柊景夜は勇者である   作:しぃ君

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 お待たせ!


第十五話「三人と仲間と思い」

 幼馴染三人の秘密の関係が始まってから数日。

 今日は土曜日で、訓練やら修行はない。

 何でも、紅葉が大社本部に行っているらしい。

 最近はあまり休みがなかったので、「今日は休みでいいよ~」と紅葉から言われ景夜は絶賛ゲーム中だ。

 

 

 千景とではなく若葉とやっている。

 テーブルをずらして、テレビの前に座布団を置いて二人が座る。

 後ろのベットでは、ひなたがゲームをする二人を見守っている。

 

 

「若葉!後ろ後ろ、殺人鬼来てるから!」

 

 

「むっ、しまった一発喰らってしまった。景夜私が直していた発電機を直しておいてくれ、私がこの殺人鬼を引っ張ってみる」

 

 

「了解了解」

 dbdをやっているのだろうか、景夜と若葉以外の生存者は既に天に召されている。

 

 

 その後は、二人のチームワークが炸裂してなんとか無事脱出。

「さあさあ、二人ともゲームは午前までです。午後は外に出かける約束でしょう?」

 

 

「……洋服屋には別に行かなくてもいいのだが」

 

 

「りょーかい、若葉諦めタマへ」

 自分が着せ替え人形にされるのが分かっているのか、若葉が嫌そうな顔で訴えているが景夜の言葉によりその訴えは却下されてしまう。

 

 

 景夜は着替えて部屋を出る、外には若葉とひなたが先に来ていた。

「来たな、では行くか」

 

 

「そうですね」

 

 

「いや、もう少し待てよ」

 

 

 少し遅れ気味だった景夜を尻目に先を歩く若葉とひなた。

 若葉はいつもながらボーイッシュな服装をしている、それに対してひなたは年頃の女の子代表のような服装でいるため、景夜は少し錯覚する。

(あれ?何か二人が並んでると普通にカップルに見えるんだが……深く考えないようにしよう)

 

  -----------

 

 丁度正午ごろ、ショッピングモール内は休日ということもあってか賑わっている。

「凄い人混みですね……」

 

 

「そうだな、休日に加えてお昼時だし」

 

 

「はぐれないようにしなくては……」

 二人が景夜の顔をジッと見つめる。

 

 

 最初は理解できていなかった景夜だが、ようやく分かったのか二人の一歩前に出て両手を差し出す。

「エスコートしますよ」

 

 

「ええ、お願いします♪」

 

 

「……頼む」

 ひなたは嬉しそうな顔をして手を掴む、若葉は少し頬を赤くして手を掴む。

(何だかんだ喜んでくれてるみたいだし良いか……)

 

 

 景夜を真ん中に、右にひなたで左に若葉。

 三人手を繋いで歩くのは何時ぶりだろうか、ふとそんなことを考えた若葉だったが、今はそんなことどうでも良いと思えるくらいには幸せだった。

 最初は三階にあるフードコートで食事。

 フードコートと言えばバリエーションが多いというイメージがあると思うが、このショッピングモールは店の三分の一がうどん屋というものになっている。

 ちょっとやり過ぎなんじゃないかと思った景夜だが、二人が楽しそうにうどん屋を選んでいるので深く考えるのを止めた。

 

 

「景夜、ここでいいか?」

 

 

「別にいいぞ?俺はざるうどんも大に野菜かき揚げで」

 

 

「分かりました、若葉ちゃんはどうしますか?」

 

 

「きつねうどんだな」

 ひなたが注文をしに行った直後、若葉が景夜に対して耳打ちをする。

 

 

(景夜、何か変じゃないか?)

(俺もそう思っていた所だ……()()()()()()()()()()()()()

(分からん、だが用心した方が善いのは確かだな)

 ひなたが帰って来た所で話を切り上げる。

 景夜と若葉が言ったように、このフードコードには人が殆どいない。

 時刻はまだ一二時一〇分、普通ならそれ相応に混んでるはずなのだ。

 

 

 幾ら先程まで居た一階にも食事処があるとはいえ、明らかに可笑しい。

 少し不穏な空気を感じながらも、ひなたに悟られないようにいつも通りを装う。

 

 

「それにしても、空いていて良かったですね!」

 

 

「まあ、下にも食事処はあるし。そこが混んでいるのか、それとも映画館の方に行っているんじゃないか?」

 

 

「そうかもしれんな」

 

 

 このショッピングモールは広い、レイ❍タウンまではいかないがイ❍ン程の広さがあり施設も充実している。

 その為か、今日のような休日は家族や学生で賑わっている。

 

 

 だからこそ、二人は気にしている。

 何かあったら最優先に守るのはひなた、どちらかが言わなくとも分かっている。

 だが、二人が考えるような危険な事件は起こらず、普通に食事をしていた。

 

 

