最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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【あらすじ】

緑谷出久を史上最強のワンフォーオール継承者にする計画、その名も『緑谷出久のドキドキ大冒険』。"死"と隣り合わせの世界に身を置かれ、緑谷出久は心身共に鍛えられた。




雄英高校受験の日 前編(13話)

 

 

【12月16日 午前6時11分】

 

【多古場海浜公園】

 

 

 

「──────────ッはァッ!!!!」

 

 ドガッ! バギッ! ボゴォッ! 

 

「変わったねぇ、緑谷くん」

 

 朝練の様子を見に多古場海浜公園までワープしてきた魔理沙だが、そこには廃材を(ヴィラン)に見立てて次々と破壊する緑谷くんの姿があった。

 

「あんなにヒョロかったのに……烈○王並に立派になっちゃって……」

 

 寒さと感動で鼻水が出そうになった魔理沙は鼻からメラミを放出し、鼻水を蒸発させた。

 

「頭もあんなに真っ白に……!」

 

「それは師匠のせいです!!」

 

「それはすまなかった」

 

 聞かれていたのか、緑谷は特訓を続けながらも大声で返事をした。なお、髪の毛が白いのは完全に蓬莱の薬の副作用で、おそらく大嘘憑きで不死性を取り消したとしても変わらない。色々色(カラーオブビューティー)で髪を染め直す必要がある。

 

 言い忘れていたが緑谷くんはつい先程、多古場海浜公園のゴミを全て片付けた。今は入試二ヶ月前、予定よりも遥かに早く、さらにワンフォーオールの器として十分なほどに仕上がった。特訓を初めてから半年が経過した時点である程度完成されていたため、今の緑谷くんなら銃弾を人差し指で弾き、すべての攻撃を紙一重で避けながらデトロイト・スマッシュを叩き込めること間違いなし。パワーコントロールもオールマイトと私のツーマンセルで鍛え上げたから、暴発する危険性もほぼ無い。

 

 まさに完璧、理想の仕上がり具合だった。

 

「とにかく、ワンフォーオールの器として完全に仕上がったな緑谷くん。おめでとう……!」

 

「ありがとうございます! 師匠!」

 

「師匠……うん、違うね。うん、幼なじみだよね。そうだよね」

 

 魔理沙は水平線の向こう側を見つめながら自分に言い聞かせたが、緑谷くんには伝わらない。感謝されていることは体の揺さぶられ具合で分かるが、何かがおかしい。

 

「緑谷少年、ちょっとこっちに来てくれ」

 

 思い悩む魔理沙を放置し、緑谷は振り返った。

 

「オールマイト!!」

 

「緑谷少年!! よくぞ……! よくぞあの地獄の特訓を乗り越えた!! それだけでなくゴミ掃除まで!!!」

 

「オールマイトォ!!!!」

 

「緑谷少年!!!」

 

 ひしっ、と抱き合う二人。余程辛かったのか、いつにも増して抱き合う力が強い。

 

「君はこの海浜公園のゴミ掃除だけでなく、友人との特訓に毎週つきあい、この10ヶ月間……よくぞやりきった!!」

 

「オールマイト……、うぅ……!」

 

 憧れのヒーローから激励を受け、緑谷は涙を流した。

 

「ずるいな僕は……、オールマイトから……こんなにも褒められて……! 恵まれすぎて……ッ!」

 

「HAHAHA! もっと自信を持つんだ緑谷少年! これは紛れもなく君の力だ!!」

 

「おじさんの言う通りだぜ緑谷くん。我ながら誇らしいよ」

 

「師匠……!」

 

 やめろ、その呼び方は心にグサグサささる。

 

「さて緑谷少年。これは受け売りなんだが、運良く手に入れた者と認められて譲渡された者とでは力の本質が全然違う。さあ受け取れ少年! これは君が手に入れた力だ!」

 

 オールマイトが髪の毛を一本引き抜き、緑谷くんの目の前に差し出した。その瞬間、魔理沙の全神経が1本の髪の毛に集中し、無意識にタイミングを謀る。

 

「食え」

 

「遠慮なく」

 

 パクッとオールマイトの指ごと食らいついた私は髪の毛を摂取した。

 

「「あああああああぁぁぁああああ!?!?」」

 

