最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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しつこい男の子は嫌われちゃうぞ☆(6話)

 

 

 前回、爆豪をおもっくそ吹っ飛ばしてすっきりした私こと結依魔理沙は幼稚園で爆豪から逃げていた。

 

「どこ行ったんだあのボサボサ真っ黒野郎。絶対俺がアイツをメタメタにしてやる」

 

 必死に魔理沙を探す爆豪。しかし魔理沙は個性『ステルス』によって全身が透明になっているため、たとえ爆豪の後ろを呑気について行ったとしても気づかない。

 

 個性『ステルス』は服もまとめて透明化する他、声を出しても音が出ないため非常に便利。しかし重力センサーやサーモグラフィーで認識可能である他、光を屈折させてレーザー光線を放つことは出来ないため万能では無い。しかし、かくれんぼにおいてこれほど凶悪な個性は中々ないだろう。

 

 このまま次の時間までやり過ごそうと思った魔理沙だったが、その時、後ろから視線を感じた。

 

 ステルス状態で視線を感じることなどありえないはずなのだが、もしかしたら何でも見通す個性をもつ子がいるのかもしれない。それならステルスついでに髪の毛も頂きこうと、魔理沙は勢いよく振り返った。

 

 すると、そこには()()()()()()をじーっと見つめる緑谷がいた。

 

 これはバレてるのか、それともバレていないのか。人間には第六感が存在すると噂されているが、緑谷くんにもそういった個性以外の何かが備わっているとでも言うのか。もしかしたら、対異形魔理沙用に諸外国から送り出された人工知能搭載型戦闘用アンドロイドの可能性も微レ存か。

 魔理沙は緑谷に対して警戒レベルを上げる最中、緑谷の存在に気づいた爆豪がズカズカと緑谷に迫った。

 

「おい、デク。あのボサボサ真っ黒見なかったか。もし見つけたら絶対言えよな。言わなかったら……、わかってんだろうな?」

 

「うん……、みっ、見つけたら言うよ。かっちゃん……」

 

 全くバレていなかった。緑谷くんも爆豪も気づいていない。このままゆっくりと教室の方に迎えば丁度よくチャイムが鳴ると思うので、魔理沙はそそくさと教室の方に移動した。

 

 移動の最中、私は昨日のことを思い出した。誰かと出くわす度に「髪の毛を食う変態女」的な目線を浴びせられるこの現状を。緑谷くんを除いてほぼ全員がそのような目線を向けてくるので、流石にそろそろ辞めるべきだろうか。

 前世ですらそんなに友達多くなかった気がするのに、第2の人生は友達すら出来ないとは悲しすぎないだろうか。これが各国と個人で条約を締結したスーパー幼稚園児の実態だと思うと泣けてくる。

 しかし、戦術の開拓のためなのだ。私だって食べて発動するタイプの能力じゃなかったらこんなことはしていない。そういう星の下に生まれてしまったが故に、仕方なくギリ迷惑がかからない程度に髪の毛を拝借しているのだ。断じて変態では無い。

 

 

 

 

 

「今日は平和だねぇ」

 

 

 

 

 

 

 ___________________

 

 

 

 

 幼稚園の帰りはいつも多古場海浜公園を寄るようにしてる。この体はもともとストックしている能力が多すぎるため、何を持っているか毎日ちゃんと把握しなければならない。より、スムーズに使えるように毎日手入れを欠かさずやらなければ、いざと言う時にテンパって暴発してしまう。

 

 魔理沙はゴミだらけの海浜公園の中で、精神統一を行った。今からイメージトレーニングを行うため、一旦頭の中をまっさらにする。そして、相対する敵と自分を強く意識して、どういう立ち回りで動くか考える。

 

 まず、死柄木弔を想定してやるとしよう。死柄木弔はこの先の未来で登場するヴィラン連合の一人で、オールフォーワンの後継者的存在になる者。いずれ戦うので今回は死柄木を相手とする。

 

 死柄木弔の個性は『崩壊』。五本の指で触れたものを分子レベルで崩壊させる能力。しかし直接相手に触れる必要があるため、有効射程距離はせいぜい2〜3m。身体能力はおそらく常人の域を超えないので、高速移動やワープ能力による撹乱、幻覚魔法、蜃気楼、地形操作すべて有効だと思われる。いや、地形操作は崩壊で妨害されかねない。なので一番の安全択は認識外からの遠距離攻撃。超電磁砲で両足を怪我させるなり、足の"破壊の目"を握りつぶなりいくらでも対策はある。

 

「見つけたぞ! ボサボサ真っ黒野郎!!」

 

