柊景夜は勇者である   作:しぃ君

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 待たせてスンマセン!


第十一話「二人の勇者と巫女(水都)水守(美森)の勇者」

 一二時間、四国の瀬戸大橋記念公園を旅立って移動し続けた時間だ。

 諏訪との連絡が取れてから二日、神樹からの神託により侵攻が一時的に無くなることを知った。

 勇者の全員が支度をしていた為に即出発したのだ。

 

 

「ひなた、辛くなったら言ってくれ。休憩挟むから」

 

 

「大丈夫ですよ、それよりも早く諏訪に行きたいんでしょう?」

 

 

「そ、それは……」

 ひなたの言う通りだ、本当なら四国外の水質や土質の調査の為に行くはずだったのだ。

 

 

 それを景夜が、「助かる人が居るのに、見捨てられるか!」と言い放ち勇者のみんなと全速力で諏訪に向かっている。

 ひなたは、何時でも何処でも神樹から神託を受け取れる存在として同行している。

 ひなたのことをお姫様抱っこで運ぶ姿に、杏が鼻血を吹き出しそうになったのはまた別の話だ。

 

 

「そろそろですね、諏訪の皆さんは無事でしょうか?」

 

 

「さぁ?それを確かめに行くんでしょう?」

 

 

「そうだぞアンズ、まずは確かめることが大事だ!」

 みんなが揃って球子の方を向く、球子のことを見る目は心配そうな感じだ。

 

 

「済まない球子、何か不調があったのだな」

 

 

「ゴメンねタマちゃん!」

 

 

「何かあったんですか、球子さん」

 

 

「どうかしたのか?タマ」

 

 

「土居さん、大丈夫かしら?」

 

 

「タマッチ先輩!風邪でも引いちゃった?」

 

 

「だー!何でタマが真面目なことを言っただけでこうなるんだ!」

 少しコントを挟みつつ、着々と諏訪に近づいていく。

 

 

 その時だった、前方から爆発音が響いて来た。

 勇者ではないひなたでさえ分かる大きさの爆発音。

 明らかに尋常ではない、景夜は自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。

 焦っている、いつものような冷静な思考が保てない。

(目の前で誰かに死なれるのはもう真っ平だ!)

 穂先の精密操作で階段を作る、まるで空を走るように爆発のあった場所に駆け付ける。

 

 

 そこには、以前の大規模襲撃の際に現れた進化体バーテックスに酷似したものだ。

 体長は二回り程小さいが、それでも臀部の所から砲弾のようなものを放つ攻撃は強力だ。

 だが、一回見ている者からすれば大したものではない。

 

 

「ひなたを任せたぞ若葉!」

 

 

「任された!」

 ひなたを若葉の方に渡し、空中から地面に降りる。

 

 

「喰らえやぁ!」

 トロールを降ろしてからの全力のやり投げ、速度はとうにマッハ1を超えている。

 その攻撃で進化体に大穴が空き、進化体は砂になって消えていった。

 

 

「ホワィ!今のいかにもデンジャラスな攻撃はどこから?」

 

 

「あ~、多分あの人じゃないかにゃ~」

 邪魔な敵が消えたそこには、眼鏡を付けたどこか飄々としている少女と、何故か英語風の話し方をする陽気そうな少女が居た。

 

  -----------

 

「いや~、まさか二日で来てくれるなんて。思いもしなかったわ」

 

 

「そうだね、運が良くて助かったにゃ~」

 

 

「全速力で飛ばしてきたからな、お陰でヘトヘトだよ」

 巫女であるひなたと水都がお茶を出す。

 

 

「何より、無事で良かった。歌野に藤森に雪花も」

 

 

 若葉からしたら、二度と会うことはないと思っていた友に再開したのだ。

 嬉しくない訳がない、呼び方に関しては歌野と雪花から名前で呼んでほしいと言われたのでそうなってる。

 

 