 動揺する二人を差し置き、結依魔理沙の全身に力が漲る。半分クセで食べてしまったが、これで私はこの世界で最強クラスの個性を一つ手に入れてしまったということ。つまり最強である。

 

「まままま魔理沙さん!? なな何にやってんですか!?」

 

「食った」

 

「知ってるよ!」

 

 当然の事実を述べる魔理沙。そんな中、オールマイトは震えながら魔理沙の肩に手を乗せた。

 

「ま、魔理沙くん? まさかワンフォーオールを……」

 

 受け継いだのか、そんな不安が過ぎる中、魔理沙はジェスチャーで否定しつつ述べる。

 

「私の個性は食べた相手の能力をパクる個性、いわばコピーに近い個性だ。正式な譲渡じゃなく、ただ私がオールマイトのDNAを元に海賊版の個性を作っただけ」

 

「つまり正式にワンフォーオールを受け継いだわけじゃないから、問題ないよ」

 

「ええええええぇぇ……」

 

 わけの分からない個性に振り回される二人。そして何気に魔理沙は初めて、二人に個性を明かした。特訓始めた時点でほぼバレていたので抵抗は無かった。

 

 その後、緑谷出久はオールマイトから正式に個性"ワンフォーオール"を譲渡された。効果が現れるまで少し時間を要するが、試験本番まであと2ヶ月の猶予があるため、その間にワンフォーオールの試運転をすることをオールマイトから勧められた。

 

 オールマイト曰く、ワンフォーオール使用の際はケツの穴をグッと引き締め、心の中で技名を強く叫ぶと良いらしい。魔理沙もワンフォーオールを使えるため、使い手同士で組手をするのも有りだ。力加減、使用時の感覚、体の動かし方など、基礎的な部分を組み手を通じて学ぶことが出来るため、きっとタメになるだろう。

 

 

 こうして2ヶ月間、魔理沙と緑谷は雄英高校合格のためにひたすら組み手を行い、ワンフォーオールを我がものにした。だが緑谷はあくまでワンフォーオールを怪我せずに扱えるようになっただけであり、100%の力を引き出せてはいない。怪我せずに出せる範囲の最大出力はおよそ40%である。

 魔理沙に関しても他能力との併用で擬似的に怪我せずに100%を引き出せるが、まだ真価を引き出せてはいない。あくまで身体能力の強化に留まっている。

 

 受験の日はもう近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 受験当日、緑谷出久は朝練を済ませてから朝食を食べ、忘れ物をチェックし、準備を整えた。

 

 やれることはすべてやった。勉強も戦闘訓練も、死ぬほどやった。後は本番で緊張せず、実力を発揮するだけ。

 

 通りすがりのお爺さんから足の筋肉を褒められつつ、緑谷はついに雄英高校の試験会場前にたどり着いた。

 

「ここが……雄英高校……!!」

 

 憧れのヒーローだけでなく、多くのトップヒーローが在籍し、卒業した名門校。その中でもヒーロー科はトップクラスで、定員40名、倍率300倍、ヒーロー偏差値はなんと脅威の79と、最難関といっていいほど厳しい。

 

 だがしかし、雄英合格はグレイトフルヒーローになるための必須条件。戦わずして門は開かないのだ。

 

(あんだけ頑張ったんだ……! 絶対合格するんだ……!!)

 

「邪魔だ、デク」

 

 気合いを入れる最中、爆豪が背後から現れ、緑谷の肩を掴み右に押し出そうとした。

 

(……は?)

 

 しかし、緑谷の体幹があまりにもガッチリし過ぎていたため、軽く押した程度ではビクともせず、本人も押されていることに気づいていない。

 

「おいデク、テメェ……」

 

「? 何? かっちゃん」

 

「……調子乗るんじゃねぇぞ、クソが!!」

 

 突拍子のない罵倒に緑谷は困惑したが、いつもの事なので気にせず前を向くことにした。

 

(かっちゃん、本当に変わったな……)

 

 緑谷はしみじみと、爆豪の後ろ姿を見て思い馳せる。5歳の頃はあんなに乱暴で、僕に対しても当たりが強かった。だけど、師匠と出会ってからは基本師匠にしか暴力を振るわなくなったし、周りを見下すこともなくなって……

 

(……アレ、それってただ標的(ターゲット)が変わっただけなんじゃ……)

 

 嫌な予感がしたその瞬間、背後から突如爆発のような音が発生した。

 

