柊景夜は勇者である   作:しぃ君

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 お・ま・た・せ・し・ま・し・た!


第六話「口ケンカと誕生日と未来への誓い」

 「いつもとは違う世界」、こう言ったら聞こえはいいが、実際は戦場でバーテックスという化け物から神樹を守らなければいけない。

 景夜は走っていた、槍は常時持っていたので直ぐに変身して戦線に急ぐ。

 そこには、変身し終えた若葉の姿がある。

 桔梗を意匠にした勇者装束で、イメージカラーは青や紺だ。花言葉は「永遠の愛」、「誠実」、「清楚」、「従順」である。

 対する景夜はと言うとピンクのグラジオラスを意匠にした勇者装束で、イメージカラーはピンクや桃色だ。花言葉は「たゆまぬ努力」、「ひたむきな愛」、「満足」である。

 

 

 みんなを待っているであろう若葉に声を掛けようとした時、後ろの草むら?のような所から友奈と千景が出できた。

 

 

「若葉ちゃーん!カゲヤくーん!」

 声の方を振り返ると、友奈と千景が駆けて来ていた。友奈は手甲を、千景は死神を思わせる大鎌を持っている。若葉の刀同様、それが彼女たちの武器である。

 

 

「はぁ、はぁ……急に時間が停まっちゃって、周りはでっかい蔦みたいなのが出てきてぐわーっとなるし、びっくりしちゃったよ! 地図のおかげで、みんなの居場所が分かって良かった……!」

 友奈は息を切らせながら、スマホの画面に表示されたマップを若葉に見せた。勇者たちとバーテックスのいる位置が、それぞれ光点で示されている。

 

 

「というか若葉ちゃんにカゲヤ君、もう変身してる!?」

 

 

 今気づいたのか、友奈が驚く。

「常在戦場。刀をいつも持参しているのも、すぐ戦えるようにするためだからな」

 

 

「若葉ほどじゃないが、俺も万が一に備えて出来るだけ近くに置いてるだけだよ」

 

 

「そういう真面目さと責任感の強さ、若葉ちゃんとカゲヤ君らしいね……私も見習わないと!」

 友奈は拳を握りしめ、まっすぐに感心の視線を向ける。

 

 

「高嶋さんは……今のままでいいと思う……」

 千景は独り言のようにつぶやいた後、周囲を見回して眉をひそめた。

 

 

「それにしても……これが樹海化ね……」

 

 

 四国の土地全体が、壁と同質の植物組織に覆われている。

 樹海化が起こると、四国の内部は時が停止し、生物も非生物も植物に覆われ同化してしまう。わずかに原形を残しているのは、丸亀城や瀬戸大橋、送電鉄塔や高層ビルなど、大型建築物だけだ。

 樹海に呑まれて同化した生物は、バーテックスからの攻撃で被害を受けることがなくなる。そして勇者だけが樹海化の中で本来の形を保ち、動くことができる。

 

 

(樹海化のことは、知識として聞いてはいたが――)

 若葉も変わり果てた四国の光景を見つめながら、険しい表情を浮かべた。

 現実味がないほどの変貌。

 まるで異界だ。

 友奈は近くに生えている巨大な植物の蔓に触れる。

 

 

「こんな大きな植物、見たことないよ。これも神樹様が起こしたんだよね……?」

 

 

「ああ。樹海化は、神樹による人類守護の緊急手段って先生も言ってただろ?」

 

 

 四国を守る壁と結界は、まだ未完成と言われている。

 バーテックスが一群となって四国へ侵攻した際、神樹は敢えて結界の一部分を弱め、彼らを内部へ通す。バーテックスの侵攻を防ぐために結界を強化し続ければ、神樹が霊力を浪費してしまうからだ。

 もし神樹の力が枯渇すれば、四国の人々は生活ができなくなる。四国という閉じた世界が、エネルギーや物資などを自給自足できているのは、神樹の霊力による恵みなのだから。

 

 

 そのため、四国内へ通されたバーテックスの撃退は、勇者の御役目となる。

 そしてバーテックスが侵入している間、神樹は人々を守るため、樹海化を行う――

(だが、樹海化の防御も絶対ではない……)

