最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE: 作:マスターチュロス
【あらすじ】
結依魔理沙、戦闘訓練に遅刻した罰として腕立て伏せ、腹筋、ランニングをやらされた。
「では新入りはあそこの4人チームに混ざれ!! 異論は認めんッ!!!」
「えぇ……?」
なかば強制的にチームにぶち込まれた魔理沙は仕方なく指示に従って移動する。
移動した先には先程注目していたナイフ使いの少年と金髪のロリ少女が
「……
とりあえず挨拶だけはしておこうと、抑え気味の声量で挨拶をした結果、ナイフ使いの少年が動きを止め、こちらに近づいてきた。
「……君が新入りか。初めまして、僕の名前はジャック。そしてこの子はジオ」
「…………じお……だよ」
陽気な青年と私と同じくらいの背丈のロリが握手を求め、私は何となくその手を握り返す。
何なんだこの違和感、刑務所の中とは思えないほどにほんわかとした雰囲気が漂ってやがる。もっと殺伐とした世界をイメージしていたのだが。
「そしてあそこに突っ立っているのは元CIAのおっさん、無口だけど気にしないでね」
「そしてあっちのお姉さんはホータイさん。中国生まれで皆から『タイの姉御』と呼ばれてるけど、本人の前で言うと怒るから『姉御』って呼んであげてね」
魔理沙はうんうんと頷きながら、頭の中で生物学の教科書を読み込んでいた。これ以上人の名前を覚える気は無い。
「さっそく君も訓練に混ざってもらうけど、その前に」
「君にはこの研究施設におけるルールと、
「…………ルールと、洗礼?」
何やら不穏な言葉が耳に入ってきた。洗礼、それはつまり成功しなければ正式に仲間として受けいられないとか、洗礼で失敗した者は今後一生カースト上位者からいびられ続けるとか、そういうアレなんだろうか。
ルールに関しては既に昨日聞いたから、今更聞く必要があるのか疑問である。何故そんなことをするのか。
「……?」
「あぁ、このルールってのは僕たち囚人間のルールさ。例えばそう……『目上の人に逆らわない』とかね」
「目上……」
魔理沙は納得したと同時に、若干眉間にシワが寄ってしまう。周りの人間ほぼ全員年上である以上、『誰にも逆らうな』と言われているようなものである。解せぬ。
「他にも『目上の人の命令は絶対』とか、『争いごとは拳で決める』とか、『とあるエリアは立ち入り禁止』とか……」
「ま、この辺のルールは過ごしてるウチに覚えるから気にしなくていい。問題は
「
明るい雰囲気から一転して、非情さを感じさせる声と目付きに変化したジャック。彼の雰囲気から洗礼の過酷さが垣間見えるが、さきほどのほんわかな雰囲気からはなかなか想像がつかないので正直困惑している。
「何故って顔をしてるね。君も見ていれば分かることだが、この施設は生温い異能保護施設何かじゃない。れっきとした刑務所の一施設で、収容人物の大半は犯罪者。上下関係もハッキリしていて、力の無い人間から真っ先に淘汰されていく…………ここはそういう世界だ」
「あ、でもそんなに警戒しなくていい。
ジャックは元の明るい雰囲気に戻り、笑顔で私を元気づけた。何なんだコイツは。
いまいちジャックの特徴を掴みきれず翻弄される魔理沙。何というか、こいつからは詐欺師に似たようなものを感じる。信用した途端に後ろから刺してきそうな、そんな危ない雰囲気が漏れていて警戒せざるをえない。慎重に対応する必要がある。
「それじゃあ、
まだ心の準備が出来ていないというのに、ジャックの掛け声によって洗礼が緊急スタート。とりあえず構えてみたものの、先に攻撃していいものかやや迷う。
互いの視線が交差した瞬間、ジャックの手元が一瞬ブレたように見えた。何かは分からないが飛び道具を投げられたことを察した魔理沙は横に大きく避けたが、視界に飛び道具らしきものは映らない。彼はいったい何をしたというのか。
「……ッ!?」
ジワジワと焼けるような痛みが脇腹から拡がっていくのを感じた魔理沙は咄嗟に脇腹を確認すると、光の反射具合でやっと確認出来るほどの極小の針が3本突き刺さっており、そこから傷穴が急速に拡がり始めていた。