 山積みになったゴミ山の上から私を見下ろしている少年が一人。そいつはクソを下水で煮込んだ性格の持ち主とまで言われた悪ガキ、爆豪勝己。

 

「俺はオールマイトのようなどんなやつにも負けないナンバーワンヒーローになるんだ。お前なんかに負けっぱなしじゃ一番強いヒーローになれねぇんだ!」

 

 威勢の良い声が公園に響き渡る。夕日をバックにヒーロー宣言をした少年と向き合うのは、4歳の頃に刑務所を脱獄した元極悪犯罪者、結依魔理沙。

 

「またぶっ飛ばされに来たのか。そういうセリフを吐くのは私に勝ってからにしなさい。このボンバーマン」

 

「上等だ! 後悔なんてすんなよこのクソアマ!」

 

 どこからそんなセリフを教えて貰ったのか、爆豪の悪口のレパートリーが微塵も減らない。どういう子に育てばあそこまでトンがるのか気になって夜しか眠れないのだが。

 2人は睨み合い、互いに動きを警戒する。魔理沙側としては爆豪の動きなど警戒するまでもないが、戦闘センスが高いのは間違いないため、一応構えておく。

 

 かたや緑谷出久をいじめていた少年、かたやどんな相手に対しても容赦なく大量の能力を使い、隙あらば髪の毛を食う少女。どちらが悪でどちらが正義かと言われると、どちらも悪である。

 

 

 悪VS悪の戦いは幕を開こうとしていた。

 

 

 最初に仕掛けたのは爆豪。お得意の爆破を使い、真っ直ぐこちらに向かっている。この時点で既に爆速ターボの原型らしきものが垣間見え、魔理沙はホッコリした。

 

 とりあえず私は木刀を一本生成し、爆豪の初撃を受け止めた。だが爆豪は体を捻りつつ木刀を掴み、爆速ターボを応用して木刀ごと私を振り回した。想像以上の動きに面食らった魔理沙だが、特に問題なく地面に着地した。

 爆豪は奪い取った木刀を遠くに投げ捨てた後、着地の瞬間に合わせて強烈な蹴りを放つ。タイミングは素晴らしい、しかしまだ常識の範囲内。魔理沙は表情1つ変えずに片手で蹴りを受け止め、引き寄せてから発勁で弾き飛ばした。

 

 しかしなお立ち上がってくる爆豪。明らかに原作より戦闘能力が高い気がしてならない。幼稚園児でここまで動けるヤツは私を除いてほとんどいないだろう。流石作中トップクラスの運動神経の持ち主、幼少期からセンス全開である。

 

「くらぇえええええええ!!!!!」

 

 爆豪が距離を詰めてくる。余程、私との近距離戦にこだわっているようだ。爆豪の戦闘スタイルはシンプルに爆発を利用した圧倒的機動力と爆発による高火力攻撃を兼ね備えた近接アタッカー型。まだ遠距離攻撃を身につけてないので、爆豪側としては爆豪より機動力の高い私に距離取られるのは相当嫌なのだろう。前に決闘を申し込まれた時はひたすら遠距離でネチネチ攻撃したのでそれが響いている可能性もある。

 寸前まで迫ってきた爆豪に対し、魔理沙はいかにして爆豪を捌くか考えていた。時止めによる早期決着でも別にいいが、ここはもう少し魔法使いらしい動きをしてみよう。

 

 魔理沙は爆発をくらう前に魔法でテレポートし、ゴミ山の頂上に移動した。全体を見渡せるので初期位置としては悪くない。

 

 魔理沙は両手首を走る血管を鼻息(バギマ)で切断し、溢れ出した血が指を伝って地面に落ちる。かと思いきや、流れ落ちた血は地面に落ちることなく空中に留まり、まるで生き物のように血液が流動性を維持したまま一定の形を保っていた。

 

 これが血液を操作する能力。使いすぎると貧血になって倒れるという弱点があるが、私は無限に湧き出る魔力を血液に変換しているため弱点を克服している。

 

 魔理沙は自身の血液を空中にばら撒くと、空中で静止した一粒一粒の血液がそれぞれ1本の矢に変形し、合計2000本ほどの血液の矢が空中で生成された。

 そして魔理沙の合図と同時に矢が放たれ、立ち尽くす爆豪に血の雨が降り注ぐ。

 

「何……だぁ……ッ?」

 

 何が起こったのかいまいち把握しきれていない爆豪。周囲には血の雨によって破壊された小さなクレーターの数々と、衝撃で弾けてしまった魔理沙の血飛沫。しかし、どの血飛沫も似たような弾け方をしており、どれも同心円状に拡がっているように見えた。

