諏訪を出て早一日、勇者たちは夜の森林にてキャンプを行っていた。
「まさか、景夜君がキャンプ用品について詳しいなんて知りませんでした」
「そうだな、どちらかと言うと景夜はインドアなものの方が好きだと思ったが」
「インドアなものも好きだよ。アウトドアはタマに教わったんだよ、前々から興味はあったし何回か二人でハイキングにも行った」
球子と景夜は仲が良い、最初に会った頃から意気投合し加速度的に距離が無くなった。
友奈の場合は彼女の方から寄り添って来たが、球子の場合は感性の近さやお互いの性格故に仲良くなった。
ハイキングに行ったのも本当で、景夜がもっと球子のことを知るために彼女が好きなアウトドアに誘ったのである。
作戦は大成功で、最初の一回でお互いを良く知ることが出来た。
その後もちょくちょく行っているので、今回のようなキャンプの仕方にも大分慣れている。
「良いな~そう言うの、私の方はそんな余裕あんまりなかったからさ~」
「そうだよな、雪花は凄いよ。北海道何て言う大きな地域を一人で守ってたんだから、俺たちなんて四国を護るので精一杯だよ」
景夜は心の底からそう思っている。
もし自分がそうなったら、きっとどこかで折れていただろう。
その言葉を聞いた雪花が徐に立ち上がり、自分の武器である投げ槍を召喚する。
「ねぇ景にゃん、一度じっくり君の実力を見せてよ?今日は敵に遭遇しなかったしさ」
「……はぁ、いいぞ。一通りキャンプの準備は終わったしな」
景夜が周りを見渡す、そこには二つのテントと焚火。
テントも立て終わり、火も起こした、後は食事の準備をするだけだ。
それならひなたや水都に任せられるだろうと判断し、自分も天逆鉾を手に取る。
「勇者服は着ないの?」
「ハンデだよ、あれは雪花たちの勇者服よりなにかとスペックが高いからな」
ニヒルに笑って見せる景夜に対して、雪花は目を細める。
「舐めてる?」
「まさか、尊敬してるは本当だし、実力も分かってるつもりだ」
決して舐めて掛かっている訳ではない、これ位が丁度良いと景夜が判断したまでだ。
慢心は無く、ただ単に「これで勝てなきゃ、師匠に申し訳ない」と思っている。
雪花を過少評価してる訳ではなく、実力を考えての行動だ。
「後悔しても遅いよ!」
「それはどうかな?」
雪花が不意打ち気味に槍を投げる。
景夜は浮いた穂先を使って、難なく槍を叩き落とす。
「今度はこっちから行かせてもらうぞ!」
力を込めて地面を蹴る、すると一瞬で数メートルはあったであろう距離が無くなる。
幾ら勇者になって鍛えたからと言って、こんなことは有り得ない。
景夜自身も内心少し驚いていた、トロールの魂と同化して霊核魂になった所為か、今までより格段に基礎能力が向上している。
一瞬で無くなった距離感に少々驚く雪花だが、そんなことでは隙を晒さない。
すぐさま替えの槍を用意して、柄の中ほどを持ち迎撃態勢を取る。
一方、突っ込んだ景夜も無難に柄の中ほど持ち近接戦に持ち込む。
最初は様子見で、上段から振り下ろす。
だが、その振り下ろしの速さも異常で音を立てながら迫って来る。
雪花は即座に受け切れる攻撃ではないと判断、柄を短く持ち替えて攻撃を逸らす。
「中々やるねぇ、景にゃん」
「今のは受け流して正解だな、多分受けてたらヒビ入ってた」
(何となく分かってけど、化け物過ぎない。勇者服なしの神器だけの状態でこんだけとか、完全な状態で精霊?だっけ使ってたら勝てないじゃん!)
