最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE: 作:マスターチュロス
「Nooooooooooo!!!!」
とある日の夕方、結依魔理沙は3km離れた場所から狙撃してきた相手を特定し、瞬間移動で相手の背後に回り込んだ後、持っていたスナイパーライフルを"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"で破壊した。
「祖国にでも帰るんだな」
命乞いをする相手に対し、魔理沙は問答無用で"キノコのほうし"を振りかけて眠らせようとした瞬間、2人の男が窓を割って侵入し、もう2人がドアを蹴り飛ばして銃を構えた。
「見えてる」
侵入してきた4人の男が容赦なく対ヴィラン用ライフルで射撃するも、魔理沙は顕現した"金山彦命"の力ですべての弾丸を砂に変え、どこからか取り出した刀を地面に突き刺した。
すると、床から無数の刃が男たちを取り囲むように出現し、男たちは身動きが取れなくなった。
「これは別のところから引っ張ってきた神様の力だから触れてもバチは当たらないと思うが、やめといた方がいい」
魔理沙の忠告に対し、男たちは互いの様子を伺いつつ、一人の男がスイッチを押そうとした。が、スイッチにはいつの間にかネジが突き刺さっていた。
「増援を呼んでも無駄だよ。お前らの行動は一挙手一投足に留まらず、過去現在未来すべてにおいて私の掌の上だということを自覚した方がいい」
「……HAHA」
「This switch sends a signal even if it is destroyed. Soon our supreme millitary weapon will burn you down with your city」
「You fucking bitch!!」
4人の男が憎たらしい笑みを浮かべるものの、魔理沙はため息しか出てこなかった。
「……そのスイッチは壊れたんじゃなくて、この世から消えたの。消えたというか、
「…………」
「だから増援はこない。核兵器も落ちてこない。仮に落ちたとしても落下する前にワープさせるなり消すなり方法はいくらでもある」
魔理沙が突き刺した刀を少し傾けると、男たちを囲んでいた無数の刃がさらに成長し、刃の切っ先が喉元寸前にまで迫る。
「お前の国が総力を上げて私を殺そうとしても殺せない。お前がどんな手段を使おうがオールフォーワンを使役しようが無駄。だからさっさと祖国に帰れ」
「|Now if you just tell me where you' re going, I'll give you a free return ticket《今なら行き先さえ教えてくれれば帰りのチケット代はタダにしてやる》」
命と帰りのチケット代を天秤に乗せ、刃を向けながら交渉する魔理沙。
「……You won't kill us?」
「
殺さないことを魔理沙は誓ったものの、刀は引き抜かなかった。
「……OK, We'll withdraw. Pull out that sword」
「……分かった」
撤退の意思が見られたので、剣を引き抜くことにした魔理沙。すると取り囲んでいた無数の刃がスルスルと床に吸い込まれ、跡形もなく消えた。
「……Come here. Tell you where to go」
行き先を聞くために仕方なく近づいた魔理沙だったが、残り数メートルといったところで男4人全員が魔理沙の身体に対ヴィラン用拡散型小型レーザー装置を押し当て、ゼロ距離で起動した。
「Haha! You're a dumb kid!!!!!!」
眩い光が魔理沙の体内で破裂し、肉体を突き破って光が放出した。損傷を受けたことで体内エネルギーを乱された魔理沙は大爆発を引き起こし、ビルの部屋一室が丸ごと吹き飛ばされた。
「……何だこの茶番」
わざと大爆発引き起こしたことで男達は全員吹き飛ばされ、4人のうち1人が窓の外まで弾き出されてしまった。が、落下中にスキマで回収したため問題は無い。
ここまですべて予定調和だった魔理沙は、呆れながら残り3人の男の身柄を回収していった。
