にお越しくだされば、貴方様を教会内の特別賓客として迎え入れる予定です。不自由の無い暮らしを保証します」

 

「いらない」

 

「いら……、え?」

 

「いらない」

 

 終始真顔の魔理沙に、北部の代表者は首を傾げた。

 

「他に要望が無いなら先に南部の人から聞きます。どうぞ」

 

「ちょ…ま」

 

「え〜〜、私たち南部の願いは、戦争で亡くなってしまった非戦争参加者の蘇生と、"異形に対する差別意識"をこの世から無くすことです」

 

「…………」

 

 魔理沙は目を瞑り、苦悶の表情を浮かべながら考えた。

 

「……流石に無理ですか?」

 

「…………出来る、けど無理だ」

 

「どうしてですか……? 我々は毎日、見た目が少し違うだけで外部の者から石を投げられ、悪魔だと罵られ! 最悪殺されることもありました!」

 

外野から「そーだ!そーだ!」と、ヤジが飛んだ。

 

「しかし、怖さ故の罵倒は我々も理解出来ます。生まれて初めて個性に目覚めた時、私も自分自身に恐怖したのですから。……だからこそ、恐怖を生み出す原因である"ココロ"さえ変わってくれれば、我々は救われるはずなんです!!」

 

 南の代表者の心の叫びが、魔理沙の感情を強く刺激した。彼らの悲痛な叫び、痛み、同じ異形の姿をもつ者として非常に理解出来る。我々異形の個性を持つ者は生まれた時から人に嫌われ、避けられることは当然で、常日頃虐げられてきた。だからそんな嫌気のさす人生に不平不満を言いたくなる気持ちは死ぬほど理解出来る。

 ただ、彼らと魔理沙の間には決定的かつ致命的な差が存在する。それは"強さ"、魔理沙は生まれた時から圧倒的な力が備わっていた。だからどれほど虐げられようが嫌われようが魔理沙には関係なく、最低限力で全てを覆すことが出来てしまう。

 しかし、彼らは違う。彼らは単独でいじめっ子集団を打破できるほどの力は無い。世間が彼らを異物のように扱い、時に暴力を振るわれたとしても、対抗する手段があまりにも乏しい。

 

 ならば、願いを叶えてあげればいい。なんて安っぽい正義感で禁忌級(概念系)能力を使うほど私は子どもではない。私の手元にはちょうど世界中の人間から差別意識を丸ごと消す夢のスイッチが存在するが、これを押せば私以外の全ての人間の心が改変されてしまう。それすなわち、人格への干渉。人を人たらしめる根本的な部分を弄ることと同義である。

 

 それをやってしまえば、この世から純粋な人間は誰一人としていなくなる。今を生きる全ての人々はみな魔理沙の手が加わったもので、人形と大して変わらない。そうなってしまったが最後、魔理沙は史上最悪のヴィランとしてこの世に君臨してしまうだろう。

 

 魔理沙は感覚的にだがそれを自覚していた。なので一歩踏みとどまることが出来たが、踏みとどまったところで問題自体は解決しない。彼らの抱える差別問題は何十年も解決されてこなかった難問中の難問だが、何もしなければこの難問は多くの人を傷つけることになる。

 

「……分かった。その願いを叶えよう」

 

「本当ですか!?」

 

「だが私はあくまで()()()()を作るだけ。今すぐには実現出来ないし、多くの人間の協力が必要だ」

 

 魔理沙は諭すように、真剣な表情で彼らの顔を見ながら言った。

 

「え? 当たり前じゃないですか?」

 

「え?」

 

 思ってた反応と全く違う反応が返ってきて、魔理沙は困惑した。

 

「いやぁ〜流石の神様といえど、一発で全人類の心から差別意識を消すなんて芸当出来るとは思ってないですよ〜! ただ一緒に異形個性への差別反対を訴えてくれるだけでも嬉しい限りで…………あれ、神様?」