雪花は景夜の強さに内心舌打ちしつつも、この人が仲間になってくれるなら心強いと思った。
「まだやるか?雪花」
「……いいや、止めとくわ。今の一撃で確実に強いってことは分かった。だから……」
「だから……?」
雪花のいつもの飄々とした態度は鳴りを潜め、真面目な声音で話す。
「強さは分かった、だから景にゃん。次ぎは心のテスト」
「心のテスト?」
「そう、次のテストは四国組に人全員が答えてね」
真剣に話す雪花の雰囲気に呑まれ、その場一帯が静まり返る。
「水都と歌野にはもうしたんだよね。心理学とかに近いんだけどさ」
雪花がある話を話し始めた。
話はこうだ……
あなたは大切な人(家族、恋人、友達、etc)と銀行に来ていました。
その時、銀行は銀行強盗に襲われてしまい、人質として捕まってしまいます。
人質の数はあなたたち二人、警察は人質が居る為派手に動くことが出来ません。
偶然にもあなたは警察官で、上司に内部で動いて強盗犯を捕まえろと命令されました。
しかし、犯人はあなたの大切な人に爆弾を付けてしまう。
爆弾を取り外していたら、犯人は逃げてしまいます。
犯人を追いかけたら、大切な人は死んでしまいます。
あなたは、どうしますか?
使命感や責任感に押され、大切な人を捨てて犯人を捕まえますか?
そうすれば、あなたは同僚や上司に称賛されることになるでしょう。
ですが、大切な人には恨まれることになります。
愛や友情の為に大切な人を助けて、犯人を見逃しますか?
そうしたら、あなたは同僚や上司に蔑まされることになります。
ですが、大切な人には感謝されるでしょう。
こんな感じの話だ、如何にも心理学の話であるもの。
小を為して、小に称賛されるか。
大を為して、大に称賛されるか。
景夜からしたら、そんなのは決まり切っている。
「そんなの決まってんだろ、なぁ若葉?チカやひなたもそうだろう?」
「景夜の言う通りだ、答えは決まり切っている」
「何となく若葉ちゃんや景夜君の言いたいことが分かりますね」
「そうね、私もそうありたいわ」
四人の答えは……
「「「「大切な人を助けた後犯人も捕まえる(です・わ)」」」」
同じだった、景夜に若葉は勿論。
千景やひなたも同じ答えだった。
ひなたは景夜と若葉の考えを読み、自分も二人の傍に居る為にこの答えを選んだ。
千景は景夜と同じ答えに辿り着きたいと言う感情と、若葉に対する対抗心によるものだ。
雪花はその答えを聞いて笑い出す。
「アッハハハ!さっすがだね、歌野や水都と同じこと言ってる」
「だから言ったでしょう雪花さん、聞いても無駄だって」
「うたのんの言う通りだったね」
この七人で過ごす最初の夜、心の距離は先程の問いのお陰か殆ど無くなっていた。
-----------
「景夜君、覗かないで下さいよ?」
「覗かねぇよ」
ひなたがからかうように景夜にそう言うと川の中に入っていく。
水を浴びて体を洗うために女子組が川の浅瀬に入っていく。
座って腰が浸かる所まで行くと、全員が腰を下ろす。
「いや~冷たいにゃ~、流石にこの時期は寒いよ」
「そうですね雪花さん、こういう時はジッとしている方が善いですね」
「そうだな、余計に体力を持っていかれかねん」
雪花に若葉にひなたは座ってジッとしているが、歌野は水都にジリジリと近寄っていく。
「ねぇねぇみぃーちゃん?」
「な、何うたのん」
手のひらを皿のようにして、水を貯めている歌野に対し水都は少し後ずさる。
「せーい!」
「ひゃっ!も、もう!うたのん」
歌野は容赦なく水をかける、水都もお返しと言わんばかりに水をかけ返す。
歌野はそれをサラリと躱す、その後ろには千景が。
「きゃっ!?」
千景は少し驚いた声を出した後無言になり、いきなり立ち上がる。
「デンジャラスな感じがするわ」
「う~ん、逃げるが勝ち!」
「えっ?せ、雪花さん」
立ち上がった千景は歌野と水都を標的とし、水かけの準備を始める。
その動きを見て、自分に被害が出るのを恐れて退避。
「景にゃん、もう上がったよ」
「早いな、って!服着ろ服!」
「あ……景にゃんの変態……」
「理不尽だ!」
退避してきた雪花は服を着るのを忘れ、景夜の前に全裸で出て行ってしまい、何だか気まずい雰囲気になってしまった。
