最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE:   作:マスターチュロス

9 / 87


【あらすじ】

洗礼という名のデスマッチを仕掛けられた魔理沙は属性魔法で3人を撃退。無事、初めての戦闘訓練で生き残ることができた。
そして訪れた昼休憩の時間、魔理沙は食事を取らずに人工公園で寝ていると、先程洗礼と称して仕掛けてきたうちの一人、ジャックが目の前に現れた。
ジャックに弁当を手渡された魔理沙はお互いのことについて少し語り合った後、二人はそれぞれの教室に向かっていった。




教育プログラム(4.375話)

 

 

【特別支援教室:E0014】

 

【本日の授業日程:数的処理(13:40〜14:40)】

 

 

「……と、聞いてたんだけど……」

 

 魔理沙は辺りを見渡したが、人がほとんどいない。最大で40人ほど入れるはずなのに、この施設割と未成年多いのに、埋まるはずのスペースが微塵も埋まらず、もの寂しい雰囲気が漂っている。

 

 しかも黒板には『自習!! 質問はAI搭載型教育ロボに聞け!!!』としか書かれておらず、生徒どころか教師までいない始末。教育カリキュラムとはいったい何だったのか……

 

 しかしこの施設は条件を満たした人間を各国の軍隊や警察組織等に配属させるシステムがある。そしてその条件の一つとして、一定の学力を修めることが含まれている。自習続けただけで条件を満たすなら楽だが、いくらここが異端の地であってもそんなガバガバ条件で軍人になれるはずがない。定期試験的な何かがあってもおかしくないはずだ。

 軍人になるつもりはないがこれも自身の能力向上のため、まずは周りの人に聞いてみよう。

 

「やぁ!」

 

「…………」

 

 とりあえず1番近かった人に話しかけたが、読書に集中しているのか全く反応がない。

 

「実はここの授業受けるの始めてなんだが、いつもこんな感じか?」

 

「…………」

 

「先生も見当たらないし、不安なんだよねぇ」

 

「…………」

 

 

 

 

 

「……聞いてる?」

 

「…………」

 

 全く反応がない。

 

「…………分かった、率直に聞く。ここの教育プログラムはどうなってる? 自習しかやらないのか?」

 

「…………話しかけないでもらえるか? 虫唾が走る」

 

「コイツ……!」

 

 人間らしく下手に出たというのに、やたら当たりが強いのは何故だろう。こんなに頑張って笑顔で接しているのに、何故? 

 

(…………舐められてる?)

 

 この見た目、この身長、顔はホラーだがどう見ても幼稚園児。そんな威厳もへったくれもない私が、優しさの欠片もない連中に何を言おうと相手にされるはずがない。その事実に気づいた魔理沙は少し悩み、そして1つの結論に達した。

 

(力か……?)

 

 威厳は無くとも力はあるので、魔理沙は仕方なく精神を集中させ能力発動に力を入れる。インモラルだが、何も知らないまま人生設計狂わされるのは誠に遺憾なので無理やりにでも聞かせてもらおう。

 ただ、何の能力を使って情報を引き出すべきか迷うところではある。能力は無数にあるんだから適当にやればいい、と思うが実はそう上手くはいかない。何故なら本当に能力が多すぎて自分でも何の能力があるのか把握しきれていないのと、能力名と効果をハッキリと思い出さなと能力を行使出来ないからだ。

 なんでそういう仕組みなのかは知らないが、無数の能力から欲しい能力をピックアップするには"知識"や"記憶"が重要となる。しかし、いきなり使えそうな能力をピックアップしろと言われてもパッと出てこないので、とりあえず()()()()()()()()()()()()()

 

「ん」ブゥゥゥン

 

 ■

 

 ▶……

 ▶……

 ▶……

 

【Hallucinations】

【Thought】

【Brainwashing】

【Domination】

【Mind-Reading】

 

【……】

 

 ▶Brainwashing(洗脳)

 ▶……

 ▶……

 ▶【■■■■】

 

【効果】

 →人間の精神に作用する能力。その本質は"生体物質及び水分の精密な操作"。ホルモンバランスの調節、末梢神経・中枢神経系の感度調節、認知機能に関与する体内成分をミクロレベルで操作することにより、擬似的な【幻覚】および【洗脳】状態を作り出す。また、成分操作によって発生した生体電流を用いて人間の大脳皮質、海馬、扁桃体等に干渉することで、対象相手の記憶の消去・改ざんを行うことが出来る。

 

 ▶decompression complete

 

 

 ■

 

「あった、『心理掌握(メンタルアウト)』」

 

 どこからともなく取り出したリモコンを彼に向け、スイッチを押した瞬間、彼の自意識は虚ろの向こう側へと隔離される。

 そして彼の瞳からはハイライトが失われ……ることは無く、逆に星のような輝きを瞳に宿す。彼の心は完全に魔理沙の手に落ちた。

 

