最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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【あらすじ】

"仮面の魔女"もとい結依魔理沙の暗躍により、世界各地の紛争問題、食料問題、治安問題等が解決され、"仮面の魔女"を支持する勢力がアメリカを中心に爆増した。これもすべて魔理沙が自分のためにしたことであり、世界は彼女の影響によって少しづつ変化していった。

自由に能力を使えて、誰かの言いなりにもならない理想の人生を求めた魔理沙はアメリカでの因縁を断ち切るべくホワイトハウスに向かっていった。





自由と秩序(4.XXX話)

 

 

【アメリカ ホワイトハウス邸前】

 

 

 

「なぁ、ボブ」

 

「どうしたクリス」

 

「最近、変なニュースばっか流れないか?」

 

「魔女のことか?」

 

「あぁ、アイツが出てきてからニュースが全部胡散臭く見えて仕方がないんだ」

 

「魔女がアフリカの紛争を止めたとか、死んだサンゴ礁を蘇らせたとか、南極の氷を復活させたとか?」

 

「そうそう。あとは伝染病を根絶させたとか、街を一から作り出したとか、人間を蘇らせたとか」

 

「流石にデマだよな?」

 

「どうせネットしかやってない連中がコラ画像作りまくって適当なこと言ってんだろ?」

 

「全く、フェイクニュースはSNSだけにしろってのに」

 

「テレビがフェイクニュース取り扱ったら終わりだよなぁ」

 

「実は俺たちが今まで見てたのはニュース番組じゃなくてコメディ番組なんじゃね?」

 

「絶対それだ。クリス、お前は天才だ」

 

「あったりまえだろう?」

 

 上機嫌なクリスと陽気なボブ。二人は現在ホワイトハウス内で行われている会議を邪魔されないよう、周辺の警護をしている。とはいえ、こんないかにも警備体制のしっかりした場所にわざわざ凸りに行くヴィランなど誰もおらず、正直暇だった。

 

 だが、今回は違った。遠くから誰かがこっちに向かって歩いてきており、迷う素振りもない。全体的に黒と白を基調とした服を着ており、頭には魔女が被るようなトンガリ帽子を被っている。

 

「そこの人、止まりなさい。関係者以外は立ち入り禁止だ」

 

アントニオ

 

 顔面真っ黒の、どう見てもアジア人にしか見えない人間は何の脈絡もなく自己紹介をし、そのままボブとクリスの間を素通りした。

 しかし二人は彼女を止めはせず、まるで旧知の友人のように対応した。

 

「……アントニー! お前久しぶりだなぁ! 連絡が無かったから心配してたんだぜ?」

 

「俺たち昨日飲みに誘おうとしたのに全然既読つかないからさぁ、嫌われたのかと思ったよ」

 

「すまんすまん」

 

 顔面真っ黒の少女は体良く謝ると、二人は笑顔になった。

 

「いいってことよ! 俺たち親友だからな、酒でも奢ってくれたら許してやるよ」

 

「おいおいクリス、アントラーは国会議員で忙しいんだから無茶言っちゃ可哀想だろう?」

 

「あ、そうだったか? すまんなアルフレッド、暇が出来たら一緒に飲もうな」

 

「そうだね」

 

 ■■■■■は笑顔で二人に手を振ると、二人も元気よく手を振り返した。

 

「「またなー、アリス(アルトリア)」」

 

「…………ん?」

 

 二人は■■■■■を見送ったものの、ふと我に返る。

 

「今通ったの……誰だっけ?」

 

「アレだよ……幼なじみで同級生の……アレだよ」

 

「違う違う、大学時代の飲み仲間のアイツだよ……えぇーっと、誰だ……?」

 

 ボブとクリスは延々と頭を悩ませたが、名も知らぬ友人の名前を思い出すことは無かった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

【ホワイトハウス官邸内】

 

 結依魔理沙は人と出会う度に、生体信号を操作する能力と正体不明にさせる能力で別人だと思い込ませ、時間差で忘却魔法を起動させるという、割と高度な離れ技で官邸内に易々と侵入した。

 

 会議の場所が分からなかったが、道行く人の心を読むことで場所を把握し、ついに魔理沙は己の自由をかけた決戦の地へとたどり着いた。

 

 ドゴォ!! 