自分の意思に反して肉が裂けていくのを危惧した魔理沙は回復魔法を反射的にかけたが、全く治る気配がない。
「じお……のも……みて」
ジオが魔理沙に指をさすと、黄金に輝く先端の尖った物体が地面から勢いよく飛び出し、膨大な質量と圧倒的な速度で結依魔理沙に思いきり激突した。
「ごあッ!!?」
流動する物体は勢いのまま結依魔理沙の腹を貫通し、何度も壁に激突させた後地面に叩きつけた。
いきなり致命傷を負わされた魔理沙だったが、特殊体質のおかげで貫通した部位が即座に自動回復していく。
だが、ジャックに負わされた傷だけは何故か直らない。回復魔法も効かず、最悪
傷穴が無くなったおかげか自動再生能力が適応され、魔理沙は再び回復した。
ジャックが言う
「その個性……もしかして
「…………ホルダー?」
「いや、気にしなくていい」
意味深なことを言い残しつつ、ジャックはナイフを回し続ける。
「それよりもう治ったの? 僕の個性はそこらの治癒個性ごときじゃ治せないほど強力のはずなんだけど」
「ま、どうせ死ぬから関係ないか」
死ぬ、……彼らが自分を殺す気なのは理解したが、それを洗礼と言うにはあまりにも暴力的過ぎる。力無きものは死に……って本当に死ぬヤツなのかと突っ込みたかったが、考える隙もなくもう一人のデカイ男が魔理沙の顔面に蹴りを加えた。
「……元CIAの、おっさん……!!」
「…………」
左腕で蹴りを防いだものの、やはり巨大な体格と体重から繰り出される蹴りの威力は尋常ではなく、4歳の体ではとても受け止めきれない…………わけではないが、少し腕が痺れた。
「……ん?」
次の瞬間、力が抜けたかのように膝が崩れ、両肘が地面にめり込んでしまった。
何が何だか分からないが自身の体重が異様に重く、身動きが一切取れない。瞼をあげることさえ不可能なレベルの負荷が全身を押し潰しているかのようだ。これがおっさんの個性……!
そういえばブ〇ーチの登場人物にこんな能力の人いたなぁと、呑気に思っていたら再びおっさんの蹴りがすぐ目の前まで接近していた。
それを咄嗟に避けようとした魔理沙だが、体が重すぎて避けられなかった挙句、それを見越したジャックが追撃として再び針を飛ばし、さらに畳み掛けるようにジオが大量の黄金をぶつける事で、結依魔理沙は体重が倍以上に増えたまま黄金の下敷きになってしまった。
「死んだな。とはいえかなり生き残ってたし、これなら施設でも上手くやっていけるな」
「…………はぁ」
黄金の中心で噴煙が舞い上がったかと思いきや、魔理沙が顔ひとつ変えることなく中から這い出てきた。
「ッ何!?」
「……何で洗礼ごときで殺されなきゃいけないのか1ミリも理解できないが、これだけは言っておく」
「私はお前らより3億倍強い」
気だるそうな表情から一変し、無表情のまま目を見開いた魔理沙。まるで全ての感情を失った殺戮マシンのごとき冷徹な視線を飛ばす彼女に、ジャック達は戦慄した。
「でも私ねぇ、まだ4歳で全然力を使いこなしてねぇんだ。だから代わりに実験台になってくれ」
魔理沙は手のひらに『白い焔を纏った蝶』を顕現させ、それを手で圧縮することで一気に膨張させる。
「
魔理沙が右腕を薙ぎ払うことで白い焔とそれを纏う蝶が周囲に拡散し、視界に入る全ての物体を燃やし尽くしていく。
白炎の威力の凄まじさに、この場にいる全ての人間が魔理沙に注目し始めた。
「……はぁッ……はぁッ…………はぁッ……!」
「じおたち……おじさんにかし、ひとつ」
「…………」
白炎に包まれた3人は燃え尽きてしまったかと思いきや、彼らの周囲だけ何故か炎が進行せず、地面に這いつくばるかのように鳴りを潜めている。
おっさんが振り上げた足を下ろすと、目の色を変えて私の方に急接近し始めた。
「……やっぱここの人間はヤバいヤツしかいねぇなァ!!!」
だんだんテンションが上がってきた魔理沙は自分が4歳であることを忘れ、おじさんと真正面から相対する。
おじさんの足払いを華麗にジャンプして避け、その隙に手のひらで生成した光の剣を容赦なくおじさんの胸に突き刺そうとしたが、おじさんは片手で弾きさらに胸ポケットから拳銃を取り出した。
「…………」バンッ!!
