最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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【あらすじ】

謎解きをクリアし、ついに枷から外れた魔理沙。先頭からかなりの距離が空いていたが、魔理沙は『不死鳥の加護』の力でリザオラルし、任意の地点に復活。第二関門にその姿を現したのだった。





正義と試練(30話)

 

 

 

 ヴィラン、それは現代社会に仇なす脅威。個性を悪用し、時に徒党を組み、あの手この手で治安を乱す存在。それを咎め、過ちを正し、混沌に嘆く社会を救う者こそ、『ヒーロー』である。

 

 などと、そう一括りにまとめることが出来ないのが『ヒーロー』と『ヴィラン』の現状だ。超常黎明期から今代に至るまで、社会はめまぐるしく変わっていったが、人はそこまで変わっていない。

 

 人の善も悪も、欲も関心も変わっていない。それは立場に関わらず、そうである。上記の固定概念は、あくまで『ヒーロー側』にとって素敵なプロパガンダに過ぎない。

 

 なのでヒーローとヴィランを分ける境界線は『法律』であり、決して正義でも悪でもないということ。

 

 だが人々は、どうしても夢を見る。自分が正義だと、夢を見る。たとえどんなに凶悪な事件を引き起こしたとしても、それがやむにやまれぬ事情で、命の恩人なら救いたくなる。逆に、たとえそれがどんなに多くの人を救ってきた人で、その目的がどんなものであろうと、それが自分の大切な身内を殺害したとしたら、救う余地など無い。

 

 時に人は感情を捨てられない。時に人は衝動を抑えられない。時に人は、ブレーキの仕方も忘れて茨の道を歩く。

 

 ヒーロー殺し『ステイン』、彼も止められぬまま突き進んだ人である。

 

 ステインは死傷者負傷者合わせ40人に手をかけた連続殺人犯だ。ただし、彼は標的のほとんどを"プロヒーロー"と"ヴィラン"に絞っており、一般市民には手を出さずにいる。

 

 その理由は彼が掲げる『英雄回帰』、その理念に従ったものである。英雄回帰は、昨今のヒーロー観にまとわりつく地位や名声、はたまたそれをダシにして得る収益、他の目的を達成するための踏み台にするなど、そういった唾棄すべき行為を一切合切排除し、ただ救うことを目的としたヒーロー、真の英雄を取り戻そうという理念である。

 

 彼は熱狂的なオールマイト信者だったが、腐れきった社会のヒーロー観に絶望し、言葉すら誰にも届かず、絶望の縁の果てに正しさを求め、社会のあるべき姿を目指し、粛清と称して動いた。

 

 その結果、彼は彼の理念にそぐわぬ存在を片っ端から粛清し、時にヴィランを倒し、今日まで生きていた。

 

 彼によって救われた命は、確かにあった。彼の力によって、彼の思う正しいヒーロー観へと強制された人間もいたかもしれない。

 

 しかし彼によって失われた命も、確かにあった。彼の力によって未来を絶たれた、阻まれた、影を落とした人間は確かにいた。

 

 この社会における善悪の決定権は、悪事と功績のバランスで決められるものではない。彼を裁き、罪を問うのは法律であり、そしてその法律に従うのなら間違いなく彼は悪である。

 

 例え彼がヴィランを倒し人を救ったとしても、そもそも法律的に第三者であるステインが個性という暴力兵器を使ってヴィランを倒すことは罪である。

 

「だから私が裁く……って言ったら、ただのブーメランなんよな」

 

 ビルの屋上、久方ぶりに別の街に来た魔理沙が言葉を漏らす。

 

 正直、法律うんぬんを言い出すと魔理沙は何とも言い難い気持ちになる。一応公安委員会で免許持ちではあるが、そもそも公安のヒーローはそういう一般的なヴィランによる犯罪行為にはあまり介入しない。介入しないというより、他にもっと大きな別の仕事がある。

 

 それは国家転覆を目論む組織の調査なり、ヒーローでありながら反社会的な事業に手を染める者の粛清なり、色々ある。とはいえ別に市民を守ってはいけないみたいなルールもないので別に問題ないのだが。

 