 少し長めの自己紹介を終えた途端、景夜が頭を深く下げた。

「本当にすまない!助けに行けなくて、こんなに遅くなってしまって」

 

 

「別に良いのよ、景夜。全然ノープログレムだったわ!」

 

 

「そうか?ならいいんだけど」

 「案外律儀な性格してるのね景夜は」歌野にそう言われて少し照れたように、景夜は顔を逸らした。

 

 

 けれど、ただ一人だけ彼らを糾弾するものが居た。

 

 

「全然問題なくないよ!今日だって、一歩間違えれば死ぬかもしれなかったんだよ!それに……私たちは囮にされたんだよ、何でうたのんは怒らないの!」

 

 

 ちゃんと納得したのだ、歌野の理由を聞いて。

 けれど言ってしまう、だってしょうがないだろう水都にとって歌野は大切な人(親友)なのだから。

 

 

「通信が切れたあの時に、秋原さんが来てくれなかったらみんな死んでたんだよ。運が良かったから助かったんだよ!」

 そうだ、実際景夜たちは六割がた諏訪はもうだめだと思っていた。

 

 

「ゴメンな、でも歌野が頑張って稼いでくれた時間のお陰で俺たちは強くなれた。諏訪との通信が切れたときすぐに行きたかった、けどあの頃はまだみんなが上手く噛みあってなくて行けなかった」

 

 

 言葉を続けようとした景夜を水都が遮る。

「私は何もできなかった!うたのんが傷ついているのを見て手当てをするだけ、私はうたのん(勇者)って言う影に隠れてただけ。巫女としても全然役に立ててなかった……」

 

 

 水都の言葉は自分に向いていた、戦えないもの叫びだろう。

 いつの時代も、戦う力の無い者に世界は残酷に出来ている。

 だが、景夜も見過ごせない部分があった。

(役に立ててない、か……水都それは違うな)

 

 

「それは違う、水都は十分歌野の役に立ててたと思う。多分歌野一人じゃこうはならなかった、水都が隣に居たからこそだ。……ちょっと話は変わるけどさ俺も昔は弱虫だったんだ」

 

 

 景夜は話した、ひなたや若葉との出会い。

 勇者に目覚めてまだあまり時間が経ってなかった頃の話を。

 

 

「――と、こんな感じだ。俺も若葉も支えられてきたひなた(巫女)って言う存在に、

だから言える。水都、お前が役に立ってなかったなんてことはないちゃんと歌野(勇者)を支えてたと思うよ」

 水都が歌野を見る、答えを待っているのだろう。

 

 

「うたのん……」

 

 

「みーちゃんが居たお陰でここまで戦ってこれたってのはトゥルースよ、だってみぃちゃんがいてくれると私のハートはストロングになるんですもの!」

 少し英語交じりだが、歌野の感謝の念が伝わってくる。

 百点満点を上げてしまいそうになる、理想とも言える相互信頼関係だ。

 

  -----------

 

「私たち四国の勇者をパスに神樹様の力を使って、諏訪にいる皆さんを四国に転移させます。すでにこちらの土地神様からの了承はされてるようなので、明日にでも転移を行いたいお思います」

 

 

 杏が歌野や雪花や水都に今回の作戦の説明をしている。

 作戦の内容としては、若葉たち(景夜を除く)四国勇者と神樹の力渡しの関係を利用し、少なくとも三人を軸にして諏訪に霊的なパスを繋ぐ作業をする。

 パスが繋がれば諏訪にいる住民たちを四国の結界の中に移動させることが出来る。

 だが神樹も全能ではない少し座標に誤差が出る可能性もあるので、軸になった三人の勇者はそのまま四国に帰還するようにする。

 

 

 残った三人の勇者と巫女のひなたは、水質や土質調査をやって帰ることになっている。

 

 

「オールライト!それじゃあ、私もそのリサーチに協力するわ!」

 

 

