最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE: 作:マスターチュロス
エゴはあなたに
あなたではないあなたを
信じさせている。
肉体こそあなただととか
業績こそあなただとか
競争して
他人より優位に立つことが
大切などと信じこませようとしている。
実際は、生まれることも
死ぬこともない魂が
人間としての体験を
しているだけなのだ。
(ウエイン・W・ダイアー)
※後半、超大変更を施しました。内容が大幅に変わっています。申し訳ございません。
《緑谷side》
「はぁっ、はあっ、はぁっ、はあっ......」
グラントリノを追いかけ街中を散策していた緑谷であったが、街の惨状はお世辞にも大丈夫とは言えなかった。住民の悲痛な叫び声が各方向から共鳴するように反響し合い、消えてはまた聞こえてくる。車のガソリンが引火したのか各所からは火の手が拡大して住民はパニックに陥っている。地方のヒーローが彼らを避難させているから今のところ大事には至ってないが、少し被害が大きすぎないか? グラントリノと怪物の争いで周りに危害が及んでいるにしても、あまりに規模が大きすぎる。どう見ても他のヴィランも同時に暴れてるようにしか......
考える緑谷だが突然の突風で身体を煽られ、思考を一瞬停止してしまう。そして再び目を開けたその時、緑谷は己の状況を疑った。無性に両腕が痛く、突風が止む気配がない。さっきまで火災で発生した熱が充満していたというのに、今は嘘のように涼しい。むしろ寒いくらいだ。しかし一番の問題点はそこではない。緑谷はグッと目線を下に向けた。
地に足がついてなかった。
「!!?」
よく耳をすませばバサバサと音が鳴っているのが分かる。緑谷は後ろを振り向いた。そこには翼を大きく羽ばたかせ、鳥のような足で両腕を掴みながら飛行している脳無がいた。
「もう一体いたのか!」
緑谷は自分を掴んでいる脳無を叩き落とそうとするが、下の大爆発に気を取られてしまう。目を向けると複数の脳無が高層ビルや娯楽施設、目につくもの全てに対して破壊の限りを尽くしていた。一体二体どころの話ではない。五、六、七......少なくとも十体以上この街に集中している。おかしい、ここまで用意出来るならなぜUSJの時に使わなかったのか。脳無一体でもプロヒーロー数名ほどの戦力にはなる。しかしそれだけの力を秘めているからこそ増産が難しく、USJの時は一体だけ(しかも対オールマイト用)しか連れて来れなかったはずだ。安価での生産が可能になって、供給が安定したとか? そういえばUSJ襲撃のヴィランの中に、師匠と争っていた女の人がいたよな。主戦力がそっちに切り替わったから、脳無を切り捨てたのか? 切り捨てるにしても脳無はかなりの戦力、保須で切る必要なんて.........あ! 師匠!!
確信にたどり着いた緑谷出久。きっとヴィラン連合は、師匠の職場体験先を狙って脳無を投入し倒すつもりだったんだ! 連合側で新たな戦力を手に入れたのか、技術革新が起きたのか不明だが、不必要になった脳無(おそらくUSJの時より弱い)を師匠にぶつけつつ、脳無の戦闘データ回収かつヒーロー社会への打撃を与えるのがヴィラン連合の目的だ。
「取り敢えず、この脳無を叩き落とさなきゃ」
緑谷はデコピンの照準を脳無の目に合わせる。体育祭で散々みてきた師匠のテクニカルなデコピン、「見て学ぶ」ことに関してはかなりの自信があるからワンチャン出来るかもしれない。いいや出来る!
「デコロイト・スマッシュ!」
指先から放たれる風圧が脳無の右眼に直撃し、緑谷は喜びの声を上げる。叫び、悶絶を繰り返した脳無は緑谷を放した後、今度は憎しみの表情で緑谷に襲いかかる。
空中に放り出された緑谷は身動きが取れないはずだが、生憎彼は仮にも最強の魔法使いの弟子兼幼なじみなため、その辺も抜かりない。彼は師匠から空中移動の基礎について学び、さらにグラントリノから空中での精密動作、視線誘導、フェイント、カウンター、反動軽減など数多く学んだ。
姿勢を縦にし、後方に一発蹴りを決めて空中に上昇。自由落下に身を任せて襲いかかる脳無に対して緑谷はヒラリと身体を翻し、死角からのローキックが炸裂する。かなり効いたのか、脳無は再び悶絶を繰り返しながら地上に落下していく。しかしこの程度では脳無はくたばらない。緑谷は再び宙を蹴って脳無に素早く近づき、空中で一回転。遠心力を乗せたかかと落としが脳無の頭部に直撃し、脳震盪を起こさせた。
ズドンッ!!!
