というか、ビルドの名言が……
ごめんなさい!
前回の戦いから一ヶ月経った七月下旬。
次の戦いに勝てば以前から進められていた結界の強化が終わり、カインが言った通り一時とはいえ平和が訪れるらしい。
そのこともあってか、仲間内の雰囲気は悪くない。
みな鍛錬に励み、若葉・友奈・千景の三人は着実に最強の精霊たちを降ろす準備を進めている。
神託によればそろそろ戦いが起こるという。
そんな中でも景夜たちは普通に授業も受けていた。
一部では、「今は世界の一大事なんだから授業より特訓した方がタマは良いと思うんだが」など言っていたが……
「あら、球子ちゃんは私の授業が嫌いなのかしら?そう……じゃあ仕方ないわよね、そう言えば最近考案した新しい特訓のメニューが――」
「タマがすいませんでした、普通に授業して下さい」
やはり、紅葉には勝てず。
何人かは渋々授業を受けていた。
景夜も球子の意見に賛成していたが、紅葉の威圧に負けて大人しく授業を聞いている。
今の時間は「道徳」、内容は『戦う理由』だ。
「師匠?確か前にも聞かれた気がするんですけど」
「そうよ、でも今回は違うの。前聞いた時の理由から少し変わってる子も居れば、変わってない子も居る。私が今日の授業でみんなに教えたいのは、戦う理由の根幹にある思いは『愛』ってことよ」
「戦う理由の根幹にあるのが……『愛』?」
若葉もみんなも同じで、あまりピンときていない様子だ。
紅葉は黒板に何かを大きく描く、大きなハートマークとピースサインである。
この絵の所為で、余計混乱する者も出てきたが、紅葉は気にする素振りを見せずに景夜に話を振る。
「景夜くん、景夜くんが戦う理由は大切なものを奪われたくないから、それと自分の生き様を果たす為だったわよね?」
「そうですけど、これのどこに愛が……あっ!なるほど、分かりましたよ師匠!」
「景夜くんは優秀でよろしい、分かってない子の為にも説明するけど。例にすると、景夜くんの大切なものを守りたい、奪われたくないって思いはそれを愛しているからこそのものなんだよ」
紅葉の一連の説明で分かっていなかった者たちも、納得したのか頷き始める。
その後、紅葉は黒板に書いた絵を指を指して問いかける。
「これの意味、分かる人はいる?」
その問いに一番最初に答えたのは戦う勇者ではなく、巫女であるひなただった。
「ラブ&ピース、愛と平和の為に戦ってほしいということでしょうか」
「ピンポーン!ひなたちゃん筋が良いね~」
ひなたが正解してからは、紅葉はみんなにもう一度戦う理由を思い出させる。
「最近は精霊の所為で殺気立っちゃう子も居るかもだから、しっかり言葉で伝えるね。よくある特撮のヒーローたちはいつも力なき人たちの平和の為に戦っている、あなたたちも力ある勇者として戦い力の無い人たちを守っている。君たちは力なき人から見たら本当に勇者なんだ、だからこそ君たちには『愛と平和』の為に戦ってほしい。これが私からの最後のお願い」
彼女がそう言い終えると、授業終了のチャイムが鳴り授業が終わる。
彼女がこの言葉にどれほどの思いを乗せていたのか、景夜たちはしっかりと感じ取っていた。
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それから間もなく、戦いは始まった。
壁の外から無数に出てくる大群、その中には一際存在感を放つ五体とそれ以上に危険な匂いを漂わせる一体の完成型が居た。
そして、最後に――
「久しぶり、勇者のみんな。刈り取りに来たよ君たちの命を」
「そんなことはさせないし、刈り取られるのはお前の命だよカイン」
「ふふっ、威勢が良いね。幾ら君が強い精霊を宿そうと俺には勝てない」
「やってみなきゃ分かんないさ……若葉と友奈に千景は完成型を頼む。残りのメンバーで
『任せ(ろ・てください)!』
全員の声が響き、それぞれが飛び立っていく。
四人が同時に精霊降ろしを行使した。
「行くぞ!『織田信長』」
「来い!『酒呑童子』」
「降りよ!『大天狗』」
「来なさい!『玉藻の前』」
四人の周りをそれぞれの花びらが舞う。
桔梗・山桜・彼岸花・グラジオス、まるで虹のようにも見える色合いを見せて全員が変身を終える。
