柊景夜は勇者である   作:しぃ君

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第七話「帰省と愛の形と呼び名」

 田園に囲まれた細い道を一台のバスが走って行く。

 千景の座席の傍らには、専用武器である大鎌が布袋に収めて置いてあった。この大鎌は折り畳んで携帯できるようになっている。

 彼女は特別休暇を利用して、地元である高知へ帰ってきていた。

 そして、彼女の隣には長時間のバス移動&修行疲れで眠る景夜が居た。

 

 

 窓の外に広がる風景を眺める。

 季節はもう十月。

 秋の風が田園の黄金色の稲穂を揺らし、遠くに見える山々も紅葉して色づき始めている。

 千景は、景夜が自分の地元である高地に帰るのに付き添うと言った時のことを思い出す。

 

  -----------

 

「千景先輩が地元に……?」

 

 

「…ええ、父に帰って来てほしいと頼まれて……」

 

 

 景夜は千景の過去を知っている。

 愛されたい母親、自己中心的で家族のことを心配しない父親。

 結局の所、父親の所為で母親は不倫。

 

 

 千景は蔑まされるようになった。

 両親は彼女を押し付け合った、母親は再スタートするのに子供が邪魔で、父親は自分の為に金を使いたいので子供が邪魔だった。

 皮肉な話だ、最初は愛し合っていたのに。

 千景は、愛が脆いことを知っている、その上で愛されたいし認められたいと思っている。

 悲しい話だ、愛が脆いと知っているのに愛されたいと思う。

 

 

 彼女は無価値な自分が嫌いだった、愛されず認められない自分が腹立たしい程に。

 小さい村だったので、直ぐに不倫のことは広まり千景が何故か虐めの対象になった。

 虐めの詳しい詳細は知らないが、相当のものだったと景夜は聞いていた。

 華恵からは「精神的に難あり」と言われていた。

 そんな千景を、一人で地元に帰すのは不味い。

 そう思った景夜が、思い切って声を掛けた。

 

 

「俺も……着いて行っていいですか…?」

 

 

「……何もない所よ?…それでもいいの……?」

 

 

「はい!」

 千景の了承の下に、景夜は千景の実家に着いて行った。

  

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 それが、今までの経緯だ。

 景夜の寝顔を見ている間に、時間は過ぎた。

 最初はゲームをしながら待つつもりだったが、彼の寝顔は見ていて飽きなかった。

 目的の停留所に着いたので、千景は少し残念そうに景夜を起こす。

 

 

「柊君、もう着いたわよ…」

 

 

「……はっ!スイマセン、疲れて寝てました」

 

 

 バスを降りて数分も歩くと、一階建ての小さな借家に着く。ここが千景の実家だ。

 玄関扉を開けて中に入ると、悪臭が鼻についた。

 廊下は端にホコリが溜まり、空き缶や空き瓶が転がっている。

 隅に置かれたゴミ袋は、回収日に出されることを忘れられ、もう何週間も放置されたのだろう。

 景夜は少し驚く、自分の家も裕福ではなかったがここまで酷いものではなかった。

 

 

「ただいま……」

 

 

「お、お邪魔します…」

 

 

 返事は帰って来なかった。

 仕方なくそのまま廊下に上がり、空き缶を避けながら歩く。

 景夜もそれに習い、空き缶を避けながら歩く。

 

 

 居間に入ると、布団に伏せっている母の姿があった。

 薬を飲んで眠っているようだ。

 白髪交じりの髪、落ち窪んだ目、痩せてカサついた肌……まだ三十代だとは思えない程に年老いて見える。

 向かいの襖が開いて、父が部屋に入って来た。

 

 

「千景、帰って来たのか!……そこにいるのは柊君だね知っているよ!それにしても久しぶりだな、元気にしてたか?」

 大げさに両腕を広げ、娘の帰省を喜ぶ。

 

 

 明るい表情を作っているが、どこか疲労の色が見えた。

 父は千景が持っている大鎌の布袋を見て、一瞬顔を強張らせた。

 だが、すぐにまた作ったような笑顔を貼り付ける。

 