「だがこれで今月326人目の襲撃者を討伐できた。国際条約結んだのとしばらくアメリカで身を隠していたおかげで襲撃者の数もかなり減っているし、これなら問題なく行ける……」
「お引越しが……!!」
■
某年某月某日、結依魔理沙は8歳を迎えた。リアルタイムより時間停止中に過ごした時間の方が大きい魔理沙にとって、たかが1年経過したところで何も思うところはなかったが、両親は祝ってくれた。
プレゼントに魔法の杖を貰ったので、雰囲気を出すためにちゃんと魔女らしい服に着替えてから杖を持った。すると両親から、"似合い過ぎてそれがデフォルトに見える"と言われた。それはそう。
魔女服を普段着として着たことは今まで無かったが、仮にも私は異形魔理沙。威厳を出すためにもそろそろ正装した方がいいかもしれない。
「……いや、そんなことはどうでもいい。私が今考えるべきことはそう、お引っ越しだ!!」
やる気に満ち溢れる魔理沙。何故唐突に引越しの話を始めたのか、その話は若干長くなる。なので簡潔に言うと、家の住所が悪い襲撃者たちにバレたので引越し計画を立てていたが、予算の都合上引っ越せなかった。しかし両親が毎日あくせく働き、私も片っ端からヴィランを叩きのめしたおかげで何とかお金が溜まり、予算問題が解決したため遂に引越し計画が動き出した、というわけである。
しかしこの引越し計画、色々と問題がある。そのうちの一つが"引越し先もバレるかもしれない問題"で、この計画を相手方に事前に知られていたり、引越しの際に後をつけられたらすべてが台無しになる。が、この問題は気にしなくていい。なぜなら私がここ数年間、関東全域をパトロールして片っ端から襲撃者を潰したおかげで2000人以上の密入国者もとい襲撃者を逮捕したから。加えて政府も監視強化するらしいので新参者が引越し先を探り当てるのは相当難しいはず。
問題は2つ目、緑谷くんと爆豪にはしばらく会えないということ。寂しいのもそうだが、一番気がかりなのは原作路線から二人が既に外れかかっているということ。目を離した隙に緑谷くんが闇堕ちしたり、爆豪が変なことして大怪我とか負ったら高校受験どころではない。
何とかして監視下に置きたいが、千里眼は両眼使うので近場が見えなくなってしまう。となるとやはり動物の目を利用して監視するか、使い魔を介して監視するか、カメラ付きドローンに魔力を与えて監視するか……
方法はいくらでもある……が、どれがコスパ良いのか全く分からない。動物や使い魔を使わずとも、ちょくちょく瞬間移動で見に行くことも出来るし、先に未来を見ておくことも出来るのだがどれがローコストなのか……
「……いや、これだ!」
魔理沙は千里眼越しに未来予測で緑谷と爆豪の中学三年生までの軌跡を確認しようとしたが……
「おいボサボサ頭、お前何してんだ」
「あ、爆豪」
公園のブランコを漕ぎながら千里眼で未来予測している途中で爆豪とその仲間たちが割り込み、未来予測はキャンセルされた。
「暇だからお前の未来覗いてた」
「何寝惚けたこと言ってんだクソが」
「う〜ん、レスポンスが早い」
魔理沙の言うことすべてがデタラメだと思ってる節がある爆豪さん。あまりのレスポンスの早さに流石の魔理沙も驚いた。
「俺たちはこれから虫取りに行くからお前も来い。乱獲するぞ」
「えーかっちゃん、アイツ誘うのぉ〜?」
「気持ち悪いから止めよぅ?」
取り巻きの人間にディスられた魔理沙。正直大人にディスられるよりキツかったが、こんなもの日常茶飯事なので魔理沙は気にせずブランコを漕ぎ始めた。
「チッ」
乗り気ではないと感じた爆豪は舌打ちをし、仲間を引き連れて近場の林に向かおうとした。しかしその時、魔理沙がまだ引越しの件について爆豪に話していないことを思い出したため、置いていかれる前に呼び止めた。
「なんだよ」
「言い損ねたんだけど、そろそろ引っ越すからよろしく」
「……は?」
一瞬、爆豪の脳内が真っ白になった後、「……あっそ」と一言だけ残して去っていった。どうやらそこまで私に思い入れは無いらしい。悲しい。
「……緑谷くんと爆豪が変わるより先に、私の方が変わりそうだな……」