若葉は僧侶のような見た目の勇者装束に変化し、背中から漆黒の巨大な翼が生える。
友奈は頭に角のようなものが生え、勇者装束もどこか無骨なものに変化する。
彼女の武器である手甲が巨大化している。
景夜と千景も前回宿した時となんら変化わないが、それでも前回より格段に同調律は上がっている。
「さぁて、こっからは戦争だ!絶対に勝つぞーー‼‼」
『おおーー‼‼』
離れていても届くほどの大きな声で、彼女たち叫ぶ。
勝利への思いを。
「君たちは本当に面白い……見てて飽きないな~、だけど人間がつけ上がらないでくれるかな?虫唾が恥じる」
「良い殺気だな……来いよ全力全霊で相手してやる!」
カインが構えるのは槍、ただの槍ではない景夜が持っている物と同じ。
(天逆鉾……それもそうか、これ元々はあいつらの物だしな)
「ハァッ!」
流石はコピーと言うべきか、景夜と全く同じ動きと技で攻撃してくる。
だが、景夜は攻撃を受け流す素振りは見せず棒立ちのままだ。
目の前に迫る獲物を見て、景夜が思った感想は――
(遅い)
これだけだった。
景夜は七割程の力で動き、見事にカインの後ろを取った。
残像を残すほどのスピードだった為か、カインは気付かづに残像を切りつける。
しかし、手ごたえを感じなかったことから不審に思い後ろを振り向く。
そこには、槍を思い切り振り上げた景夜の姿があった。
回避行動を取ろうとするが遅く、もろに振り降ろす攻撃を喰らってしまう。
右肩から左脇腹にかけてを切り裂かれたカインは激痛のあまり悶え苦しむ。
景夜は声も出さずに苦しむカインから目を逸らし敵の群を見つめる。
カインは痛みに耐えながら、なんとか落とした武器を拾う。
少し手が震えているがどうと言うことはない、自分は高位な天使なのだから。
そう思うカインだが、景夜に槍を向けることが出来ない。
頭では勝てると信じていても、体が拒否している。
こいつとは戦いたくないと、そう叫ぶように。
(そうだ!勇者を殺す役目はなにもこいつからやらなくてもいい、他の奴を狙おう)
方針を変えて、他の勇者を狙おうとして天使の翼で移動しようとするが――
「行かせねぇよ、ここで死ね」
景夜はそう言って、槍を人間で言う心臓の部分に突き刺した。
勿論、カインにも弱点はある。
元は景夜という人間をモデルにして作ったのだから、人間としての弱点をそのまま受け継いでしまっているのだ。
それもあってか、カインの意識は暗闇の中に堕ちていく。
もう二度と起きることはない、生と対を為す死の暗闇に堕ちたのだから。
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カインの死を確認した景夜は、仲間の下に向かおうとした。
しかし、嫌な胸騒ぎに足を止められる。
(なんだ、この感じ。……まさか、まだ終わってないのか)
少年はゆっくりと後ろに振り向く、そこには
神々しい光を放ちながら、悠然と景夜を見下ろすカインの姿がある。
カインは自分の身体を見て微笑む、無邪気に……そして邪悪に。
「フフフ、ハハハハハ!君は神々を怒らせた、これがその証だ。もうさっきと同じようにはいかないぞ、俺は今神の寵愛を一心に受けているのだから!」
祈るように天を見上げるカイン、その姿はまさに天使。
美しく、恐ろしい。
「そうでしょう伊邪那美神様!」
景夜はカインに加護を与えている神の名前に驚愕する。
「伊邪那美神か、流石に夫婦揃ってこっち側には来てくれないわな」
諦めたように言う景夜に、カインが笑みを向ける。
「君たちの負けだ、君たちは自分たちの世界を作った神の力で滅ぼされるんだ光栄に思え!」
「光栄に思え?ふざけんな、滅ぼされてたまるか!」
景夜が先程とは違い一〇〇%の力で突っ込む。
瞬間移動さながらの早さを見せるが、目の前まで迫り槍を振ろうとした瞬間。
カインの身体が煙のように消え去った。
逃走という言葉が頭に浮かんだが、すぐにその思考を捨てる。
あのプライドが高そうな天使が、勝てると言っている試合をみすみす捨てる訳がない。
その考えが頭に浮かんだ瞬間、後ろから声がした。
「こっちだよ」
すぐさま後ろに振り向き防御の姿勢を取った。
だが槍自体の攻撃は止められたが、浮いた三本の穂先の攻撃は受け流せず、そのまま景夜の身体を突き刺した。