景夜に後ろを向かせ、雪花は急いで服を着る。
「何か……ゴメン」
「い、いや私の方こそ」
大きな岩に背中を預けて座っている二人、後ろの方からは悲鳴が響いてくる。
そんな気まずい雰囲気の中、草むらの方から音が聞こえた。
「人か?いや……動物の可能性もあるな」
「そうかな、バーテックスの可能性は?」
雪花の考えは考えは間違っていないが、景夜は直感的にそれは違うと分かった。
「多分違う、それにバーテックスだったらとっくに襲いに来てる筈だ。雪花みんなを頼む、俺は少し様子を見てくる」
「景にゃん一人で大丈夫そう?」
「もしもの場合は助けを呼ぶよ、そん時はよろしく」
そう言い残して、景夜は変身して音のした草むらに走っていく。
「念の為に着替えときますか」
雪花も勇者装束に着替え直し、景夜の帰りを待った。
-----------
三分程走った頃だろうか、微かに人影を見つけた景夜は思い切って声を掛けた。
「そこの人、少し待ってくれ。ここは危険だから俺たちの方……に……」
景夜の声が途切れる、驚いているのだろうか、完全に固まってしまっている。
人影の正体を見て。
「よう!柊景夜くん、初めまして。俺は天の神の使い……君たち風に言ったら天使かな?」
十四歳か十五歳程だろうか景夜とそう変わらない歳の少年だ。
だが、問題はその少年の容姿だ、似てるのだ可笑しい位に。
「あれ?もしもーし、ちゃんと聞こえてるよね?可笑しいな、こんな感じの言葉で合ってるはずなんだけど」
言動が少し幼く感じるが、似ているのだ声の質も。
いや、そっくり何てレベルじゃない。
どこからどう見てもその少年は
「お前、何で俺と同じ……」
「ああ、この格好?これね、生き残ってる人類の中で最も強い人物を参考に作ったんだって。君にそっくりなのもその所為だよ」
無邪気な子供の様に呆気からんと言う少年に対して、景夜は一種の恐怖を感じた。
「目的は何だ?お前みたいのが作られたのは、何かしら目的があるんだろ?」
「目的?う~んしいて言えば人類の根絶かな、でも安心して今回は君たちを観察しに来ただけ。それに君たちは……完成型には勝てないだろうしね。もしもの時に用意されたのが俺ってわけ」
この少年の意図が景夜には分からない、目的をペラペラ喋るし、今回は観察しに来ただけとも言うし。
だが、景夜はこの天使が言っている言葉には嘘が感じられなかった。
「完成型に、もしもの為の
「何で嘘なんか言う必要あるのさ?君たちみたいに不完全な生物には嘘は必用かもしれないけど、俺は天使だそんなものは必要ない。それに君たちが俺に勝てるとは思えないし」
確かに、天使から発せられてるオーラは段違いだ。
この前の超大型バーテックスが可愛く見える程の格の違いが分かる。
「じゃあ、今日はこれでサヨナラ。今度君たちに会う時は樹海の中かな」
天使はそこに階段があるかのように、空に向かって駆けあがっていく。
空に突如として光輝く扉のようなものが現れて、天使がその扉の中に入りどこかに消える。
扉に入った後、その光輝く扉は消えてしまう。
「何だったんだ……」
景夜はただそこに立ち尽くし呆然としてしまう。
突然のこと過ぎて、景夜の頭でさえもキャパオーバーを起こしてしまった。
天使が去った後、そこには静寂だけがあった。
-----------
その後は、みんなの下に帰りあった事柄を細かく伝える。
聞いた全員が驚いて少し固まったが、各々何とか理解して情報を飲み込む。
そして、その日は勇者が後退で当番をして就寝した。
四国へ帰る途中、名古屋駅近くのビルにて卵状のものに覆われている都市群を見た。
梅田駅の地下街では、地下に逃げ込んだ少女の日記を見た。
景夜たちは、人間の醜さを直視させられている気がした。
地質や水質の調査はサンプルを持ち帰るだけだったので何とかなったが、みんなの気分は少しだけ落ち込んでいた。
だが、歌野の底なしの明るさのお陰でどうにかなった。
物語は進み、着々と決戦は近づく。
果たして、誰が生き残り、誰が居なくなるのか。
まだ誰も知らない。
次回もお楽しみに!
誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!