最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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パパの話





繋ぐ鎖、囲む監獄(1.5話)

 

 

 

「さっそく試すぞおおおおおおおおお!!!!」

 

 魔理沙は勢いよく玄関の扉を開け、外の世界に飛び出した。初めての個性、しかも大量の異能力に目覚めた以上興奮してしまうのは仕方がない。ずっと憧れ続けていた力が好き放題に使えるのだから、試したくなるのも当然。これは外に行って試すしかない。

 魔理沙は過去最高の笑顔で玄関の扉を開け、外の空気を大きく吸い込んだ。外は快晴、雲ひとつ存在しない青空、試すのにはちょうどいい天気だ。

 体を少し動かして慣らした魔理沙は軽く目の前の段差を飛び越えて、最初の1歩を踏み出した。ここから、結依魔理沙の本当の人生が始まるのだ。

 

ばん

 

 無機質な発砲音と同時に視界が真っ白になり、魔理沙は思わず目を塞ぐ。これが太陽光ではないことは明らかで、おそらく閃光弾か何かを撃たれたのだろう。

 身の危険を感じた魔理沙は一旦家に引き返そうとしたが、再び発砲音が聞こえた瞬間、結依魔理沙の全身に強力な麻酔弾が10発撃ち込まれた。

 

(あ?)

 

 魔理沙の目の前が突如として暗転し、そのまま地面に倒れ込んでしまう。撃ち込まれた麻酔弾の中には神経伝達物質の流入を一時的に阻害する物質の他、筋肉を常に弛緩させる薬物も入っていたため、魔理沙の体はピクリとも動かない。

 完全に先手を打たれたことを理解した瞬間、魔理沙の脳内に走馬灯のようなものが走り始めた。だがしかし、齢4歳にしてまだ思い出深い出来事がなかったので、食って寝て過ごすだけの映像が延々と繰り返されてしまう。虚無感が凄い。

 

 意識が段々と遠のき始めたとき、大量の足音が耳に入ってきた。数はおそらく10人以上、薄ぼんやりとしてよく見えないが黒のスーツで統一された集団が銃器を持ってこちらに近づいていた。

 彼らはいったい誰なのか、少しでも顔を覗いてやりたいが、首の筋肉すらまともに動かないので振り向くことが出来ない。

 

(や…………)

 

 それでも諦めずに正体を探ろうとした魔理沙だったが、強烈な眠気に襲われた結果、ポックリと事切れてしまった。

 

『こちらJP-1058、目標鎮圧。これより施設に連行する』

 

『了解。娘の麻酔は足りているか?』

 

『問題ない。10発も打ち込めばオールマイトだろうとグッスリ眠れる』

 

『了解。やり過ぎないように』

 

 一人のリーダー格らしき人が連絡を取り終えると、サングラスを外して他のメンバーに指示を出し始めた。

 

「さて、これからこの娘を施設に連行する。いつも通りA班は別車両に乗って護衛、B班は周辺の交通状況等の情報収集と報告、C班は不測の事態に備えて施設周辺で待機。以上」

 

「了解」

 

 各員テキパキと動き、結依魔理沙の体を担架に乗せ、黒塗りのワゴン車に運び始める。

 

「…………魔理沙」

 

 黒服の集団の中に、1人の男が魔理沙の後ろ姿を見守っていた。その様子を見たリーダーは男に近づくと、肩を叩きながら耳元で囁いた。

 

「遅かれ早かれ、いずれこうなることは分かっていただろう、 長官」

 

「いや、|()()()()()()()()() () ()()()()》殿」

 

 変えられない運命と、自身の不甲斐なさに憤りを感じ、結依勇魔は拳を強く握る。

 

 いずれこうなることは分かっていた。アレが届いた日から……

 

 

 

 ■

 

 

 

 結依勇魔はかつてヒーロー公安委員会の職員として、個性を悪用する反社会組織の潜入調査やその壊滅を目的とした活動を行っていた。まだ個性に関する法律が整備されていなかった黎明期において、並々ならぬ活躍を見せた勇魔は新たに日本国内における個性保持者の情報収集と管理を行う公安調査庁の局長に就任し、優秀なエージェントとして活動を続けた。