 

 いや違う。どの血飛沫も円を描くように弾け飛び、円の中には幾何学的な模様が描かれている。これはどう見ても自然発生したものではない。明らかに意図して作られた模様だった。

 その異質さに違和感を感じた次の瞬間、爆豪のすぐ右隣の血飛沫が淡く輝き、結依魔理沙がそこに突然現れた。

 

「なっ……!?」

 

 理解よりも先に結依魔理沙のタックルで爆豪はバランスを崩し、地面を転げ回った。地面に付着していた魔理沙の血液が服を汚し、鉄の匂いが鼻に染みた。

 とはいえ魔理沙の方から近づいてくれたのはチャンス。一気に畳み掛けようと再び立ち上がる爆豪だったが、今度は目の前の不自然な血飛沫が輝き始める。するとその瞬間、激しい光が爆豪の目を焼き、咄嗟に目を瞑った。

 

「目があッ!!」

 

 わけも分からず、後方に逃げようとする爆豪。しかし再び不自然な血飛沫が輝いたことで巨大な土の壁が出現し、目の見えない爆豪は土の壁に激突した。

 

「いったい何なんだ!!!」

 

「教えてあげよう、爆豪くん」

 

 個性『ステルス』を解除した魔理沙が爆豪の目の前に現れると、水瓶座の力を引き出した特殊な水を爆豪の目にぶっかけ、視力を回復させた。

 

「テメェよくもやってくグェ」

 

 爆豪が反撃するよりも先にまた血飛沫が4つ輝き出し、それぞれの円の中心から魔法の鎖が現れた。そしてすぐさま爆豪を拘束し、一切の身動きを封じた。

 

「そろそろ気づいたと思うけど、さっき私が血の矢の雨を降らせた後、血液が不自然に飛び散ったでしょ?」

 

「あの飛び散った血液、全部私が操作して意図的に作った()()()なんだ」

 

「血には私の魔力が含まれているから、短時間かつ陣さえ組めていれば設置型魔法陣として機能するんだ」

 

「ただやってみて分かったのは、高威力の魔法陣は陣を組むコストと血に含まれている魔力量の関係で作れないってところかな。だから同レベルや格上に対してはあまり効かないと思う」

 

「……テメェ……!」

 

 余裕の態度で解説する魔理沙に限界をむかえた爆豪は自力で鎖を解こうとするも、とても子どもの力では壊せないくらいに固かった。

 

「残念ながらその鎖はインドゾウ10匹分の馬力で暴れても千切れないよ」

 

「じゃ、今日も私の勝ちということで」

 

 魔理沙が右手にそこそこ魔力を込め、身動きが取れない爆豪に渾身の一撃をくらわせようとする。流石の爆豪の動きを封じられてはどうしようもなく、ただ痛みが来るのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめてよ!!! かっちゃんが死んじゃう!!!」

 

 

 爆豪と魔理沙の間に入ってきたのは、半泣きでボロボロな緑谷だった。

 

「何しにきやがったデク! これは俺の戦いだ!」

 

「なんで! なんで戦わなきゃいけないんだ! なんでかっちゃんと黒い人が戦う必要があるんだ!!」

 

 そこには今までビクビクしていたはずの緑谷の姿はおらず、ただ純粋に幼なじみを心配する緑谷がいた。

 珍しく緑谷が本気で怒っているのを見て、魔理沙はふと我に返る。流石にこれやり過ぎたかもしれんと、反省した魔理沙はすぐに魔法を解除した。

 

「あぁ、ちょっと熱くなりすぎたかもね。悪かった。ごめんな爆豪。緑谷くん」

 

「何ほざいてんだボサボサ野郎! 俺はまだお前に負けてねぇ!! なんなら、今からてめぇを……!」

 

 爆豪が戦闘状態に戻ろうとすると、緑谷は爆豪の頬を思いっきり引っぱたいて無理矢理止めた。ここまで大胆な行動をするとは思わず、初めて爆豪をビンタする緑谷を見て魔理沙は驚いた。やはり異端者(イレギュラー)の存在は良くも悪くも他者に影響を与える、ということなのだろうか。

 

「かっちゃんももう止めて! こんなこと意味ないよ!!」

 

 緑谷は爆豪に強く訴えかけたが、爆豪は緑谷の気持ちを汲むことなく反射的に言い返す。

 

「無個性のくせに俺の邪魔すんな!! 俺より弱いくせに!!」

 

 完全に魔理沙そっちのけで口論が始まり、置いてけぼりをくらう魔理沙。彼らの心を覗いたが、完全に私の姿が彼らの視界から消え去っており、お互いのことしか見えていない。もう止められなさそうだ。