「ただこーやって自ら動いて仕事すると、それが仕事だからやったっていうより、自分がそうしたいからやったって感覚の方が大きいのが、私欲で罰してる感じがして歯痒いんよね」

 

 魔理沙は後頭部を掻きながら思案する。このどうしようもない感覚は、公安のヒーローになった頃からずっと続いている。それはシンプルに、前世の自分が何物でもないただの一般人だったからだ。

 

 公的権力のもとで力を振るう、その感覚が、ただの一般人だった頃の自分の感覚と相容れない。ただそれでも、目の前で誰かが危険な目にあっていれば魔理沙は迷わず救う。それが、多くの力を持った人間の最低限の責務だと、常々思う。

 

「ただ、それでいい。私と世界を保つ距離は、このくらいでいい」

 

「自己中に思われようが、誠実でなかろうが、横暴だろうが傲慢だろうが、私は私のやり方でいく」

 

「だからステイン、お前は拘束させてもらうぞ」

 

 覚悟を決めた魔理沙は屋上から飛び降り、鋼の翼を展開する。

 

 今回のステイン退治は既に米良さんや警察とも連絡し、事前に段取りは済ませていた。包囲網を形成し、可能な限り人を誘導し、私が空から散策する。発見後は私が単騎で突入し、周辺の人間、負傷者はワープで警察の元に届ける。それが今回のプランだ。

 

「いつもは一人で突っ走ってるけど、相手が相手だからな」

 

 こうも大々的に取り組むのは魔理沙にとって初の出来事。それほどまでにステインという男が凶悪……というわけでもないが、物語を知っている魔理沙にとってステインの存在がいかに凶悪か、十分理解している。

 

 ステインの思想は、現代社会の有り様に波紋を呼ぶ。それが健全的な話し合いに進むなら大いに結構だが、事はそれだけに収まらない。

 ステインの思想に当てられたヴィランたちはその後、ヴィラン連合に集結しあの手この手でヒーローへの信頼を失墜させる。それが日本全体に大きく波及し、治安は徐々に悪化。最終的にヒーローを望む秩序側と望まない混沌側で争うのだから、目も当てられない。

 

「見っけ」

 

 上空から目を凝らし、波動と血の匂い、音でステインの位置を特定。さらに千里眼で本人の姿を完全に捉えた魔理沙は、瞬間移動でステインの前に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、保須市の路地裏にて、ターボヒーロー『インゲニウム』がヒーロー殺し『ステイン』と交戦。負傷したヒーローを庇い応戦するも、ステインの攻撃を捌ききれず、刀の一撃を貰ってしまう。

 

「体が……動かない……ッ!!」

 

「ヒーロー気取りの紛い物が。今ここで粛清してやる」

 

 ステインが刃を突き立てようと行動する。躊躇いのない冷たい一撃が喉に突き刺さらんとする時、突如謎の存在がインゲニウムを庇い、刃を弾き返した。

 

 ステインは一旦距離を取り、姿を捉える。その者は、白黒の魔女の見た目をした、金髪で黒い顔の女。その者が片腕だけで剣を弾き、鋭い眼光でこちらを牽制している。

 

 肌で感じる、相手の異常性。隠しきれぬほどのドス黒いオーラが全身を突き刺し、心を屈服させようと圧をかける。

 

「……誰だ、お前は」

 

 ステインからの問いに、魔女は答える。

 

「私の名は結依魔理沙。公安所属のヒーローで、お前を拘束しに来た」

 

 ステインは唇を湿らし、舌を転がす。齢二十歳にも満たないガキの嘘、とは思えない存在感。今まで経験したことないほどの邪悪なオーラからも分かる。ヤツはホンモノであると。

 

 公安のヒーローなら、殺す意義がある。ヤツらはこの腐ったヒーロー社会を正すことなく見過ごしてきた売国奴で、粛清対象である。

 

「……公安、にしては若いな。だがそれ以前に、お前のその有り様は異質だ。もはや人であるか、疑いたくなるな」

 

「人か人でないかでいえば人じゃないが、そういうことが聞きたかったのか? もっと他にないの?」

 

 魔理沙が聞き返す。

 

「……そうだな。重要なのは、お前が"贋作"か、そうでないかだ」

 