「うむ、やはりうどんはいい。このコシがたまらん」

 

 

「ですね、景夜君はどうですか」

 

 

「美味しいよ。言っとくけど、別に俺はうどんが嫌いな訳じゃない。パスタの方が好きなだけだ」

 三人で特に中身があるわけでもない雑談に花を咲かせつつ、食事を楽しんだ。

 

 

 その後は、若葉を着せ替え人形にして遊んだり。

 逆に、ひなたのことを若葉と景夜が着せ替えて褒め殺したりと。

 色々なことがあり、今は映画館で映画鑑賞中。

 東野❍吾さん作の「マスカレード・ホテル」を見ている。

 景夜が杏に勧められ読んだ作品で、面白かったこともあり二人に見てもらいたくてこれが決まった。

 ひなたと若葉は食い入るように画面から目を離さない、見入ってることが嬉しくて景夜は一人微笑んでいた。

 

  -----------

 

 映画も見終わり、映画館の外に出る。

 人の流れは早く、すぐさま次の上映を見る人たちが並んでいく。

 景夜は余韻に浸っている二人の手を引き近くのソファに腰を下ろさせる。

 

 

「面白かっただろ?」

 

 

「とても!とーっても面白かったです!ね、若葉ちゃん」

 

 

「ひなたの言う通りだ、お前の意見を聞いて正解だったな」

 そのまま映画の話を続けていると、後ろから声を掛けられる。

 

 

「景屋さん達も見に来てたんですね!感激です!」

 

 

「いや~面白かったにゃ~」

 そこに居たのは、杏と雪花。

 雪花も読書家なので、大方杏に動かされてここまで来たのだろう。

 

 

「タマは一緒じゃないんだな、珍しい」

 

 

「はい、流石に合わないものに付き合わせるのは可哀そうかなと思いまして。その代わりに雪花さんに来てもらいました!」

 

 

「そうそう。なんか、いきなり私の部屋に入って来るやいなや映画見に行きましょう!とか言われたからね、流石にビックリしたよ」

 そえでも面白かったのだろう、苦笑しつつも嬉しそうだ。

 

 

 景夜は仲間に伝えなくてはいけないことを思い出して、至急全員に連絡を入れるようお願いした。

 

 

「二人ともごめん、今から少し付き合ってくれ」

 

 

「「?」」

 二人とも良く分かっていないが、そこはフィーリングでカバーしすぐに動き出した。

 

 

 その様子を見守る者が一人、

 

 

「……へぇ~、完成型に勝つつもりでいるんだ。まぁいいや、俺が出るのはまだ先だしね」

 

 

 天使が一人、勇者達を見ていた。

 

  -----------

 

 みんなが集まったのは大体十八時頃、歌野は鍬を持ちながら走って来た。

 

 

「それでエマージェンシーだって言われたから走って来たけど、何かあったの?」

 

 

「そうだよ、景夜さん。緊急の呼び出しだからビックリしたよ」

 

 

「……景夜君らしくないわね、どういう内容なの?」

 

 

「ぐんちゃんと同じ。何があったか聞いても良い?」

 

 

「そうだぞ景夜、タマたちには仲間として聞く義務がある」

 それぞれの反応を伺いつつも、景夜はひなたの神託の話をした。

 

 

 場が凍り付いて、誰も声を上げようとしない。

 不味いと思った景夜が、『信長』の話をして何とかなることを証明する。

 

 

「――、これで分かったか。杏とタマ、お前たち二人は何かあったらこれを使って離脱しろ」

 

 

 景夜が見せたのは、『樹海緊急脱出システム』と書かれたスマホの画面だ。

「この画面になったら、自分と相手の名前が付いたマークをタップする。そうすればすぐに樹海から離脱出来る」

 

 

 最初から、一個一個丁寧に順序を説明していく。

 

 

「お前らを死なせるつもりはないし、守りたいと思ってる。でも、もしもの場合は俺を置いてでも逃げろ。……なーに、大丈夫だよ。お前らと違って悪運は強い方なんだ」

 景夜が勝気な笑顔で言い切るが、球子に杏は引く姿勢を見せない。

 

 

「何言ってんだ!このバカゲヤ、タマがそんなすぐ仲間を見捨てる奴に見えるのか?お前がどんな手を使ってもタマは残る、お前たちと戦う」

 

 

「私もタマっち先輩と同じです。景夜さん、頼りないかもしれませんが精一杯頑張りたいんです。お願いします」

 二人の言う言葉は分かっていた、どうせいい返事はしないだろうと。

 

 

 だから、

 

 

「もういいよ、俺が全部まとめてなんとかすればいいだけだ。……絶対勝つぞ、負けてたまるか!」

 

 

「「「「「「「「「おおーー‼」」」」」」」」」

 この日、勇者たちの想いはまた強くなった。

 絶対に勝つという思いが。

  

 




 次回もお楽しみに!

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