時は少し遡る、景夜が目覚めた日の夜。
少女は病院の廊下を走っていた。
嬉しいことがあっても早歩き程度の彼女が走っている。
それだけで何か大事な事だと分かる。
「ひなたさん、あまり病院の廊下を走らない方が……」
一緒に来ている杏や友奈たちの声も聞こえていない。
先程の若葉の電話から十数分、ひなたは走って景夜の下に向かっていた。
勇者として訓練を積んでいる友奈たちの方が早いはずなのに、何故かひなたに追いつけずにいた。
そして、――
「景夜君!」
「おお、ひなたにみんな来てくれ――」
景夜が言葉を言い終える前にひなたが景夜に抱き着いた。
本日で若葉にされたのを合わせて二回目の抱擁、ひなたの中学生にしては育ち過ぎとも言える双丘が景夜の体に押し付けられる。
いきなり抱き着かれたことによる驚きと、風呂上りなのか仄かに甘い香りのするいい匂いが景夜の頭をショート寸前まで追い込んだ。
「お、おい、ひなた。景夜の頭が沸騰しそうだ離れてくれ」
「す、すいません!で、でも……景夜君が悪いんですからね!」
彼女の目には涙が溜まっており、今にも溢れ出しそうだった。
その涙を景夜は指でそっと拭き取る。
「ごめんな、ひなた。色々心配掛けて、友奈やチカたちも悪いな色々迷惑かけた」
「別にそんなことないわ……乃木さんが変われたのはあなたお陰でもあるもの……」
千景はそんなことはないと、即答した。
他のみんなもそれに続き始める。
「そうだぞ!タマ達は迷惑だなんて思ってない!」
「そうですよ!私たちは迷惑だなんて思ってません」
球子と杏も、景夜の言葉を否定する。
景夜はそれがなんだか嬉しくて、少し泣きそうになった。
「そうだよカゲヤ君、それに私だって謝りたいことが……」
少し複雑そうな顔をする友奈を若葉が慰める、いつもなら有り得ない光景のように見えた。
「友奈、それは言わない約束だろ?」
「うん……」
友奈がいつもの笑顔に戻る。
ひなたはハグは止めたが、未だに景夜の手をずっと見ていた。
「生きてるんですよね、ちゃんと……」
「まぁな、父さんのお陰かな……」
「心配したんですよ!若葉ちゃんがお医者さんに話してことを聞いて、心臓が止まるかと思いました!何であんな無茶したんですか!」
ひなたの責めるような言葉が胸に響く。
分かっていたのだ、自分がこうなれば心配する者がいるということが。
「ごめんな……」
「謝って欲しい訳じゃないんです!あなたが怪我をしたら心配する人のことを考えて下さい、華恵さんなんて私たちが視てられないくらいに酷くて……」
ひなたが続きを言おうとした瞬間、その人は来た。
「景夜!……良かった、本当に良かった!しんぱいしたんだから~!」
華恵が景夜を抱きしめる、痛いくらいに強く。
もう二度と離さないように。
泣いていた、恥じらいもなく大人と言う立場も忘れて、一人の親として彼女は泣いていた。
「母さん……寝ている間に父さんに会ったよ、凄く善い人だった。母さんが惚れ込むわけだよ……」
「…………」
華恵は次の言葉を待つ、一字一句聞き逃さないように。
まだ泣いているのに、それでも聞き逃したくなかった。
「『僕は君や華さんの心の中に生きている!』だってさ、『愛してる』とも言ってたっけ。ホント善い人だったよ、父さんは」
「そうでしょ、最高の人だったわ。私には勿体無いくらいに……」
抱きしめる力が更に強くなる、まるでこの親子の絆の様に。
その後は、紅葉も来て大騒ぎになった。
景夜はこの日、自分がどれだけ仲間に思われているかを知った。
-----------
「それで、少し真面目な話に入るわね。景夜の体についてよ」
みんなが固唾を飲む、景夜の体は一体どのようになってしまったのか?