「お前の言う贋作って、何?」

 

 魔理沙が再び質問を切り返す。その声に、普段の柔らかさはなく、ただ冷淡に吐き捨てていた。

 

 しかしステインは臆することなく、話し続ける。

 

「人を救うことを目的とせず、手段として利用する者共だ。この社会には、そういった贋作共が我がモノ顔で溢れかえっている。ヤツらの行いはヒーロー社会を堕落し、腐敗させ、私欲に走り救うべき者を切り捨てる」

 

「俺は、ヤツらが蔓延るこの社会に変革をもたらし、真のヒーロー社会を取り戻す。それが俺の成すべき、"信念"だ」

 

 強く、目頭を熱くさせながら語るステイン。しかし、それを見た魔理沙は溜め息をつき、口を開いた。

 

「ヒーローが見るべきものは、ヒーローじゃなく"市民"だ」

 

 魔理沙は真剣に、ステインの目を見ながら声に出す。その様子にステインは目を少し見開くと、魔理沙は再び溜め息をつく。

 

「お前の言う通り、私欲のために救うべき人を、救いを求めた人の手を払ったり無視するような人は、ヒーローやるべきじゃない」

 

「だけど、たとえヒーローがヒーローする理由が不純なものだったとしても、結果的に人が救われるならそれでいい。その人に降りかかる理不尽な火の粉を、耐え難い不幸を取り除けたなら、役目は十分に果たしていると思う」

 

「それで、いいじゃん」

 

 魔理沙が言い切り、静寂が訪れる。どちらも自分なりの正しさを持ち、それに沿って動ける者たちだ。それらの道が互いに交差し、こうして言葉をぶつけ合ったことには、意味がある。

 

「お前は、この社会のままで良いと思っているのか?」

 

「お前がこの社会の何を見たのか知らんけど、私はこれで良いと思う。お前が一方的に救いの手を減らすよりも、よっぽどな」

 

 両者は見ている視点が違う。前者はヒーロー社会を、後者は人々そのものを見ていた。救い方も正しさも色々ある中で、二人は異なるものを選びとった。その二人が、こうして顔を向き合わせることに意味がある。

 

 自分の道の正しさを、確かめるという意味で。

 

 

 しかしその結末に、歩み寄るといった選択肢は無かった。

 

「お前とは、相容れないようだ」

 

「あぁ…そう」

 

 魔理沙は少し俯き、後頭部を少し掻いた。

 

 そして前を向き、ステインと目を合わせる。

 

「まぁ仮に相容れたとしても、お前は現行犯逮捕だ」

 

 直後、魔理沙の蹴りがステインの土手っ腹に炸裂し、路地裏の壁に何度もぶつかりながら突き抜け、車道を飛び越えて壁に激突する。

 

「……ヤッベやり過ぎた」

 

 ステインは強い、というイメージがあったのでやや強めに蹴った結果、思った以上に痛そうな飛び方をしてしまい、内心焦る魔理沙。常人なら全身複雑骨折してるかもしれない。

 

「結依……魔理沙……」

 

「あ、飯田くんのお兄さん」

 

 背後から声をかけられ、振り向く魔理沙。既にステインによって動けなくされていた彼だが、彼はその僅かな力で顔を上げ、精一杯の笑顔を作る。

 

「助けてくれて、ありがとう……!」

 

「……どういたしまして。今からそこの怪我してる人も含めて警察のとこに飛ばすから、ゆっくり安静してね」

 

 魔理沙が言った直後、何か思い出したかのように声を上げ、再び口を開く。

 

「そうだ、今雄英高校の方で()()()()()()が頑張ってるけど、気にしないでね。あと私がここにいることは他言無用でお願い。警察関係者には喋っていいけど他の、マスコミとかに言うの無しね? じゃ」

 

「ちょ…ッ!?」

 

 何かに気づいたインゲニウムが声をかけようとするも、魔理沙によって一瞬でワープさせられ、警察や医療従事者のもとに届けられた。

 

「さてさて、そろそろ起きる頃合いじゃない?」

 

 魔理沙は堂々と路地裏から抜け出し、ステインが埋まった壁へと近づく。

 魔理沙の右足が車道にはみ出た瞬間、壁から素早く抜け出したステインが魔理沙に向けて刀を振るった。

 

