最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE: 作:マスターチュロス
※雄英体育祭が始まるまでの2週間の間のどこかの話
EP01. 結依魔理沙の日常その1
休日、結依魔理沙は特に行く予定もなく家でゴロゴロしていた。
「……暇だ。暇じゃないけど暇だ」
爆豪との特訓は午前中にみっちり4時間行ったので、午後は特に予定がない。ステインの同行を探る……のは、正直今気分が乗らないので後回し。もし街中で出会ったら容赦しないが、事を荒立てると警察とヒーローが来るので証拠隠滅は念入りにしなければならない。
いやそんなことはどうでもいい。とにかく暇だ、何か暇を潰せる何かを探さないと死んでしまう。
「…………また、異世界行くか?」
一番暇を潰せる場所だが、つい最近行ったばかりだ。正直お腹いっぱいである。何か他の案は無いだろうか……
「……そういえば最近、箒で空を飛んでないな。魔女なのに」
昔は乗っていた気がするが、箒を使わなくても飛べることに気づいた瞬間めっきり使わなくなった。当然といえば当然だが、まぁたまには箒に乗って魔女らしくするのも良いかもしれない。
「よし、そうしよう。今日は箒に乗って適当にパトロールした後おじちゃんおばちゃんたちの手伝いしてコーラ飲んで寝よ」
異空間から普通の箒を取り出し、身支度を整えてからいざ外へ。玄関の扉を開けると陽気な太陽の陽射しが照りつけ、一瞬だけ立ち眩みしてしまう。
「……陽射し嫌いじゃないけど、顔黒いし服も黒いから熱籠るんだよなァ。仕方ない」
魔理沙は指パッチンで全身の発汗を止め、内部から冷却魔法を徐々に浸透させることで程よく涼しい体温を保つ。暑さ耐性を全開にして無力化してもよかったが、夏だからこそ得られる"涼しさ"が欲しかったのでよし。
「じゃ、パトロールするか」
箒を股にかけ、重力魔法で体重を調整しつつ反重力を発生させることで、結依魔理沙は地面から浮かび上がる。さらに加速装置として八卦炉を箒の後端に装着し、箒を介して魔力を八卦炉に込めた。
溜め込んだエネルギーを解放した八卦炉は爆発的な反動で箒を加速させ、ジェット機並の速度で空の世界へと羽ばたいていく。
今日はとある魔女の物語。
■
【繁華街】
「きゃぁぁぁ!! ヴィラン!!?」
女の人が叫び声をあげる中、身長3mほどの大男がとおる銀行内で暴れていた。
彼の名前は「
警察とヒーローが何度か彼の捕縛を試みたが、何故か捕まらず、今日も犯罪行為を繰り返していた。
「金だ!! ありったけの金を詰め込んで早く持ってこい!!!」
「さっさと金を詰めねェと殺すぞ!!!」
虎の爪を喉元に当て、女性銀行員を脅す虎田。その様子から、全てを察した人たちは一斉に出入り口へと走り込むが、彼の子分が銃を構えて立ち塞がった。
「おっと! 逃げてもらっちゃあ困るねェ! 事が済むまで大人しくそこに座れ」
「あぁ〜〜ッと! 携帯電話は全部コッチで預からせて貰うぜ? 秘策があるとはいえヒーローと鉢合わせるのはゴメンだからなぁ?」
下卑た表情を浮かべながら、次々と民間人から携帯電話を取り上げる子分たち。彼らの前で民間人は為す術なく、大人しく従うしかない。
「おい縄尾、コイツら全員お前の個性で縛り上げろ。あとあの女以外の銀行員も縛って没収しとけ!!」
「「へい!!」」
縄尾は手首から大量の縄を生成し、巧みなテクニックで全員の両手両足を拘束、縛り付けた。
「クソっ、アイツら! 最近噂の銀行強盗か!」
彼らの正体が分かった男性銀行員だったが、知ったところでどうしようも無かった。
「ヒーロー! ヒーローはいつ来るんだ!?」
「誰か助けて!」
「ヒーロー!」
パニックになった民間人は大声で叫び、ヒーローに助けを求め、親や仲間を頼るべく叫びまくる。
そんな阿鼻叫喚な状況にイライラし始めた虎田はポケットからハンドガンを取り出すと、天井に銃を向けて言い放った。
「黙れ」
パァン!! という派手な銃声音が響いた瞬間、あたり一面の空気が静まり返った。そして虎田は民間人の方に振り返り、不機嫌な態度で話を続ける。
「オマエら、立場分かってるのか? 俺はヴィラン、オマエらは人質、その気になればオマエら全員今この場で処刑してもいいんだぜ?」
「オレらにとっちゃ人質ってのはあくまで情報漏洩防止のための策であって、サツから巻くための道具ではねェ。だからこそ、生きられるだけで感謝すべきなんだよオマエら」
虎田の言葉に怖気付く民間人。もう誰一人として助けを呼ぶものはいなくなったが、民間人の中に一人だけ笑っているものがいた。
