最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

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【あらすじ】

結依魔理沙、助けた人ごと攫われる。



☆8評価ありがとうございます。



リザルト(4話)

 

 

【某国立大学附属病院】

 

 

 ───────知らない天井だ。

 

 なんて適当なことほざいてみたが、本当に知らない天井だった。もしここがウチの天井ならこんなに綺麗なわけ無い。もう少し汚いはずだ。

 それに、点滴や見舞いの花が置かれている時点で大方ここが病院であることが分かった。服もいつの間にか患者用のものに着替えていたし、寝ている間に色々世話になったのだろうか。

 

 それはともかく、いったい誰が私をここまで連れてきたのだろうか。状況的におそらく助けた女性が私を運んでくれたのかもしれないが、彼女も組織から脱出するのに相当体力を削っていたはず。だからたぶん彼女じゃない。

 そう考えると、やはり運んだのは私のボディガードだろう。そもそも訓練だって言って、私に行くように仕向けたのは彼らなんだから当然といえる。

 ただあの訓練、全く練習してる感じがしなかった。特に敵の根性というか、執念が尋常じゃなかった。

 

 ··········脳天かかと落としして金〇蹴られたくせにまだ立ち上がったの、本当に頭おかしいと思う。

 

 

 

「失礼するよ」

 

 ガラガラとドアが音を立てながら開くと、一人の男性が病室に入ってきた。

 

「君が結依魔理沙ちゃんかな?」

 

 男はベットの傍にあった丸椅子に腰掛けながら、気兼ねなく話しかけてきた。だが私の方は全く見覚えがない。昨日の話しかけてきたボディガードの人……にしては声が違うので、もう本当に誰なんだろうか。

 

「私、こういうものなのですが……」

 

 男は胸から手帳のようなものを取り出すと、私の目にはっきり見えるよう提示した。

 手帳が重力に沿って開くと、そこには『塚内直正』という名前と、その横に『警部』と書かれていた。さらによく見てみると警察署特有のマークらしきものもあることから、この人が警察官だということが分かった。

 

 警察官が何故ここにいるのか、その理由を考えた瞬間、昨日の出来事が断片的に蘇った。

 練習、と言い渡されたものの妙にしぶとく、異様に根性のあった敵、そして練習という言葉に連られて個性を使ってしまった私、そして警察。点と点が繋がり始めた瞬間、魔理沙の脳裏に一つの仮説が誕生した。

 

【結依魔理沙、オレオレ詐欺ならぬ個性使え使え詐欺の被害者説】

 

 私の不信感を利用し、ボディガードと偽って個性を公で使わせ、そのタイミングを狙って警察を呼び逮捕させる。なんて計画的な犯行だろうか。きっと私に恨みをもった人間がやったに違いない。

 

(…………恨みもったヤツ、いなくね?)

 

「初めまして。僕は塚内直正、警察官……いや、警察のお仕事をやっている人だ」

 

 彼の言葉により、魔理沙は妄想の世界から現実に引き戻される。意識が途中から戻ったせいで何を言っていたのか聞き取れなかったが、聞き覚えのある名前が聞こえたような気がする。

 とりあえず、もう少し話を聞いてみるとしよう。

 

「いきなりで悪いが、君はあの公園で何をしたか覚えているかい?」

 

 聞こうと思ったら聞かれてしまった。しかもこの質問、答えによってはその場でしょっぴかれるかもしれない地雷質問。正直に答えれば十中八九死ぬ。

 

「…………覚えてない」

 

 昨日のことがまるで昨日のことのように思い出せるが、魔理沙は知らないフリをした。

 

「フム、どうやら記憶がないようだね。何か体に異常は無いかい?」

 

 塚内は魔理沙を不安にさせないよう、優しい表情と声色で話かける。

 さっきまでバリバリに警戒していた魔理沙だったが、彼の言葉の温かさに少し心が緩みそうになった。

 

「…………うン」

 

 笑みを引き攣らせながら、何とか受け答えする魔理沙。警戒を怠るつもりは無いが、彼の良い人オーラが眩しすぎて全部喋りたくなる。でも喋ったら絶対に捕まって社会的に死ぬ。どんなに優れた戦闘能力があろうと、社会的信用を取り戻す能力が無い以上世渡りは慎重にやらなければならない。

 

 でも喋りたい。

 

「それならよかった。ところで……」

 

 突然、塚内は持っていたバッグからガサガサと数枚の写真画像を取り出し、私の目の前に並べた。

 

「これは、何かな?」

 

 そこには、私が個性を用いて犯人の頭を踵落とししているシーンや金○を蹴り上げるシーンが写し出されていた。

 

(証拠ォォォォォォォォォォォ!!!)

