嫌に五月蠅い機械音、その音が段々と鮮明に少年の耳に入る。
寝ぼけているのか体を動かそうとするが、上手く動かない。
それもそのはずだ、景夜の身体はベットに固定されていて身動きを取ることは出来ないようになっているのだ。
それ以外にも、重度の身体の怠さがある。
少し重たい瞼を開けて、周りを見渡す。
そこでようやく自分の状況に気付いた。
ベットの脇にはひなたが居る、寝不足なのだろう酷い隈が見える。
だが、居たのはひなただけではなく、反対側に若葉もおり慌てた様子でひなたを起こしナースコール押す。
何かを話してるようだが、景夜の耳は上手く機能しておらずよく聞こえない。
少しだけ聞き取れたのは、若葉の「起きろひなた」ぐらいのものだった。
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その後、数時間に及ぶ検査を受けて、今は個室に戻って来た所だ。
移動は車いすだったが、あまり乗りられていない景夜は少し不安がっていた。
寝起きから数時間の検査など滅多にないが、景夜は些か特例が過ぎるのでしょうがない。
個室に帰ってきてからはみんなから、大泣きされた。
何とか泣き止んだものの、ひなたと華恵に至っては泣きながら説教を始めると言う高等な業を披露した。
落ち着きを取り戻した所で、ひなたが代表になって話をし始める。
「景夜君、今から言うことをよく聞いてください。…………私たち人間は、天の神に敗北し降伏を宣言しました」
「……はっ?!い、今んて言った!俺たちが負けた、天の神に降伏?一体どういうことだ説明……ぐッ」
頭に血が上ったことで自分がまだ怪我をしてることを忘れて、ひなたに掴み掛かろうとしたのだ。
しかし、怪我の所為で上手く動けず、逆に自分がダメージを受けてしまった。
「順を追って説明します」
彼女の話はこうだ。
あの戦いの後、殆どの勇者が怪我で入院し、最低でも二週間は安静に過ごすように指示が下ったらしい。
意識を失っていた者も多く、最上級の精霊を降ろした三人は勿論、紅葉も急ピッチで仕上げた勇者システムが祟ってしまい意識はなく。
けれど、ひなたが神樹から受け取った神託によると三週間後に今回の規模と同レベルのものが起こると判明。
絶体絶命に落とされた人間側は、ある策を講じて神に赦しを請うた。
それが、
「
「奉火祭?どんな神事なんだ?」
景夜の質問に、ひなたは苦しそうにしながらも話を続ける。
「大社は祭りを行ったのです。壁の外で……。そして、天に話し、願ったのです。今後、この地から出ないことを条件に、侵攻を赦してもらいたい、と」
「……それだけか?」
景夜が何かを訝しむように、ひなたを問い詰める。
「地に棲まう者たちの――すなわち我々の根絶こそが、恐らく敵の目的。それがほぼ達成してる今、このタイミングだからこそ、可能だったんです。私たち巫女は神託を受け取る者。神の声を聞き得る者。その巫女たちに、こちらの話を届けてらいました……天に」
「……どうやって……?」
巫女は神の声を聞く。
だが、今まで神樹との交信でさえ、神から人への一方通行だった。
まして、神樹よりも遠い存在である天の者たちに、どうやって人の言葉を届けるのか。
「……今、世界は天の神の力により理が塗り替えられて、世界が炎に包まれています。神樹様の結界がある四国以外は全て無くなってしまいました。……先程言った巫女、計六人を炎の海の中へ」
「生贄にしたってのか?」
「ここにいる皆さんには何も伝えずに行いました、若葉ちゃんたちは反対するだろうと思いましたから。……景夜君は特に」
「じゃあ、俺たちは六人の何の罪もない女の子の命を犠牲にして生き残ったのか?……ふざけんな‼‼何で戦わない、何で策を講じない、何で足掻かない!俺たちは負けてなかった、このままいけば――」
「このままいけば勝てたとでも?冗談は止めて下さい、私たちは負けまたんです。それが事実なんですよ」
景夜の声に被せるように、ひなたは景夜たちが聞いた事のないような冷たい声で言った。
その顔も、いつもの朗らかなひなたの顔とはかけ離れていて、冷酷で利己的な少女の姿がそこにあった。
「違う、俺はまだ負けてない。まだ戦えるし、諦めてなんかない!」
「そうやって、戦い続けるんですか?何度もボロボロになって、心をすり減らして、仲間を失って」
「みんなは俺が守る!伊邪那岐神の力さえ上手くコントロール出来れば――」
「もう、止めて下さい……」
ひなたの瞳から涙が零れ落ちる。
先程も大量に出していたのに……それでも溢れ出る程に、彼女の心も擦り切れていた。
この涙をもって、景夜は戦いを止めた。
愛と平和の為に戦った少年は、愛と平和の為に戦うことを止めた。
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神世紀元年、四月五日。
少年は一人、丸亀城の本丸から海を見つめていた。
時刻は七時半を過ぎた辺りだろうか、周りに人の気配はない。
あれから景夜は、暇を見つけてはここに来てただ海を見つめていた。
ただただ海を眺める、制服姿なので目立つが本人は気にする様子もなくボーっとしている。
少しして、その隣に腰かける少女が居た。
若葉だ。
「またここに居たのか?飽きないな」
「……別に、そんなんじゃないさ」
大社が『大赦』と名を改めて、元号が変わり神世紀になり。
色々のことが変わっていった、中でも特に変わった部分は……
「大赦の人たちも太っ腹だよな、普通の学校に行くことを許してくれるなんて」
「まぁ、気晴らしにはなるんじゃないか。私たちは、三年……いや三年半勇者のお役目を果たした。少しくらい羽を伸ばしても文句は言われんだろう」
「にしても、みんな同じ学校で、杏も同じ学年になるとは一体どおいう裏通しをしたんだか」
自分に向けられたであろう言葉が恥ずかしく、皮肉を吐きながら返す。
「別にいいだろう?最初は少し居心地が悪かったが柳橋のお陰で、学校内での評判も悪くない。そうだろう『銀髪の王子様』?」
「うるさいぞ、『イケメン剣士』」
学校でささやかれているお互いのあだ名を弄る。
それのお陰か何なのか、景夜の顔から笑みが零れる。
「行くか、遅刻する」
「そうだな」
言葉少なく、二人は歩き出す。
早く行かなくては、親友に怒られてしまう。
「いつか……取り戻せると良いな。俺たちの世界を」
「ああ、その為にも今は耐えよう……でもいつか必ず」
『本当の平和と世界を取り戻す!』
諦めない、今は耐えるしかないがいつかきっと成し遂げてくれる筈だ。
景夜たちは信じていた、景夜たちは期待していた。
天の神を倒す勇者たちはきっと、『愛と平和』そして『絆』を胸に戦う者たちだと。
「柊景夜は勇者である」、御愛読ありがとうございました。
このお話のテーマは、一様の所『愛』です。
景夜君には色々と押し付けてしまった部分がありますが、それでも私が思う勇者は何と言っても景夜君です。
今後はこの作品のお話を投稿することはないと思いますが、私の違う作品も読んでみたいと言うコアな読者さんは、この作品の未来である「東郷海斗は勇者である」や今後投稿予定の「日守陽向は勇者である」を見て下さい!
それでは、今後も私の書くお話をお楽しみに。
チャオ!