 

「それが勇者の……大変だったろう?」

 何に対しての『大変』なのか。

 

 

 勇者として戦っていることに対してか、こんな物騒で重いものを携帯して帰省したことに対してか。

 千景には分からなかった。

 その後の会話を、景夜は見ることしかしなかった。

 聞けば、千景の母は『天空恐怖症候群』らしい。

 空から降ってきたバーテックスへの精神的なショックから起きた精神病の一種。

 症状として空を見ることができないため、大半の人間が建物の中に籠りっきりになっている。

 症状は四段階に別れており、ステージ4になると、発狂・自我崩壊に至る。千景の母親はステージ3。症状が軽ければ治療も可能である。

 

 

 ステージ3になった患者は、ステージ4に至るまでそれほど時間は掛からないという。

 景夜は千景の母に同情したが、それと同時に自業自得だとも思った。

 病の進行のため、母は間もなく専門の病院へ入院することになる。

 その前に実家へ戻って顔を見せてほしいと、父は千夏にそう言った。

 更に症状が進めば、長くせず母は千景が誰であるかさえ分からなくなるだろう。

 そうなる前に少しの間でも母と一緒に過ごして欲しいと言う。

 

 

 諦めを隠そうともしないその言い分も腹立たしかったが、千景は断る理由も思いつかず、帰省することにした。

 

 

「千景に柊君、ご飯は食べて来たか?お腹が空いているだろう、今から出前でも――」

 

 

「いいよ……食べたくない」

 

 

「俺も、御遠慮します。今日は日帰りの予定何で、ご飯はあっちで食べます」

 父の言葉を遮り、千景は両親に背を向け、居間の出入り口に向かう。

 景夜も断りを入れて、千景に着いて行く。

 

 

「どこに行くんだ?」

 

 

「せっかく帰ってきたんだから……友達に会いって来る……」

 

 

「そうか……」

 何か言いたげな雰囲気が背中越しに伝わって来たが、千景は無視して部屋を出た。

(やっぱり……帰ってくるんじゃなかった……)

 

  -----------

 

 歩く、歩く、歩く。

 どれ位歩いただろう、学校の近くから少し体調が悪そうな千景を気遣いながら進む。

 何故か、耳を抑える千景を不思議にそして悲しいものを見る目で景夜は見守っていた。

 

 

「なんで……」

 

 

 眼の奥が熱くなる。

 

 

 千景は思い出していた思い出(地獄の記憶)を。

 何で思い出してしまうのか。

 香川に居る時は思い出しもしなかったのに。

 あの頃の記憶なんて、すべて頭から消え去ってしまえばいいのに。

((帰ろう……))

 二人の心が重なる。

 

 

 千景と景夜は学校に背を向けた。

 もう、一秒でも故郷(ここ)には居たくない。

 すぐに香川に戻ろう。

(高嶋さんに……会いたい……)

 直ぐ近くに頼れる仲間が居るのにそれ以上に、彼女に会いたかった。

 精神が不安定になっている証拠。

 

 

 香川に戻れば――

 友達と話していれば――

 きっとまた昔の記憶なんて忘れられる。

 

 

「あなた……郡さん?」

 

 

 背後から女性の声がして、二人は振り返った。

 そこに立っていたのは、かつて彼女の担任だった女性教師だ。

 彼女は昔よりも老けてしまった顔で微笑んだ。

 

 

 それからのことは、酷いものだった。

 景夜の主観で見れば、それは悲劇の序章のように見えた。

 過去に千景を虐めたものが、過去に千景を蔑んだものが。

 揃って、千景を褒めたたえた。

 生まれた時に祝福され後に疎まれ、そしてまた祝福された。

 

 

 千景は布袋に入れたままの大鎌の柄で、地面を叩いた。

 乾いた音があたりにやたらと響き、一瞬で彼女を取り囲む人々は静まり返る。

 

 

「……皆さんに……訊きたいことがあります」

 

 

 その場にいる全員が彼女に注目する中、千景は小さな声で言った。

 それは、悪魔の言葉にも等しいもの。

 

 

「私は……価値のある存在ですか……?」

 

 人々はしばし怪訝そうな顔をし、やがて誰もが答えた。

 またしても、悪魔の言葉を。

 

「もちろんよ。だってあなたは勇者様だもの」

 

 

 同じよな言葉が、すぐに他の人々から投げかけられた。

 誰もが()()()()()()()()称賛している。

 千景は今まで、ずっと最底辺だった。

 蔑まれ、疎まれ、傷つけられ、お前は無価値な人間だと、体と意識に刷り込まれるように生きてきた。

 だが、今はどうだ?