 

 妻とは公安調査庁の局長として働いていたときに出会い、共に活動していく内に打ち解けあった二人はほどなくして結婚。子どもも授かったことにより、継続的な活動が不可能になった母は公安調査庁を離れ、専業主婦として働くようになる。

 

 

 そして200■年4月27日、二人の間に赤ちゃんが生まれた。

 

 しかしそれが二人にとって、いや世界にとって、いや人類史において最も重大な事件になってしまうとは、誰も想像出来なかった。

 

 まず真っ先に問題となったのが、赤ちゃんの容姿が両親ともに全く似ていなかったことである。父も母も典型的な日本人の顔をしているのに対し、その赤子は生まれた時から金髪で、顔面が黒く塗りつぶされたかのような異様な風貌をしていた。

 あまりに別人すぎる見た目に勇魔は不倫を疑ったが、妻は否定。産婦人科の先生に聞いてみたものの原因は分からず、先生はDNA検査をするよう提案した。

 家族崩壊の危機を防ぐべく、生まれた子のDNAについて検査した結果、さらに予想外の結果が判明してしまう。

 

 なんと、生まれた子のDNAに両親由来のものは一切なく、全く別の人間由来のDNAで構成されていることが判明した。

 少なくとも母親由来のDNAは確実にあるはずなのだが、何故かそれすらも存在せず、二人は目を疑った。

 この子は一体何なのか。本当に自分の子どもなのか。疑心暗鬼になった勇魔はあらゆる情報機関を利用して日本中の個人データを片っ端から閲覧し、自身の子どものDNAと一致する人物を探したものの、一切手がかりが掴めない。一応、検査用の装置の故障を考慮して再び検査に行ったが、結果は変わらなかった。

 八方塞がりでどうしようもなかった二人は、最終的にDNA検査のことを忘れることにした。今の日本の技術力では到底娘の正体を明かせないことが分かった以上、諦める他なかった。

 

 妻から生まれた子なのだから、自分たちの子どもでいいじゃないかと、勇魔は次第にそう考えるようになった。

 

 ちなみに赤ちゃんの名前に関しては、勇魔の"魔"と妻である理々奈の"理"、そして語感が良くなる"沙"を合わして、"魔理沙"となった。

 

 こうして魔理沙が1歳を迎えたとある日、勇魔は世界中の個性に関する情報を収集・管理する機関から直接調査依頼を受けた。今の時代、インターネットにさえ繋げばどこからでも依頼が出来るというのに直接手渡しで依頼書を渡されるとは、余程重要な案件らしい。

 さっそく勇魔は封筒を開封すると、中には白い紙と赤い紙が入っていた。先に白い紙を取り出し、勇魔はじっくりと内容に目を通す。

 どうやら内容は『結依魔理沙の個性』に関する調査依頼のようだ。個性が判明次第、早急に書類を提出するよう英語で明文化されている。期限も200■年7月10日までとしっかり記載されていることから、相当娘を警戒しているようだ。

 

 とりあえず調査依頼の件はいったん放置し、勇魔はもう1枚の方の紙を封筒から取り出す。鮮やかな赤紙にピンク色の枠ぶちがチラッと見えたことにかなり不安を感じたが、勇魔は恐る恐る覗いた。

 

「な……ッ!?」

 

 戦争の招集ほどでもないが、とんでもない内容が目に入ってしまった。いくら普通ではないからといってここまで警戒するものか? まだ個性も目覚めてもいないというのに、こんな…………ッ 

 

 ……だが、この計画の実行にはいくつか条件が示されている。手紙の通りであればその条件を達成しない限り、彼らは行動を起こさないらしい。

 条件というのはすなわち、"危険度"が規定値以上かそうでないかということである。危険度は基本本人の個性を加味して評価するものだが、それ以外にも性格や知性、練度等も含まれる。

 だが魔理沙はまだ4歳であるため、知性や練度で評価されることはほぼ無い。したがって個性さえまともであれば、自分も魔理沙も日本で平穏に暮らしていくことができる。

 