 

「近くの住民が撮影したらしくてね。この画像、どう見ても君が個性を用いて人を攻撃しているようにしか見えないんだけど、どういうことか説明してくれる?」

 

 笑顔のまま一切表情を変えない塚内に、魔理沙の頭はバグり始めた。ここまで全部茶番だったこともさながら、人生のチェックメイトが目の前にあることに焦りを感じ、魔理沙はなりふり構ってられなくなった。

 

「…………う〜〜〜ん、う〜〜〜〜〜」

 

 魔理沙は唸るフリをしながらそっと証拠の方に手を伸ばす。そう、証拠なんて触ってしまえば能力でいくらでも書き換えできる。まだ慣れてはいないが、この画像を陳腐なラクガキに変えることくらいなら造作もない。

 

 そんなことをすればすぐに疑われるだろうが、問題ない。一瞬でも紙に意識が向いた瞬間、もしものために練習しておいた忘却魔法(オブリビエイト)が塚内の額に炸裂し、彼が今日何しにここに来たのかの全てを忘れさせれば万事解決。後は適当に流して退院すれば詐欺の件も全部チャラ、社会的にも死なない。全てが丸く収まる!

 

 魔理沙は証拠を適当なラクガキに変換させ、塚内の意識をこっそり誘導する。

 

「ッ! 証拠が……ッ!!」

 

 塚内の意識がラクガキに向いた瞬間、結依魔理沙は即座にベットから起き上がり、塚内の額目掛けて手を伸ばした。

 

 確実に忘却魔法をブチ当てようと躍起になっていた魔理沙だが、塚内のでこに到達する直前でピタリと手が止まる。止めたのは魔理沙自身の意志ではない。第三者の介入によって止められたのだ。

 

「パパァ!?!?」

 

「魔理沙、彼は私の友人だ。変なことするんじゃありません」

 

 魔理沙の父、結依勇魔はもう片方の腕で私の頭にチョップを食らわせた後、塚内に向かって一礼をする。

 

「ウチの子が迷惑をおかけしました」

 

「いえいえ、気にしないでください。そもそもコレ、()()()()ですし」

 

「はい?」

 

 聞き捨てならん言葉が聞こえた瞬間、クラッカーを持った塚内と勇魔が一斉に鳴らし始めた。

 

「「テッテレー♪ 」」

 

 勇魔と塚内は『ドッキリ大成功』の紙を抱えながら、パーティ用の伊達メガネをかけて呑気に笛を吹き始めた。

 

「いやしょぼい!!!! しかも大して面白くない割に心臓に悪い!!!!」

 

 わざわざドッキリのためだけに協力してくれる警察官とは一体なんなんだろうか。暇人なのか、それとも想像以上にこの二人が仲良いのか。

 というか何故パパは警察と仲が良いのか。中学高校時代の同級生か何かだろうか。そうでなければいったいどういう繋がりなのか、気になるところではある。

 

「……ねぇ、二人はどういう関係なの?」

 

 セリフがやましいが魔理沙は直接二人に聞くことにした。

 

「…………実は昔、公安委員会で働いていてな。職業柄よく警察とは仲良くしているんだ」

 

「君の父さん、本当に凄い人なんだよ。個性黎明期において数多の海外テロ組織や反社会組織をことごとく解体してきたんだから!」

 

「へぇ」

 

「…………反応が、薄い……だと?」

 

 あまりに素っ気ない態度に目を丸くする塚内。影のヒーローとでも言うべき父の偉業に、彼女は一切興味が無いようだ。

 

 まだ4歳だというのに目に全く生気が宿っていないことから、あの話は本当だったのだと塚内は確信した。

 

「で、何で父さんがここにいるの?」

 

 魔理沙は病院のベットで胡座をかきながら、父の本当の目的について聞き出そうとした。

 いかんせん見た目が厳ついせいで4歳とは思えないほどの威圧感を感じるが、勇魔はゆっくりと口を開いた。

 

「いいか魔理沙、落ち着いて聞いてほしい」

 

「昨日、家にボディガードを名乗る人が電話をかけてきただろう? アレはボディガードではなく、私の部下だ」

 

「部下からも聞いた通り、魔理沙に助けるよう指示したのは私だ。その理由については少し省くが、魔理沙の力と戦闘のセンス、そして人としてモラルがあるかどうかを試すためにこういった命令を出した」

 

「魔理沙、お前は今まで気づいていなかったかもしれないが、この世界は魔理沙の誕生を機に変わりはじめている。世界中のあらゆる人間がお前の力を求め、利用しようとする人間が急増しているんだ」

 

「現に200■年4月27日以降、海外からの密入国者が1万人以上、サイバーテロの件数が50万件にも増加している。国内における犯罪組織にも変な動きが見られる以上、魔理沙狙いの連中が少なからずいることは間違いない」

 

「したがって魔理沙には、海外に行ってもらう」

 

 勇魔の言葉に反応し、頭の中で繰り返し反芻する魔理沙。海外、海の外、つまり日本の外。つまり海外。つまり日本じゃない。つまり…………

 

「え?」

 

 全く理解できなかった。

 

「そこで魔理沙は多くの軍人達から、自分の身を守るための技術を学ぶんだ。そうすれば、魔理沙は自ずと強くなるはずだ」

 

「心配せずとも父さんと母さんも一緒に行くから、安心しな。時々父さんも稽古をつけに行くからな」

 

「分かったか?」

 

 頭に手をのせられながらそう言われたものの、頭がフリーズしていたので全く反応できなかった。

 内容を理解出来なかったわけではないが、自分の個性のことでここまで話が広がっていたとは思わず、そのせいで海外暮しになるとは驚きだ。いや、ある意味当然か。なんならむしろ優しいまであるか? 