 

 魔理沙は人生で挙動不審になった。

 

「もしかして、…………一発で出来るんですか?」

 

「…………スゥーッ」

 

 魔理沙は一旦大きく息を吸ってから、ゆっくりと肺の中の空気を押し出した。

 

「秘密」

 

 魔理沙は人生で最高に何とも言えない表情をしていた。それを見た北部と南部の人たちも皆、何とも言えない表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【日本 大阪府】

 

 

 

「キミちょっとしつこ過ぎるんじゃないかぁ!?」

 

「…………」

 

 現在、大阪府大阪市上空にて、オールフォーワンと仮面を被った結依魔理沙が空中で攻防戦を繰り広げていた。

 なお、この結依魔理沙は能力を分け与えた半コピー体であり、概念系能力を除いた全ての能力を持ち合わせている。そのため、オールフォーワン相手でもある程度立ち回れていた。

 

 個性を複合することで放つことの出来るレーザー光線や、リヴァイアサンを模した龍のオーラが襲いかかるも、それら全てを避け切り、魔理沙は一気に距離を詰めた。

 オールフォーワンは再び衝撃反転で魔理沙の物理攻撃を反射すべく構えた。だが衝撃反転は手の接触をトリガーに発動する個性であり、全身に纏っているわけでは無い。刑務所内での戦いで学んだ魔理沙は左右の拳でフェイントを織り交ぜながら着実に胴体を攻撃し、さらにハイキックからの瞬間移動でオールフォーワンの片足を掴み、回転しながらオールフォーワンを向こうの山まで投げ飛ばした。

 

「地獄の底で後悔しろ」

 

 魔理沙は天に向けて右腕を掲げると、曇り空を書き分け太陽の光が魔理沙ただ一人に差し込む。そして太陽が隠れ光が途絶えた時、魔理沙の右腕には神々しく光り輝く謎の篭手が装着されていた。

 その篭手はまるで翼を広げた鳥のような形状をしており、魔理沙が左手で翳すと、篭手の先から光粒子で構成された特殊な短剣が形成された。魔理沙は光り輝く短剣をオールフォーワンに向け、力を込めると、"ギャラクシーカノン"という光波熱線が放たれ、山諸共大爆発を引き起こした。なお、完全に山を破壊しない程度には調節したため、せいぜいオールフォーワンが大規模の土砂崩れに巻き込まれる程度の被害しか発生しなかった。とはいえ光波熱線の直撃を受けて無事なはずもなく、オールフォーワンは焼け焦げた皮膚を擦りながら何とか土砂崩れから脱出し、一般道路に身を投げ出した。

 

「何故だ、何故彼女は強い……!?」

 

 全身ボロボロになりながらも、オールフォーワンは出来るかぎり魔理沙から離れようと立ち上がり、左足を引きずりながら山の反対側へと回り込もうとした。

 初めて姿を見た時、確かに能力は強かった。しかし、それを使いこなす才はそれほどでもないと高を括っていた。しかし彼女は僅かな手がかりで潜伏先を見抜き、今こうしてエネルギー光線を正確にぶち当ててジリジリと追い詰めている。

 さらに聞いた話によると、彼女は今世界中に分身体を送り出して活動しているそうだ。目的は分からないが、あまりにも厄介過ぎる。彼女を殺すプランの1つとして集団襲撃を考えていたが、このプランは完全に潰えた。

 

 とにかく今は生き残ることだけを考え、ワープの個性で安全に逃げるためにできるだけ彼女と距離を離す。ここで彼女と争ったところで不利になるのはこちらで、個性も何故か奪えない以上、戦うメリットは何一つない。

 こんなことなら黒霧から個性を奪えば良かったと、オールフォーワンは人生で初めて後悔した。今オールフォーワンが所持しているワープ系能力はかなり使い勝手が悪く、移動可能範囲が5km以内で完全発動までも時間がそこそこかかってしまう。なので見つかる前にワープ能力を起動しなければならない。

