最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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【あらすじ】

自己進化型人工知能『NOUMU』との戦闘に見事勝利した魔理沙だったが、能力を使い過ぎてしまい道のど真ん中で倒れてしまう。

そして全身から血を流した魔理沙は、周囲の人間に囲まれながらゆっくりと気絶した。





結依魔理沙は悪魔か? 英雄か?(⑨話)

 

 

【某国立大学附属病院】

 

 

 ─────────知ってる天井だ。

 

 

 魔理沙が目覚めた瞬間、既視感のある天井が視界に広がった。それもそのはず、この病院に入院したのが二回目なので既視感があるのは当然である。

 前回、魔理沙はNOUMUと戦闘を繰り広げ、その圧倒的理不尽能力のオンパレードで上からねじ伏せた。しかし、強力過ぎる能力を連発し過ぎたせいで体調を崩し、全身から血を流して失神してしまったため、今に至る。

 

 もしNOUMUが諦めずに戦闘を続行していたら、私が先に限界を迎えていたかもしれない。今後こういう事故を起こさぬようもう少し戦い方を変えるか、強い力を複数使っても耐えられるよう鍛え直す必要がありそうだ。

 

「魔理沙……?」

 

 掠れ声に耳を傾け、魔理沙は振り返った。するとそこには、頬を涙で濡らした母の姿があった。

 

「ん……、あっ、魔理沙! 起きてたのね!!!」

 

「……母さん」

 

「ほんとに……、ほんとに心配したんだから!!!! あなたが死んでしまったら…………私…………ッ!!!」

 

 魔理沙はこの時、後悔した。数え切れないほどの力を持っておきながら、自分の力を過信してヴィランと戦い、自分の限界も把握せずに倒れて心配させるなど、最強以前の話である。

 母が涙を流すまでは、てっきり説教されて終わりだと魔理沙は勝手に思い込んでいた。しかしそれは大間違いだった。

 

「ごめん、母さん。……ごめん」

 

 深く、反省する魔理沙。心を読まずとも、母の気持ちは痛いほど伝わる。おつかいに行かせた娘が血まみれで倒れていたら、当然ショックを受ける。そして母は私が強いということを予め知っているので、二重でショックを受ける。

 こんな好ましくない形で母の愛を感じたくなかった。出来ればオールフォーワンあたりをシバいてから感じたかった。私は過ちを犯した。

 

 病室の中は母の泣き声で埋め尽くされ、溢れ出た悲しみが母の涙腺を刺激する。止まる様子が微塵もなく、魔理沙はただただ聞くことしか出来なかった。

 

 

 

 涙はしばらく続いた。

 

 

 

 母が泣き止んだ頃、私は自分の心と向き合った。

 

 なぜ私は母を蔑ろにしたのだろうか。個性を試したいという好奇心もその一つなんだろう、だがそれは真実ではない。本命は私が結依魔理沙でありながら、どこかで結依楓真を引きずっているからだ。

 私は心のどこかで、この世界のことをどうでもいいと思っている。転生者である私にとって、父も母も言ってしまえば他人のようなものであり、この世界で体験した出来事はすべて前世の人生の延長戦。テストで言うところの、得点には一切関与しないただの感想記入問題のような、やってもやらなくてもいい人生を私は歩んでいるつもりでいた。

 

【魔理沙は両親も、世界も、そして自分さえも蔑ろにして生きていた】

 

 しかしこれは第二の人生。私が優しい両親の元に生まれ、愛されて育ったことに変わりは無い。それをやれ前世のどうなの人生の延長戦だので両親の気持ちを蔑ろにしていいものか、いいわけが無い。

 

 じゃあどうすればいいのか。答えは簡単だ。己の人生に『責任』を持つこと。己の行動一つ一つが誰かの気持ちを一喜一憂させるということを、私は自覚しなければならなかった。

 

(……自由過ぎるのも、ダメか)

 

 我が身を振り返った魔理沙は己の過ちを理解し、深呼吸して息を整える。そして同じ過ちを繰り返さぬよう、深く心に刻みつけた。

 

「魔理沙……」

 

 泣き崩れていた母がボソリと呟いた。

 

「……何?」

 

 魔理沙は恐る恐る、聞き返す。

 

「あなた、……また誰かを救ったの?」

 

「……いや、今回はただの自己防衛だよ」

 

「……そう」

 

 

 

「……魔理沙」

 

「こんなことを言うのは酷かもしれないけど、1番大事なのは"貴方自身"よ。ちゃんと分かってる?」

 

「…………うん」

 

「絶対分かってない」

 

 魔理沙は母親からチョップを受け、反射的に目を瞑った。分かっている、分かっているけど時と場合によっては分からなくなることもあるかもしれないし、ないかもしれない……

 

 魔理沙が渋そうな表情でいると、母の瞳に揺るぎない覚悟のようなものが定まった。

 