「医学的には何の問題もない至って健康な状態よ、でも大社によるとトロールの霊核を景夜の魂が取り込んだらしいわ」
「霊核を……取り込んだ?」
「そう、千景ちゃんが起こした精霊憑きとは違う。精霊憑きは使用者の魂を精霊が取り込んでしまうこと、つまり千景ちゃんのやつとは真逆に近いことなの」
みんなが少し首を傾けて話を聞く中、景夜はシエルの最後の言葉を思い出していた。
「君の中から成長を見守っているよ……」、この言葉は本当のことだったのだろう。
クスリと笑みが零れる、自分の胸に手を当てる。
心臓が一定のリズムで鼓動している。
(ここに父さんがいる、俺の心臓は父さんが精一杯の力で動かしてくれている……)
死ぬわけにはいかない、また一つ少年に死ねない理由が出来た。
「ちなみに大社はこの事象のことを精霊喰いと呼んでる、景夜の魂のことは霊核を宿してるためか
「精霊喰いに霊核魂か……何か中二病拗らせた奴が付ける名前みたいだな」
その何も考えずに出た言葉が、千景の心を傷つける。
「まぁ、カッコイイから良いか」
すぐに景夜の言葉で回復したが。
「そうか、私はそうは思わんが」
少し話をした後、退院の手続きの為に華恵だけが残り他のみんなは帰った。
ある一人を除いては――
「景夜君、少しお話があります」
「何だ?」
ひなたの真面目な声に、景夜も気を引き締める。
「こんなこと言っても無駄だと分かってるんです、でも言います言わなくちゃいけません!お願いですから、もう戦わないで下さい。昔みたいにいつも笑顔で、いつも楽しそうだった景夜君に戻ってください!」
「…………」
景夜はひなたの訴えを無言で聞いていた。
「助けられなかったと泣かないで下さい、無茶をして怪我をしないで下さい、お願いだからもう武器なんて持たないで下さい。お願いですから……」
また泣いている、先程はみんなが居て言えなかったのだろう。
きっと若葉には言ってない、自分にだけ言ったのだろうと景夜は分かっていた。
(お前の泣いてる姿は耐えられないから泣き脅しか、つくづくイイ手を考えるな。きっと昔の俺だったら耐えられなくて、頷いてただろう。でも今は違う)
「悪いひなた、そのお願いは聞けそうにない」
「……そうですよ」
嘘泣きではなかったのだろう、でもそれでもダメなのだ。
「若葉たちを見捨てるわけにはいかない、それに諏訪の人たちも助けられてない。まだやらなきゃいけないことが多すぎる……でもさ、もし全部終わったら……」
「終わったら……?」
「みんなで旅行に行こう、世界中を回る旅。きっと楽しいぞ、天の神から世界を取り戻したらきっと」
それは夢、叶うかも分からない幻想。
それでも少年は夢を見る、「何の憂いもなくみんなで笑えればいいな」と。
-----------
空を埋め尽くす無数の星々。
星の数は、かつて誰も見たことがないほど多い。
星々のいくつかは重なり合い、より輝きを増していく。
それらは流星のように墜ちて。
大地を蝕み、壊していく――
――それが、上里ひなたが神樹から受けた神託のすべて。
意味するものはバーテックスの総攻撃。
そしてもう一つ、大社が気にかけていることがあった。
輝きを増していく星……それがバーテックスの進化体を意味するなら。
彼らはどこまで強化されるのか。
無作為に大型化しているだけなのか、それとも目指すべき『形』があるのか。
そして予言された侵攻が起こったのは、景夜の目覚めから数日も経たない頃だった。
樹海化によって一変した風景を見下ろしながら、勇者たちは丸亀城の城郭に立っていた。
瀬戸内海の向こうから、バーテックスの群れが迫ってくるのが見える。
若葉はスマホのマップを使い、侵入してきた敵の数を目算で確かめようとする。しかし、もはやマップ全体を埋め尽くすほどの量だったため不可能だった。千や二千といったレベルではないだろう。
「比喩ではなく、『無数』ということだな……」
険しい表情で若葉がつぶやく。
前回よりも厳しい戦いになる――分かっていたことだが、いざその状況を前にすると、不安を感じないわけはなかった。
そんな若葉の額を、友奈が指でつついた。
「若葉ちゃん、眉間に皺が寄ってるよ! そんな恐い顔しなくても大丈夫。私たちは絶対に勝てるから」
「……そうだな」
友奈の笑顔のお陰で、若葉は肩の力を抜くことができた。リーダーである自分が不安を露わにして、周りを不安にさせてどうする?