 

「!? 何だ……!?」

 

 蹴り破られたドアがバタンと倒れ、舞い散る埃の中から白黒の魔法使いが姿を現した。

 

「魔女です」

 

「「魔女……!?」」

 

 その場にいた人の多くが困惑する中、軍人と思わしき人が冷静に指示を下した。

 

「すぐに拘束しろ」

 

 彼の指示に従った警備員たちが魔理沙を拘束すべく銃を構えたが、銃は一瞬のうちにして手元から消えた。

 

「流石にソレは危ないから、貰うね」

 

 そう言うと、魔理沙は警備員全員から奪った銃をすべてプランクブレーンに放り込んだ。

 

「何をしている! 今すぐ捕らえろ!!」

 

 再び軍人らしき人が指示を下したものの、警備員たちは一歩も動かない。虚ろな表情を浮かべながら常に地面を見続け、ただ何もすることなく突っ立っている。

 

「お話しましょう」

 

「……き、貴様と話すことなど何も無い!!」

 

「話してくれないとお仲間を官邸内で踊らせますよ?」

 

 魔理沙がパチンと指を鳴らすと、すべての警備員が陽気な音楽に合わせてオドループを踊り始めた。

 

「やめろやめろ! 官邸内で何やらさせてんだ!?」

 

「趣味です」

 

「知らねぇよ!!」

 

「というのは半分冗談で、これはあくまでデモンストレーション。その気になれば強制的に国のトップ全員を日本の■■総理にすげ替えたり、ヴィーガンをブッダに変えたり国の資産総額を気分で変更したり株価を強制的に上げ下げ出来るということを分かっていただきたい」

 

(嫌過ぎる……)

 

 魔理沙が指を鳴らすと、それまで席を立って魔女を糾弾していた人全員が即座に座り、全員の前に一杯のコーヒーが出現した。

 

「で、お前は何しに来たんだ……」

 

「とても良い質問です。ちょうど今からそれについて話すつもりでした」

 

「はよ言え」

 

 急かされた魔理沙は少し咳を漏らしつつも、終始笑顔で話を続けた。

 

「私がここに来た理由はただ一つ。日本、アメリカ、中国、韓国、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの9ヶ国と私で秘密裏に条約を結びたい。詳しい内容に関しては今から配る資料に記載されているので拝謁よろしくお願いします」

 

「意味がわからん……!」

 

 何処の馬の骨かも分からないコスプレ女一人と、9ヶ国の先進国が何故国際条約を結ばなければいけないのか、というかマジでコイツは誰なのか、この場にいるすべての国会議員が首を傾げた。

 

「これは最近の悩みなんですが、"何でも出来る"ようになると善悪の線引きがあやふやになるんですよ。まぁ、変なヤツらと絡みすぎたってのもあるんですが、何と言うか、だんだんヒトをぶっ飛ばすのが日常的になったというか……個性ブッパするのが日常になったというか……」

 

 ズズッと、魔理沙はコーヒーを1杯飲んだ。

 

「自由なのは気楽で良いけど、これ以上いくとたぶん人類悪になりかねません。なので"縛り"を設けたいなと」

 

「……君の個性は……何?」

 

「"食べた相手の能力をパクる"個性……だけど、食べてない能力までストックしてるから自分でも何があって何がないのか分かりません」

 

「分かってる範囲で、例えば?」

 

「時間操作、分身、蘇生魔法、概念消滅、転移、瞬間移動、空間切断、結界術、精霊魔法、即死魔法、支配、破壊、反射、召喚魔法、物質創造、運命操作、ミーム汚染、現実改変、治癒魔法、天候操作、天地創造、重力操作、気力操作、索敵魔法、属性魔法、確率操作、身体強化、変身、精神操作、地形操作、エネルギー操作」

 

「いや嘘にも程があるだろ……」

 

 何を言っているのか分からないが、ギリ分かる範囲で理解しようとしても己の常識が全力でそれを否定しようとする。

 時間操作? 蘇生? 分身? 瞬間移動? お前は大魔王にでもなったつもりか? そう馬鹿にしてやりたい気持ちの方が大きい。

 ならさっさと彼女の発言を切り捨て、ホワイトハウスへの不法侵入および業務妨害の罪で豚箱に入れるべきだが、誰も彼女を捕まえようとはしなかった。

 