 若葉は確認するように心の中でつぶやく。

 樹海の一部がバーテックスの攻撃で損傷したりすると、その傷は現実世界に自然災害や原因不明の事故という形でフィードバックされるのだ。

 くわえて、樹海化もやはり長時間続ければ、神樹の力を消費してしまう。

 

 

 くわえて、樹海化もやはり長時間続ければ、神樹の力を消費してしまう。

 ゆえに、できる限り迅速にバーテックスを殲滅し、樹海化を終わらせねばならない。

 

 

「おお~いっ! みんなー!」

 大きな声とともに球子が走ってくる。その後ろには、球子に手を引かれる杏もいた。

 

 

「悪い、遅くなった!」

 球子は鋭い刃のついた円形の盤――旋刃盤を、杏は連射式のクロスボウのような武器を持っている。

 

 

「全員揃ったな。……これが私たちの初陣だ。我々の手でバーテックスどもを討ち倒す」

 仲間の勇者たち五人を前に、若葉が告げる。

 リーダーとしての責務と私情。

 「人類を舐めた辛酸を、奴らに思い知らせてやろう。」と。

 

 

「それはいいけど……当然、あなたが先頭で戦うのよね……あの化け物たちと。リーダーなのだから……」

 千景は静かにそう言って、試すような視線を若葉に向ける。

 場の空気が濁るような険悪さを帯びていく。

 

 

「誰が先頭かとかじゃなくて全員で戦えばいいでしょ。それがチームワークってもんっですよ」

 呆れたような口調で反論したのは球子だった。

 

 

「チームワーク……」

 咀嚼するように千景が呟き、杏に目を向けた。

 杏は小刻みに体を震わせ、顔色も悪い。

 怯えている――

 

 

「伊予島さんは……戦えるのかしら?」

 

 

「………」

 杏は俯き、何も答えなかった。答えられなかった。

 

 

「土居さんたちがここに来るのが遅れたのも……伊予島さんが委縮して動けなくなっていたからでは……?そんなあなたたちがチームワークなんて……口にするものじゃないわ……」

 千景の言葉に、杏はぎゅっと目をつぶり、拳を握りしめた。それでも体の震えと怯えは消えない。

 

 

「ましてや……」

 

 

「郡さん、言い過ぎです」

 

 

 千景の声を若葉が遮った。若葉の鋭い視線を受けた彼女は面白くなさそうに目を逸らす。

(しかし、郡さんは言い過ぎだが……確かに今の状態の伊予島は良くない)

 若葉が杏を見つめ、

 

 

「伊予島。怖いのはわかるが、私たちが戦わなければ人類が滅びる可能性だってあるんだ。顔をあげろ」

 景夜に否定された筈の言葉をまた使っている。

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 杏の目に涙が浮かぶ。

 

 

「若葉、もういいだろ」

 

 

 杏を守るように、若葉との間に立つ球子。

 そんな三人を見ながら、千景は皮肉気に目を細める。

 

 

「兵の士気高揚も指揮官の務め……。乃木さん……あなたにリーダーとしての資質が足りてないから……このような事態になるのではないかしら……?」

 

 

「……!」

 

 

 その言葉は若葉の痛い部分をついた。自分はリーダーという役目にふさわしいのか――若葉には確信が持てていない。

 勇者たちを覆う空気は、ますます淀みを増す。その空気を吹き飛ばすように声をあげたのは、友奈だった。

 

 

「みんな仲良しなのはいいけど、話し合いは後にしようよ!」

 

 

「「「仲良し???」」」

 若葉・球子・千景の声が重なり、友奈の方を見る。

 

 

「うん、ケンカするほど仲が良いって言うよね?」

 

 

「「「いや、それは違う(わ)」」」

 三人が同時に友奈にツッコミを入れた。

 

 

「即答で三人ともから否定された!」

 ショックを受ける友奈。

 

 

「えっと、あの、友奈さん……私も違うと思います」

 

 

「アンちゃんまで!?」

更に追い討ちだった。

 

 

「うぅ……」

 四人からのツッコミを受けてダメージを負った友奈を景夜が慰める。

 

 