「そうだ、みんなでアレやろうよ!」
「アレ?」
友奈の言葉に、球子が首を傾げる。
「みんなで肩を組んで丸くなって、『行くぞー!』ってやる奴!」
「円陣ですね。そういえば、勇者になる前の学校では、球技大会なんかでやってるチームがありました」
「……いいかもしれないな」
若葉、友奈、球子、杏、景夜が肩を組んで円陣になった。
千景はどうすべきか迷うように、視線を彷徨わせる。
「ほら、ぐんちゃんも!」
「チカも早く!」
友奈と景夜が千景に手を差し出した。
「……うん」
千景は戸惑いながらその手を取った。友奈が彼女を円陣の中に引き入れる。
そしてリーダーである若葉が声をあげた。
「四国以外にも人類が生き残っている可能性――希望は見つかった。希望がある以上、私たちは負けるわけにはいかない。この戦いも、必ず四国を守り抜くぞ! ファイト、」
「「「「「「オーッ!!」」」」」」
勇者たち六人の声が合わさる。
そうなのだ、まだ人類が生き残ってる可能性がある地域が見つかった。
南西にある沖縄、北東にある北海道。
この両地域で、生存者や勇者の存在が微かにだが確認された。
今回の総攻撃に当たり、杏が考えた作戦は、
迎撃の中心とする場所は丸亀城。丸亀城周辺は樹海化中も、まだ完全には植物に覆われておらず、見通しが良いためだ。
丸亀城の正面・東・西にそれぞれ一人ずつ勇者が立ち、その後方に杏が待機。残った二人は休憩しておく。前方の三人が襲撃してくるバーテックスを倒していき、討ち漏らした敵は遠距離攻撃に秀でた杏が仕留める。そして前方の三人の中で、疲労が見えてきた者は、休憩中の一人と交代する。
敵の多さから、今回は戦いが長引くのは間違いない。しかし休憩を挟んだローテーションで戦えば、長期戦にも対応できる。
また、切り札は疲労が激しいため、できる限り使わないことにする。
「で!何で景夜は早速精霊使ってるんだよ!話しちゃんと聞いてか!?」
「タマも俺の話聞いてないだろ、霊核魂になってからは負担が極端に減ったんだよ。むしろ使ってた方が調子が良いんだ」
「そうみたいなの、だから景夜さんには常時使って貰ってすぐにフォローに回れるようにしてもらったの」
杏の言葉に球子が「なるほど!」、と言う感じに納得して前衛の三人を決める。
「丸亀城の正面には私が立つ」
円陣を組んだ後、そう言ったのは若葉だった。
「正面はバーテックスの群れの中心だから、きっと一番大変だよ……いいの?」
心配そうな友奈に、若葉は凛とした口調で言い切った。
「だからこそ、私がやらねばならない」
「……なぜ? より多くのバーテックスを……仕留めたいから……?」
心の中を覗くように、ジッと千景が若葉を見つめる。
若葉はそんな千景の視線に、薄く笑って返す。
「違う。リーダーとしての責務――そして何よりも、この四国の人々を守るためだ」
彼女の答えを聞き、仲間たちは表情を緩めた。千景だけは、まだ少し納得していないようだったが。
「分かったよ。そんじゃ、正面は頼むぜ、リーダー!」
「無理はしないでね、若葉ちゃん!」
「信じてるぞ、若葉」
球子と友奈が若葉の肩を叩き、景夜が背中を叩く。
「では、正面は若葉さん、東側は友奈さん、西側はタマっち先輩。千景さんと景夜さんは一時待機。始めましょう!」
指揮官役も兼ねる杏の声と同時に、少女たちはそれぞれ自分の配置に向かって跳躍した。
-----------
陣形を組みつつ戦うこと数時間、先程球子が『輪入道』によって何倍にも大きくした旋刃盤で大量の星屑と進化体で出て来た蛇型を倒した直後にそれは起こった。
景夜がバーテックスの群れへと目を向ける――
蛇型は殺され、球子の火炎旋刃盤に為す術もなく蹂躙されたバーテックスたちが、再び集合し始めていた。
蛇型が出来た時よりはるかに多い数の個体が融合していく。
「大きい……!」
バーテックスは、建物の屋上に立つ若葉からも見上げるような巨体になろうとしていた。
丸亀城と同じか、あるいはそれさえも凌駕するサイズかもしれない。
球子の輪入道の力でも倒せないよう、自らも巨大化させることで対抗してきたのだろう。
(バーテックスって頭悪くないか!)