 個性に関して言えば、結依家は基本『空間転移』や『座標移動』といった個性が発現しやすい家系であり、妻の方は『毒針』に関する個性(ハチやサソリ、クラゲといった毒針を持つ動物など)が発現しやすい家系である。どちらの個性も暗殺向きというか、特に母さんはかなり物騒だが、どちらかが発現したとしてもおそらく許されるレベルだろう。何故なら前例があるから。

 しかしもし魔理沙が個性においても"普通"でなければ、魔理沙はワープでも毒針でもない、"未知の個性"に目覚める可能性が高い。そしてその未知の個性がもし、人間社会を脅かすほどに強力な個性だったら……

 

 その時は、腹を括るしかない。

 

「…………今まで、神なんてあやふやなものに祈ったことは一度として無かったが、祈らせてくれ」

 

「どうか、魔理沙が幸せな人生を送れますように」

 

 勇魔はそっと手を合わせ、娘の未来を案じた。しかし案じるだけでは何も救えない。目の前の問題に対して対策を打ち立て、万全の体制を整える必要がある。

 

 愛する家族を守るために。

 

 

 

 ■

 

 

 

 こうして結依勇魔は来たるべき個性発現の日に備えて着々と準備を済ませた。万が一ダメだったとしても、魔理沙を不幸にしないための対策は既に取ってある。

 

 あとは、魔理沙の検査結果を待つのみ。

 

「検査終わりました」

 

「ッ!!」

 

 遂にこの日が来た。この検査結果次第で結依家の運命は大きく変化する。勇魔は固唾を呑んで検査結果の報告を待った。

 

「個性総数100オーバー、不明領域1億箇所以上、異常です」

 

 その言葉を聞いた瞬間、勇魔の脳みそが初めてフリーズしてしまった。100オーバー、とは何なのか。そもそも個性というのは遺伝子同様、母親と父親それぞれの遺伝子を受け継ぐのが常識であり基本的には1人につき1つの個性が発現する。個性の発現パターンとしては受け継いだ遺伝子のうち片方のみが発現するパターンの他、両方の遺伝子が発現するパターンと発現しないパターンの3つに分かれる。言い換えれば、片親の個性をそっくりそのまま受け継ぐ人、両親の個性の特徴を合わせもった新たな個性が発現する人、そして遺伝子を受け継いでいるものの発現しない無個性の人の3種類に分かれるということである。

 極々稀に、突然変異や隔世遺伝によって両親のもつ個性とは全く異なる個性が発現する場合や、性質の異なる個性同士が相性関係なく発現することで、2つの個性が混ざり合うことなく共存する場合があるが、これらのケースは本当に稀で確率的には2000万人に1人のレベルではないかと言われている。

 自然要因において個性は1人につき1〜2個が限度だが、ある特殊な個性に関しては他者の個性の強奪と譲渡を行うことが出来るらしく、それを用いることで自身の個性の総数を大量に増やすことが出来るらしい。が、これはあくまで例外である。さらに言えば、その個性においても生まれたときに持っていた個性はその個性1つだけであり、そこは他の人と比較しても同じである。

 

 だがしかし、生まれたときから個性が100個以上あるこの子はいったい何なのか。公安調査庁局長としてあらゆる情報に目を通してきたが、個性が100個以上発現した人間は当然だが人類史上初。2個個性が発現するだけでも相当珍しいというのに、100個はもはや珍しいとか奇跡だとかそういう次元ではない。機会の故障を疑うレベルだ。

 さらに最新機器でも解析不能な領域が1億箇所も検出されたのが意味不明だった。既に解析済みであるヒトゲノムのどこに1億箇所以上の不明領域(ブラックゾーン)が存在するのか。真相は闇の中。

 

「さらに身長121cmに対して体重が142kg、足の構造と筋肉量から察するに推定時速は個性未使用で時速40kmは出せるものかと。知性・精神年齢に関しては彼女の異能次第ではありますが、10代後半であると推測します」

 

 一瞬、知性と精神年齢が普通に感じたが、その考えは甘すぎた。他の情報が狂い過ぎて、普通に凄いことでも対して驚かなくなっている。しかしこれに関しては思い当たる節がいくつもあったので、驚くよりも先に納得してしまうのは仕方無い。