「友奈、その考え俺は好きだぞ!」

 

 

「カゲヤくん!あり――」

 

 

「まぁ、二次元の中だったらな」

 

 

「ぐふぅ……」

 いや、慰めではなく追い討ちだった。

 

 

 何とか総ツッコミのダメージを耐えて、友奈は気を取り直して力強く言う。

 

 

「――でも。みんながケンカする原因を作ったバーテックスがすぐそこまで来てる。怒るにしてもケンカするにしても、相手はあいつらだよ」

 友奈の言葉に続き景夜も笑いながら話始める。

 

 

「それに、今日は俺の誕生日だ!折角の誕生日パーティをあいつらに潰されてたまるか!……それに、言っただろ杏。何があっても守るって」

 

 

「景夜さん……」

 

 

 友奈の言葉と景夜の冗談に、若葉はハッとした。

(……そうだな。仲間を責めるのも、苛立ちを感じるのも、お門違い。それはすべて、この状況を生み出した奴らにぶつけるべきものだ。)

 

 

 球子と千景も気まずそうに、顔を見合わせる。

「ま、確かにそうだな」

 

 

「高嶋さんの言う通り……ね」

 

 

 杏はまだ怯えているが――

(構わん。伊予島が戦えないのなら、その分私が戦えばいい。そのためのリーダー役だ)

 若葉はこう思い、景夜は――

(杏のことはタマに任せるとしてもフォローが出来るようにしよう、それでアイツが戦えない分は俺がヤレばいい。それが仲間ってやつだ!)

 似てるようで違う、そんな二人の意見。

 

 

 若葉は刀に重みを感じながら、そう心に決めた。

 景夜は軽くなった槍を握りしめ、そう心に決めた。

 

 

「よし、じゃあタマたちもそろそろ気合い入れっか!」

 若葉と景夜以外の四人が携帯を取り出し、アプリをタップする。

 

 

「みんなで仲良く勇者になーる!」

 友奈の声を合図とするかのように、それぞれの纏う服装が変化していった。

 

 

 友奈の勇者装束は、山桜をモチーフにした桃色のものに――

 千景の勇者装束は、彼岸花をモチーフにした紅色のものに――

 球子の勇者装束は、姫百合をモチーフにした橙色のものに――

 

 

 それぞれの花言葉は山桜は「あなたに微笑む」、「純潔」、「高尚」、「淡白」、「美麗」。

 彼岸花は「情熱」、「独立」、「再会」、「あきらめ」、「悲しい思い出」、「思うはあなた一人」、「また会う日を楽しみに」。

 姫百合は「誇り」、「可憐な愛」、「愛らしさ」。

 モチーフの花が分かった、景夜は少し嬉しかった。

(案外、神樹様も人間のことちゃんと見てんだな)

 

 

 しかし、杏だけは変化が起こらなかった。勇者の振るう力は精神面に大きく左右される。

 戦う覚悟と意志がを固めなければ、勇者装束を纏うことは出来ない。

 

 

「………」

 千景は変身できなかった杏を、無言で見つめる。

 

 

「……ご、ごめんなさい……私……」

 涙を浮かべる杏の肩を、球子と景夜が元気づけるように叩く。

 

 

「着にすんなっての!タマたちだけで全部倒してくるから」

 

 

「そうだぞ、タマの言う通りだ。俺たちに任せタマえ!」

 

 

「……うん……」

 杏は悲しげに頷く。

 

 

 若葉はスマホのマップで、バーテックスの数と動きを確認した。

 結界内に侵入してきたのは五〇体前後といったところか。バーテックスは一直線に若葉たちの方へ向かって来ていた。

 彼らの行動特性としては、何よりもまず人間を狙う。

 今、樹海化した四国の中にいる人間は若葉たちのみ。ゆえに真っ先に狙われるのだ。

 若葉の視界に、遠くのバーテックスの群が見えた。

 

 

 その距離、目算にて三㎞……二㎞……

 

 

「郡さん。さっきは生意気なことを言ってすみませんでした。言葉ではなく、行動を持って示すべきですね」

 若葉はは千景にそう言う、刀を持って跳躍した。一㎞ほどの距離を一跳びで消滅させ、敵集団に肉薄する。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ‼」