景夜の考えは間違いではないが正解でもない。
四国に侵入してきたバーテックスのほぼ全てが一体に纏まろうとしている。
敵にとって最後の手段なのだ。
「若葉ちゃん!あんなに大きくなったら、どうにもできないよ!」
「どうすんだ、若葉!」
焦る友奈の声と落ち着いて冷静な声で問いかけてくる景夜の声を聞きつつも、若葉は静かにバーテックスを観察していた。
敵をよく見ることは、武道において重要なことだ。
幼い頃からそれを体に仕込まれてきた若葉は、この緊急事態においても敵を見ることは忘れなかった。
景夜はどうすればいいか分かっていて聞いているのだろう、行動を若葉に託しているのだ。
(あれだけの巨体を急ごしらえで作れば、どこかに綻びがあるはずだ……)
集合する通常個体バーテックスの動き――
形成されていく巨体の全身のバランス――
(……見えた)
若葉は形成途中の巨体バーテックスの中で脆弱な箇所を複数見つけ出した。
そして他の勇者たちへ叫ぶ、
「こいつの身体には、まだ脆い部分がいくつかある!奴の身体が完成する前にそれを叩けば、倒せるかもしれない!」
「脆い部分?けど……!」
友奈にも敵の脆い部分は見えたのだろう。
しかし、それは数百から数千ものバーテックスが集まっている中心だ。
簡単には近づくことさえできない。
「タマの輪入道なら……行ける!」
球子はフラつく体で、自分の近くに戻した旋刃盤に飛び乗った。
輪入道の力を纏ったこの旋刃盤であれば、通常個体バーテックスを倒しながら、融合する巨体に近づくことができる。
球子の旋刃盤が巨体バーテックスへ向かって飛行する――
「タマっち先輩、私も行くよ!」
その時、杏も旋刃盤に飛び乗った。
今まで指揮官役として丸亀城郭に留まっていた彼女だが、最後の攻防となる今、バーテックスも勇者も総力戦となる。
ならば自分も前線で戦うべきだと判断したのだ。
更に球子の旋刃盤に乗り込んだのは、杏だけではなかった。
「タマちゃんやアンちゃんだけに危ないことさせられないよ!」
「一和同心。共に行かせてもらうぞ」
友奈と若葉。
「チームプレーも大切よ」
千景も。
「タマタクシー、あの巨体まで頼む。運賃はお手製パスタで!」
そして景夜。
勇者たち全員が旋刃盤に飛び乗っていた。
旋刃盤の上に集まった仲間たちに、球子は一瞬キョトンとして―――やがて笑みを浮かべた。
「よし、じゃあみんなで行くかっ!お代はそれで勘弁してやる!」
形成途中の巨体バーテックスは下腹部から砲弾のようなものを次々に放ち、若葉たちの接近を妨げようとする。
球子は輪入道を上手く操縦し、それらをすべて回避していく。
肉体の疲労は限界に来ているが、球子は気合で意識を保っていた。
(ありがとう……友奈、球子、杏、千景、景夜)
みんながいてくれることに、若葉は心の中で感謝した。
自分の隣に仲間がいて、一緒に戦ってくれる。
それがどれほど、若葉にとって心強いか。
巨体バーテックスの脆弱な箇所は複数ある。
若葉一人でそれらすべてを破壊するのは困難だっただろう。
だが――仲間たちと共にであれば、可能となる。
「球子は前方正面!杏は右上方二時の方向!友奈は下方五時の方向!千景は斜め後方!景夜は左上方十時の方向!私は上方を叩く!」
若葉と友奈と景夜以外の三人も、ある程度の場所を伝えられれば、敵の脆弱な部分を見つけることができた。
「行くぞ!」
若葉の合図に五人が旋刃盤から跳躍し、球子は旋刃盤に乗ったまま、それぞれ脆弱な箇所に突っ込んでいく。
しかし――
バーテックスも弱点を狙われることは予想していたのだろう、脆弱部を守るように通常個体が集まり、勇者たちを取り囲んでしまった。
これでは巨体バーテックスの脆弱部を攻撃できないどころか、逆に集中攻撃を喰らってしまう。
(まずい……!)
その状況に若葉は焦りを感じる。
こちらの動きを完全に逆手に取られた。
仲間たちは窮地に陥り、超巨体バーテックスは融合を終えて完成しようとしている。
(迷ってる時間は――ない!)