地上に綺麗に着地した緑谷はさっき倒した脳無の様子を確認する。脳無は地面にうつ伏せたまま、微動だにしない。気絶......しているのだろう。今のうちにロープなどで縛っておきたいのだが、そんなもの最初から持ち合わせてはいない。誰かに報告して貰いたいが不運なのか降りた場所が人気のない路地裏なため、彷徨く人間などいるはずがなかった。携帯もさっきの戦闘で紛失したため、仕方なく緑谷は最終手段を取った。
取り敢えず路地裏から脱出すべく、脳無をお姫様抱っこ(決して変態ではない)して適当に歩く。お姫様抱っこしている理由は、単に引き摺るより速く動くことができ、気持ち的に早く警察に引き渡したかったからだ。
(やっぱり気持ち悪い)
脳無の肌に触れて思う。何とも言えないブヨブヨ感というか、少なくとも人に触れているというより未知のUMAに触れている気分だった。結局、これは一体何なのだろうか。連合の生物兵器......みたいなものだとずっと思っていたが、そもそもこれは生物なのだろうか? 地球上のものとは思えない見た目に複数の個性を使う動物、改造されたにしても異質過ぎる。現状何もわからないのだからこれ以上の詮索は無駄なんだろうけど、こういう一人でいる時はつい頭によぎってしまう。僕の悪い癖かもしれない。
しばらく歩くと向こうに舗装された道路のようなものが小さな隙間から見えるようになった。長かったようで短かったなと、緑谷は安心した表情でその隙間に近づこうとする。一歩、また一歩進んで、光さす世界へと向かう。一歩、一歩、一歩、一歩と進むのだが、何故か足取りが重い。背後に何がいる、そう感じてはいたが後ろに振り向くことが出来ない。脳無の時は振り向けたその勇気は、今じゃ萎んで役に立たない。誰なんだ。いったい誰が僕の背後にいるのか。
ついに外に出る隙間の一歩手前まで来た。もし危なかったとしても、この隙間から一歩踏み出せば逃げられるだろうと思った緑谷は、恐る恐る背後を振り返った。
ししょうににたひとがいた
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バゴォッ!!
「な.........ぇ......ッ?」
緑谷は完全に言葉を失っていた。自分が何故師匠に似た誰かさんに腹の肉を抉られ、壁に叩きつけられ、今目の前で残酷な笑みを浮かべて見下ろしているのか。
「.........だれ.....だ.?」
落ち着かない気持ちを必死に抑え込み、敵の正体を探る緑谷。暗闇と自分がまだパニックに苛まれているせいで上手く顔が覗けないが、師匠ではないはずだ。流石の師匠でもこんなホラードッキリを仕掛けるほど人道から外れてはいない。いや、やりかねないが腹の肉を抉るようなマネはしない。そう思っていた。
が、
「オイオイおい知り合いなはずなのに何て冷たい反応だなァ.......、まァ、そんなことはどうでもいい。
すかさず回避する緑谷。自分のいた場所には大きな斬撃痕が残され、犯人の右手にはいつの間にか剣が携わっていた。コイツ、最初から剣を持っていたか? それにこのオーラ、たまに師匠がお遊びで出すドス黒いオーラに近いものを感じる。いや、まさかそんなはずあるわけが.......