 何故なら死ぬほど心当たりがあったから。

 

「最近、魔女に関するニュースが増えましたね。魔女の支援のおかげで新たに独立国家が誕生したり、長年に渡り続いた戦争が魔女の手によって終結したり……」

 

「⋯⋯最悪だ」

 

 全部繋がった、繋がってしまった。この女が"魔女"と自称した時から薄々感じてはいたが、最近世界中で引っ掻き回している"自称魔法使い"がいることはハッキリしていたし、それと同時にカメリア刑務所から"人類史上最も潜在能力の高い超危険人物が脱走した"との報告も受けていた。

 

 コイツだ。今目の前にいるコイツが世界中を()()で引っ掻き回している魔女本人。分身の個性で世界各地に散らばり、それぞれの国々で難題を解決し、大衆を味方につけてからホワイトハウスに潜入しにきた頭のイカれた人間。

 しかもそれだけでなく、彼女は半年前に自らカメリア刑務所に出頭し、先週なんの脈絡もなくいきなり脱獄してきた。いったい彼女は何がしたいのか、わけわからんのに力だけはこの世の誰よりも強いから誰も制御出来ない。

 

 今、この場で彼女が世界征服を始めたとしても為す術ないのが我々人類の現状だが、人類の支配権をもった彼女がわざわざ"縛り"を設けると言ってこの場に座っている。何なんだコイツは、マジで何が目的なんだ。何でウチに来たんだ。いくら世界でトップクラスの影響力を誇るからって、ここ説得しとけば他も上手く行くみたいなノリでこられても困るんだが。

 

 議員の間で緊迫した状況が続く中、魔理沙は気にせず話を続けた。

 

「これもそれも全て演出です。権利も威厳も何も無い私が出来る唯一の手段が、これしか無くて⋯⋯」

 

「いやもっと他にあっただろ……!」

 

 権利なんぞ、圧倒的暴力の前では塵に等しいだろうに。

 

「これで私の話の信憑性が増したと思うのでもう一度提案します」

 

「ちょっと待ってくれよ⋯⋯」

 

 全員頭が追いついていないが、魔理沙は構わず話を続けた。

 

()()()()()()()()()()()()。私は世界と対等で、あなた方人類の味方で、友好な関係であるという証明がほしいんです」

 

 人類の味方、そのワードにホッと一安心する者もいれば、懐疑的な者もいた。

 それもそのはず、自分よりも遥かに強い相手が『味方』だの『友好な関係を築こう』だのほざいたところで、『信用』が無い以上信じるもクソもない。裏切られた時の損失が敗戦以上の化け物とそう簡単に友好関係を結べるはずがない。

 魔理沙を信じられない大臣および議員たちはその本心が悟られないようポーカーフェイスを演じながら、彼女の()()を探るべく少しふっかけた。

 

「お前の話が本当なら、何故その能力で我々を支配しようとしないのだ。お前の指示ひとつでこの場にいる全員の言うことを聞かせられるだろう?」

 

 大臣の一人が魔理沙に問いかけると、魔理沙はヤレヤレと言わんばかりに両手を上げ、呆れた表情で答えた。

 

「……それやったらただの()()()()になるじゃん」

 

 先程までビジネススマイル全開だった彼女から笑顔が失われ、冷酷な表情に早変わりした。

 その冷たさは他人を拒絶した時のものではなく、彼女の背に積み重なった"孤独"の2文字が染み出したもので、人間社会から弾き出されてしまった彼女の怨念のようなものが滲んでいた。

 

 支配して、全人類の頂点に立って、いったい何になるのか。張り合う相手もいなければ話し相手もいない。そんなつまらない人生を歩んだところで満足するわけがなく、希望も楽しみも無い世界を無限の寿命で過ごすなんぞ地獄でしかない。

 

「私も、私の周りにいる人間も、()()()()だと思えるから生きていられる。だから私に支配する理由も価値も何も無いよ」

 

 魔理沙は魔法で生み出したコーヒーをもう1杯飲み干した。

 

「というわけで、私と条約結んでください」

 

「いや待て、まだ質問は終わってない」

 