 

「見つけた」

 

 魔理沙は2km離れた位置からオールフォーワンの姿を捉え、100円玉を人差し指と親指の間に挟んだ。魔理沙が親指に力を込め始めると、摩擦が生じ100円玉を中心に放電が発生。さらに100玉に合わせて2本の電極棒を挟み込むイメージをし続けることで電磁力を両サイドに発生させる。右腕が砲身代わりである以上、磁場は可能な限り強くしたいため、磁力を発生させるスタンド(メタリカ)で右腕を強化。さらにメタリカには磁場を制御してもらい、速度表皮効果を軽減させる。

 超電磁砲(レールガン)は膨大な電力によって放出された熱エネルギーと、射出後の摩擦熱が100円玉を融解・蒸発させるため、実際の射程距離は兵器と比べてかなり短い。そのため射線上にスキマを設置し、空間同士を繋げておくことで100円玉が溶け切る前にオールフォーワンにブチ当てる。

 

「喰らえ、人力超電磁砲(じんりきレールガン)……!!」

 

 人差し指が限界に達した時、魔理沙は発生した推進力に身を任せて親指を弾いた。弾いた瞬間の反動は齢4歳の魔理沙の肉をズタズタに引き裂き、骨にヒビが入るほど強く、再生能力で修復可能したもののかなり痛かった。

 

 勢いよく射出された100円玉はマッハ4.7で周囲の大気をプラズマ化しながらスキマに突入、そして逃げる寸前のオールフォーワンの目の前にスキマの出口が形成され、100円玉は一瞬でオールフォーワンの左胸を貫いた。

 

 確実に命中した、そう思いオールフォーワンの様子を確認しようとしたが、どこにも見当たらない。肉片すら残さず消し飛ばしたわけではないので、どこかに隠れていると思い込んだ魔理沙だったが、先程までオールフォーワンがいた場所の近くに血痕を発見した。その血痕はポタポタと途中まで続いていたが、5、6歩進んだあたりから跡が完全に消えており、どこにも続いていなかった。

 

 この状況から察するに、オールフォーワンはレールガンの一撃をくらいながらも無理矢理ワープゲートで脱出した、と考えられる。左胸ではなく足や腰を狙っていれば動きを封じられたかもしれないが、あの時は当てることに集中していたのでそれ以外のことは何も考えていなかった。完全に魔理沙の落ち度であった。

 

「チッ……」

 

 またもや逃げられてしまった魔理沙は捜索を諦め、父考案の作戦実行に切り替える。この作戦は自身の正体を隠しつつ、可能な限り多くの人々を救わなければならないため、人手はいくらあっても足りない。

 

「……落ち着け、また反応があったらとっ捕まえに行けばいいだけ……今は作戦に集中だ」

 

 魔理沙は自身にそう言い聞かせると、上空を飛び困っている人間がいないか探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 結依魔理沙が行動を開始したその日から、世界各国で魔女に関する目撃情報が増えた。その魔女の見た目は国や地域で必ずといっていいほど一致せず、低身長から高身長、痩せ型から肥満型まであらゆる姿が目撃され、どの魔女も別々のお面を被っていた。しかし、戦闘の苛烈さはどの国においても共通で、プロヒーローが束でかかってきても敵わないと思わせるほど強烈であった。

 

 "Witch's here(魔女が来た)! "、この言葉と共に颯爽と人々を救う姿は多くの人々の間で反響を呼び、SNSを通じて世界全体へと拡散していく。彼女の正体について考察する人も数多く現れ、『集団幻覚説』、『オールマイトの後継者説』、『世界を裏から支配している秘密組織が人工個性持ちのクローン人間を大量に解き放ち、表世界を支配しに来た説』、『ただのCG説』、『一人の悪ノリから始まった集団ミーム説』など、世界中で注目を集めた。ニュース番組にも取り上げられ、直接取材を試みようとした者たちも現れたが、魔女は全く姿を現さなかった。