「ほらね」

 

 だが魔理沙はその刀を中指と人差し指で捕え、涼しげにへし折った。

 

「な……ッ!?」

 

「昔は暗殺者とかスパイとか、よくこうやって奇襲仕掛けたな…」

 

 ステインが驚く最中、魔理沙はステインの真下に潜り込み、掌を腹に合わせて発勁を繰り出しながら、サマーソルトによる追撃で宙へと飛ばした。

 

「領域展開」

 

 魔理沙がそう呟くと、魔理沙を中心に固有結界が展開され、景色が一瞬で反転。再び反転すると、世界は全く異なる姿へと変貌した。

 

 心象風景を投影し現実から隔絶する固有結界、いわば例のヤツにステインを巻き込むことで、安全に一体一で戦える環境を整えた。

 

「粛清のお時間です」

 

 ステインの真下、固有結界の中心にて、魔理沙はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

【雄英高校 一年次ステージ】

 

 

 保須市での決戦が行われている一方、雄英体育祭一年ステージは盛り上がりを見せていた。

 

 1年A組、轟焦凍。その名から既に知れ渡っているが、彼はヒーローランキングNo.2のヒーロー、"エンデヴァー"もとい"轟炎司"の息子である。

 

 彼は現在行われている障害物競走をトップで独走し、第一関門であるロボ・インフェルノ軍団を単騎で突破。後続を突き放しながら第二関門へと進んでいた。

 

 彼の活躍は大いに会場を盛り上げ、彼に期待を寄せる人達が納得した表情で試合を見る。しかし、轟はそれが気に入らなかった。

 

 轟にとって、"エンデヴァー"の息子という肩書きは汚点以外の何者でもない。轟にとって、"エンデヴァー"は忌むべき存在であり、母親を奪い取った悪でしかない。

 

 その悪の血が、自分にも流れていることすら忌まわしい。この血が、『個性』が、母親と家族の繋がりを終わらせたというなら、決着をつけなければならない。

 

 悪いのは"エンデヴァー"だ。アイツがいなければ、母が悲しむことはなかった。だから俺が、母の子として"エンデヴァー"の全てを否定する。

 

「俺は、右半分(母の力)だけで勝利して、オールマイトを超える」

 

「俺は、"エンデヴァー"の息子じゃない……!!!」

 

 激しい怒りを燻らせながら、轟は次のステージに到達する。

 

[轟焦凍ォ!!! 第二関門に到着だァ!!!!]

 

[第二関門はザ・フォール、高低差の激しいステージだ。落ちないよう気をつけろ]

 

 点在する岩場とそれを繋ぐロープによって形成された第二関門、ザ・フォール。岩場と岩場の間は数十メートル離れており、普通の跳躍力では到底届かない。

 

 したがって、ロープにしがみつきながら慎重に岩場を移動するのがセオリーである。がしかし、轟には必要ない。

 

 轟は足元から氷を生成しながらロープの上を渡り、次々と岩場を突破していく。緻密なバランス感覚のもと、生成され続ける氷の上に乗り続けるその姿は、まるでサーフィンのよう。

 

 難なく第二関門を突破した轟。その後方に、第一関門を突破してきた爆豪と緑谷が到着する。

 

「温ィなァ!!!」

 

 爆豪はそのまま爆風で宙を移動し、猛スピードで轟を追いかける。残念なことにこのステージは、空を飛べる人に対して何の不利益ももたらさない。

 

「ふっ!!!」

 

 そして、人外地味た跳躍力を持つ者に対しても意味がない。ワンフォーオールで強化された緑谷の跳躍力は容易に岩場から岩場への移動を可能にし、轟と爆豪の背後を追従する。

 

 さらにその背後から次々と生徒が第二関門に到着し、その光景に圧倒されながらも必死にロープを渡る。

 

 なお直前まで緑谷の背後にいた飯田は、第二関門にて緑谷に突き放され、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「なら!!!」

 

 飯田は覚悟を決めた顔でロープの上に乗り、両手を横に広げ、エンジンの力で前進する。

 

[ダセェ!!!]

