他作品との折り合いがありまして、このような感じになってしまいました。
また週一更に戻りますので、どうかご自愛ください(泣)
景夜が仲間たちに神託のことを告げてから一週間弱、樹海化が起こることはなく平穏に過ごしていた。
小春日和と言ってもいい程の穏やかな天気と気温。
時刻はお昼過ぎ、ご飯を食べて眠くなりがちな時間帯。
勇者たちの耳に聞きなれた警報音が鳴る。
「樹海化か……」
「どうした景夜?怯えたような顔を見せるなんてお前らしくないぞ?」
景夜の顔はあまりいい物とは言えない、何か底知れぬ不安を感じてしまう。
若葉はそれをそっと拭き取るように声を掛けた。
「……そんな変な顔してたか?」
「ああ」
「大丈夫、なせば大抵なんとかなる。気合い入れていこうー!」
景夜の掛け声に合わせて、周りにいた勇者たちも声を上げる。
千景の一件で分かったことだが、精霊には穢れを体内に貯める副作用があるらしい。
最近になってようやく発見されたその事実は、勇者たちに知らされた。
今回は杏の指示により、まだ精霊を使用したことのない杏・歌野・雪花が精霊を使う。
景夜は例外的に精霊の使用を許された上で今回の戦いに挑む。
この作戦が吉と出るか凶と出るか、答えは誰も知らない。
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景夜は今朝、予知夢のような悪夢を見た。
その悪夢の中で、彼は球子と杏を救うことが出来ず。
仲間が目の前で殺されてしまうと言う光景をただ見せつけられる、そんな救いのない夢だった。
だから、若葉に不調を悟られてしまったのだ。
今回の侵攻を上手く回避できれば、全員が生存したままお役目を終えられる確率はかなり上がる。
そして――
「アンちゃんのお陰で殆ど敵居なくなったね!」
「だにゃ~、でも次回からはその寒~い精霊使う時は一言掛けてね?」
「す、すいません」
杏の精霊は『雪女郎』、分かり易くすると雪女。
その能力は「冷気」、先程はその冷気で敵の殆どを倒し壊滅にまで追い込んだ。
欠点としては、その「冷気」による吹雪の所為で視界が奪われてしまう点だ。
これだけは何とかしていかないといけない。
こんなことを戦闘中に思う景夜だったが、すぐさま思考を切り替える。
未だ現れていない完成型サソリバーテックス、それに向けて警戒の度合いを引き上げる。
だが、そんな警戒も無駄だと言わんばかりに
景夜は一瞬だけ視界に入った光でその光が、前に見た天使が使っていた光輝く扉のものだと確信した。
「来るぞ‼‼」
景夜の声と共に現れた完成型は、精霊の使用により疲れている杏を狙って尻尾の毒針を走らせる。
一瞬の攻防、球子は杏を守るために前に出る。
杏はサソリ型の毒針の部分を壊そうと矢を撃つ構に入った。
そして景夜は……その二人を、毒針の進行方向から逸らす為に二人を突き飛ばす。
その場にいた全員の中で動けたのはこの三人だけ、他の者たちは位置が離れていて助けに動くことなど出来ない。
敵も残っているため、安易に背を向けて走ることも出来ず。
少年の胸に、一本の毒針が突き刺さった。
そして、用は済んだと言わんばかりに突き刺さった景夜の身体を投げ捨てる。
「景夜!」
若葉が叫んだ。
「カゲヤ君!」
友奈が叫んだ。
「景夜君!」
千景が叫んだ。
「景夜!」
歌野が叫んだ。
「景にゃん!」
雪花が叫んだ。
「景夜!」
球子が叫んだ。
「景夜さん!」
杏が叫んだ。
全員の叫びが樹海の中に響く中、少年の脳内ではこれまでの人生がパノラマショーのように映し出されていた。
走馬燈、この方が正しいだろう。
みんなの声は聞こえている、だが体を起こして反応することが出来ない。
走馬燈が終わった後、景夜の脳に浮かんだ言葉は「死」だ。
痛いでも苦しいでもない、自分の身体が自分のものではなくなっていくかのような感覚。
痛覚も既に機能していないのだろう、痛みさえ感じることが出来ない。
(死ぬのか……俺……?)
脳に浮かんだ言葉が反芻される、「死」逃れることの出来ない人の終着点。
(友達を置いて?)
浮かぶのは昔の友たちの姿、懐かしい記憶。
(家族を置いて?)