 警察は魔女たちを『世界規模で活動する自警集団(ヴィジランテ)』とし、『彼女らの行動は非合法であり、取り締まりを受けるべきだ』と述べた。また今後も彼女らの行動は監視し、引き続き調査を行うことにした。

 これにより、集団幻覚説、CG説、集団ミーム説は完全に否定され、ネットはさらに盛り上がりを見せていた。

 

 神出鬼没の魔女、そのあまりの話題性の大きさから、"アメリカ最大の刑務所にて数名の囚人が脱走"というビッグニュースは人々の目に留まらず、鳴りを潜めてしまったことに誰も気づいていない。それは魔理沙にとって非常に都合がよく、まさに"計画通り"であった。

 

 結依魔理沙がヴィランになることなく刑務所を脱出し、自由を勝ち取るには、相手に"存在そのもの"を認めさせなければならない。認めさせる相手はなるべく"権力"を持った組織がいい。各国の政府や国際警察、連合、その辺りを丸め込むことが出来ればおそらく自由は保証されるだろう。だが私のような危険因子の塊のようなものは保守派の人間からすれば邪魔以外の何物でもない上に、信用も人脈も無い以上、丸め込むのは相当難しい。

 

 政府とはまた別の権力として"国民"を味方につけるという手段がある。国民、すなわち世論が味方につけば政府と言えどそう簡単に手出しできなくなる。ただし、民意というものは時代の流れや小さな出来事1つで大きく変わる。そのため、ヒーロー活動を続けていたとしても自由や安全が保証されるとは限らない。その不安定さに加え、私が活躍し過ぎるとヒーローとしての機能や国の防衛機能を私に依存するようになり、私の影響力が不必要に大きくなってしまう可能性もある。俗に言う、『全部アイツで良くね?』現象を引き起こすと、当然私は公僕となり、全ての行動に責任が付きまとうようになる。それは私の抱える理想の"自由"とは大きく外れてしまう。

 

 私の理想は膨大な力を持ちつつも公的機関に縛られることなく、庶民的な生活を送ること。世間を味方につけ、完全なヒーローになってしまうと変に神格化されてしまう危険性がある。なので出来る限り世間にはバレず、政府や上層部には認知してもらいつつも黙認してもらえるような、そういう状況を作りたい。そのために私は世界中であらゆる問題を解決しているのだが、この状況づくりを根底から破壊しかねない事案が一つある。

 

 それはアメリカNo.1ヒーロー、スター&ストライプ。彼女は既に私の素顔を見ており、私がカメリア刑務所の脱走者であることも完全にバレている。彼女が本当のことをSNS上に発信したり、マスメディアに情報を流したり、国会議員や大統領に告げ口をした瞬間、私の世間に対するイメージは"Witch like hero"から"刑務所から脱走したヴィラン"へと転じてしまう。この最悪のパターンだけは何としてでも避けたい。

 なので、その辺の口封じは両親に任せた。父はスター&ストライプと面識があるので話し合いの場くらいは設けられるし、上手く行けばスター&ストライプと関わりのある人間全員を丸め込むことが出来るかもしれない。連絡が来てないので今どういう状況なのか全く分からないが、今のところ私の正体がSNS上で拡散されていない以上、多分大丈夫なのだろう。

 

 後はホワイトハウスにカチコミをかけ、秘密裏に条約を結ぶ。その内容については後で考えるが、最低条件として在籍は日本のまま、過干渉禁止、親族への干渉も禁止としたい。

 

 上手くいくかは分からないが、私の今後の人生がかかっている以上、失敗は許されない。

 

 

 理想は必ず手に入れる。

 

 

 

 

 to be continued....

 

 

 

 

 

 

 






次回で1.5章は終了!


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