 悲壮感溢れる雰囲気から一転して元の素っ気ない状態に戻る魔理沙。正直どの辺が本当でどの辺が嘘なのか、議員たちはサッパリ分からなかったが、少なくとも人らしい考え方を持っていることは分かった。

 もう少し探りを入れよう。この娘はいったい何なのか、我々は今何に直面しているのか。ここでハッキリさせなければならない。

 

「……ふぅ、とりあえず落ち着くために今の状況を整理しよう。まず、君の名前は……」

 

「結依魔理沙」

 

「OK、結依魔理沙。君の出身は日本で、年齢は不明。現在、世界各国に出現している魔女というのは君のことで、多くの国際問題を勝手に解決したと」

 

「ノーベル平和賞貰ってもいいと思う」

 

「OK、色々言いたいことはあるが一先ず置いておこう。とりあえず君がそういう行動に出たのは我々と対等に話し合いするためで、あわよくば社会的地位を保証してもらいたいと」

 

「YES」

 

 結依魔理沙は悪びれることなく頷いた。

 

「……そう言うのは君の祖国に頼むべきことであって、我々に頼むことじゃない気がするのだが」

 

 至極真っ当な意見に納得しかける魔理沙。しかし、事態がここまで面倒になった原因について思い出すと、魔理沙は表情を顰めた。

 

「いや、そもそも私を刑務所にブチ込むことに決めたのは国際連合とヒーロー連盟だ。なら、連合や連盟に対して多大な影響力をもつ国を説得するのは当然のことだと思う」

 

「……君は自分の意思で刑務所に収監されたのだろう? ならば大人しくしているべきじゃないのか?」

 

「残念ながらその刑務所はヴィラン連合と繋がっていて、なおかつ私が収監される際に交わした契約内容を無視して私の殺害を企てたヤツがこの中にいるって聞いたから、出向かざるをえなかった」

 

「「は?」」

 

 サラッと爆弾発言を残しつつ、魔理沙は再び魔法でコーヒーを生み出した。しかし本物のコーヒーと違ってカフェインは入っておらず、見た目と味だけ再現した偽コーヒーなのでお腹に溜まることはない。

 魔理沙が優雅にコーヒーを飲む最中、議員たちはヴィラン連合とカメリア刑務所が繋がっていたことについて話し合っていた。しかし、魔理沙殺害計画に関する話は一人もしなかった。

 

「この中に私の殺害計画を企てた人間はいますか?」

 

 魔理沙が満面の笑みを浮かべた。話題にしなかったことを根に持っているのか、話し合えと言わんばかりに圧をかける。

 そこで一人の陸軍司令官が恐る恐る手を挙げた。

 

「……恐れながら、我々は君の処遇についてほとんど関与していない。我々はただ報告を受けただけで、具体的な内容については国際ヒーロー連盟と日本政府が知っているはずだ。刑務所に関しては確かに我々の管轄だが、あくまで収監の許可を出しただけで君の殺害計画を立てた事実はどこにも……」

 

「う〜ん、ダウト」

 

 魔理沙は躊躇いなく嘘と断言した。

 

「言い忘れていたが私は人の心が読めます。感情の揺らぎも見えるので罪悪感とかも感じ取れるのですが、お前、騙すことに何の躊躇いも無いな?」

 

 陸軍司令官に圧をかける魔理沙。心を読んだ結果、殺害計画を企てたのはここにいる議員全員であり、博士の言う通りアメリカ政府は強力な個性所持者を秘密裏に処刑するプロセスが既に確立しているようだ。

 なので彼らにとって、このような事態を引き起こした魔理沙の存在は非常に厄介極まりない。私の発言がブラフであることに賭けてもう少し黙秘で通そうとする動きが見られるが、悲しきかな私は10点満点中11点の化け物。私がここに来た時点で駆け引きなど意味無いのだ。

 

「……言いがかりも甚だしい」

 

 案の定、言いがかりをつけてきた。

 

「証拠が欲しいなら上げます。私の脳に保存された映像をスクリーンに流すので」

 

 魔理沙は"イキュラス エルラン"と唱えると、魔理沙の記憶映像がテーブルの中央に投影された。しかし部屋が明るすぎて見えにくいため、魔理沙はついでに指パッチンで部屋の電気を消した。