浮かぶのは今ここに居る仲間と、現実の世界で帰りを待っている母。
自分に力の使い方や人生の歩み方を教えてくれた大切な人。
(死んで師匠の教えを無駄にするのか?)
自分に技を授け、心の在り方や仲間を守る力を教えてくれた大切な恩師。
(死んで愛する人をまた泣かせるのか?)
若葉にひなた、自分の事を好きだと言ってくれた。
優柔不断な自分でも……それでも傍にいてくれる愛する人。
(こんなところで死ぬ?ここまで頑張って、ここまで足掻いたのに……)
必死に努力した、必死に足掻いた。
もう何も大切なものを失いたくなくて。
(嫌だ!嫌だ嫌だ!死にたくない!友達を置いて、家族を置いて、死んで師匠の教えを無駄にして、死んで愛する人を泣かせて……)
諦めない、諦められない。
死にかけの身体でも、心が折れそうでも。
立ち上がる、武器を取る。
だってそれが
「し……んで……たま…る…か」
毒の所為で体は麻痺して上手く動かないし、胸には反対側の景色が見える程の大穴が開いてる。
「景夜!死んだら許さないからな!絶対生きろ」
球子が叫ぶ。
「そうです、生きて下さい!死んじゃダメです!」
杏が叫ぶ。
「そうだよ景にゃん!こんなとこで死んだら全然恩返せないじゃん!」
雪花が叫ぶ。
「そうよ景夜!死ぬデステニィーなんてひっくり返しなさい!」
歌野が叫ぶ。
「生きて帰って、みんなでお花見しようよ!」
友奈が叫ぶ。
「新しいゲーム買ったの、パーティゲームよ。まだ死ぬなんて許さないから!」
千景が叫ぶ。
「景夜、負けるな!お前は、勇者なんだろう!」
若葉が叫ぶ。
みんなの想いが聞こえた、みんなの願いが聞こえた。
今なら、
「来い!……織田信長!」
文字通り死力を尽くして叫んだ、その瞬間景夜を禍々しい炎が包み込む。
炎が消えた後に出てきたのは、頭部以外の体全体に鎧を身に着けその上から羽織を着こんだ景夜の姿だった。
羽織には「天下統一」の一言。
そして、胸にあった傷は塞がっている。
「これが……信長の力か。身体中から力が漲ってくる……」
手を握ったり開いたりして力の感覚を確かめる。
トロールとは違う、圧倒的なまでの格の違い。
そして、景夜は次の獲物を狙わんとするバーテックスに声を掛ける。
「お前らに声が聞こえてるかは分かんねぇが、聞け」
「俺は負けない、いや俺たちは負けない。人間は諦めたりしない、お前たちに奪われた世界を必ず取り戻す」
景夜の言葉に反応しているのか、サソリ型の動きが止まる。
「その為に、死ぬわけにはいかない。柊景夜の生き様は、明日を生きる人に希望を!」
自分の想いを吐き出していく。
「今から見せてやる、本物の希望ってやつを!」
景夜が槍を構えて、言葉を紡ぎ始める。
「絶技開放」
絶技、一日一度しか使えないとっておき。
「この槍は最強に非ず、持つ者に最高を与える」
これは解放の言葉。
「故にこの一撃は最強ではなく最高の一撃と知れ」
神器の真価を発揮させる、魔法の言葉。
「
サソリ型に向けて、槍を放つ。
サソリ型は、防御の姿勢を取るが甘い。
そんな防御では、この一撃は受けられない。
「そんな防御に!負けるかーー‼‼」
景夜の声に答えるように天逆鉾が勢いを増し、サソリ型に命中する。
サソリ型は耐えることなど出来ない、何故なら
命中した瞬間、サソリ型は呆気なく消滅する。
あれほど自分を追い込んだ敵が、こんなにも呆気なくやられるのは爽快だ。
景夜は投げた天逆鉾の回収がてらに、周りにいた
景夜の行為にやっと我に返った勇者たちは、星屑の掃討を再開する。
「今だ、流れはこちらにある。畳みかけるぞ!」
若葉の言葉と共に再開された星屑の掃討は、数分で片が付き。
今回も無事にお役目を終えた。
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周りが光に包まれ、樹海化が終わったと思った瞬間。
景夜は何故か見知らぬ空間に居た。
そこにはポツリと椅子とテーブルが置かれただけの真っ白な空間。
取りあえず椅子に座りながら数分待つと、そこに一人の少年が現れた。
容姿は景夜に似ているが髪の色は焦げ茶色で、目付きが少し……いや大分悪い。
「よう、相棒。これからよろしくさせてもらうぜ」
「お前は……信長なのか?」
