西暦二〇一八年八月末日、丸亀城にて――
「景夜くん!もっと集中して!穂先のコントロールが乱れてるよ!」
「そんなこと言っても!この状況はいくら何でも難しいですよ!」
グラウンドにて、地面に突き刺さった直系五cmほどの木の棒の上に立ち、紅葉の攻撃を避けながら穂先の精密操作をするという、あまりにもスパルタかつ頭のオカシイ特訓をしていた。
そんな頭のオカシイ特訓を目の当たりにした、友奈と球子は開いた口が塞がらないでいた。
「ヤバイ特訓してるとは聞いてたが」
「ここまでやってるとちょっと怖いね」
友奈と球子も紅葉に教わったトレーニングをしているが、あそこまでのものは見たことがない。
そんなことはさて置き、特訓している景夜の下にひなたと若葉が近寄ってくる。
「……相変わらず、何と言うか凄い特訓ですね」
「はっきり言わないとダメだぞひなた。景夜、その特訓は流石にやり過ぎだ」
若葉の最もな指摘を受けて、複雑な顔をする紅葉と「そうだろそうだろ!」という同意の顔をする景夜は、ひなたの視点からみてもとても面白い光景だった。
「ですってよ師匠。…で、何か用があるんだろ?何の用だ?」
「諏訪との通信だ、景夜も来てくれ」
「歌野か…あっちもまだ無事なんだな」
「まだ無事」その言葉は景夜にとっては、「必ず助けに行く」という言葉だと若葉とひなただけが知っていた。
「師匠、今日はこの辺で」
「はいはい、ちゃんと一人でもやりなさいよ?」
「師匠の攻撃が無ければもっと、楽ですよ!」
漫才をしながら、その場を後にする。
-----------
丸亀城は一部改装され、若葉たちの学校として使われている。改装と言っても、外観はほぼ残したままで、内部の構造を少し変えた程度だ。
その学校に通う生徒は六人のみ。六人の『勇者』と、一人の『巫女』。
勇者とは、土地神から力を授かり、バーテックスに対抗し得る者のことである。若葉も勇者の一人で、三年前のバーテックス襲来の日、その力に覚醒した。四国には六人の勇者がおり、全員がこの学校に通っている。
巫女は土地神の声を聞く者。ひなたがその一人で、三年前にバーテックスから人々を救うことができたのは土地神の声を聞いたからだ。『声を聞く』と言っても、それは言語として伝わってくるのではなく、象徴と暗示によって伝達される。
勇者も巫女も、すべて幼い少女である。穢れを忌み嫌う神に触れることができるのは、無垢な少女だけだからだ。
だが、景夜だけが少し違う彼の力は元々は天の神の父伊邪那岐神のものであり、神樹とのアクセスも大社が呪術と化学を併用して景夜専用の勇者システムを作ったのだ。
そして若葉は四国の勇者の中で、暫定的にリーダーとされている。
放送室に入り、彼女は無線機のスイッチを入れて通信を繋いだ。しばらくの雑音の後、落ち着いた少女の声が通信機から発せられる。
『……長野より、白鳥です。勇者通信を始めます』
『香川より、乃木だ。よろしくお願いする。今回は景夜もいるがよろしく頼む』
長野県諏訪湖東南の一部地域には、四国と同じく結界が存在し、人々が暮らせる環境が残っていた。白鳥はただ一人で長野の守護を担う勇者である。
『歌野、そっちの状況はどうだ?』
『芳しくはありませんね。もっとも、そんなことを言えば三年前のあの日から状況が芳しかったことなど一度もありません』
『……違いない』
若葉は口調が暗くならないよう努めた。
元々長野は、諏訪湖を中心としてもっと広い地域が安全に保たれていた。しかしバーテックス出現から三年の間に、次第にその地域は侵攻され、今や保たれているのは諏訪湖東南の一部のみである。
『今は現状維持ができるだけ……ザー……でしょう』
通信の途中で白鳥の声が乱れた。
『すまない、通信にノイズが入ったようだ』
『ああ、現状維持ができるだけでも御の字だと言ったのです。通信のノイズ、最近多くなっていますね』
『そうだな……』
『この通信もいつまで続けられるか……』
考えると少しだけ気分が沈むが、若葉と景夜は不安を見せぬよう、景夜は敢えて冗談めいた口調で話題を変えた。
『ところで歌野。そろそろ決着をつけようじゃないか……』
『ええ、私もそう思っていたところです。今日こそは雌雄を決しましょう……』
白鳥も不敵に答える――
『『『うどんと蕎麦、どちらが優れているか、を!』』』
その後は、若葉と景夜と歌野の論争は終了のチャイムまで続いた。
『時間切れか。蕎麦は命拾いをしたようだな』
『それはこちらの台詞です。うどんこそ命拾いをしましたよ。……明日からは新学期が始まりますから、通信は放課後の時間にした方がいいですね』