「ヴィラン!?」

 

「違うよ緑谷くん」

 

「師匠!?」

 

 振り向くとそこには、両手を広げた結依魔理沙がいた。

 

「師匠、今後ろで爆発が……!」

 

「ねぇ、緑谷くん。全く関係ないんだけどさ、雄英のロボットを勝手に機能停止させても怒られないと思う?」

 

「何してんですか師匠!!!」

 

「いやホントに何もしてないんだ。何もしてないのに急に門は閉まるわ、門飛び越えたら警報鳴りかけるわ、その対応で遠隔操作して警報機停止せざるをえないわ、ロボットに追いかけられるわで朝からロクな目にあってないんだよ」

 

「師匠、それ完全にヴィランと間違えられています!! すぐに連絡して止めてもらわないと……!」

 

「いや面倒だからロボットは全部停止させたよ」

 

「事後じゃないですか!!!」

 

 もうやることやってしまった魔理沙に呆れる緑谷。これ、最悪の場合試験中止とかになるのだろうか。普通は早く連絡すべきだが、この連絡をきっかけに試験中止になったらどう責任を取るのか。合格うんぬんよりも不安になってきた。

 

「さっき私の分身体を雄英の人たちに遣わせたから、中止にはならないと思う。幸い警報はほぼ鳴ってないし、目撃者も全員記憶処理済みだし」

 

 サラッと心を読み、サラッととんでもないこと言い残した。師匠、昔から変な人だとは思っていたが、変とかそれ以前にヤバい気がしてきた。個性のことも考えると、止められる人いないんじゃ……

 

「さ、気にせず登校しよう。待ちに待った受験日だしさ」

 

「あ、ハイ……!」

 

 そして二人は説明会場へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「受験生のリスナー、今日は俺のライブに来てくれてありがと──!!!」

 

「 Everybody say 『Hey』!!」

 

(ヘェェエエエエエエエイ!!) シーン

 

 実技試験の監督を務める雄英高校の先生ことボイスヒーロー"プレゼントマイク"が、受験生全員にレスポンスを求めた。しかし彼らは真面目であり、日本最難関の試験を間近にレスポンスを返せるほどの余裕は無い。

 

()()を除いて。

 

「ん? 誰か俺の脳に直接……、脳まで震えるお便りサンキューなぁあああああ!!!!!」

 

(イエエエエエエエエエエエエイ!!!)

 

 魔理沙からの脳内メッセージでハイになったプレゼントマイクは、説明のためにスクリーンに映像を流した。

 

「これから実技試験の内容についてどんどん説明していくぜッ!!」

 

「Are you ready!?」

 

(おっけえええええええええええ!!!!)シーン

 

「これまた痺れるお便りサンキューな!!」

 

 誰一人として全く声を出していないのにお便りサンキューとか言ってるプレゼントマイクを見て、周りの人は苦い顔をしていた。そりゃそう。

 

 そして、プレゼントマイクによる実技試験の説明が始まった。内容としてはシンプルで、試験用に用意された大量のヴィランロボットを倒し、ポイントを稼ぐ試験らしい。ロボットは4種類配置され、0ポイントから3ポイントまで存在する。0ポイントのヴィランロボットは他のロボットよりも大型かつ強力で、戦うメリットは何一つとして無いため、これを避けつつ他のロボットを倒すことが合格に繋がる。また、同じ中学校内での協力を避けるため、受験番号が連番であっても会場は異なる。

 

 私は引っ越したので緑谷くんや爆豪とは別の学校に通っているが、会場は別々だった。むしろ都合がいい。

 

「最後にリスナーの諸君に、我が高校の教訓を教えよう……」

 

 おお……! 

 

「かのナポレオン・ボナパルトは言った。『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』だと」

 

「さらに向こうへ……Plus ultra(プルスウルトラ)!!」

 

「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 校訓を旨に会場は大盛り上がりをみせた。私も緑谷くんも勢いにのって立ち上がり、プレゼントマイクに手を振ったりしたが、爆豪は依然として変わらなかった。

 

 

 

 こうして、受験生たちはスタッフの案内の下、各自演習会場へと向かっていった。

 

 

 







ps. ブルアカアニメ放送おめでとう! エデン条約編第4章に関しては劇場版で丸々一本やってくれると助かる!


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