「君の名前は?」

 

「エンゲル」

 

「君の住所は?」

 

「イタリア、プッリャ州フォッジャ、モンテ・サンタンジェロ」

 

「君の年齢は?」

 

「11歳」

 

「君の個性は?」

 

天使(エンジェル)

 

 ここまで順調。もう少し個人情報を引き出してもいいが、そろそろ本題に移ろう。

 

「OK、それじゃあここの教育プログラムについて知ってること全部話そうか」

 

 お互い面と面で向き合い、互いに十字に輝く瞳を宿し、見つめ合い、シンクロする。

 

 すると彼は躊躇うことなく流暢に話し始めた。

 

「昔は専門の先生が授業を取り行っていたらしいが、治安の悪化、教育への無関心、予算の削減等、様々な要因が重なった結果、この施設の教育プログラムは形骸化したらしい」

 

「なので自習が基本。だが夏と冬には学力試験がある。この試験を突破することで軍人になるための最低限の資格を得ることが出来るらしい。興味ないが」

 

 ……大体理解した。が、一つ疑問がある。

 

 ここの囚人は最終的に各国の軍隊に軍人として配属される。まぁおそらく"傭兵"的な扱いになるとはいえ、軍人になる以上条件は満たさなければならない。だというのに、この施設は重要であるはずの教育プログラムを崩壊させたまま放置している。

 

(……なんで?)

 

 どう考えても教育プログラムは常に維持されるべきであり、その上このまま放置し続ければ誰も学習の機会を得られず、施設卒業など夢のまた夢である。そうなれば当然囚人の数はみるみる増え、いずれ施設の収容可能人数をオーバーするのは目に見えている。もちろん人が増えれば治安も悪化し、集団脱獄を計画するものも現れるだろう。

 ハッキリ言って愚策にもほどがある。最悪だ。

 

「……もう私が先生やるか……?」

 

 というのは半分冗談だとしても、これ以上先生に職務放棄されては困る。軍人になるつもりはないが、軍人になれる資格取れたんだぜマウントがいつか輝くかもしれないので、過去問だけでも欲しい。

 

「…………」

 

「……ん? ……あ」

 

 魔理沙がアレコレ悩んでいると、洗脳中の彼が全身の筋肉をブルブルと小刻みに震わせながら泡を吹いていた。

 マズイ、ラーニングしたとはいえ使用は初。能力が複雑すぎていまいち加減が分からない! 

 このままでは彼の末梢神経系がグチャグチャになりかねないので、とりあえず洗脳を解除した。

 

「……ッ!? 意識が……!?」

 

 失われた意識が蘇り、驚いたエンゼルは周囲を見渡した。

 そこには、先程からずっと話しかけてくる怪しい少女の姿があった。

 

「……!! お前今俺に何をs」

 

オブリビエイト(記憶を失くす呪文)(物理)!!!」

 

 真実に気づきかけた彼に向けて、魔理沙は究極の記憶消去呪文によって再び彼を眠らせた。

 

 この呪文は一切魔力を消費せず相手を気絶させることが出来るのが魅力であり、現在私はこの呪文を常日頃撃てるよう練習している。いつかきっと役に立つだろう。

 

「一応他の授業も参加しておこう。自習なら私もサボる」

 

 魔理沙は仕方なく教室から出た。

 

 

 ■

 

 

【特別支援教室:E0008】

 

【本日の授業日程:世界史(14:50〜15:50)】

 

 

『自習。各自黒板前のプリントを解くように。提出は不要』

 

 

「…………」

 

 

 ■

 

 

【特別支援教室:E0009】

 

【本日の授業日程:公民(16:00〜17:00)】

 

 

『本日の授業はここまで』

 

 

「始まってもねぇ!!」

 

 

 ■

 

 

 結局、午後の授業は全て自習だった。どんだけ面倒臭いんだ……面倒臭いクセになぜ施設紹介ではちゃんと教育してますよアピールしたんだ……適当か? 

 

「このままじゃ全員脳筋まみれに……」

 

 ポーン

 

「……?」

 

 施設内に設置されたスピーカーから妙な音が鳴り、魔理沙は首を傾げた。

 

【4層保険管理センターから連絡。管理番号0198は至急管理センターまでお越しください】

 

「私の番号だ」

 

 個性研究センターからのお呼び出しに魔理沙は少々驚いた。そういえば1ヶ月に2回はそこで健康診断やってるって話は聞いたが、今日がその日なのだろうか。

 丁度いい、このイカレた教育プログラムについて問いただす絶好のチャンスだ。教育への無関心だ何だと言っていたが、そんなものは気合と根性で乗り越えるべきだ。

 というか私みたいなNOT犯罪者が他のイカレた連中と一緒くたにされるなんておかしくないか? 一応一般人だよ? 個性なかったら最初のアレで死んでるよ? そこも直談判すべきか。

 