痛みの所為で防御が少し緩んだ隙を突き、蹴りで吹き飛ばす。
地面に三、四回バウンドしたところで動きは止まる。
吹き飛ばされた景夜はピクリとも動かない。
吹き飛ばされた景夜は激痛の走る身体で必死に頭をフル回転させて、先程の裏取りのトリックを考えていた。
(考えたくはないが、もし本当に瞬間移動だったら……)
景夜は自分の方に足音が近づいているのが分かる、体を動かしたいが筋肉が痙攣して動けそうにない。
信長を宿しているため、防御力も上げている筈なのに全くもって意味がないように感じた。
「これで、形勢逆転だね。立てないのなら、そのまま死ね」
体中にある無数の細胞が死にたくないと叫んでいて、立ち上がろうとする。
だが、上げることが出来たのは頭だけで、景夜は静かに目を瞑る。
(何だろう、さっきからしてた胸騒ぎは一つじゃない。もう一つが……来る)
諦めた訳ではない、死ぬ気がしなかったのだ。
こんな状況なのに、景夜は自分が生きることを信じていた。
そして、景夜の第六感にも近い胸騒ぎは的中した。
「私の弟子を虐めてんじゃないわよ!」
凛とした声を響かせ、綺麗な深紅色の髪を揺らし、七竈を彷彿とさせる勇者衣装を着た紅葉の姿が見えた。
「師匠……すいません、見苦しい姿で。弟子失格ですかね?」
「まっさか、ここで諦めてたら失格だけど、君は諦めてないでしょ?」
「そうですね、でも師匠はどうやってここに」
「ああ、それには色々理由があってね。この神器のお陰なのよ」
そう言って、カインの天逆鉾を押し返して、景夜に見えるように槍を見せる。
その槍は、赤い茨のような見た目で紅葉の深紅色の髪に良く似合っている。
「名前はゲイ・ボルグ、景夜くんも名前だけなら聞いたことあるでしょ?昔、世界中を旅してた時に拾ったのよ。今まで戦いに参加できなかった理由は、神器は神器だけど神話の体系が違うせいで上手く勇者システムが作用しなくてね。その所為で、新しい私専用の勇者システムを作ってたらこんな時期になったのよ」
景夜の方を見ながら説明をして、カインの攻撃は片手間に受け流す。
景夜とカインに明らかな実力差があるように、紅葉とカインにも目に見える程の実力差があった。
カインの暴力的なまでの力を、完璧な技で受け流す。
まさに清流のような優雅さを持って、戦いを進める。
そして、粗方景夜の身体の痙攣が収まったのを見定めてバックステップで景夜のもとに下がる。
カインもすぐに手を出そうとは思わず、様子を見る。
「師匠、二人で行けば勝てます。このまま――」
「ごめんなさい、それはちょっと無理だわ。私の勇者システムは急ピッチで仕上げた張りぼてなの、アイツと戦ってたらいつか変身が解けて負けるわ」
申し訳なさそうに呟く紅葉に対し、景夜は笑顔で返す。
「分かりました!アイツは俺が。若葉たちの方を頼みます」
景夜はある覚悟を決める。
「ええ、任せておいて。あっちも残ってるのは完成型一体と少しの通称個体だけみたいだから、安心して戦いなさい」
「後師匠、俺にもしものことがあったらみんなに今までありがとうって伝えといてください。後は……若葉とひなたに愛してるって。お願いします」
「死ぬ気なの?そんなこと生きて帰って自分で伝えなさい」
「死ぬ気はないですよ、それに五体満足で帰ってくるって言ったんで保険みたいなもんです。負けませんよ今の俺はなんたって――」
「愛と平和の為に戦ってますから!」
景夜は槍を天に掲げ、叫んだ。
「この身に降りよ、国造りの神!『伊邪那岐神』」
光が景夜の身体を包む、あまりにも綺麗なその光は敵であるカインでさえも虜にする。
光が晴れて、景夜が姿を現す。
勇者装束は通常通りの物で何の変化もないが、景夜を包むオーラは尋常ではない。
神降ろし、禁忌中の禁忌であり、直接伊邪那岐神との繫がりがある景夜でも、使えば体に掛かる負担は『大天狗』や『酒呑童子』の比ではない。
だが、得る力も格段に上がる。
今、景夜とカインは同じ土俵に立った。
紅葉はその場を景夜に任せ、若葉たちの下に向かっていく。
「逃がしていいのかよ?」
「君から目を話す方が危険な行為だと分かるからね、彼女を殺すのは君の息の根を確実に止めてからだ」