放たれた弾丸が真っ直ぐ結依魔理沙の瞳に向かっていったが、残り0.5メートルといったところで急遽弾丸が弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいく。
「残念、効きません」
魔理沙はニヤつきながらおじさんの両手首を強靭な握力で掴み、右膝を勢いよく腹部にブチ込んだ。
「……ッ!!」
「まだだよなァ!!?」
魔理沙はさらに自身が受けた反動を利用し、至近距離でドロップキックを食らわそうとする。だがしかしおじさんは怯むことなく魔理沙の両足を掴み、壁に向けて勢いよくぶん投げた。
「ごはッ!!」
衝撃で脳が揺れたものの、状態補正スキルが脳震盪を軽減したおかげでほぼ無傷で済んだ。だが間髪入れずにジャックの針が襲いかかってきたため、魔理沙は前転で咄嗟に回避した。
回避した瞬間、地面から再びドロドロとした黄金の液体が魔理沙の肉体を一瞬で包み込む。金属のベールに閉じ込められ、身動きが取れなくなった魔理沙は必死に藻掻くがビクともしない。
「……じお、びっくり。ここまでいきのこったひと、いない」
「…………」
「それだけじゃなく、まさか個性2つどころか3つ持ちのホルダーだったとはね。騙されたな」
新入りの奮闘ぶりに感心する3人と、いつの間にか増えていた観客達によって練習場が賑わい始める。娯楽に飢えた囚人達にとって争いは刑務所唯一の娯楽であり、それを合法的に行える訓練の時間はとても貴重である。
そんな場所でド派手な個性を持った新人が現れれば盛り上がるのも当然なわけで……そしてこれほど騒ぎが大きければ監督官も黙っているはずがなく……
「お前らあああアアあアアアアあああああ!!!! 訓練をサボるなぁああああああアアアアあアアああああああ!!!!!!!! さっさと持ち場に帰れえええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
監督官が絶叫しながらあるボタンを押すと、ほぼ全ての囚人が突如硬直し、木偶の坊のごとくこてりと地面に倒れてしまう。
原因は囚人に装着されたリストバンド。信号を受け取ると超極細サイズの針を装着者に突き刺し、末梢神経に特殊な電波を流すことで全身の筋肉を硬直させてしまう。
リストバンドさえ付けてしまえばどんな人間だろうと無力化出来るため、この施設のみならず地上の方の刑務所においても使用されており、看守や監督官がこのスイッチを握っている限り囚人に自由は無い。
つまるところ監督官の指示に従う他なく、動けなくなった囚人達はAI搭載型搬送ロボに引き摺られ、次々と持ち場へ強制送還されてしまう。
ドゴォッ!!!
ジャック達ですら身動きが取れない中、巨大な何かが破裂したかのような音が施設全体に響き渡る。
何事かと全員が振り向くと、そこには金属のベールをブチ破って脱出した結依魔理沙がいた。
「何で動けるんだ!?」
「? 別に怪我してないから動けて当然だが?」
ジオの檻を再びぶち壊した魔理沙だったが、周りを見渡すと異様な雰囲気が漂っていた。
なぜだか分からないが全員が地に伏せながらこちらをガン見している。何で? しかも喋る気配すらないから相当真剣であることが伺える。なおさら何で?
「あ〜〜じお、わかったけどいわない」
「僕も分かったが、仮にもし金属ドームが無かったとしても彼女は動くぞ……」
「…………」
ジャック達も眉間に皺を寄せながら凝視し、彼女の状態について考察し始める。が、当の本人はよく分かっていなかった。
「そこの新人も大人しく持ち場に戻れ!!」
「あ、ハイ」
搬送ロボが迎えに行く前に魔理沙は持ち場に戻り、訓練用ナイフを持って静かに練習し始めた。
おかしい、と感じた監督官は魔理沙一人のみ対象に再びスイッチを押したが、止まることはない。
「?????」
何故止まらないのか理解出来ぬまま、この日の訓練は終了した。なお、洗礼が終わった後の5人は誰一人として喋ることなく、黙々とサポートAIの指示に従ってナイフ操作の訓練を続けた。
■
【昼休み】
昼休み、それは昼食の時間。基本的に囚人達は午後12時10分から午後13時40分までは休憩時間となっており、多くの人は施設中央に存在する『大食堂』で食事をとる。
もちろん食事がすぐに済めば残りは自由時間なので、総合センターの許可が下れば訓練場でサッカーやバスケをしたり、個性の使用許可が下れば個性も使うことができる(なお、個性の使用を許可されたことはほぼ無い)。
刑務所の一施設にしてはやけに緩いというか、もはや学校に近い雰囲気である。犯罪者まみれの施設にしてはとても気味が悪い。
(右を見れば仲の良さそうな男女4人グループがカフェラテ飲みながら談笑してる……)
(左を見れば総合センターで許可を取ったであろう6人組の男共がバスケットボールを抱えて訓練場に向かってる……)
(なんだこれは。犯罪者なのに、まるで学生時代の青春を見ているかのような眩しさ……! 死ぬ……!!)