「あァそういえばお前、俺に対し「誰?」と言ったな。自己紹介がまだでスマンかったな、えーと俺の名は......いや私の名は......」
「
「魔梨奈さん!?!?」
緑谷は驚きが隠せなかった。自分を襲った犯人の正体が師匠の妹で温厚で優しい魔梨奈さんだったとは微塵も思っていなかった。
「なんで魔梨奈さんがこんな所に......、それよりそのオーラは何なんですかッ?!」
「はァ、二度も言わせるな。私はただこの腐れきった社会を正しく導く為に、二番目の障壁となりそうなお前を抹殺したいだけだ。」
「腐りきった社会......?」
妙な雰囲気に緑谷は戸惑う。
「あァ、世の中にはな、金と名声に目を眩んだ亡者共が腐るほど存在する。
魔梨奈はこの世の愚かさを嘆き、涙を流し、白目をむいたまま、虚無の空を見上げ、自分の正義がいかに正しいかを、目の前の人間に知らしめる。ハッキリ言って彼女は狂っていた。何がどうここまで酷く歪ませたのか不明だが、緑谷は変わり果てたクラスメイトを見て涙を流すしか出来なかった。
「......どうして......こんなごとに...ッ!」
「どうして? だって? ハ! 我は人間ゾ? 人間は常に変化を繰り返す生き物だッ! お前にとって今の私が狂った人間に見えていたとしても、私にすれば今の私は進化し続けた結果であって卑下するものでは無い! 寧ろ進化に乗り遅れている貴様ら下等生物が悪いっ、狂っている! 完全悪だッっ!! 我が正義に非ず者は全て、磔刑だああああああああぁぁぁ!!」
一瞬であった。魔梨奈の身体から無数の刃が四方八方に飛び出し、狭い路地裏の壁を貫通させた後に強引に引き裂いた。緑谷はすんでのところで回避しつつも、これ以上動く余地は無い。自分はどうするべきか迷っていた緑谷だが、お人好しな彼は
崩れゆくビルの狭間で緑谷は考えていた。クラスメイトを、魔梨奈さんを元に戻すには師匠の力が必要不可欠である、と。師匠の職場体験先は確か保須のノーマルヒーロー事務所のはずだから、ここで派手に暴れたらすぐにでも気づくだろうし、もう既に気づいているかもしれない。五分時間を稼げば確実に来てくれると感じた緑谷は、更地と化した保須の大地に一人立ち上がる。相手は膨大な個性を抱え、何かの拍子で暴走させてしまった女の子一名。勝利条件は
「絶対に......絶対に僕が止めてみせるッ!」
緑谷は再びマッスルフォームの姿に変身し、暴走した魔梨奈に立ち向かう。この姿を維持出来る時間はおよそ五分弱、それが僕の
飛び交う刃を巧みに回避し、懐まで迫る緑谷。まずは一撃、顎下からのアッパーカットで脳天を揺らし失神させる。魔梨奈は魔理沙と共通の個性なため、対策としては"個性を発動させずに強引に押し切る"方法がある。つまりは短期決戦なのだが、個性のみならず身体機能も人外レベルなため通用するはずがない。となると他の手段としては、"ギリギリ相手の素手が届く範囲"で五分間攻撃を避け続け時間を稼ぐ方法。これなら相手も自分も傷つけずにやり過ごすことが出来る。しかしこれは不可能に近い。近くで避け続けるため、相手は自分を巻き込むような広範囲攻撃を使うことが出来ないが、それを抜いたとしても相手の方が攻撃の手数が多い。必ずどこかでボロが出るだろう。それに相手は
どう足掻いても止められないのかもしれない。理不尽なまでに自分が無様に惨殺されるかもしれない。しかし緑谷は足を止めなかった。この中で一番苦しんでいるのは彼女のはずだ、こんな望まない結果で終わっていいはずがないと、彼女の気持ちを思う度に緑谷の"助けたい"という気持ちが加速する。
「ぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」
「100%デトロイト・スマッシュ!!」
狙い通り顎下からの攻撃で失神を狙う緑谷、だが魔梨奈は一瞬で姿を消し、背後から肥大化した右腕でカウンターを放つ。
「分かってますよ!!」
見聞色の覇気による攻撃予測でカウンターを防ぎ、緑谷は一歩強く踏み出し反撃の一手を放つ。
心を捉えた攻撃に対し、魔梨奈が再び反撃することはなかった。
魔梨奈が下卑た表情で笑う。
「
「ガはっッ!!!」
ベクトル反射によるカウンターが直撃し、緑谷は後方に大きく吹っ飛ばされビルの壁に激突する。対師匠の個性ノートNo.11、
「良さそう......。」
「ハサミギロチチチチチチチチチチチチチチチチ」
緑谷が再び思考開始し目を見開いた時には、既に魔梨奈の攻撃が迫っていた。緑谷は咄嗟の反射神経で身を屈んで回避し、攻撃を避けることに成功した。が、再び立ち上がった緑谷が見た光景は衝撃的なものであった。周囲一帯のビル群が全て均等の高さに切断され、一斉に崩れたのだ。一体どれだけの力を震えばこんな無茶苦茶なことが出来るのか、もし今の攻撃を避けていなかったら自分は確実に真っ二つに切断されていただろう。残り4分弱だが、1分が数時間並の長さに感じる。果たして自分は五体満足で帰れるのだろうか。
「うげ戯画ガガガガガガガガガガガガム....。ふぅ、ふぅ、はァっ......この個性ッ、全ッ然制御出来ねぇじゃねぇかァ!! 何でだ! コイツの記憶の通りに使っているというのに!! クソ個性が」
身悶えする魔梨奈。そのセリフから察するに、どうやら別の誰かが彼女を乗っ取り、操っているが個性の制御が出来ないということだろう。良かった、もしさっきまでの言動が
とはいっても、今は奇跡的に回避出来ているからこそ戦闘が継続しているが次も大丈夫である保証はない。相手が個性を制御出来ない以上隙は存在するが、かといって一つ一つの個性が強力すぎて迂闊には近づけない。となると、やっぱり隙が出来る度に最大級の一撃を叩き込むのが一番な気がする。ベクトル反射をされたら元も子もないが、そこは運に頼るしかない。
とにかく隙が出来るまで牽制だ!