「おお、よく分かったな!ついでに言うと、ここは深層心理……まぁ分かり易くすると精神世界みたいなもんだ」
当然のように言い放つ信長に頭を痛めそうになる景夜だが、自分の父もこういうことをしていたので何も言うことが出来ない。
「……で?俺をここに呼んだ用は何なんだ?」
景夜は早く会話を終わらせたいので話を急かす。
「悪い悪い……早速本題なんだがな。簡潔に言うとお前の魂と俺の霊核が融和してしまった」
「融和?溶け合ったってことか?」
「そういうこと、本当ならそんなこと起きないんだが。如何せんお前は霊核魂になって魂の器が広がった、これだけならいいことなんだが」
「何が問題なんだ?」
「大きくなった魂の器に、俺の霊核にスッポリ収まっちまってな。何とか抜け出そうとしたんだが、相性が良すぎてそのまま融和しちまった」
何を言っているのか、景夜からしたらサッパリ分からないが。
少し不味い問題に発展してしまったらしい。
「お前も運が良かったんだ、本当なら俺の霊核がお前の魂を取り込む所だったのに押し返されちまったからな」
「それで、融和したと……。何か不都合があるのか?」
「そうだな~、現実世界でもお前との意思疎通が出来たり。後、これが面倒だ。死後、お前たち勇者が神樹に吸収されるってのは聞いたか?」
「ああ、一様」
景夜たちは死後、神樹の中で英霊として過ごしていくこととなる。
このことは、案外勇者になった頃には聞いていた。
「お前と俺は、半ばくっ付いてしまってる状態だから、もしかしたら精霊として俺が外に呼ばれたときにお前もくっ付いて行くことになるかもしれん」
「そんなことか、なら問題ないよ。未来のやつの力になれるなら大歓迎だ、俺の生き様も果たせそうだし。……それに……」
「戦いを俺たちの時代で終わらせれば良いだけの話だ」
そう言って、景夜は椅子から腰を上げて立ち上がる。
「そうか……まぁ頑張れよ。応援はしてやるし、力も貸してやる。俺を存分に暴れさせてくれよ相棒!」
信長がそう言うと、一面真っ白だった世界に扉が出来る。
景夜はそこに向かって歩き出し、最後に言葉を交わす。
「「これから、よろしく!」」
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長かった一日が終わった夜。
景夜の部屋には寝間着姿の若葉とひなたが居た。
「なぁ、流石に三人は狭いと思うんだが?」
景夜の部屋に置いてあるのはベットで、しかもシングルサイズだ。
とてもじゃないが、三人が寝ていられるスペースは無い。
「ご安心を!そんなこともあろうかと、ちゃんと大きい布団を持って来ましたから!」
「中々運ぶのに苦労したんだぞ?途中で友奈と千景に出会った時はヒヤヒヤした」
そういう若葉も、若干楽しそうなのを見ると景夜も断りずらい雰囲気が出来てくる。
「でも、流石に布団一組じゃ……なにこれ大きい?!」
大きいと言ってもそこまでだろうと思っていた景夜だったが、予想を覆すかのように優に四人は寝れそうな大きさの布団が、ベットの置いてあった場所に敷かれていた。
「邪魔になってしまったので、ベットはどかしてしまいました♪」
笑顔で言い放つひなた、運が良いのか悪いのか。
景夜は年頃の男の子らしいことは全くしていない。
……流石にそれは嘘だが、パソコンの方で済ませていたりするので履歴漁られていなければどうと言うことはない。
(大丈夫だ、流石にひなたと若葉でも俺のパソコンのパスワードは解けないだろう……多分)
「そういえば……お前のパソコンの履歴を見させてもらった」
「はっ!?!?い、いや、どうやってパスワードを!」
「景夜君、不用心なのはいけませんね~。自分の名前に私や若葉ちゃんの誕生日を足しただけのものなんて、生温いですよ?」
ひなたの背後に修羅が見えた、若葉も怒っているのか青筋が浮かんでいる。
「あんなもの見なくても良いように、私たちで満たしてあげますから♡」
そして、この一言で今日寝れないことを悟った。
一線は超えてないよ!
ホントだよ!
まぁ、間違いなくひなたと若葉に弱みを握られましたが。
それでは、次回もお楽しみに!
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