 

 めちゃくちゃ躊躇ない実況が飛ばされるも、生徒たちはみな工夫して第二関門突破を試みる。

 

 そんな最中、ついに天空から炎とともに怪物が現れた。

 

[な! な! なんとラスボスがいきなり第二関門に現れたァ!!? どうなってんだイレイザー!!?]

 

[今アイツが使った不死鳥の加護は、死後復活する際にリスタート地点を好きに選べる……らしい]

 

 突然の来訪。予測不可能な登場に生徒たちは上を見上げ、その異様さを目の当たりにする。

 

「え……どういうこと?」

 

「ケケ……! 彼女は本当に死んでから蘇ったんだ。そして蘇る場所をここに設定した。ただそれだけだ……」

 

「うわぁ!? 何!?」

 

 背後から突然解説を始めた黒色に驚き、芦戸は素っ頓狂に飛び跳ねた。

 

「だがヤツがここに現れたなら……」

 

 黒色が思案を巡らせる中、魔理沙は焔の翼を展開し、雄叫びを上げる。

 

「性格の悪い魔女さんが来たぞォォオオオオ!!!!!」

 

 クソガメのスープの反動で感情を爆発させた魔理沙は、ギラギラとした目で周囲を確認するも、肝心の緑谷くんと爆豪、そして轟の姿が見えない。

 

「いねェし!!!」

 

 邪魔する気満々で登場したにも関わらず、不発に終わる魔理沙。度々実況を耳にしていたので、あの三人が先頭を突っ走っていることは分かっている。ならば、追いつけばいいだけ。

 

「天下は私のものだァアアアアアア!!!!!!」

 

 わけのわからない雄叫びを上げながら焔の翼を動かし、音速で移動する魔理沙。その直前、真下に潜んでいた黒色は、個性『(ブラック)』で魔理沙の影に溶け込み、一緒に移動する。

 

 グングンと距離を縮め、第二関門を飛び越えて轟、爆豪、緑谷を捉える魔理沙。魔理沙は即座に符を取り出し、詠唱する。

 

「蓬莱『凱風快晴―フジヤマヴォルケイノ』ォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 スペルカード発動。轟、爆豪、緑谷の周囲に炎の爆発が連続で発生し、三条に連なった炎の弾と無差別的にバラ撒かれた弾が三人に襲い掛かる。

 

 轟は氷でガードし、爆豪は反射的に爆破で回避。そして緑谷は、ワンフォーオールの力で飛び上がり、魔理沙に向けて拳を構えていた。

 

「ワンフォーオール常時発動形態(フルカウル)40%」

 

筋肉全開(マッスル)モード!!!」

 

 迷わず切り札を切った緑谷は瞬時に筋肉が肥大化し、オールマイト級のデカさと身長を手に入れる。そのあまりの勇ましさとゴツさに目にし、魔理沙は後悔と冷静さを取り戻す。

 

「デトロイトスマッシュ!!!!」

 

 放たれた一撃が炎の弾に触れてもなお止まらず、魔理沙の肉体に狙いを定めたまま襲い掛かる。

 

 緑谷の拳が結依魔理沙の体を穿ち、背中を貫く。しかし緑谷の拳にその感触はなく、あるのは空ぶった際の空虚な時間のみ。それもそのはず、魔理沙の体は全身を炎に変えることで拳をすり抜けさせ、無効化したからだ。

 

「いきなり"キング"は取れねェだろぅよい」

 

 聞き覚えあるセリフを吐きながら、魔理沙は炎の体で緑谷に体当たりし、すり抜ける。それだけで全身を焼き焦がされた緑谷は炎に包まれて落下した。

 

 炎の鳥と化した魔理沙は標的を爆豪に定め、弾幕を放ちながら急降下する。

 

「来いや」

 

 炸裂する炎を避け、弾幕の動きに対して切り返しながら魔理沙を視界に収める。指先に意識を向け、広範囲に腕を振るうことで、おおよそ等間隔に爆発が発生。結依魔理沙の体を余すことなく爆発に巻き込ませる。

 

 轟音が響く中、爆煙が一瞬で振り払われ、爆豪の体が地面に叩きつけられる。

 

「ガァッ!!」

 