「…………おいそこのジジイ、何笑ってやがる」
「……クックックッ、お前さん。この街は初めてかい?」
意味不明な質問を問いかける爺さんに対し、虎田は変わらぬ態度で応対する。
「どういう意味だ?」
「クックックッ、知らないのなら今すぐ自首した方がいい。いや、知っていれば尚更か」
「テメェ何を言っている?」
虎田は爺さんに銃口を向けたが、爺さんは全く怯まず話を続ける。
「この街の犯罪率は平均より何故かやや高くて物騒なんじゃが、この街の警察による犯罪検挙率はヒーローの犯罪検挙率を軽く抑えて全国トップクラス。この意味が分かるかね?」
「ヒーローよりサツの方が怖ぇってか?」
「違う」
爺さんの表情に凄みが増し、えもいえない不安感に囚われた子分たちはリーダー同様爺さんに銃を向ける。
しかし、爺さんは不敵な笑みを残して告げた。
「───────魔女じゃよ」
その言葉が耳を通り抜けた瞬間、窓の方からガラスの割れる音が響き渡る。強盗集団が銀行を占拠してから僅か5分、ヒーロー飽和時代において近場のヒーローが現場にすぐ駆け寄ってくることはよくあるため、5分で現場に着くことなど珍しくは無い。
だが今日に関しては違う。周辺のヒーローのほとんどが欠番かパトロールの巡回ルートが遠く、早くても10分が限界。警察においても連絡がいってから対応するまでに相応の時間がかかるため来るはずがない。じゃあ誰なのか。
侵入者はヒーローでも警察でもなく、魔女のような見た目をしたただの女の子。しかし、顔は人とは思えないほどに黒く禍々しく染まった化け物のような見た目で、只者では無い雰囲気を醸し出している。
「……あ、ガラス飛んだりしてない? 一応突撃した瞬間に破片全部消したから大丈夫だと思うんだけど、怪我してない?」
女の子はすぐ近くの強盗集団に一切目もくれず、目の前の一般市民の心配をしていた。
「おいテメェ、何勝手に入ってきてんだ?」
「あ?」
虎田の声に反応し、女の子は不機嫌そうに振り向く。
「ここはお前みたいなガキが来るとこじゃないぜ」
「お前こそこんなあからさまな犯罪行為して何してんだ、捕まりたいのか?」
「……お前、どうやら俺の怖さを知らないようだな。知らねェなら教えてやる。俺の名前は虎田平鵝、今日本中を恐怖で震え上がらせている最強の強盗集団のリーダーだ。ニュースで見ただろう?」
「あ──、…………あ〜、あ? あぁ、…………あぁ!!」
「テメェ絶対分かってねェな。おいオマエら、コイツに俺たちの恐ろしさを分からせてやれ」
「「へい!!」」
子分5人が女の子に銃口を向けて構えるという異例の事態、いつ殺されてもおかしくない状況に人質たちは不安と恐怖にどよめく中、当の本人は一切気にする素振りを見せない。
「おいガキ、この銃が見えないのか? 死ぬぞ?」
「…………銃ね。うん、撃てば?」
「何言ってんだテメェ、死にてぇのか!?」
「死にてェというより死なねェんだよな、うん。……まぁ避けてもいいけど、それはそれで跳弾とかして一般市民に被害が出たら私が警察に言い逃れできなくなるからね。というか今この状況を警察に見られたら面倒だから早く撃て。そして諦めろ」
「…………オマエら、退け」
銃を向けてもビビらない女の子に対し、虎田は子分を退かしつつ女の子にズカズカと近づく。
獣人化した虎のような見た目の大男、正面に立つだけでとてつもない圧力を感じるはずなのだがそれでもなお女の子は引かず、堂々とした態度を取り続けている。
我慢の限界が来た虎田は女の子の首を掴んで銃口を女の子の口の中に容赦なく突っ込み、引き金に手をかける。
その様子に多くの女性市民や男性市民が叫び声をあげたが、子分によって黙らされてしまった。
「これでもまだビビらないか?」
「へ? ふん」
「じゃあ、死ね」
再び響き渡る銃声、放たれた弾丸が容赦なく女の子の柔らかい頭蓋骨を破壊し、滴る血と脳汁が後方から湯水の如く溢れ出て…………なんてことにはならなかった。
「…………は?」
もう一度引き金を引く虎田だったが何故か銃が弾切れしており、カチカチという音が繰り返し鳴り響く。
「……
女の子は口に入れられていた銃の先端を噛みちぎり、3mもある巨大な大男の土手っ腹に拳を叩き込んだ。
細い腕からは想像できないほどのパワーに大男は吹き飛ばされ、壁を破壊して外へ放り出されてしまう。
その様子に焦った子分はハンドガンを女の子目掛けて乱射しようとするが、何故かハンドガンは自分たちの手元になく、全て女の子の手に渡っていた。
「あのねぇ、いくら今の世の中が個性で溢れかえってるつったって銃はアカンて。銃刀法違反なんだが?」