『うむ、そうしよう。では、また明日も。長野の無事と健闘を祈る』
『四国の無事と健闘を祈ります』
若葉は通信を切った。
白鳥と軽口を交わすのは大切な時間だ。四国から出ることのできない若葉よ景夜にとって、この通信は唯一の『外』との繋がりである。四国以外にも共に戦う仲間がいることを実感できるのだ。
-----------
翌日、今日は景夜の誕生日だ。彼は少しウキウキ気分で学校に行く。
朝の訓練を終えた後、寄宿舎に戻りシャワーを浴びて、服を着替える。
この三年間で当たり前になっている日常が、そこにあった。
学校に着くと、そこにはもう若葉と球子に杏も来ていた。
「おはよう、朝早いな三人とも?」
「おっはよう!景夜」
「おはようございます、景屋さん」
「おはよう、景夜」
三人に挨拶をした後、授業の準備に入る。
「おはようございます」とひなたの挨拶が聞こえて、その後のやり取りも聞こえたが景夜は無視していた。
何せ後ろでは、ひなたの胸を千切ろうとする勢いで揉む球子がいるのだから、そんな場面を見たら今日一日はひなたの顔を見れなくなってしまう。
景夜の考えを余所に、ドアが開き千景が入ってくる。
少し辺りを見渡し、友奈がいないのを確認したら景夜の方に来て話し始める。
もちろん二人の共通の話題と言えば――
「柊君は、一二月にでるスマブラの予約する?」
「します、します。今回のはXの時と同じでストーリーもあるっぽいですし」
二人が今年の一二月に発売されるスマブラについて話す、その間に時は過ぎて友奈が時間ギリギリで滑り込んだ。
「おはよーございまーす!高嶋友奈、到着しました。良かった、遅刻じゃない!」
これが当たり前の日常、三年前終わってしまいまた始めることのできたちょっと違うけど、楽しい生活。
それがまた、音を立てて崩れようとしていた。
-----------
午前の授業は座学と訓練、普通の学問以外にも神道のことを学ぶ。
訓練教官は、紅葉。
必然的に訓練はスパルタになる、三年間もやれば慣れるが未だに杏や千景のような体力が余り無い連中はぜぇぜぇ言っている。
訓練が終わり、昼休み。
みんなで食事をとる。
最初は反対していた者もいたが、友奈の「ご飯は、みんなで食べた方が美味しいよ」の一言ににて終わった。
景夜達は各自セルフサービス形式ので食事をトレーに取っていく。
「景夜は今日もパスタか」
みんなの視線が痛いが気にしない、基本景夜は麺類で何が好きかと聞かれるとパスタと答える。
うどんも勿論好きだが、華恵の特製パスタの味は忘れられず、無理をいってパスタを置いて貰ってるのだ。
「訓練の後のご飯は美味しい!」
友奈の言葉にみんな頷く中、ご飯を食べながら本を読む杏に球子と景夜からのダブルパンチが飛ぶ。
「こら、あんずっ。行儀が悪いぞ」
「そうだぞ、親しき中にも礼儀あり、だ。食事中にそういうことは控えろよ」
「あぁ、今、いいところだったのにぃ…」と杏の声が聞こえたが無視して食事を続ける。球子に本を没収され、ようやくみんなが普通にご飯を食べ始める。
「……にしてもさー、毎日毎日訓練訓練って、なんでタマたちがこんなことしないといけないんだろーな」
ボヤくように球子がそう言った。
「バーテックスに対抗できるのは勇者だけですからね……」
「そりゃ分かってるよ、ひなた。でもさ、普通の女子中学生って言ったら、友達と遊びに行ったり、それこそ恋……とかしちゃったりしてさ。そういう生活をしてるもんじゃん」
球子はため息をつく。球子の言いたいことが分からない訳ではないが、それでも言わなきゃいけない。
「今は有事だからな、自由が制限されんのは仕方ねーよ。第一、別に俺ら不便な思いしてねーだろ?」
景夜の答えに、球子は納得していないように腕を組む。
「う~ん……」
「我々が努力しなければ、人類はバーテックスに滅ぼされてしまうんだ。私たちが人類の矛のならなければ――」
「分かってるよっ!分かってるけどさぁっ!」
球子が声を荒げた。そしてすぐに顔を俯けてポツリと呟く。
「……ごめん……」
「タマっち先輩……」
杏は球子の服の裾をそっと握り、彼女を見つめた。その瞳は不安そうに揺れている。
場が沈黙する。
若葉にも景夜にも球子の気持ちは理解できた。球子は我が儘で不平を言ってるのではなく、不安なのだ。
バーテックスとの戦いには危険が伴う。
もし実際にバーテックスとの交戦になれば、生き抜けるかどうか……いや、むしろ命を落とす危険の方が高い。