 衝撃が地面を通じて体を穿ち、胃の中身が吐き出される。朧気な景色の向こうには、揺らめく炎……否、人の形をした炎が爆豪の胴体に拳を打ち込んだ姿が映っていた。

 

 炎はつま先から頭頂部にかけて徐々に人の肌と服を取り戻し、最終的にソレは結依魔理沙へと変貌した。

 

「私が勝つ」

 

 ハッキリと、顔を見て言い放つ魔女を見て、爆豪の怒りゲージが最大レベルまで引き上がる。

 

 怒りのままに爆破で魔理沙を薙ぎ払う爆豪だったが、一瞬でその場を離れた魔理沙は轟を追いかけ、第三ステージへ。

 

 そして火だるまにも関わらず体勢を立て直し、緑谷が後を追いかける。

 

「手加減はなしですよ、師匠!!!」

 

「……げっ!」

 

 猛追する緑谷に驚く魔理沙。先ほど丸焼きにされたにも関わらずピンピンしているのは筋肉のおかげ……ではなく、通過する際に魔理沙が通常の炎ではなく"再生の炎"で焼いたからである。

 

 再生の炎はその名の通り、傷を回復し再生させる炎である。しかし見た目はホンモノの炎と遜色ないため、それを利用して緑谷くんの脳にショックを与え、気絶させようと企んでいた。

 

(あの子……人間の本能を超越してやがる……ッッ!!)

 

 戦慄する魔理沙。そもそも人間に限らず、動物はみな炎の怖さを知っている。生きたまま焼かれるなど、動物にとってそれは本能的に耐え難い所業で、誰もが忌避するものなのだ。

 

 だというのに、見せかけとはいえ丸焼きにされたと錯覚する状況で、ヤツは躊躇なく追いかけてきた。それはもう、化け物と言わざるを得ない。

 

 追いつかれぬよう、魔理沙は速度を上げる。ここまで二人と乳くりあっていたが、これは障害物競走。そうしたところでトップの轟を崩すことは出来ない。

 

 既に轟は第三関門、『地雷ゾーン』に突入し、地面に埋められた特殊な地雷を氷結能力で無力化しながら前に突き進んでいる。

 

(……障害物競走、空飛べるヤツ有利すぎる……)

 

 振り返ってみると、最初の第一関門以外は全部飛ぶだけで解決出来る難易度だ。そして飛べない人は相当苦しい上、轟の氷トラップも含めればなおのこと飛べない人は不利である。

 

(来年は空中に電気トラップ仕掛けるよう進言するか……)

 

 絵面がもはや運動会ではなく、金持ちが囚人を使って催すデスゲームのようになってしまうが、公平性を出すのであればいたし方ないかもしれない。

 

 そんな妄想はさておき、ついに魔理沙も第三関門に到達。そして真正面には、トップである轟がいる。

 

「見っけ、"エンデヴァー"の息子さん」

 

「あ゛ァ゛?」

 

 キレた轟。だがその直後に魔理沙は炎の翼に重ねて"クジャクの翼"を展開し、炎を纏った無数の羽弾を放つ。

 

 轟は舌打ちしながら氷の壁を、ドーム状に何重にも展開する。しかし魔理沙の羽弾は氷のドームの表面をなぞるように飛行し、轟の進路方向に向かって真っ直ぐ進む。

 

「地雷を踏むのは得意でね」

 

 パチンと指を鳴らした瞬間、全ての羽弾が前方斜め下方向に降下。轟の目の先にある地面に落下し、直後、轟の正面にて地雷が爆発する。

 

 爆風で弾け飛んだ氷の破片を回避し、真っ直ぐ進む魔理沙。そしてモロに爆風をくらった轟は吹き飛び、地面に落ちる。しかし、直前に落下地点を凍結させたことで連鎖爆発は凌いだ。

 

 なお、吹き飛んだ氷の破片は後方にて緑谷・爆豪の目の前で落下し、連鎖爆発が発生。爆豪は間一髪で回避するも、緑谷は肥大化した筋肉でガードし、そのまま直進した。

 

 緑谷は既に地雷ゾーンを躊躇なく全力疾走で駆け抜けているため、もはや関係なかった。

 

[な! な! なんと!! 轟を押しのけてトップに躍り出たのはァ!! 結依魔理沙ァ!!!!]