 

『……』

 

『……』

 

 カメリア刑務所で起きた博士との対決、ヴィラン連合の長たるAFOとの会合、そして刑務所からの脱出に至るまでの記憶を映像化し、議員全員に確認をとった。

 

「随分とクオリティの高いフェイク動画だな」

 

「まだ疑うの?」

 

「君の個性が常軌を逸し過ぎて、本当に真実かどうか分からないんだよ」

 

 議員の意見に魔理沙はやや納得した。が、ここで引いてしまっては思う壺。常軌を逸しているのは重々承知だが、意見を通すためにもゴリ押しする必要がある。ただいかにしてゴリ押しするか。

 

 ここで魔理沙は閃いた。人間には"バレたくない秘密"というものが山ほどある。それは社会的地位が高ければ高いほど増えるし、バレた時のリスクがとても痛い。

 特に金、暴力、性行為に関する秘密はバラされると立ち所に社会的地位を失う。これを人質に能力を証明すれば変な追求もされることなく円滑に物事が進むかもしれない。少々幼稚な作戦だがインパクトは重要。交渉において格上のヤツらを相手するには、この作戦も致し方ない。

 

 魔理沙は少し残念そうな表情を取り繕って話し始めた。

 

「……分かりました。では証明のために今からランダムで3人選び、その人が昨日の夜9時から朝2時までに何をしていたかを映像化します」

 

「「……ッ!?」」

 

 魔理沙の唐突な発言に議員全員の背筋が凍りついた。

 

「たとえどんな内容であったとしても問答無用で映像化します。脱税してようが暴力行為してようがエッチなことしてようが何でも暴露します。証明のために」

 

 そう言うと魔理沙はおもむろに杖を取り出し、ゆっくりと立ち上がろうとする。

 

「結依魔理沙くんッ!!!」

 

 複数の議員が同時に名前を呼び、驚いて黙ってしまった魔理沙。名前を呼んだ議員は全員勢い余って立ち上がっていたが、冷静さを取り戻したのかゆっくりと席に座った。

 

「いったん、落ち着こうか」

 

「…………」

 

 魔理沙も一旦席につき、杖を胸ポケットにしまった。嫌がられることは分かっていたがあそこまで必死になるとは思わなかった。

 しかし作戦通り"秘密"を人質に取ることで私を都合よく言いくるめようとする動きに牽制をかけることが出来た。未来予測の結果、私が適当に言いくるめられて国際指名手配犯になる世界線から切り替わり、条約を制定し各国と友好な関係をもつ未来へと変化した。やはりゴリ押し作戦は間違いではなかったと、魔理沙は内心ガッツポーズを決めた。

 

 なお現在会議室では沈黙が続き、色々と気まずい雰囲気が漂う中、一人の議員が声を上げた。

 

「……とりあえず、条約の内容について聞かせてもらおうか」

 

 圧かけたおかげか、条約についてやっと触れてくれた。もう少し早く触れて欲しかったが、これで予測した通りの未来へ続くことだろう。

 魔理沙は心底嬉しそうな表情で答えた。

 

「そうだね。まず条約名は、"結依魔理沙の処遇に関する国際条約"で良いかな」

 

「まず私がどういう存在なのか最初に明記しておいて、その後私と条約を結ぶ意義について明記するだろう? その後はね、結依魔理沙に関する各国の禁止事項を記載する」

 

「禁止事項とは?」

 

「今考えている内容としては、1.国家権力を用いて私や私の親族に危害を加えたり、許可なく隔離したり研究することを禁ずる。2.これまでの結依魔理沙の経歴を抹消し、詮索することを禁ずる。3.結依魔理沙への敵対行為を禁ずる。4.結依魔理沙とは常に友好な関係を維持する。これを無視したものは結依魔理沙本人による超法規的措置による制裁が行われる、かな」

 

 魔理沙はとりあえず考えていたことを全部吐き出した。内容を簡潔に表すと、「私と親族に手を出したら潰すぞ」である。これ以外の条約は特に何も思い浮かばず、とりあえず面倒事さえ減ってくれればこちらとしては十分ありがたい。ただ念の為、普通の一般人を装う上であの経歴(刑務所収監&脱獄)は邪魔なので消して欲しいのと、仲良くしたいので最後に一文付け加えておいた。