"やっぱ脳筋だね緑谷きゅん"
そうですね師匠、最近僕自身もそう思えてきましたよッ!!
「はぁぁぁぁッ! 連弾デコロイト・スマッシュ!」
指から放たれる空気弾を連続で射出し、全弾を敵に叩き込む。理想的な立ち回りは相手に飛び道具だけを使わせ、自分はそれを避けつつ飛び道具で反撃し隙が出来れば一気に距離を詰めて拳を入れる。これがおそらく最も安全な策だろう。しかし敵はそれを見越して必ず接近しようとする。だから僕は空気弾を連続で放ち、相手の接近を防ぐのだ。
「はァ、コイツのセリフで言うとするならば、『グミ撃ちは負けフラグ』......だな。確かにその通りだ。本当に戦っているのがバカバカしい」
全弾直撃していた敵だったが、突如目に止まらないほどの速さで空気弾を回避しながら接近し、一瞬で緑谷の目の前に君臨した。とっさに身構えた緑谷に対し、敵は強引に腕を掴みアンダースローで緑谷を空中に投げ飛ばした。
「
間髪入れず敵は磁力のこもった鉄球を五個、緑谷に向けて超高速で射出した。
「ちょっ!?! アガァアアアハァァァッ!!!」
空中で爆発し光が拡散した直後、緑谷はものの見事に地面に激突。マッスルフォームとはいえ流石に
回復する暇もなく、敵は既に目の前に立っていた。
「具がガガガガが、はァっ、はァ、はァ、どうした? 緑谷出久ゥウウゥウヴヴ! 最初の威勢ハァ、どうしたぁ?」
「......まだだ、まだ戦えるッ」
「その身体で戦えるゥ? 戦えるんけねぇだろぅううがァァハオ日高藩や傘!! はァ、全然慣れねぇなこの身体。」
なんとか抗おうとする緑谷に対し、敵は余裕の表情で緑谷を見つめる。
「サーてさてさてサーティワン、緑谷!! さあどんな方法で殺されたい? 獰猛な肉食ゴキブリに内部から喰われて死ぬかッッ!!? はたまた仲間全員になぶり殺され、精神的に死ぬかッッ!!? どっち?!?」
腐り果てた精神から歪み出る邪悪さに溢れたセリフに、緑谷は何も反応することはなかった。真面目に考えているのか、それとも既に死ぬことを察して諦めたのか、回答を待つ時間を鬱陶しく感じた敵はスキマから神々しい斧(神斧リッタ)を取り出し、うつ伏せる緑谷の首に狙いを定める。
「
振り下ろされた神の斧。緑谷の首に刃が届く。
前に緑谷は斧を片手で弾きつつ立ち上がり、懐まで一気に詰める。呆気を取られた敵は何も出来ないまま、緑谷に最大級の一撃を込める隙を作ってしまう。
「なッ!?」
「魔梨奈さん、許してください。絶対にあなたを救ってあげます!!」
「デトロイト・スマッシュ!!」
繰り出される弟子の拳。仲間を、友を救いたいという気持ちを込めたその拳は、淡い翠のオーラを纏って彼女の腹部に接触する。直撃を喰らった魔梨奈は勢いのまま後方へ吹っ飛ぶが、緑谷の姿が見えなくなることはなかった。
「オクラホマ・スマッシュ!!」
吹っ飛ばした直後に緑谷は空中に瞬間移動し魔梨奈の右腕を掴むと、己を軸にして回転し、地面に向けて投げとばす。
魔梨奈は体勢を立て直そうと思考するも、速すぎて体の向きを変えることさえ出来ない。このままでは連続攻撃の流れの末に、再起不能になるだろう。考える、この身体は制御は難しいが何でも出来る。それはつまり今まで常識だと思っていたことと、全く逆の行動を起こすことが出来るということだ。例えるならば、物理法則。
「ニューハンプシャー・スマッ?!? 消えた?」
「後ろだァッ!!!」
先回りして構えていた緑谷に対し、魔梨奈は自身のベクトルを操作することで勢いを相殺し、さらに瞬間移動で背後を奪う。螺旋丸とメラガイアーを組み合わせた強力な火球を緑谷の背後に叩き込み、身体を焼き焦がす。
「ッ!!」
反射的に反撃するもそこに魔梨奈の姿はいない。
「何処だ......、出てこいッ!!」
「ここさァッ」
ピキッという亀裂音が真上から発生すると、緑谷はとっさに視点を上に向け防御する。
「大切断!!」
割れた空間の中から魔梨奈が現れ、高低差を利用した強力な手刀が緑谷の腕に接触。緑谷は耐えきったが、余剰エネルギーが地面に流れ込み亀裂を生む。
バキィ!!