 鞘から抜き取られた白刃の一閃が、まず先頭に居たバーテックスを両断した。斬られた死骸が消滅する前に、敵の体を足場にして再び跳躍。更に別の個体を真っ二つにする。

 

 

 若葉の居合切りは三年前とは比較にならないほど鋭く、迅く、無駄がない。

 肉体的成長、神樹の勇者装束、そして積み重ねてきた訓練の結果だ。

 まぁ、もう一人いるのだが。天才(化け物)に鍛えられた秀才(化け物)が。

 群がってくる無数のバーテックスたちが斬りながら。若葉は四国すべてに届けというように叫んだ。

 

 

「勇者たちよ‼私に続け‼」

 勇者とバーテックスの戦争が始まった。

 

  -----------

 

 若葉と景夜が前線に立つ、それ以外の者は若葉や景夜を狙わなかったバーテックスを処理する。

 景夜は、自分の方に敵が来るようにワザと大きく立ち回る。

 他の者ではなく、自分に敵が集中するように。

 

 

「せやぁ――‼」

 

 

 槍の一振りで一体、宙に浮いた穂先で一体を仕留める。

 浮いた穂先を階段のように使い空を駆ける、一体一体はさほど強くないためか危なげなく戦闘を続ける。

 

 

 紅葉に鍛えられた三年間、地獄のような辛さもあったがそれ以上に紅葉の槍に魅せられた。

 あんな風な槍兵になりたい、何度もそう思い挫けそうな心を支えて来た。

 若葉に負けて悔しくて、中々勝てない自分に嫌気が指すときもあった。

 でも、守りたかった。化け物からも人間からも、彼女たちを襲う奴らから。

 そのために訓練した、その結果景夜は秀才(化け物)になった。

 

 

 師匠である紅葉程ではないが、景夜が若葉に負けることはもうないだろう。

 彼は強くなった、三年前とは比較にならないほどに。

 一重に愛のなせる業、彼の「ひたむきな愛」の成果だ。

 槍を振るう、時に突き、時に石突で叩く。

 その全てが星屑(バーテックス)に対して一撃だった。

 

 

 だが、様子が変わり始める。

 敵が残り五分の一を切った頃、バーテックスが何体か集まり始め。

 『進化』し始めた。

 三年前のバーテックス襲撃の際にも起きたもの。

 難敵が現れた時、バーテックスは複数の個体が融合し、より強力な個体を生み出すというもの。

 

 

 今回のは巨大な棒状の一個体となった。

 全員が少しの間硬直する、進化体は何をするか分からない。

 

 

「なんだ、あいつ……?」

 

 

 球子が首を傾げる。

 冷静な杏は、自分の武器での様子見を考えた。

 だが、それを景夜が止める。

 

 

「やめとけ杏、あれは多分お前のじゃダメだ」

 

 

「なら、どうすれば……」

 誰もが悩んだその時、一人の勇者が飛び出した。

 

 

「勇者パ――ンチっ‼」

 友奈が進化体バーテックスの反射板に叩きつける。

 

 

 反射板、景夜が何故分かったのか?

 簡単だ、答えは勘。それ以外のナニカではない。

 紅葉の特訓のお陰か、景夜の感覚が天才のそれに近くなりつつある証拠だ。

 

 

「一回で効かないなら……十回、百回、千回だって叩き続ければいい!」

 友奈の勇者装束が変化する、精霊『一目連』を降ろした状態だ。

 『一目連』は、暴風を具現化した精霊だ。

 一目連は竜巻の勢いと力を友奈の拳に与えた。

 

 

「千回ぃぃ……勇者パ――――――ンチ!」

 竜巻は強力なものになると、鉄筋コンクリ―トの建造物さえ破壊するほどの猛威を十数分も吹き続け、その威力は核兵器に匹敵するという。

 

 

 竜巻の勢いを得た友奈の拳が、絶え間なく板状組織に打ち込まれる。

 その数が八〇〇発を超えたところで板状組織に亀裂が走り、九〇〇発で亀裂は全体に広がり、千発目で進化体は粉々に砕け散った。

 他のバーテックス個体と対峙しながら、若葉は友奈の戦いを見ていた。

 勇者の『奥の手』は、肉体に大きな負担がかかる。

 ゆえに、できる限り使わないよう大社から言われていた。

 もし使う必要がある時は、若葉や景夜は自分が使って敵を倒すつもりだったのだが。

 

 

「……友奈の奴……」

 

 

「サンキュー、友奈!アイツには俺の精霊相性悪かったから助かったわ」

 若葉が物思いに沈む中、バーテックスが襲い掛かる。

 反応が一瞬遅れ――

 

 ギリ、ブチィ!