彼らを見ているだけで前世の嫌な記憶が蘇りそうになり、魔理沙は吐き気を催した。別に彼らに何かされたわけではないが、何というか体が彼らを拒んでいる。私は生粋の陰キャかもしれない。
そう思いながら結依魔理沙は食堂とは反対の方向へ歩いていき、年中雲ひとつない人工公園の方に向かう。地下施設に雲なんて概念ちゃんちゃらおかしいように聞こえるが、この人工公園の景色は全てホログラムによって構築されている。だから地下でも年中快晴である。
魔理沙は木陰の近くで仰向けに寝そべり、空を見上げる。見える雲も木も青空も全てホログラムだが、最新鋭のよく分からん装置を大量に投入しているため、草木の匂いや波風も感じられるし、日光も普通に浴びられる。
何故そこまで設備投資するのかについては案内役の人いわく、囚人を利用した実験の一つらしい。人間の人格形成、性格の変化、価値観の流動など、環境が人にどのような影響を与えるのか研究しているとのこと。
(……そろそろ時間を止めて練習するか。予定では26年の歳月が必要だから、早めにやっておくに越したことはない)
1日につき5000個、そして1年間時間を止めるので5000×365日で1825000個の能力を今から習得する。……想像することさえ面倒臭いが、補助スキルのおかげである程度の負担は軽減されるはず。
「お邪魔するよ」
綺麗な青空を一部覆い隠して現れたのは先程のナイフ使い、ジャックだった。
「…………」
「あれ、もしかして嫌われたかな? アレはあくまで新入りの実力を測るための恒例行事であって、不本意ながら付き合わされただけなんだよ。許してくれないか?」
切って貼っつけたかのような笑顔に不信感しか感じない魔理沙だったが、見た限り帰れっつっても多分帰んなさそうなのでとりあえず上体だけ起こした。
「……その割にはめちゃくちゃノリノリだったけどな」
「君も途中からニヤけていただろう?」
「…………」
魔理沙は目を逸らした。
「それより君、ちゃんと昼食は食べたかい? ここの料理は絶品とまではいかないが、美味しいぞ」
「ちょうどここにジオのために買った弁当が1つ余っててね、代わりに食べてくれないか?」
「……ジオは食わないのか?」
「ジオは自由奔放天真爛漫だからね。弁当買ってきたのに先に食べてたんだよ」
ジャックは笑顔で弁当を差し出し、魔理沙に食べるよう促す。……この体は自動的にエネルギーを生産しているので、よほど体力を消耗していないかぎり食べたり寝る必要は無い。が、好意を無駄にするのも後味悪いので受け取っておく。
「……ありがとう」
とりあえず感謝の言葉を述べたら、ジオにも負けないレベルの笑顔を振りまいてきた。何だこの雰囲気の落差は。私を殺しに来た人間とはとても思えない。
二人はその後、木に寄り添いながら黙々と弁当を食べ始めた。
「君、どこから来たの?」
「……日本」
「へぇ〜〜日本! 珍しいねぇ、サムライとニンジャがいるんだろ?」
「生まれてから一度も見てないが、いるんじゃない? 知らんけど」
もしかしたらサムライ系ヒーローやニンジャ系ヒーローがいるかもしれない。
「ちなみに僕はイギリス生まれでね、ここに捕まる前はニンジャみたいなことしてたんだ」
「ニンジャ……暗殺家業か?」
「そ、人を殺す仕事。ま、両親共に犯罪者で母は僕が生まれてすぐ死んだから、こんな汚い仕事する羽目になったのも必然って感じがするけどね」
「ここに捕まったのも、仕事が原因か?」
「う〜〜〜んちょっと違うけど、まぁ概ねそうとも言えるかな?」
「何だそれ」
「これも大人の事情っヤツさ」
絶妙にはぐらかされて若干モヤモヤするが、気にするほどでもないので追求はしない。まぁ誰にだって聞かれたくない話の一つや2つもあるってもんだ。
「それより君こそ何で捕まったの? 外にも出なさそうな雰囲気してるのに?」
「おい、一言多いぞ」
「…………まぁよく分かってないが、概ね個性のせいだ。存在するだけで社会掻き乱すから大人しくしろ的な」
「なるほど、ジオと同じだね」
「ジオと?」
ジオはさっき訓練場で争った同い年くらいの幼女。
「戦って分かったと思うけど、ジオの個性は『黄金』。自由自在に黄金を作り出してはあらゆる形に変形することが出来るんだ」
「彼女が生み出す黄金は紛い物ではなく正真正銘の『金』、無から莫大な資産を作り出す力に目が眩んだ両親はジオを使って億万長者になろうとしたんだけど……」