 

「超法規的措置を行わずとも、自衛目的の個性使用はほとんどの国で許可されているため問題ありません。経歴に関しては我々で管理可能なので、抹消せずとも漏洩することは無いです」

 

 一人の議員がアドバイスおよび補足説明を付け加えてくれた。

 

「じゃあそれでいいよ」

 

(良いんだ……)

 

 あっさりと許した魔理沙に議員たちは困惑した。

 

「あと、日本のヒーロー公安委員会に入りたいから説得してほしい。あとで引越しの準備するから」

 

 唐突に変なことを言い出した魔理沙。なお、本人もついさっき思いついたことを今ここで吐き出しただけなのだが、理由は割と真っ当である。

 

「……何故日本の公安に?」

 

「国際条約結んでなお私に歯向かってくるヤツらを正当な手段で叩き潰すために」

 

「…………」

 

 議員たちは全員口が開きっぱなしだったが、魔理沙本人は割と真面目に答えた。言葉が悪いとか少ないのは後にして、魔理沙はその理由について議員たちに詳しく説明した。

 

 まずこの"結依魔理沙の処遇に関する国際条約"だが、別に条約を結ぶかどうかは強制でないということ。私が脅したアメリカと故郷の日本には絶対結ばせるつもりでいるが、それ以外の国に対してはお互いにメリットが無いと基本成立しないと思われる。

 また、シンプルにアメリカと対立している国がアメリカが参加している条約に入るのかも怪しいし、私の存在を完全に排除したい側の人間は参加するはずもない。そういう条約未締結国の人たちがもし私への危害を企て、刺客を送り込んできた際、私が出来るアクションはせいぜい自己防衛か、条約締結国に牽制してもらうようお願いするだけである。それは非常に面倒臭い。

 なので国および国際ヒーロー連盟の傘下に入ることでこれらの組織を盾or隠れ蓑にし、ヴィラン逮捕を名目にこちら側から叩き潰すことが出来る。ただ私としては必要以上に目立ちたくは無いので、オールマイトみたいな"いるだけでヴィランの活動を抑制する"存在にはなれないが、少なくとも存在を認知している組織や機関に対してはある程度牽制出来るはず。

 

 第一、こんなに能力をもてあましてるのに法律のせいで後手に動くくらいなら法律よりも強い力でアレするしかない。と、ついさっき思いついたので話してみたが、意外と議員たちも納得してくれた。

 

「それより私からの要望はそれくらいだけど、()()()()()()()は何かあるか? 余程理不尽な内容じゃなければ受け入れるけど」

 

(……!)

 

 魔女側からの提案に目が開く議員たち。魔理沙としても、こちらばかり禁止事項の制定やらお願い事をするのはフェアじゃないので、当然自分に対しても何かしら制限を受ける気ではいた。

 何より自分の魔法および能力は安全なものから危険なものまで幅広く存在するため、意識してないとついうっかり発動しかねない。ここ最近の人間関係に関しても劣悪(犯罪者的な意味で)だったことから、条約の名のもとに自制しなければ本当に化け物になってしまう。

 なので制限を受けることは魔理沙側からしても一応メリットがある。だが、一番喜ぶべき議員の人たちは何故か少し困った表情をしていた。その理由について聞いてみると、一人の議員が申し訳なさそうに発言した。

 

「あらためて申し訳ないが、我々は君の個性について把握しきれていない。君が魔女として活動中に行った分身の魔法とか、人を甦らせる魔法がある程度しか分かっていないんだ。だから君からのアクションに頼らざるを得ない」

 

 議員はそう言った。これに関しては仕方がない。何故なら私から研究データを取って解析しても"個性"以外の能力はすべて解析不能だから。この世界にはない概念である以上、私が説明しない限り判明することは無い。

 

「じゃあ個人的にヤバい魔法と能力上げてくから、それ聞いて決めてね。まずは……」

 

 魔理沙は自身の保有している能力と魔法について、議員たちに懇切丁寧に説明した。そのあまりにも意味不明な能力と魔法の数々に人々は苦悩し、いかにして結依魔理沙を人間社会に収めるか何度も検討した。時に議員側の意見と魔理沙側の意見で対立することもあったが、何とか折り合いを見つけて内容を定めていった。