仲間たちを守るために。
この地に住む人を傷つけさせない為に。
もう二度と同じ過ちをしないように。
若葉は今、奥の手を使う。
神樹の概念的記録にアクセスし、そこから精霊の力を引き出し――次の瞬間、若葉の身に新たな力が宿る。
「おおおおお‼」
若葉は近くを飛んでいる通常個体バーテックスの一体を蹴り、更に跳躍した先でまた別の通常個体を蹴って跳ぶ。
それを繰り返し、本来は空を飛ぶことが出来ない勇者が、空中を凄まじい速さで移動していた。
彼女が神樹から引き出した精霊は――『源義経』。
人間離れした体術を持つ武人。
義経はある時、海に浮かぶ舟から舟へと跳躍を繰り返し、跳ぶように移動したという。
その技は
八艘飛びにより空中における桁外れの機動力を得た今の若葉は、危機に陥った仲間の下へ一瞬で駆け付けることが出来る。
まぁ、一人だけ危機に陥っていないものもいるが。
(相変わらず強いな、二週間も寝ていたとは思えない)
重力など存在しないかのように、空中を自在に飛び回る若葉。
他の勇者たちを取り囲んでいた通常個体バーテックスを、次々に斬っていく。
八艘飛びを繰り返せば繰り返すほど、彼女の速度は上がっていった。
もはや常人では目で追うことさえ不可能な領域に達する。
若葉の八艘飛びと斬撃により、勇者たちの行動を妨げていた通常個体バーテックスは、瞬く間に数を減らしていく。
「サンキュー若葉、これ行ける!」
「撃ち抜けます!」
「今度こそ勇者パァンチ!」
「感謝するわ乃木さん、これでやれる!」
妨害する通常個体を若葉が倒してる間に、五人の勇者たちは巨体の脆弱部を次々に攻撃していき……そのすべてを破壊した。
形成途中の綻びを抉られた進化体バーテックスは、巨体を崩壊させ、奇妙な悲鳴をあげながら消滅していく。
巨体のバーテックスが消滅する姿を見ながら、若葉は空から真っ逆さまに落ちていく。
(身体が……動かない……)
奥の手を使った反動が出ているのだろう。
「まったく、ヒヤヒヤさせるなお前は。後は俺たちに任せとけ、ゆっくり休んでな」
抱きしめられた腕の中で、少し夢を見た。
優しくて厳しい、そんな夢を。
こうして若葉は、過去との因果を断ち切った。
そして――
後世に『丸亀城の戦い』と呼ばれる激戦は趨勢を決した。
前例のない大規模な進化体バーテックスは、形成途中で崩壊。
侵攻してきたバーテックスの殆どを使った融合であったため、残った通常個体バーテックスを掃討するのは残された五人の勇者だけで容易だった。
-----------
「うまっ!美味いぞ景夜!こんなのどうやって作ったんだ!」
「企業秘密だよ、また食べたくなったら言ってくれ」
あの激戦から一日、景夜は病室でパスタを振る舞っていた。
「それより、景夜は大丈夫なのか?お前も精霊使ってただろ?」
「大丈夫、そこらへんは父さん任せだけど何とかなってるよ」
景夜の精霊との同調律は八〇%を優に超えている。
それでも大丈夫なのは、景夜の魂が霊核魂になったこととシエルのサポートのお陰だ。
昨日も夢の中に出て来ては、昔話をしてくれた。
「若葉のやつも検査入院してるんだろ?そっちに行った方が……」
「あのなぁ、あっちにはひなたが居るしいいんだよ。それにお前にこれ食わせるって約束したからな、約束は守る」
「そういうとこ、若葉に似てるよな~。まぁいいや、サンキューな病院食じゃ味気なくて」
最初の方の言葉はスルーして、球子が食べ終えた皿を回収する。
「どういたしまして。それじゃあ、俺そろそろ帰るから」
「じゃあなー!」
病室を出て、丸亀城に帰る。
丸亀城に戻ると、放送室に行く。
後数分でここに勇者通信が来ると、神託が下った。
マイクの音量調整をしようとした瞬間、通信をキャッチした。
『もしもし。香川の勇者、柊です!』
『諏訪の巫女、藤森です。や、やっと繋がった、お願いします勇者の皆さんはこちらに来てください!』
焦っている、声も震えていて今にも泣きだしそうな雰囲気があった。
『落ち着いて、そちらの状況を教えて下さい』
『ええっと、北海道の勇者である
北海道、本州より北にある雪国であり、確かに生存確認で引っかかった場所だ。
『分かりました、至急そちらに向かう準備を始めます!それまで、何とか持ちこたえて下さい』
『は、はい、なるべく早くでお願いします!』
そしてプツリと通信が切れた、本気で不味い状態のようだ。
「希望は見つかった、ここからが正念場だ」
そして、物語の舞台は四国外に移る。
さて、冬休みに入るので二日に一回のペースで更新できるように頑張ります。
来週もお楽しみに!
誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!