順調に悲しき獣ルートを歩んでいることに気づいた魔理沙は、酷く頭を悩ませた。
誰にも愛されず、誰にも頼られず、しかし力だけは無駄にあって、誰よりも愛を、ぬくもりを欲している悲しき獣。いずれは他者とのコミュニケーションすら廃れ、価値観もズレ、行き着く先は孤独と絶望に溢れた闇堕ちの世界。力の有る無し関係なく用意された悪人製造プロセスが私を獣に貶めようとしていることに、薄々勘づいてしまった。
「引っ越したらなおさらだよなぁ」
ただでさえ友達の少ない自分が、向こうでもやっていけるのか少し不安になる。自分と家族の身の安全を守るためとはいえ、強制的に人間関係がリセットされるということは、一度形成したコミュニティから離れることを意味する。陽気で明るいわけでもない自分が一度コミュニティ外まで弾き出されて、新しいコミュニティに再び所属出来るのかというと、正直怪しい。また周囲の人間に恐れられ、迫害されるか、ヴォルデモートと化すかの二択になるだろうが、どちらにしろ"悲しき獣ルート"は避けられないだろう。
「……私の
嫌な言葉が頭に過ぎったが、何とかして嫌な言葉から目を背け、別のことを考える。
とりあえず、緑谷くんと爆豪にはあらためて引っ越す日を教えておこう。それから今日は収納していた襲撃者たちを警察に引き渡して書類作成とかしよう。そしたらあっという間に時間が過ぎてく。
嫌なことなんて考えてる暇は無いんだ。
■
引越し日の前日、魔理沙たちは引越しの荷物をまとめていた。必要ないものや引越し先で新しく買い直すものはすべて売り払ったので、あとはマリサが作り出した拡張空間もといスキマに家財と荷物をブチ込むことで引越し準備は完了。食料も拡張空間に置いておけば腐ることなく永久に保存出来るため、引越し前に残り物を消費するとか冷凍食品全部食うとかそういうことはしなくていい。さらに拡張空間内は外気温に左右されないため、布団代わりとしても機能してしまう。これには流石の両親も感服し、「一家に一台結依魔理沙」と言わしめた。
また、引越し準備の途中で緑谷くんと爆豪が来た。引越し日の連絡に関しては二人の脳内に直接語りかけただけで、それ以降二人とは全く接触していなかった上に、防犯対策で認識阻害効果のある結界で家を囲んでいたにも関わらず、二人はやってきてくれた。相当私のこと意識していないと辿り着けないはずだが、爆豪の決心した顔つきを見てすべてを察した。彼は私がいなくなる前に決着をつけようとしていたのだ。
「表に出ろ、ボサボサ頭」
「……見て分かると思うけど、私今忙し」
「荷物詰めるだけだから大丈夫よ。だから行ってらっしゃい」
「えぇ……?」
両親のフォローによって表に連れ出された魔理沙は、かつて爆豪と盛大に殴りあった場所に辿り着いた。
「お前、よくも抜け抜けと勝ち逃げしようとしたな?」
「勝ち逃げ……というより、一度も負けたことが無いだけなんだが」
「嫌味か? クソが」
「事実です」
視線が重なり、バチバチと火花を散らす二人。そしてその横で緑谷出久は口を手で覆い隠しながら見守っていた。
「……御託はいらねぇ。俺と戦え、結依魔理沙」
やる気満々の爆豪に対し、魔理沙はため息しか出てこなかった。
「……ほんと、昔から変わらん」
「かっちゃん、やっぱり普通に見送ろうよ。……魔理沙さん呆れてるよ」
「うるせぇ!!」
外野からの正論を跳ね除け、掌の汗腺からニトログリセリン様物質を爆発させる。こうなるともう後には引けないので、仕方なく魔理沙はスキマから道路交通標識を取り出した。
「これで良いか?」
「ヘッ、それで良いんだ」
戦う気になった魔理沙を嬉しく思い、さっそく爆豪は爆発を利用して加速し始めた。
今まで何度も結依魔理沙に挑み、何度も敗北した。結依魔理沙が現れるまで、誰よりも強い個性を手にしていたと自覚していたが、今になっては魔理沙の二番煎じと考えてしまっている。
誰よりも強くあろうとすればするほど、頭の片隅から彼女の姿がぬるりと現れる。それが非常に煩わしかった爆豪は、この最後の戦いをもって結依魔理沙をぶっ倒し、自分が真に強い人間であると証明しようとした。