事実、三年前に若葉と景夜がバーテックスと戦った時も、ひなたがいなければ若葉と景夜は殺されていたかもしれない。
(まして土居は……自分以上に伊予島が傷つくことを恐れているのだろう……)
若葉は俯いている球子を見ながら、そう思った。
杏は運動が得意ではなく、格闘技の訓練でも一番成績が悪い。
強さの順で言えば、景夜>友奈>若葉>球子>千景>杏、という感じだ。
いざ戦いとなった時、命を落とすの可能性が一番高いのは杏だろう。
重い沈黙を破ったのは景夜だった。
「なぁ、若葉。」
「な、何だ、景夜?」
「いつ俺が、自分の身を犠牲にしてまで
「それは……」
「後は、球子」
「お、おう」
「怖いなら怖いって言え!言わなきゃ分からん!」
「……ああ」
いつもと違う景夜に驚く者たちがいる、だがひなただけが落ち着いていた。
「人間の手は長くない、伸ばして守る範囲には限界がある。だから、自分の身と大切な奴だけを守れ!……それが出来ないんなら。…自分の身も守れそうにないんだったら――」
「…ないんだったら……」
千景が少し怯えた声で言葉を紡ぐ。
「俺が守る、何からも、どんな時も、俺という存在の全てを懸けて」
きっぱりと言い切った。
景夜の言葉が耳に響く、心に響く。
「ごちそうさま、今日も美味しかった!」
友奈の満足そうな気の抜けた声が響く。
「どうしたの、みんな?深刻な顔して」
「……友奈……さっきまでの話聞いてなかったのか?」
友奈は困り顔をつくり、苦笑いで答える。
「え、えっと……ごめん、若葉ちゃん!うどんが美味し過ぎて、周りのことが意識から飛んでちゃって……」
その場にいるみんなが、一斉にため息をついた。
「ええ!?なんでみんなため息つくの!?」
友奈は心外だと言うように周りを見回して、
「大丈夫だよ。私たちみんな強いし、みんなで一生懸命頑張ればなんとかなるよ」
笑顔で、そう言った。
昼食後、三人だけで廊下歩きながら、若葉はひなたと景夜に呟くように言った。
「私は……リーダーに向いてないのだろうな」
「なんでそんなことを思うんです?」
「私は他人に自分の考えを押し付けすぎるところがあるのかもしれない。そのせいで仲間に反発を抱かせて、チームワークを乱している。本当にリーダーに向いているのは、友奈や景夜のような――」
「えい!」
若葉の言葉を遮り、ひなたは彼女を抱きしめた。
「ひ、ひなた!?」
「何を弱気になっているんですか、若葉ちゃんらしくない。若葉ちゃんにはね、ちゃんとリーダーしてますよ」
「そうだぞ若葉、俺にはリーダー何か向かない。大体、お前と違って俺は全部救いたいなんて思ってない。俺が守りたいのは、救いたいのは、この日常と丸亀城のみんなだけだよ。だから、そのために
ひなたと景夜の言葉を、若葉は頭の中で反芻する。
本当にそうなのか自分では良く分からない。
-----------
「へぇ~若葉ちゃんにそんなことを」
「何だか大変ね」
今、景夜は保健室にいる。誕生日プレゼントを渡され嬉しい反面、先程の会話がどこか引っかかりそのことを話した。
「母さんと、師匠にも何か聞けたらな~と」
「そうね、母さんからしたら…多分心配してるんじゃないかしら?」
「心配?」
「そう」と言って、華恵がそのまま言葉を続ける。
「自分が導いていけるのか、自分が纏めていけるのか。もし、自分の指示のミスの所為で死んだらどうしようとか……そんな感じじゃないかしら?」
「そっか……」
華恵の言葉を聞いて納得した景夜は、若葉の下に向かおうとする。
時刻は夕暮れ時だ、その時……
何かが変わった、カチリと世界の変わる音が景夜の耳にはっきりと聞こえた。
景夜の耳にスマホの耳障りな警報音が鳴り響く。
世界の時間が止まる、先程まで喋っていた紅葉や華恵も動かない。
外で宙を舞っている木の葉が空中で制している、蝉の鳴き声や船上を行く船も遠く見える海の波も、全てが止まっている。
警報音がなるスマホを見る、画面には『樹海化警報』という文字が大きく表示されていた。
そして、海の方から蔓や根が伸びてくる。
神樹のものだろう、それが世界の全てを覆う。
今日、この日。
新たな物語が始まった。
来週もお楽しみに!
誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!
p.s.
オリキャラ紹介
名前:赤木紅葉
外見:身長は160後半で、瑠璃色の眼、顔は和風美人。髪は深紅色。
誕生日:11月18日(現在時点一七歳)
血液型:B型
星座:蠍座
好き:丸亀城のみんな、槍
嫌い:困難に立ち向かわない人
趣味:槍術、昼寝
特技:槍術