 

 

 ■

 

 

 こうして、魔理沙とアメリカの国会議員たちによって国際条約制定のための準備が行われ、約400時間に及ぶ会議が無事終了した。本来なら期間を開けて何度も会議を行う必要があるが、回りくどいと感じた魔理沙が全員の記憶を保持したまま時間をループさせるという荒業を使い、たった1週間で準備が完了した。

 各国政府への連絡も済ませ、条約の制定と締結の期日も決定し、魔理沙は世界初の"個人にのみ適用される国際条約の当事者"となった。

 なお、この国際条約の内容は世間に公表されず、一部の国と地域にのみ公表された。こうなった理由として、魔理沙が目立つのを嫌がったからというのもあるが、国のトップからしても魔理沙の存在は社会に混乱をもたらすため、今は存在を隠すことにした。

 なお公表した国と地域はいずれも"仮面の魔女"をヒーローとして認める運動が大きかったため、それらを一時的に抑制する目的で公表した。その結果、よりいっそう結依魔理沙について知りたがる人々が多く現れたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、次の日には興味関心をほぼ失っていた。理由はお察しの通りである。

 

 そのため、魔理沙が"仮面の魔女"として活動していたことについてはほとんどの国で隠蔽され、最終的に"仮面の魔女"は世界で一番有名な都市伝説の一つとして語り継がれるようになった。

 

 また、この条約の締結に賛同したのはアメリカ、日本、ヨーロッパ諸国、東南アジア諸国、オーストラリア、南米諸国、エジプトを含む一部のアフリカ諸国で、中国、ロシア等の国々は却下した。今後これらの国による何かしらの干渉は避けられないとし、アメリカと日本はより警戒を強めた。

 

 なお、両親の方はスター&ストライプの説得に成功し、ちゃっかり連絡先を交換していた。また、娘のために『仮面の魔女をヒーローとして認める署名運動』を行い、大量の電子署名を集めた父だったが、魔理沙が上手くやりのけてしまったので少し不貞腐れた。あまりにも可哀想だったので、魔理沙はしばらく父の肩を揉み続けた。

 

 最後に、カメリア刑務所は完全に営業を停止し、囚人たちはみな別の刑務所に収監された。研究施設も完全に破壊し、面影すら残らないほど解体され、現在は瓦礫の山と化している。

 また、魔理沙脱獄に乗じて脱走した者はすべて捕らえられ、執行猶予すらつくことなく全員死刑となった。

 

 この結果に魔理沙は少し思うところがあったが、無理やり忘れることにした。元々彼らは犯罪者であり、手にあまる個性をもっていた以上、国としてどうしようもない部分があったのだろう。

 

 

 条約の試行は再来年の4月から。

 

 

 

 






"仮面の魔女"および結依魔理沙の処遇に関する国際条約

【結依魔理沙の禁止事項】

・国家規模以上の破壊活動禁止(たとえそれが自衛行為だったとしても)
・国家および人類への反逆行為禁止
・不許可で国境を飛び越えたり、転移するの禁止
・各国首脳の洗脳、および国際情勢を混乱に陥れる行為禁止
・皇室および世界遺産等の立ち入り、接触禁止
・マインドコントロールによる常識改変、または国家規模以上の現実改変禁止
・貨幣の偽造、および商品の違法コピー禁止
・自然環境に害を及ぼす物質(水銀、フロンガス等)の放出および放射線の放出禁止
・戦争への加担禁止(日本が戦争を起こしても関与してはならない)。また、戦争を助長する行為(武器・情報の提供等)も禁止
・行政機関、研究機関、報道機関等における機密データの閲覧、またはそれらのダウンロード、データ削除、第三者への流出禁止
・軍への所属禁止
・裁判所への立ち入り禁止
・条約締結国以外への結依魔理沙にまつわる研究データの流出禁止。また、条約未締結国の研究機関への関与禁止。
・過去への干渉禁止

・結依魔理沙は書類上、"ヒーロー公安委員会日本支部"に所属するものとし、全ての責任は管理責任者であるヒーロー公安委員長が負うものとする。



カメリア刑務所編、完。



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