 

「甘いんだよ!」

 

 

「……不味いな、食えたものではない」

 

 

 喰われたのは若葉ではなく、バーテックスの方だった。

 若葉はバーテックスの動きを最小限で避け、同時に敵の体の一部を噛みちぎって見せたのだ。

 景夜は、最速で若葉の下に駆け寄りバーテックスを槍の払いで一閃した。

 バーテックスの肉を飲み下す。

 それが、四国に侵入してきた最後のバーテックスだった。

 バーテックスを噛みちぎった若葉の姿をみて、球子と杏は引きつった顔をする。

 

 

「タマ、これからは若葉をあんまり怒らせないようにするよ……」

 

 

「う、うん・・・・それが良いと思う」

 

  -----------

 

「若葉ちゃん!変な物食べちゃダメでしょう!景夜君も何で止めないんですか!」

 戦いが終わり、樹海化も解けて元の世界に戻る。

 教室の一室で若葉と景夜はひなたに説教をされていた。

 

 

「だが……」

 

 

「俺は関係な――」

 

 

「だがじゃありませんし、関係なくもありません!」

 ひなたに怒られる二人、景夜に至ってはとばっちりも良い所だろう。

 

 

「奴らは昔、私の友達を喰らったんだ。だからその仕返しをだな……何事にも報いをというのが……」

 

 

「お腹壊したらどうするんですか!」

 

 

「う……むぅ……」

 若葉はもう言い返せない。

 

 

「まぁまぁひなたちゃん、景夜と若葉ちゃんも反省したことだし。今夜は景夜の誕生会よ、楽しくいきましょう!」

 華恵の一言により何とか収集が着いた。

 

 

 誕生会もそろそろお開きに差し掛かった頃、残っているのは勇者組とひなただけで華恵と紅葉は仕事の都合で先に抜けた。

 球子が話し始めた。

 

 

「なあ若葉。みんなで話し合ったんだけどさ」

 

 

「なんだ?」

 若葉が怪訝そうな顔をする。

 

 

「やっぱり、お前がリーダーやるのが一番いいと思う。今までは大社に言われたから若葉がリーダーってなってたけど、今回の戦いでハッキリ分かったよ」

 

 

「……どうしたんだ、急に?」

 

 

「いやさ、この前の戦いの時、お前と景夜が先頭になって戦ってくれたから、タマたちも戦うことができた。そうでなかったら、誰かが大怪我してたか……死んでたかもしれない」

 戦いが終わってみれば、バーッテクスの三分の一は若葉で、もう三分の一を景夜が倒していた。

 彼女や彼の奮闘がなければ、杏や千景は危険だったかもしれない。

 

 

「だが、景夜も先頭に立っていた。それにこいつはワザと敵の注意を自分に向けて戦っていた、景夜の方がいいのではないか……?」

 若葉の言葉を聞いても、杏は身を乗り出すようにして言う。

 

 

「私も景夜さんより、若葉さんがリーダーをやるのが良いと思います!」

 

 

「うんうん。若葉ちゃんって、いかにもリーダーって雰囲気あるしね」

 友奈がにこにこと笑顔を向けている。

 

 

「……反論はないわ。あなたの活躍は確かだったし……高嶋さんも柊君も、あなたが

リーダーに適格って言うから」

 千景は若葉の方を見ることもなく、ボソボソとそう言った。

 

 

 若葉は隣にいる景夜を見つめる。

 

 

「言っただろ、俺はお前らさえ守れれば良いって奴だ。こんな俺よりお前の方が向いてるよ、若葉」

 

 