 

「弱いからなんだって言うんだ! 個性があるからって何だ!!」

 

「無個性がどんなに頑張ったってヒーローにはなれねぇんだよ!! 弱いやつが何したって無駄なんだって何でわかんねぇんだ!! いい加減なこと言ってるとぶっ飛ばすぞ!」

 

「弱いやつがヒーローになれないなんて誰が決めた! 僕だって、カッコイイヒーローになりたいんだ!!」

 

「うッせぇ!! 黙れデク!!!」

 

 爆豪が緑谷に殴りかかる。私との戦闘のせいか爆破の個性は見るからに弱々しい。

 

 緑谷も負けじと爆豪につかみかかる。お互いに顔や手や胴や足を殴りあって、エスカレートしていった二人は気を失う寸前まで殴りあった。止めるべきだったかもしれないが、止められなかった。

 

 最終的に二人とも仰向けになって地面に倒れ込んだ。荒い呼吸を整えながら、大の字で寝そべった。時刻はすでに17時半を過ぎており、夕日が沈みかけていた。

 

「……ゼフゅッ……はぁ、…………クソ……ッ」

 

「ゼフゅッ……ぜフュっ…………か」

 

「かっちゃん……!」

 

 緑谷は爆豪の名を呼ぶ。互いに殴りあった後だと言うのに、妙にスッキリしたこの感覚は何なのか。いつもなら震えて聞けないようなことも、スっと言えそうなこの感じは。

 

「かっちゃん、……なんでそんなに強くなりたいの?」

 

 緑谷は問いかけた。どうしてそこまで強さにこだわるのか。その理由について、触れてみたかった。

 

「……オールマイトを超えるヒーローになりたいだけだ」

 

 疲労ゆえか、珍しく爆豪が素直に答えた。彼の揺るぎない勝利への執念が垣間見え、それはまさしく緑谷出久の憧れの象徴であり、緑谷が爆豪のことを尊敬する理由そのものだった。

 

 緑谷は続けて質問した。

 

「じゃあ……もしかっちゃんがオールマイトを超えるヒーローになったら、その先はどうするの?」

 

 緑谷に言われ、爆豪は思った。そんなこと一度も考えたことがないと。自分はただてっぺんをとってやるという信念のみを宿し、その頂点たるオールマイトが自分の信念の象徴で、ただオールマイトのようになりたいと思っていただけだった。

 その先のことなど、考えたこともなかった。

 

「知らねェ。もっと強くなるだけだ」

 

 オールマイトを超えるヒーローになったら、他のヒーローじゃ絶対に届かないくらい圧倒的な強さをもって、伝説のヒーローになる、と爆豪は野望マシマシで答えた。

 

「はは、やっぱりかっちゃんはかっちゃんだね」

 

 爆豪らしさが垣間見えた緑谷は笑っていた。

 

「てめぇはどうなんだ? 本当にてめぇがヒーローになれると思ってんのか?」

 

 これもまた珍しく爆豪が緑谷に聞いた。普段なら会話すらろくに出来ないほど罵ってくるが、今日の爆豪は違った。

 無個性でなお彼がヒーローになりたがる理由、その原点について、爆豪は知りたかった。

 

「どんなに辛いことがあっても、僕はヒーローになる夢を諦められないんだ。笑顔で人を救い出すヒーローになりたいんだ」

 

 キラキラと真っ直ぐな瞳で夢を語る緑谷の姿が、一瞬眩しく見えた。自分には持ってない何かを、無個性の緑谷が持っていることに対し、苛立ちを感じた。

 だがどんなに突き飛ばしても諦めず、テコでも動かない緑谷の意志を感じた爆豪は、諦め気味な表情を見せた後、緑谷と向き合う。

 

「勝手にしろ」

 

「かっちゃん……!」

 

 普段なら否定の言葉から入るはずの爆豪が、珍しくそうしなかった。これは緑谷にとって、ほぼ爆豪が緑谷の夢を肯定してくれたようなものだった。

 

「まァ、無理だろうけど」

 

「ひっ、酷いよかっちゃん!」

 

 結局上げて落とされた緑谷。だが緑谷と爆豪は、これを機に互いのことをある程度知ることが出来た。本来の時間軸的にはできるはずのなかった絆が結ばれた瞬間であった。それが今後の未来にどんな影響を受けるかは、誰にも知ることはできない。

 

 

 

 

 

「え?」

 

 そして、全く状況を把握出来ないまま、結依魔理沙は二人の拗れた友情を見届けた。

 

 

 











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