 

[全面凍結を避けて地雷を残す作戦が裏目に出ちまったな。……あと緑谷、お前は無茶苦茶過ぎる]

 

 相澤先生の苦言に内心クスッとしながら、魔理沙は第三関門である地雷ゾーンを突破。続いて緑谷・爆豪・轟が追従するも、かなりの差が開いている。

 

[ゴールまであと少し!! 諦めんなよお前らァ!!! ]

 

 視界の先に見えるゴールテープ。そこが障害物競走の終着点。

 

「俺が……ッ!!」

 

「俺が!!!!」

 

「僕が!!!!」

 

 必死にゴールに向かって駆け抜ける三人。だが、どんなに力を振り絞っても、目の前にいるあの火の鳥を追い越せない。

 

 それでも、三人は力を振り絞った。負けるわけにはいかない。勝たなければならない。隣に、いや追い越さなければならない。

 

 己の信念を、感情を力に変え、三人は全力以上の力を引き出す。痛みが己を引き裂こうとも、歩みを止めることは決してない。

 

 その先を目指し、突き進む。ただそれだけを願っているうちに、次第に距離が縮まっていき……

 

「待て」

 

 突然、魔理沙が停止した。

 

[どうした結依魔理沙ァ!!? 試合放棄かァ!!?]

 

「違うわ!!!」

 

 プレゼントマイクの煽りに文句を言いつつ、魔理沙は下を見る。

 

「いるでしょ、()()

 

 魔理沙はジッと影を見つめなるも、反応は無い。

 

 仕方ないので、魔理沙は全身を炎で燃やし尽くし、周囲の温度を急上昇させる。

 

「グゲェエエエエエエ!!!!?!!?!」

 

 聞いたこともない叫び声を上げ、魔理沙の影から黒色支配が飛び出した。

 魔理沙は黒色のジャージの襟を掴み、持ち上げた後、頭の上でブンブンと振り回す。

 

「ズルはダメですよ〜」

 

 魔理沙は再生の炎を少量付与した後にブン投げ、第三関門のゴール付近まで吹き飛ばした。

 

 憂いを晴らした魔理沙。しかし今の一連のやり取りで後続の緑谷、爆豪、轟との距離がだいぶ縮まった。

 

「絶対逃げ切る」

 

 魔理沙は瞬時に地を蹴り、全速力でゴールを目指す。なお魔理沙の素のパワーはオールマイト並に高いため、彼女が全力疾走すると誰も追いつけない。

 

[ゴォォォル!!!! 結依魔理沙ァ!! 一着でゴールイン!!!]

 

 突き抜け、ゴールテープを焼き切った魔理沙。続いて緑谷、爆豪、轟の順でゴールし、トップ4が確定した。

 

 そして後方から遅れて、飯田、骨抜、塩崎、常闇の順にゴール。その後も続々と生徒たちがやってくる。

 

「予選通過は上位40名!!! 残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい! まだ見せ場は用意されているわ!!」

 

 ミッドナイトのアナウンスを聞き、魔理沙は周囲を見渡す。どうやら、上位42名は確定したらしい。

 誰が欠けて誰が入賞したか分からないが、この場にいる生徒はほとんどがヒーロー科で、普通科は心操、サポート科は今日初めて顔を見た発目明(はつめ めい)しかいない。つまり原作とほぼメンツは変わらない。

 

 何はともあれ第一種目が終了し、一息つく魔理沙。しかしそんな暇すら与えぬ気か、ミッドナイトが怒涛の勢いで声を張り上げる。

 

「そして次からいよいよ本選よ!! ここからは取材陣も白熱してくるよ! キバリなさい!!!」

 

 ミッドナイトが再びモニターに指さし、第二種目のルーレットが表示される。

 なお、魔理沙の頭の中は『キバっていくぜェ!!』というセリフが反響し続け、それどころではなかった。

 

 世界はそんな魔理沙を置き去りにし、ルーレットを始めた。

 

「さーて第二種目よ!! 私はもう知っているけど〜〜〜〜……何かしら!!? 言ってるそばから」

 