「ありえないほどの大量の金が市場に流れたせいで金の価値が急激に暴落してね。案の定、彼女と彼女の両親は国の公的機関に見つかってそのまま刑務所に入れられたんだ」
「…………待って、あのニュースそれ!? でもテレビだと市場に流れたのは精巧に作られた紛い物の金だったから相場は元に戻ったって……」
「うん、フェイクだね。ま、そう言わないと富裕層ブチ切れちゃうからしょうがないよね」
「……個性って、ヤベぇな」
世界の常識を一瞬で崩壊させる個性…………そんな力が一般人にポンポン配られる世界とか、この世界危険過ぎる。今秩序を保てているのが本当に奇跡何じゃないかと疑ってしまいたくなるくらいには、この話は衝撃的だった。
私も『世界征服する!』とか言ったらシバかれたんだろうか。言わなくてもシバかれたが。
「実はこの階層には他にもそういう事情を抱えた人が多くいてね。だいたい国際条約に単独で引っかかる個性だったり、政治経済に甚大な影響を及ぼす個性は即こういう施設にブチ込まれる」
ジャックは一瞬顎に手を当てた後、少し考えてから魔理沙の方を見つめた。
「……そういえば、君の個性ってちょっと変じゃない? 傷を治す個性と炎を出す個性、そして分厚い金属性の壁をブチ破るほどのパワー、……有り過ぎないか?」
急に私の個性について触れられたことに一瞬驚いたが、即座に平常心を装った。
正直、私の個性に関しては出来る限り隠し通したい。いや複数個性持ちなのは既にバレているからそれはいいんだが、私の能力の中でも特段ヤバいヤツだけはバレるわけにはいかん。
特に蘇生、即死、時間操作、概念の書き換え、法則無視、
とりあえず補助スキルで精神を安定させ、全力の澄まし顔で乗り切ることとする。
「……私はただの魔法使い。魔法なら何でも使えるってだけ」
「へぇ〜〜ホントに?」
疑われている。……そりゃそうだ、アレ全部魔法で片付けるにはなかなか違和感がある。もし私の能力を見たものの中にアニメの知識を有するヤツがいたら、即座にバレていただろう。
だがしかし相手は何も知らないムチムチの無知。ゴリ押せばいける。
「じゃあ傷を治したのは?」
「治癒魔法」
「超パワーは?」
「身体強化魔法」
「…………炎は「属性魔法」……」
あまりにも早い解答にジャックはやや押され気味であり、正常な判断能力を失い始めている。
「一応、筋は通ってるの……か?」
ジャックは魔理沙のゴリ押しに押され、とりあえず納得した。思う壷である。
秘密を守りきったところで昼休み終了10分前のチャイムが鳴り響き、周りが慌ただしく移動し始めた。どうやらタイムリミットのようだ。
「じゃ、そろそろ時間だから帰るとするよ」
そう言うとジャックは振り返って教室に向かっていったが、忘れ物をしたのか私の元に戻ってきた。
「最後に君の名前を聞かせてくれ。あの時言うの忘れてたよ」
ジャックは私の方を見つめながらそう言った。そういえば自己紹介してなかったな。
「……結依魔理沙」
「それじゃ魔理沙、また明日」
ジャックはそう言って少し手を振ったあと、再び教室の方に走り始めた。
ホント、犯罪者にしては随分と親しみやすいというか、とても爽やかな人間だった。絶対に信頼したらダメなタイプだ。
そんな警戒心とはまた別に、魔理沙は自分の能力について少し考えた。
もし自分が能力を利用して世界を支配しようとしたら、世界はどうなってしまうのか。十中八九支配できてしまうのだろうが、力で支配したところでその後世界をどう動かすかなど1ミリも考えていない以上、支配したところで何も意味は無いだろう。支配するまでの過程は楽しいかもしれないが、終わった後には何も残らない。やんない方がいい。
「逆に私以外の人間が世界を支配しようとしてたら、それは全力で阻止してやるとしよう」
フンス、と少しだけやる気が満ちた魔理沙は、起き上がって服についた土や草を取り払う。この人工公園、地面だけはホログラムではなく本物の土と人工芝が使われているから、座ると汚れてしまうのだ。何で全部ホログラムにしなかったんだ。
「それじゃ、私も午後の活動に勤しむか……」
魔理沙も大人しく教室へ向かっていった。
(…………今日の分の特訓は夜に回すか……)
To be continued....