これから始まるのは神と神の戦い、次元を超えた戦いの火蓋が切って落とされた。
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穂先がぶつかり合い火花が散る。
ぶつかったと思った瞬間にはその場に二人は居らず、片方が瞬間移動で別の場所に移動しそれをもう片方が追う。
基本的に逃げるのがカインで、追うのが景夜だ。
神降ろしを行使したことで、パワーバランスは元に戻り景夜が押していた。
しかし、景夜の消耗は激しい。
まだ二分しか時間が経っていないにも関わらず、景夜は身体から異常なほど汗をかいていた。
顔色も悪く、青を通り越して白くなりつつある。
勝負が着くのも時間の問題だろう。
景夜がカインに向かって足払いを仕掛けるが瞬間移動で回避し、背後を取り蹴りを入れようとするが景夜はこれを柄の中ほど持ち棒術を駆使して受け流す。
受け流した後は瞬間移動し距離を取る。
カインは自分から攻めようとせず、景夜の動きを待つ。
瞬間移動は体に掛かる負担が大きい為、景夜的にあまり使いたくないが今は使うしかない。
今度は少し離れた所から神通力で、雷と炎を同時にカインの近くで発生させて爆発させようとするが、カインも神通力で対応。
バリアのようなものを張って爆発の熱や威力を無効化してみせる。
埒が明かないことを悟った景夜は、一発の賭けに出る。
「……はぁ、どこまでいっても決着が付かないな。ここらで一つ提案だ」
「面白そうだし、良いよ」
カインは余裕そうな笑みで答える。
「今のままだと永遠に終わらない泥仕合を続けることになるから、お互いに自分が持つ最高の一撃で勝敗を決めないか?」
「楽しそうだ!でも、君は良いのかい?顔色が悪いけど」
自分の勝ちを信じて疑ってないのだろう、景夜に情けを掛ける程には余裕があるらしい。
だが、景夜はそうはいかない。
体感的に後三分持てば良い方、集中力がなくなったら勇者への変身も維持できない程に景夜は追い詰められている。
「ご心配どうも、全然大丈夫だよ。お前を倒す分には問題ない」
皮肉を言いながら、槍を構える。
「そっか、じゃあ行くよ!」
「「絶技開放!」」
二人の声が重なる。
「この槍は最強に非ず、持つ者に最高を与える」
「この槍は最高に非ず、持つ者に最強を与える」
カインの詠唱は景夜と一部分が違う。
「故にこの一撃は最強ではなく最高の一撃と知れ」
「故にこの一撃は最高ではなく最強の一撃と知れ」
最強と最高、果たしてどちらが打ち勝つのか。
「
「
二人の放った槍が衝突する。
景夜は憤怒による最高の一撃を放ち、カインは高慢による最強の一撃を放った。
詠唱や技名が違うだけで、威力は変わらない。
なら、勝敗を分けるのは想いの差だろう。
景夜は残った力の全てを槍に乗せた、そのことで景夜の変身はすでに解けている。
一方、カインはまだまだ力をあり余らせており、押されてると思ったら神通力で押し返せばいいだけだ。
勝利はこの時点で既に決している、景夜の敗北は確定的だろう。
けれど、勝利の女神が微笑んだのは景夜の方だった。
「押されてるっ!?フン!この程度の力は神通力で簡単に……」
押し返そうとして神通力を発動させるが、どれだけ力を込めても押し返せない。
「ふざけるな‼‼俺の方が押されてるなんて有り得ない、有り得ない筈だ」
「言っただろ、愛と平和のために戦ってる今の俺は負けないって。それが答えだよ!」
景夜の言葉に反応するように、槍の勢いが強くなっていく。
「ありえない、有り得ない、アリエナイ、オレガマケルナンテ――‼‼」
押し負けたことで、景夜が投げた槍と自分が投げた槍に貫かれてカインは消滅する。
威力だけで見れば、その力は日本国土の総質量の約二倍。
そんなものを喰らえば、跡形も残らないのは当然だ。
景夜は限界が来たのか倒れ込む。
持てる力の全てを出し切った、起き上がる力はもう残ってない。
薄れていく意識の中で、景夜は思う。
(勝ったんだ……まだ完璧な勝ちではないけど。それでも、俺たちは――)
景夜は信じていた、人間の勝利を。
次回は、エピローグで柊景夜は勇者であるは完結ですのでお楽しみに!
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