「雪花さんも協力しますよ~、一応助けてもらうわけだしね。借りは返さなきゃだし」

 雪花の視線がある方向に向く。

 その視線の先には、ひなたに膝枕をされ気持ちよさそうに寝ている景夜の姿があった。

 

 

「そっちの景にゃんは大丈夫なの?さっき善い事言ったと思ったら、杏の話が始まって数分で寝ちゃったし。もしかして、難しい話は苦手的な……?」

 

 

「それはないな雪花、景夜はこれでも杏と同等かそれ以上の頭の良さがある」

 

 

「じゃあ、なんで眠っちゃったのさ?」

 

 

「それはですね――」

 ひなたの話によると、今回の作戦を立てたのは全部景夜らしい。

 諏訪との連絡が取れた数時間後には、この作戦を大社本部に送り付けた。

 

 

 「神樹からの神託により侵攻が一時的に無くなることを知った」のが、ちょうど今日の午前五時頃。

 それまで景夜は不眠不休で、諏訪への救援のために準備を済ませたり、作戦の成功率を少しでも上げるために大社の中を走り回っていたのだ。

 

 

「へぇ~、景にゃんって結構お人好しなタイプだね」

 

 

「結構どころではないわ……最高にお人好しよ、景夜君は」

 そんな話をしていると景夜がもぞもぞと起き始めた。

 

 

 

「ワリィ、寝てたわ。それで、作戦の話は済んだか?」

 

 

「済んでますよ。で、軸になる人はどうしますか?」

 

 

「軸かぁ、杏と球子それと……友奈かな。こっちには雪花が居るし作戦立てや後衛の方も大丈夫だし」

 

 

 景夜は、もし自分たちが居ない間に侵攻が来た時の為に球子と杏と友奈を選んだ。

 球子の精霊は大多数戦に向いているし、杏の精霊もそうだ。

 友奈を返したのは、もしもの場合に備えてだ。

 

 

 それに、機転の良い杏がいれば少しの問題も解決出来るだろうという信頼もある選択だ。

 

 

「悪いが、今言った三人は諏訪の土地神様が祀られてある神社に行ってくれ。今日はそこで過ごしてくれ、そうすれば一応パスは繋がるはずだ」

 

 

「りょーかい!行こう、アンちゃんにタマちゃん」

 友奈が杏と球子を連れだして家を出ようとした時、水都が小さく声を掛けた。

 

 

「あ、あの、案内しましょうか?」

 

 

「だいじょうーぶだいじょーぶ!それより、そこにいる不眠不休で頑張ってたバカゲヤのために何か飯でも作ってやってくれ」

 

 

「そうですね、場所は何となく分かっているので景夜さんのことをお願いします」

 

 

「わ、分かりました!気を付けて下さい」

 球子と杏の言葉を聞いた水都は柔らかい笑顔になった。

 

 

「柊さん、そのご飯何か食べたいものってありますか?」

 

 

「あ~、パスタとかってないよね?」

 

 

「スイマセン!その……蕎麦なら」

 

 

「なら、蕎麦でお願い。蕎麦って一度食べてみたかったん……あのさそんな目で見るのやめてくんない!」

 景夜が蕎麦を頼もうとしたら、若葉とひなたと千景の三人に白い目で見られたていた。

 

 

 そんな気まずい空間を壊したのは、幼い子供の声だった。

 

 

「歌野おねーさん!新しい勇者さんはどこー?」

 

 

「歌野ねえちゃん!新しい勇者さんいるー?」

 

 

「海斗君に水守(みもり)ちゃん!ここに来ちゃダメって言ったのに」

 来たのは八歳位の男の子と女の子だ。

 

 

 女の子の方は礼儀正しいがまだ幼さが残っていて可愛い感じだ。

 男の子の方は元気ハツラツって感じだ、だけど……

 

 

「あの、その子……右腕が……」

 

 

「ああ、海にゃんはねバーテックスに腕をやられちゃったの。運よく助かったんだけどね~」

 千景の言葉に雪花は軽い感じで返してるが、相当なことがあったのだろう。

 