「ま、銃なんかよりもっとヤベェヤツがココにいるけどな」
女の子は片手でハンドガンを全て握りつぶし、子分を睨みつける。
あまりのヤバさに子分たちは逃げようとするが、瞬間移動で距離を詰めてくる彼女から逃げられるものなど誰一人としておらず、5人全員首に手刀をくらって気絶してしまった。
「…………後は皆を解放するだけ、と言いたいところだが」
「そこの裏口からコソコソ抜けようとしてるヤツ、見えてるぞ」
女の子が振り返った目線の先には、地味で小柄な男性が存在した。一見関係無さそうに見えるが、強盗集団と同じ服装をしていたため関係者であることは明らかであった。
「ナ、なんデぼクの、こっ、コココセイが効かッ、効かない!?」
「それはね、秘密」
強盗集団の秘策、それは彼の個性「隠密」を用いた逃走であり、彼と手を繋いだ人間、そして彼と手を繋いだ人間と手を繋いだ人間にステルス効果を付与するという個性によるものだった。これのおかげで強盗集団は今まで警察やヒーローに捕まらずに済んだのだが、今回は相手が悪すぎた。
この街を影から見守っている非公式ヒーローもといヴィジランテ、結依魔理沙を相手にしたのが運の尽きであった。
「じゃ、全員ボコしたし皆解放してあげるね」
最後の一人もキッチリ手刀で気絶させた後、指パッチンで市民を拘束していたロープを全て切断し、市民は無事解放された。
危機的状況から助かったことに安堵した市民たちは互いに抱き合い、喜びを分かち合う。そんな感激ムードの中一人の女性が魔理沙におそるおそる近づき、小さな声で質問する。
「……あの! 外に飛んでったヴィランって……大丈夫なんですか?」
静まり返る空間。その言葉の真意に気づいた市民は一斉に壁に空いた穴から離れ始めるが、結依魔理沙は「ちょっと待って」と一言言い、壊れた壁の向こうへ向かっていく。
彼女が行ってから約2分後、彼女は戻ってきた。清々しい笑顔で帰ってきた彼女の手元には、ロープで亀甲縛りされた全裸の虎田平鵝がいた。
「ね、安心でしょ?」
「え、えぇ……」
女性は魔理沙の笑顔よりも、亀甲縛りされた男の下の方に目線がいっていた。
「魔理沙ちゃん、元気か?」
「あ、爺さんだ」
魔理沙は虎田を適当なところにぶん投げると、知り合いのところに駆け寄って行った。
「……何で爺さんがここにいるんだ?」
「パチ屋に新台が入ってきたから、金下ろしに来たんじゃ。したらこのザマよ」
「……爺さん、あんたこの前婆さんに怒られたろ。また懲りずにパチスロやってんの? 年金で」
「良いじゃろうが別に、若者がワシらの自由にケチつけるでない」
「それで事件に巻き込まれてんだからシャレにならんわ。ま、私が近くにいて良かったな」
ハハハと笑いながら互いに肩を叩きあった後、結依魔理沙は助かった一般市民たちの方に振り返り、声を上げた。
「はーいじゃあ皆さん聞いてくださーい。銀行出る前にちょっと聞いてくださーい」
結依魔理沙の呼びかけに応じた市民たちは嬉々として受け入れ、またある人は彼女に近づき感謝の意を述べた。
「ありがとう、君のおかげで助かった!」
「どういたしまして。……ところで実はお願いがあるんだけど」
「私のこと、忘れてくんない?」
その発言に全員が驚き、疑問を呈した。
「どうしてですか?」
「あの……ね? 実を言うと私、正式なヒーローじゃないから警察にバレると結構マズイんだよね。ま、忘れないって言ったところで無理矢理忘れさせるから関係ないけど」
「……でも」
「あと警察が2分くらいで到着するからやっぱりダメですね。はい」
結依魔理沙が指パッチンで音を鳴らすと、市民は羨望の眼差しから困惑した表情へと変化していった。彼らの記憶から、銀行強盗が襲撃に来たこと、結依魔理沙が助けに来たことが抜け落ち、空白のページと化してしまった。
「てなわけで爺さん、事情聴取よろしく」
「魔理沙ちゃん、警察の方にも小細工しないとバレるぜ?」
「…………はァ、分かったやっとくよ」
結依魔理沙は一瞬で姿を消し、現場から遥か遠い上空へ移動。だいたいこの街の事件を解決するときはこの手に限る。
結依魔理沙は幼少期から、この手の事件をいくつも解決していた。しかしそれらの事件はほとんどの人間の記憶に残っておらず、誰の目にも止まることなく時が過ぎていった結果、この街は「ヒーローよりも警察の方が優秀な街」として有名になり始めた。
コード000の襲撃以来、隠密行動と証拠隠滅を心がけるようになったおかげで、
「じゃ、後始末したら今日は帰るか」
魔女は再び箒を取り出して跨ると、警察のいる方向へ飛んで行った。
ちょくちょくこっちにも色んな話追加するかもしれない。