「………」

 若葉は全員の顔を見つめ――

 

 

「……ありがとう」

 今まで、自分がリーダーであっていいのか、確信が持てなかった。

 けれど――仲間たちの言葉を信じようと思う。

 

 

「良かったですね、若葉ちゃん」

 ひなたは若葉に微笑ましげに見つめていた。

 

 

「ところで……そうと決まれば若葉。一つ言いたかったことがあるんだけどよ」

 

 

 球子の話はこうだ、「何で自分のことを名前で呼んでくれないんだ!」。

 その後は、杏や千景からも名前呼びでいいと言われ、しかも千景に至っては敬語も外して欲しいと言われた。

 そして、――

 

 

「分かった、今後はそうさせてもらう。千景、球子、杏」

 

 

(――これが、結束というものか。)

 若葉は心が温かくなるのを感じていた。諏訪との連絡が途絶えたのは辛いが、いつか訪れようと心に決めた。

「それじゃあ、みんなで記念撮影をしましょう!」

 ひなたがそう言って、満面の笑顔でスマホを取り出す。

 

 

「今日は四国勇者の再出発記念日、そして景夜君の誕生日と若葉ちゃんのリーダー着任記念日ということで。……ふふふ、私の若葉ちゃん秘蔵画像コレクションが増えます」

 ひなたの不敵な発言に若葉が顔を顰める。

 

 

「ひなた!お前はまだそんな収集などしていたのか!いつか絶対消してやるからな!」

 

 

「俺のがないのは助かるな……」

 

 

「景夜君のもありますよ!」

 

 

「秘蔵画像コレクション?なんだそれ?」

 

 

「おもしろそう!ひなちゃん、私にも見せて!」

 

 

「球子、友奈!興味を持つな!」

 

 

「頼むからやめてくれ!」

 

 

「私も見たいです!」

 

 

「……柊君のは少し見たいかも……」

 夜の教室でわいわいと騒ぐみんなの姿を、ひなたは写真に収めるのだった。

 

  -----------

 

 深夜一時頃、景夜が無心で槍を振るっていた。

 演武のように見える足捌きと槍の振り方は、ほぼ完成形の域に達している。

 誕生会が終わり、みんなも寝静まった頃。

 彼は槍を振っていた。

 あの時の若葉の言葉が忘れられなかった。

 

 

「諏訪は落ちたかもしれん……」

 

 

 大社にイラついたが、それを言っても意味はない。

 歌野が稼いでくれた時間で自分たちが強くなれたのに、それを否定してはいけない。

 そんな景夜の下にひなたと紅葉が訪れる。

 

 

「こんな時間まで何してるの景夜くん」

 

 

「そうですよ、そろそろ寝ないと明日に響きます」

 

 

 そんな声を無視して槍を振る景夜、一種の極限状態に入ってるのか周りの邪魔なものを全てそぎ落としているように見えた。

 

 

「どんなに頑張っても、諏訪を救えなかったことは変わらないのよ」

 

 

 その言葉を景夜は許せなかった。

 

 

「ふざけんな!歌野はまだ生きてる!藤森さんも!諏訪はまだ完璧には落ちてない!」

 何の意味もない感情の叫び、たかが数度しか話したことは無いのに。

 彼は歌野を信頼し尊敬していた。

 

 

「分かってるんだよ!無駄な事も!今から助けに行くなんて出来ないことも!でも―――」

 溢れ出した感情は止まらない。

 

 

「報われて欲しいんだ!あそこで頑張ってた歌野に藤森さんに!絶対に助けに行くって約束したんだ!なのに――」

 留まることを知らず溢れ続ける。

 

 

「何で俺は……そんな約束さえ守れないんだ!」

 涙が出ているのに、動きは止まらない。この三年間でつけた実力の賜物。

 

 

「この槍術は!諏訪にいたみんなが生きた証だ!師匠から三年もかけて教えてもらったこの槍が、あの人たちが生きた証なんだ!」

 

 

 頭ではもう助からないと分かっていて、心が絶対に生きているし助けてみせると叫んでいた。

「だから、必ず約束を果たしてみせる!」

 それは、彼の未来への誓いだった。

 




 来週もお楽しみに!

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