 やることが増えた魔理沙はさっそく研究センターにカチコミをかけるべく、身だしなみを整えてから向かうことに。

 しかし歩き始めた途端に運悪く人とぶつかってしまい、魔理沙は地面に倒れ込んでしまった。

 

「ぐぇ」

 

「……何だアお前? ガキは大人しく隅っこでママのティッツでもシャブってろ。邪魔だ」

 

「……兄貴よく見てください。コイツ、例のガキです」

 

「本当か?」

 

「顔的におそらく」

 

 数人のガラの悪い成人男性がコソコソと話し合い、意を決したのかリーダー格らしき人が魔理沙の方に振り返った。

 

「おいガキ、ちょっとこっちにこい」

 

「…………あ?」

 

 しかしそこに魔理沙はいなかった。

 

 

 

 ■

 

 

 

【4層個性研究センター】

 

 

「それでは、番号でお呼びしますのでそれまでお待ちください」

 

「はい」

 

「なお、当館内で迷惑行為および無断で個性を使用した場合、相応の罰を受けるのでご注意ください」

 

「はい」

 

 刺青の入ったおじさん複数人から何とか逃れた魔理沙は、研究センター内で受付を済ましていた。

 

(危なかった……)

 

 あのままおじさん共に拉致られたら絶対面倒な目にあってた。だから咄嗟にラーニングした「無意識を操る程度の能力」で誰にも悟られることなく脱出したわけだが、まだ慣れてないせいか心がとても虚しい。体が能力に振り回されている気がしてならない。

 だが、いつか必ずものにしてみせる。そしたら、少しは人の役に立つかもしれない。

 

(……?)

 

 違和感を感じた魔理沙はその原因について探ろうとしたが、全く答えが見つからなかったので取り敢えず心に蓋をする。考えてもキリがないからだ。

 

「受付番号003番さん、004号室にお越しください」

 

 番号を呼ばれた魔理沙はイスから立ち上がり、指定された部屋まで移動する。

 入って気づいたが、個性研究センターは外から見ると普通だが中の雰囲気は若干暗いし何故か汚い。扉もスプレーか何かで悪戯されているし、控えめに言って廃墟の病院。治安の悪さしか感じられない。

 004号室の扉を開け中に入ると、そこにはしょぼくれた白衣の老人が丸椅子に腰かけていた。

 

「管理番号0198、マリサ・ケツイ、だね?」

 

「はい」

 

 魔理沙は応対しながら、用意された丸椅子に腰かけた。

 

「出身は日本……じゃな? 珍しい。初めての健康診断か?」

 

「はい」

 

「ほぉ、上手いの英語。従順な子は大好きじゃ」

 

 どことなく癪に障る喋り方のせいで、魔理沙の眉間にしわが寄る。

 

「さて、まずは身長と体重、血圧測定、その他もろもろチェックせねばならんが、この作業を一発で終わらせる方法がある」

 

 そう言うと、老人は引き出しから電子パッドのようなものを取り出した。

 

「ほれ、腕を出せ。輪っかがついてる方」

 

 老人は魔理沙の右腕に着けたリストバンドを指差し、前に突き出すよう促す。

 

「……コレに全部記録されてるの?」

 

「このバンドが生体チップの代わりを務めておる。便利じゃろ?」

 

 老人は魔理沙のリストバンドからデータを受け取り、中身をサッと確認した後、確認項目欄にチェックを入れてからパッドを机の上に置いた。

 

「はい、身長体重スキャン完了。その他バイタルも異常無し。正常じゃ」

 

 ほんの数分で健康診断が終わってしまった。あのリストバンド一つで何時でも記録が取れるとはなかなか凄い。しかも健康診断では定番の尿検査をやらなくていいのも凄い。前世の世界よりも技術の発展具合が凄い……!! 

 

「ほんで、ここからは君の"能力"を計測するんじゃが、受け取った過去のデータを見ても君の個性が何なのかサッパリ分からん。こんなの長い人生で見てもそうそうないケースじゃよ」

 

「つまり君は、この施設の中でもとびきり特別な存在、ということじゃな」

 

 老人の舐めまわすような視線に若干気持ち悪さを感じた魔理沙は、真顔で左手に炎を灯す。

 何だろう、コイツに対して心を許してはいけない気がする。何でかは分からないが、この老人から何か得体の知れないものを感じてならない。暇があったらちょっと調べるのもアリかも。

 

 警戒レベルをワンランク上げた魔理沙は老人の方を睨みながら、様子を伺う。

 

「ホッホッホ! …………ワシなんか悪いことした? それならすまんの」

 

「……いや、ちょっと疑っただけだ。すまん」

 

「良い良い」

 

 老人は朗らかに応対すると、電子パッドを持って丸椅子から立ち上がった。

 

「さて、それじゃあ今から計測するからこっち来てくれ」

 

 おじいちゃんの誘導に従い、魔理沙は診査室のさらに奥の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 to be continued……

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。