「コレよッ!!」

 

 モニターにでっかく表示されたゴシック体の文字。それは『騎馬戦』、二人から四人がチームを組んで騎馬をつくり、天下分け目の戦いを繰り広げるという体育祭の定番種目。

 

 個性ありきの騎馬戦。それ即ち、戦争である。

 

「ルールは普通の騎馬戦と同じだけど、違うのは……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 思いもよらぬ発表にザワザワと響めく生徒たち。つまり第一種目で好成績をおさめた人は、その分第二種目でも有利になる、ということだ。

 

「ポイントは下から5ポイントずつ振られていくわ。つまり42位は5ポイント、41位は10ポイント、31位は60ポイントよ」

 

「そして1位はなんと、1000万ポイント!!!」

 

 1000万、あまりにもデカすぎる数字に唖然とする生徒たち。1000万、それさえあれば余裕で一位通過出来る。

 

 だが問題は……

 

アレ(結依魔理沙)から、取るの……?)

 

 生徒らの目線が一点に集中し、おのおの考え直し始める。

 

 あの怪物を敵に回す、それはあまりにも無謀な考え。しかし今回の種目は騎馬戦であり、障害物競走ほど自由には動けない。それに敵対せずとも、他の騎馬のみを狙って上位入賞する手もある。

 

 いやいっそのこと、結依魔理沙を仲間に加えた方が……

 

「各ポイントはハチマキになっているから、騎馬に乗る人は全員分のハチマキを身につけるのよ!」

 

 ミッドナイトが最後の補足説明を入れ、その後ベシベシとムチで地面を叩いた。

 

「さてさてルールは分かったらかしら! じゃあ最後に、第二種目における魔理沙のルーレットを決めるわ!!」

 

 すっかり存在を忘れていた能力ルーレットが始動し、全員が注目を集める。どの系統の魔法でも、魔理沙の脅威度が薄れることはない。多くの人がそう考え、どう騎馬に組み込むか思案する。

 

「今回の彼女はぁ〜〜〜──コレッ!!!」

 

「『無し』!!」

 

 全員の口がポカンと空く。観客さえも、期待していただけにフリーズし、会場は一瞬で静まり返った。

 

[え? 無し!? 無し出ちゃったよ!? ッてことはつまり……?]

 

[結依魔理沙は騎馬戦で"個性"が使えない]

 

 相澤の口から、ハッキリと伝えられる事実。個性が使えないということは、あの馬鹿げた炎の攻撃も、開幕式で見せた岩落としも、何もかも使えないということ。

 

 それが何を意味するのか。それは……

 

((今ならワンチャンアイツをブッ潰せる……ッ!!!))

 

 クラスメイトたちの瞳に火が灯る。おそらく唯一といっていいほどのチャンス。ここで彼女を消しておかなければ、後の最終種目で彼女に全抜きされることは目に見えている。ここしかない。

 

[さぁ、どうする? 結依魔理沙]

 

 誰も彼もが結依魔理沙の排除を目論見る中、相澤は実況席から彼女を見据える。

 その視線に気づいたか、彼女は振り返り、こちらに向かって指をさした。

 

「私が、勝つ」

 

 したたかに、魔理沙は言い放つ。その様子を見て、相澤は期待の眼差しで、静かに笑った。

 

 

 

 

 






【いろいろ紹介】

●蓬莱『凱風快晴―フジヤマヴォルケイノ』
→東方Projectのキャラクター、"藤原妹紅"のスペルカード。三条の自機狙い連続火炎弾は、左右移動で回避。自機狙いの火炎爆弾は上手く誘導し、連続で放ってきた場合は画面下部の端から真ん中に向けてゆっくり移動すると避けられる。

●クジャクの翼
→仮面ライダーオーズの別形態、タジャドルコンボの翼。羽を飛ばして攻撃する技は、『クジャクフェザー』と呼ばれる。

●再生の炎
→ONEPIECEのキャラクター、"マルコ"の能力の一つ。トリトリの実幻獣種モデル"不死鳥(フェニックス)"。再生の炎は燃焼能力は無い代わりに、体を再生させる効果がある。なお炎の色は青い。

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