 魔理沙は昔から物覚えが良いというか、最初から分かっていたかのような行動を何度も見せた。教えていないのに一人でトイレを使いこなし、乳幼児のくせにおっぱいを頑なに飲もうとせず、1歳の頃から離乳食を食べ始め、全く教えていないのにリモコンを器用に操作して少年ジャ〇プ作品アニメの録画予約をし、2歳の頃には流暢に喋れるようになった。

 ギフテッドのように見えるが、普段の仕草からそうでは無いと思われる。どちらかというと、魔理沙は生まれながらの天才というより、生まれた時から既に知識を備えていた……といった方が正しい気がしてならない。

 

 何はともあれ、想像を遥かに超えてヤバいことに変わりはない。こんな危険な力、日本政府はおろか、世界中のあらゆる権力者が総力を投じて魔理沙を封じ込めようとするだろう。殺される可能性だって大いにある。この機に乗じて各国のスパイや暗殺者が大義名分を掲げて日本に上陸し、治安悪化をきっかけに魔理沙含め全ての日本国民の平穏な日々が脅かされる可能性だって考えられる。

 

 そんなこと、絶対に許されてはならない。愛する娘のため、守るべき国民たちのため、結依勇魔は立ち上がらなければならない。

 勇魔が強く拳を握る最中、研究者たちは青ざめた表情でモニターに映し出された検査結果を見つめ、ボソッと呟いた。

 

「……殺そう」

 

「……は?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえた瞬間、勇魔が鋭い目付きで睨みつける。だがそれに臆することなく、一人の研究者が勢いよく立ち上がって勇魔の目の前で叫び始めた。

 

「殺すべきだ!! 絶対に殺すべきだ!!! こんな化け物この世に解き放っちゃいけない!!!!」

 

 唾を撒き散らしながら狂ったように訴える彼に、キレた勇魔が片手で首を絞めあげながら持ち上げた。

 

「人の娘に何言ってんだ!!!!」

 

「絶対殺すべきだ。こんなの人類には扱いきれない!! コイツを野に放てばいつか世界は崩壊する!!!!」

 

 一人の研究者がモニターのすぐ近くに駆け寄り、装置に手を伸ばす。

 嫌な予感がした勇魔はすかさず背後から研究者を抑え込み、装置から引き剥がした。

 

「離せ!!! 寝ている今なら殺せるかもしれないんだ!!!!」

 

「離れろ!!!!」

 

 勇魔は強引に背後へ投げ飛ばし、倒れた研究者に銃を向けた。

 

「動くな。他のヤツも動いた瞬間に撃ち殺す」

 

 勇魔の行動により一気に場が凍りつき、誰も身動きが取れなくなった。だが、投げ飛ばされた研究者だけ静かに口を開いた。

 

「……はァ、……アンタ、上の機関からこの子のデータを送るよう頼まれているだろう? こんなデータ、誰が見ても結論は同じ。()()()()()()()()()()方が都合がいい」

 

「アンタのしていることは問題の先送り……どころの話じゃない。もしこの子が少しでも悪いことに力を使えば、それだけで世界のバランスが崩壊する。その時、アンタは責任を取れるのか?」

 

「ただでさえ先通しの見えない未来を、さらに暗く、破滅の可能性を孕んだまま放置して、アンタは何も思わないのか?」

 

 真剣な言葉が胸に響き、勇魔は魔理沙の処遇を考え始める。

 手に負えないほどヤバいことは分かっている。あの子がこれから世間に与える影響は、我々の想像を遥かに超えた事象を引き起こすかもしれない。

 他にもテロ組織が娘を狙いに来る可能性や、魔理沙自身がヴィランになる可能性も考えられる以上、彼らや上層部を説得するのはほぼ不可能といってもいい。

 

 だが父親として、娘が殺されることを見過ごせるわけが無い。

 

「…………ッ!!」

 

 父親としての思いと、日本の秩序を守るものとしての思いが互いに責めぎあい、葛藤として発露する。

 

 ならば、魔理沙自身が彼らから信頼を得られるよう行動で示してもらう他ない。自分が世界に敵対することなく、永遠に人類の味方であることを証明出来れば、彼女は隔離や暗殺の対象から外れるはず。

 