「……決めました。母さん、あなたが自分を大切にする心をもつまで説教します。あなたが本当に理解したかどうかは私の裁量で決めます」

 

「え?」

 

 突然の説教に頭が真っ白になる魔理沙。しかし母は問答無用で自分自身がいかに大切かを、2〜3陣間語り続けた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 その後、母に延々と同じ内容の言葉を浴びせ続けられた魔理沙は身も心も真っ白になり、死にかけていた。まるで簡易無量空処でもくらったかのように、身も心もドロドロに溶けていた。

 

 もはや人の形を為していなかった魔理沙に対し、追撃とでも言わんばかりに警察の事情聴取がスタートした。警察の内の一人は塚内警部で、彼は結依魔理沙の現状を見て頭を抱えた。そして呆れながらも母に続いて、二度目の説教を始めた。終始笑顔で母と同じ内容を喋りつつ、ついでにヒーロー公安委員会直属のヒーローであることについて自覚しているか1時間説教された。もはや魔理沙の肉体および細胞は結合能力を失い、限界を迎えて液体と化した。

 

 魔理沙が血まみれで倒れたことに関して、ニュースにはならなかった。それも当然で、魔理沙が病院内からテリブルスーヴニールを広範囲に展開し、目撃者全員を炙り出してから記憶を抹消したため、家族と警察と逃したNOUMUを除いて覚えている人間は誰一人としていなくなったからだ。

 

 後、病院に緑谷くんと爆豪がお見舞いに来てくれた。なんで怪我したのかについては答えられなかったが、緑谷くんは私の目の前で元気になってくれるよう祈ってくれた。彼の優しい心が如実に表れている一方、爆豪はフルーツだけ置いて即座に帰っていった。本人曰く、「ババアに頼まれたから仕方なく持ってきてやったんだ感謝しろよクソが」だそうだ。シバく。

 

 最後に母から、こんなこと言われた。

 

「魔理沙は何かなりたいものとかある?」

 

 母から問われた魔理沙は、再び頭を悩ました。

 

 なりたいもの。それは自分に欠けていたパズルのピース。人は誰しも目標を持っているからこそ成長できる。夢があるからこそ、近づきたいと思える。

 しかし魔理沙はほぼ完全に等しい存在。まだ能力の扱いに慣れていないだけで、いずれは神に等しい存在になれるし、神にならずとも並大抵の壁は能力で解決出来るため何にでもなろうと思えばなれる。

 

 しかし、魔理沙の答えは決まっていた。

 

「母さん、私はヒーローになるよ」

 

 苦し紛れに、しかし母には悟られない笑顔でそう答えた。別に嫌々ヒーローになろうとしているわけではない。シンプルに見た目と性格が、私が思い描く真のヒーローに向いてないと自覚しているからだ。

 私は異形魔理沙だ。私の外見を見た人の大多数は私の個性を"異形系の個性"と判断するだろう。まぁ、まだ人型を保っている以上異形系個性の中でもマシな方だがそれでも差別は受ける。

 そして私は性格が割と自己中心的だ。今やってるゴミ拾いも前にやった魔女革命も、基本的には自分のためにやったことだ。他人のためにもなるからやっているだけで、根本の部分が違うのだ。なので英雄になりたいわけでもないし、聖人君子になりたいわけでもない。あくまで私が居心地のいい世界で過ごしたいだけである。

 

 そんなの、真のヒーローではない。が、人を救う能力だけは死ぬほどある。自分でも数え切れないほどに、どんな状況からでも助け出せるほどに豊富な能力の数々が、私の胸の中に収まっている。

 

 それを使わずにいるなど、勿体ないことこの上ない。だから、私は魔法と能力を使って私の中の世界を変える。今はただの最強の魔法使いだが、ヒーローとして活動していくうちにいつの間にか思い描く姿になっているかもしれない。

 

(私は最強の魔法使い、結依魔理沙。真のヒーローには程遠いが、誰よりも人を救う力がある)

 

 魔理沙がじっと自分の握りこぶしを見つめていると、母はクスッと笑いながら言った。

 

「頑張ってね、魔理沙。母さん、応援してるわ」

 

 あっさりと娘の背中を後押ししてくれたことに、魔理沙は一瞬口を開いた。

 内心ヒーローになることを重く考えていた魔理沙だったが、母親に軽く押されたことで、魔理沙はまた少し考えを改めた。

 

 

 

 

 

 物語が幕を開ける。

 

 

 






第三章『雄英高校受験編』に突入する前に第2章EXに突入すると思います。第一章EXほど本編に関わることはおそらく無いです。内容は『能力者ならではの悩み』と『引越し』、『中学生時代』をテーマにした話になる予定です(予定ですので変わる可能性もある)。

よろしくお願いします。


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