だが、爆豪の攻撃は1発も当たらない。攻撃タイミングや接近のタイミングをズラしてもスルリと身を翻し、道路交通標識で勢いよく爆豪を弾き飛ばす。
「がぁッ!!?」
「残念ながら、私も成長している」
魔理沙は道路交通標識を一瞬で粉々の鉄くずに変えると、その鉄くずと爆豪に磁力を与えて爆豪に大量の鉄くずを弾丸のごとくぶつけ、磁力で合体させる。
道路標識1個分の質量に耐えきれなくなった爆豪は膝をつき、やがて地面に伏せた。
「とてもスマートでしょう?」
「重てぇ……!!」
必死に抵抗する爆豪だが、まだ8歳の彼に道路交通標識を背負うのは早過ぎた。
身動きの取れない彼に対し、魔理沙は静かに近づき、右手を銃の形に模して指先から眩い光を放った。
「爆豪の負け」
「まだ負けてねぇ!!!」
「なら追加で重くなってもらおうか」
爆豪は誰かに触られたような感覚を受けると、自分の体重が途端に重くなり始め、地面が少し陥没するほどめり込んだ。
「ぐああああああああッッ!!!!」
爆豪の体が地面に半分ほど埋まったあたりで魔理沙は能力を解除し、襟の部分を掴んで爆豪を引っ張り上げた。
しかし爆豪は未だ反抗の意思を燃やしていたため、魔理沙は反撃される前に爆豪を軽く投げ飛ばした。
「ぐぁッ!」
「爆豪、ここで私と決着をつけるのはまだ早い。もう少し私たちが成長したら、また戦おうな」
「……はァっ……はぁッ…! ッそれって、……いつだぁッ……!」
「……高校生。"雄英高校"に入学する予定だから、その時だね」
「……雄……英……!!」
日本最高峰のヒーロー専門高校。オールマイトやエンデヴァーといったトップクラスのヒーローたちが排出された名門校であり、毎年テレビで放映される"雄英体育祭"は全国屈指のイベントで爆豪も毎年見ている。
そんな誰もが憧れ、目指そうとする場所で、高みの先で魔理沙が待っているのならば、爆豪は何の迷いもなく周りを蹴散らし、前に進むだけ。
「待ってろボサボサ頭。俺は絶対に強くなって、お前をぶっ倒してやる」
「頑張れ」
目標が一つ増えた爆豪は新たに闘志を心に宿した。その片隅で緑谷も目指したい場所が定まり、心の内を吐露した。
「ぼ、僕も雄英入りたい!」
「おめェは無理だデク」
「酷い!」
早過ぎるレスポンスにショックを受ける緑谷。
「鍛えればいけるって」
「行けねぇよ!!」
そこにそれとなくフォローを入れた魔理沙だが、爆豪に否定されてしまった。先の展開を知っている魔理沙からしてみれば緑谷くんがOFA継承して雄英に入ることは分かりきっているが、もし路線から外れた場合、OFAが継承されなくなるかもしれない。それだけが心配だ。
最悪、私の力を継承させて次代の魔女に仕立て上げることも視野に入れなければ……
と、考えながら、魔理沙は爆豪にかけた能力と魔法を解除した。自由の身になった瞬間、腹パンしてきた爆豪を咎めたり、公園内で鬼ごっこをしている内に、いつの間にか日が暮れていた。
魔理沙たちは公園を背に帰宅した。しばらく会えないということで、魔理沙たちは今まで遊んできたことについて振り返った。爆豪は終始「クソが」しか言わなかったが、何だかんだ会話に混ざりアレやコレやと話し込んだ。話すうちに家にたどり着き、魔理沙は二人に別れを告げる。出発は午前9時ほどだが、平日なので二人は来れない。なのでここで別れを済ませようとした。緑谷くんは私に手紙を渡し、少し涙を流しながら握手をした。爆豪はずっと悪態しかつかなかったが、珍しく握手はしてくれた。これで思い残すことは無いだろう。
魔理沙は二人の後ろ姿が見えなくなるまで手を振り続けた。しばらくは会えない、そう感じた瞬間、珍しく感情の波が押し寄せてきたことで、魔理沙はうっすらと涙を流した。彼らと一緒にいることで、何だかんだ自分も救われていたのだと、私はこの時気づいた。
今日寝たら、明日になって、この家から離れることになる。思い出を地に残して、友人に別れを告げて、この街から離れる。これは人生の区切りだ。生まれた時から続いてきた日々の連続が一度止まり、また新しい日々がやってくる。
「じゃあね、爆豪、緑谷くん」
侘しい気持ちに浸りながら、魔理沙は静かにドアを閉めた。