 それが、魔理沙の幸せに繋がるかどうかは分からないが、あの子の未来のためには仕方がないのかもしれない。

 勇魔は息を飲み込み、俯きながら小声で呟いた。

 

「……魔理沙には、アメリカに行ってもらう……」

 

 勇魔の言葉に全研究者が驚きをみせる。

 

「元々、判明した個性によってはアメリカの施設で隔離するよう連絡が来ていた。その施設は、魔理沙のような強力な個性を抱えた者を隔離する施設で、軍が常に常駐している」

 

「そこで魔理沙には、個性の制御方法と自己防衛のための戦闘技術、そして一般教育や情操教育を学んでもらう」

 

「ヴィランにならないためにも、攫われて利用されないためにもしっかり鍛えるつもりだ」

 

 自分に言い聞かせるように、親としての責任を自覚すしながら、勇魔は強く宣言した。

 

「そしていつか、魔理沙が立派な大人になったとき、"ヒーロー"として多くの人々を救ってくれるかもしれない」

 

「仮に彼女がヒーローにならなかったとしても、優しさと思いやりに溢れたあの子ならきっと自分の力を正しく活用してくれる!!」

 

 勇魔は拳銃を下げ、地面に捨てた。そして勇魔は静かに頭を下げる。

 

「なので皆さん、どうかもう少し魔理沙を見守っていただけないでしょうか? 気持ちは分かりますが、私がずっと彼女を責任もって見守り続けるので、どうかその矛を収めてほしい」

 

「絶対にあの子を、立派な人間に育て上げることを約束します」

 

 深深と頭を下げる勇魔に研究者たちは困惑するものの、研究者たちは勇魔のそばに近づき、手を差し伸べた。

 

「皆さん……!」

 

「……どうか、彼女を人間として最後まで育ててください」

 

「ま、それで世界が良くなるなら……何でもいいんじゃあないですかね」

 

「まぁ、出来ることなら子どもを殺す真似なんてしたくないし、丁度いい塩梅じゃないか?」

 

 研究者達は魔理沙の処遇に理解を示し、勇魔と手を結んだ。

 

「……アンタ、本当にあの子を育てる気か?」

 

 しかし、投げ飛ばされた研究者と数人の研究者が反対の意を唱えた。

 

「彼女の力は、ヒーローを含めたあらゆる軍事兵器を用いても止められないほど強力な力だ。アンタほどの人間だろうと手に負えるはずがない」

 

「分かっているはずなのに…………!!」

 

 研究者は自身の抱える不安や勇魔に対する怒り、理解されないことの苦しさを全て噛み殺し、勇魔を横目で睨みながら拳を握る。

 

「……覚悟は出来ている。もしあの子に何かあったら、俺の持てる力全てを使ってでも何とかする。だから頼む、俺を信じてくれ」

 

 鬼気迫る目付きをした勇魔を見た研究者は息を飲み、彼の底知れない思いの強さを感じ取った。

 

「…………分かった。アンタがそこまで言うなら任せるが、後悔するなよ」

 

「…………娘の誕生を後悔するわけ無いだろう」

 

 警戒されすぎて変なことまで心配されてしまったが、これでほとんどの研究者達が魔理沙の処遇に関して納得してくれたようだ。

 家族に内緒で話を進めてしまった上に、海外へ引っ越すことになってしまったが仕方ない。これも秩序と平和と、家族の幸せのためだ。

 

「念の為にもう少し検査をしてからお家に返そうと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

「あぁ、構わない」

 

 勇魔が許可を出すと、研究者と魔理沙を乗せた自動走行型担架が別の検査室へと姿を消した。

 

「魔理沙……」

 

 勇魔は娘の将来を憂いながら、彼女の姿を静かに見送る。

 勇魔は再び願う、『家族が幸せでいられるように』と。だが前回もそうだったように、願っているだけでは意味が無い。やれるだけのことはやるつもりだ。

 

 

 

 

 

 こうして、無事検査を終えた魔理沙は夕方頃に家に返された。なお本人は何にも覚えておらず、いつの間にか日が暮れていたことについて両親に聞いてみたが、はぐらかされてしまった。

 

 

 

 

 

 







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