 

 この世界の倫理観は分からないが、もし世界を壊す力を何の制約もない子どもが持っていたら、人はその子を殺すのだろうか。

 

 もし目の前に核兵器のスイッチを持った子どもがいて、自分の懐に銃が入っていたとしたら、自分はその子を撃ち殺すのだろうか。

 

 

 

 

 話し合いで解決するならそれでいいが、そうじゃなければ撃ち殺すのだろうな。私ならそうする。

 

 

 

 

「…………分かった」

 

 魔理沙は俯きながらも了承し、海外に行く決意を固めた。これも運命、こうなることは生まれた時から既に決まっていたのだろう。仕方ないで済ますしかない。

 だが、ただでさえここは異世界の日本だというのに、前世ですら行ったことのない海外に行くのはかなりハードルが高い。

 心の準備も足りていないし、何より未開の土地すぎて何が何だか分からん。飯さえ美味しければやっていけそうな気がするんだが……

 

「魔理沙…………」

 

 悩む娘の姿を見た勇魔はそっと右手を背中に伸ばし、左手を足の下に伸ばすと、魔理沙の体をひょいと抱えあげて、そのまま病室の外に出ようとした

 

「待て待て待て待て待て」

 

 魔理沙の腕からブチブチと点滴が引きちぎれ、注射痕から血がブシャブシャ溢れ出したが、勇魔は一切足を止めない。

 魔理沙は必死に背中をバシバシ叩いて止まるよう催促するが全然効かず、そのまま病院の裏出口の方へ向かっていく。

 

「止まれェええええええええええええ!!!!!」

 

「ぐおおおおおおおおおおおお!?!?!?」

 

 魔理沙は握力80kgの力で父の頬を引っ張り上げ、無理やり制止させた。

 

「どこ行くの!?」

 

「海外」

 

「今から?!?」

 

「明日までにアメリカに着かないと、お前も父さんも特務機関に殺されるからな。時間が無いんだ」

 

「じゃあ走れェええええええええええええ!!!!!」

 

 父と魔理沙が裏出口の扉を開けると、目の前に黒いスーツを着た人達と黒塗りの高級車がいた。

 

「こちらへ。空港までお送り致します」

 

「頼む」

 

 二人は急いで車に乗り込むと、部下の人が急いで発進した。

 

「母さんは!?」

 

「先に行ってる」

 

 母の所在を聞いて魔理沙は胸を撫で下ろした。だがその直後、あることに気がついた。

 

「…………もしかして、知らなかったの私だけ?」

 

「そうだよ」

 

 知りたくなかった事実を目の当たりにし、魔理沙のテンションがみるみる下がっていく。

 隠しているつもりだったのに、これ全部バレてないか? 何気に今までスルーしていたが、一度も個性を見せていないはずなのに父親に自分の個性のことバレてるし、母親は海外行く理由を既に知っているし、結局何も知らなかったの私だけじゃないか。

 魔理沙は少し溜息を着いた後、不貞腐れて横になり、そのまま二度寝を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇魔は疲れ果てた魔理沙の髪を撫でたあと、肩に手を乗せながら呟いた。

 

 

「…………ごめんな」

 

 

 世界のためとはいえ、魔理沙に負担をかけてしまうことを申しわけなく思う。出来ることなら普通の女の子らしい人生を送らせてあげたかったが、力が足りず結局は監視付きの監獄暮らし。

 

 これで本当に良かったのだろうか。

 

 そんな思いが、ぐるぐると頭の中を回り続けている。今まで家族らしいサービスをしてこなかった癖に、自分の都合で海外移住を強いてしまうことになるとは我ながら情けない。

 だが妻も子も、海外に行くことを受け入れてくれた。まだ何もしてあげられていないというのに、本当に助けられてばかりだ。

 

 今度、どこか美味しいところにでも連れて行ってあげよう。そう思った勇魔はさっそくノートPCで検索し、美味しそうなお店を片っ端からチェックリストに入れ始める。やると決めた以上、動くのは当然だ。

 

 勇魔は空港に着くまでずっと検索し続けた。そして午前10時54分、勇魔と魔理沙はロサンゼルス空港行きの便に乗り込み、日本を離れたのであった。

 

 

 













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