「なんてパワー.........」
「ハハハハハどうだァ、この圧倒的な力ァ! お前程度の存在では抗うことの出来ない、史上最強の力を前にして屈服するがいい!!」
己の手にした力の大きさに悦に入りながら、魔梨奈は緑谷にローキックを喰らわせた後、両腕を天に掲げてエネルギーを収束し始めた。
「その個性は......」
「ハハハ、これは『元気玉』。膨大なエネルギーを球状に収束させて放つ究極の技ァ! 雑魚が触れれば塵も残さず消滅するゥ」
「させるかッ!!」
緑谷は魔梨奈に向かって走り出し再び拳に力を込める。あの膨大なエネルギー、奴の言う通り触れればタダではすまない。が、エネルギーを溜めるに数分かかると察した!! 溜めている今が隙だらけだ!
「残念、雄英生徒。この身体の無限のエネルギーを使えば数秒で事足りる」
「元気玉」
一瞬で直径10メートルほどに膨れ上がった元気玉を魔梨奈はサイドスローでぶん投げる。地面を抉りながら突き進む元気玉に対抗するには、自分の両腕を信じて突っ込むしかない。避けたいところだが、避けられた元気玉がタダでさえボロボロな保須市にどれほどの影響を与えるのか計り知れない。
「クソッタレえええええええええええええええええええええええええ!!!!」
半端ヤケクソで向かってくるエネルギーの塊に両腕を突っ込み、必死に押し返す。しかしあまりに膨大なエネルギーに緑谷は背後の瓦礫と何度も衝突し、後方へ押し返される。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」
腕がグチャグチャに変形しても、足裏が摩擦で焼け焦げていて使い物にならなくても、身体にコンクリートの破片が突き刺さっていても、緑谷は必死に押し返そうと努力した。だが元気玉が止まらない。どれだけ必死に押し返そうとしても元気玉は言うことを聞かない。
「何アレ? ねぇちょっと明美こっち来てー! なんか青くなーい?」
「うわあの人テレビでも見てたけどつぇー。あの化け物一撃で倒しちゃったよ」
「こっちに向かってきてない? 逃げた方が良さげじゃない?」
「あっちもコッチも被害だらけでヤバぁ」
「ママー!」
「早く逃げてください! ここは危険です! 緊急シェルターに避難してください!!」
背後から聞こえる住民の声。まだ避難が終わってない場所まで押し返されてしまった。不味い、このままだと住民ごと元気玉に巻き込まれて死んでしまう。早く元気玉を止めなければならない。
「止まれッ! 止まれッ! 止まれって言ってんだろ! 止まれよ!! 早く止まれーーーーッ!!」
必死に叫ぶ緑谷。止まらない元気玉。衝突までおよそ50メートル、この速度じゃ今頃減速したとしてももう間に合わない。それでも必死に押し返す緑谷。手と足の感覚が無くなったが、胴や顔面を使ってでも緑谷は止めようとした。しかし止まらない元気玉。
「誰かッ、誰か止めてくれ。このままじゃ皆が死んでしまう......、誰か、誰かァッ......」
「──────師匠ッ!!」
「任せな緑谷きゅん」
ドンッ!!
「ふぇ......?」
さっきまであった元気玉が忽然と消え、目の前にはもう一人の金髪の魔女が現れる。何が起こったのか全く分からないまま、緑谷は呆然と彼女を見つめる。
「.....今日はひでぇな。まだハイエンド倒してから五分くらいしか経ってないっつーのに、なんか街がほぼ更地になんだけど......」
彼女はため息を吐くと、スっと緑谷に目線を合わした。
「
やっと魔理沙が登場した喜びと、元気玉が消滅した喜びが重なり、えもいえない感動が緑谷の中で爆発した。
「......師匠ぉおおおおぉおおぉおおお!!! 遅過ぎるんですよォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
魔理沙が来た。
理想を叶えるには
対価を支払わなければなりません。
(エリザベート・バダンテール)