 

「実はね雪花さんが来てくれて少し経った頃にね……」

 歌野が話したのは勇敢な少年の話だ。

 

  -----------

 

「これでフィニーッシュ!センキュー雪花さん」

 

 

「いやいや、どうってことないって。と言うか、歌野はこれから畑行くんでしょ?頑張ってね!」

 いつも通り、危なげなく戦いを終えた二人。

 そこに二人の子供がやって来た。

 

 

「歌野おねーさんに雪花おねーさん!水都おねーさんが呼んでたよー!」

 

 

「水守ちゃん!走らないでよー!それに外は危ないよ!」

 水守は用事を伝えるのに必死だったのか、結界の外に出たのに気がついていない。

 海斗は水守が結界の外に出たのが見えたので走って追って来たのだ。

 

 

「ありがとみもっちゃん、歌野行こっか。二人も一緒にね~」

 

 

「はい!」

 

 

「ふふ、雪花さんも段々ここに馴染んで来たわね」

 

 

「もー、雪花ねえちゃんも歌野ねえちゃんも水守ちゃんのこと少しは注意してよ!」

 

 

 四人が談笑していた、その瞬間事件は起きた。

「カチカチ!」

 歯のような部分で音を鳴らしながら、バーテックスが迫ったいた。

 

 

「水守ちゃん!」

 

 

「え?」

 気付いたのは海斗だった。

 バーテックスの進行方向上には水守(美森)がいる、そんな時に海斗がとる行動は?

 決まっているだろう、

 

 

「きゃっ!?」

 

 

「うぁあああああ‼‼」

 水守が突き飛ばされる、何とか間に合ったのだが。

 海斗の断末魔のような叫びが聞こえた。

 

 

 少年の右腕は、すでに。

 

 

「海斗君!」

 

 

「海にゃん!」

 勇者の二人が動いて、バーテックスをすぐに片付ける。

 倒したは善いが、海斗の右腕は肘から先が無くなり、骨が見え血が湯水のように溢れ出ている。

 

 

 

「か、海斗!海斗!何で、どうして!」

 

 

「あ、たりまえじゃん、水守ちゃ、んを助けるの、なんて」

 

 

 言葉が痛みで上手く話せないのか、途切れ途切れの言葉が口から出ている。

「歌野!海斗をお願い!私は水守ちゃん連れて水都の所に行ってるから!」

 

 

「ラジャー!そっちはお願いするわ!」

 二人の迅速な対処により、海斗は一命を取りとめた。

 これが事の顛末だ。

 

  -----------

 

「そんなことが……」

 景夜は海斗の所に向かう、今は水都の居る台所で料理を手伝っている。

 

 

「海斗、少し聞いていいか?」

 

 

「何?勇者の兄ちゃん?」

 

 

「お前は何であの子を助けたんだ?」

 多分帰ってくる言葉は、少年にとっては当たり前のことなのだろう。

 

 

「父さんが俺の名前に海斗って付けたのは理由があったんだ、海のようにビックなハートを持って欲しいからだって言ってた」

 

 

「そっか……」

 

 

「それでね、大好きな女の子を守れるんだったら、腕の一本位安い!って言えた方が善いかなって思ったから」

 親に願われたから、ただそれだけの理由なのだ。

 海斗が水守(美森)を守る理由はそれで善いのだ。

 

 

「俺と君は、結構似てるな」

 

 

「そうかな、兄ちゃんみたいな勇者になれる?」

 憧れたものを見る目だが違う、景夜も海斗のことをそんな目で見ていた。

 

 

「もうなってるよ、あの子の勇者に」

 諏訪には勇者が居る。

 歌野に雪花と言う土地神に選ばれた勇者。

 

 

 そして、水守(美森)の勇者が一人。

 諏訪に居た。

 

 




 次回もお楽しみに!

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