 

 

 かつて千景を傷つけていた人間が、彼女に媚びへつらっている。

 以前は千景など路傍の石とすら思わなかっただろう大人が、彼女を両手に揉みあっている。

(私が……勇者だから……)

 だから、彼は彼女を連れだした。

 彼女の膝と首に手を回し、お姫様だっこの要領で逃げる。

 いつの間に勇者に変身したのか、だがその顔は暗い。

 

 

 千景の心が分かってしまう、その位には彼女との距離が縮まったから。

 

 

「柊君!離して!」

 

 

「嫌です、離しません」

 そんなやり取りを続ける中、二人は四国に帰っていった。

 

  -----------

 

 千景の地元に行った日から間もなく、バーテックスの二度目の侵攻が起きた。

 侵攻だけで見ればそれは難なく終わった。

 進化体は千景が『七人御先』を使うことで倒した。

 進化体は無数に矢を放つ能力があり、千景の『七人御先』と相性がいい。

 『七人御先』…その力を纏った千景は七つの場所に同時に存在し、七人の千景が同時に殺されなければ死なない。

 一人撃墜されても二人撃墜されても、致命傷となった千景はすぐに消滅して新たな千景が出現し、『七』という人数は絶対に増減しない。

 一言で言えば、不死性のある精霊だ。

 

 

 そして、戦闘中の千景の思いはこうだった。

(……私が一番多く殺して……一番勇者として活躍する……)

 承認欲求の強い彼女ならではの思い。

(私は……勇者だからこそ価値がある……)

 人々を守り、バーテックスを討つ勇者だからこそ、彼女は称賛され、愛される。

 彼女は、そう考えた。

 

 

 ならば、最も多くのバーテックスを倒して活躍した勇者となれば、更に価値を認められ、愛されるだろう。

 間違いない、と彼女は確信していた。

(もっと頑張れば……もっとみんなが私を好きになってくれる……)

 無価値な自分に戻りたくない。

 そのためなら、どんなことだってやってやる。

 

 

 こんな思いを持って、バーテックスと戦った。

 ハッキリ言おう、歪んでいる。

 彼女は壊れかけの鏡もいいところだ、石を一つぶつければ簡単に壊れるだろう。

 だが、そうはならなかった。

 彼女の心を壊したのは『七人御先』だった。

 

 

 樹海化が終わり、みんなが変身を解く。

 千景と景夜を除いて。

 

 

「友奈、お前は無茶のし過ぎだぞ」

 

 

「そうだぞ、友奈。検査入院だっけ?それで病院にいたんじゃないのかよ」

 

 

「そうですよ、友奈さん。不調があれば、今の内に教えて下さい」

 

 

「みんなこそ心配し過ぎだよ……、ぐんちゃんにカゲヤ君?」

 変身を解かない二人に、友奈が声を掛ける。

 

 

 その瞬間、友奈に向かって大鎌が降り下される。

 それを間一髪で、景夜が受け止める。

 

 

「「「「「「「なぜ、邪魔をするの柊君」」」」」」」

 

 

「邪魔するに決まってますよ、今の千景先輩は何かオカシイですから」

 声がオカシイ、七人の声が重なったように聞こえる。

 

 

 頭の回転が速い景夜は、一番にその答えにたどり着いた。

 

 

「精霊憑き……か」

 

 

「「「「「「「精霊憑き?……どうでもいいわ……そんなこと」」」」」」」

 

 

「どうでもいい……ですか……」

 

 

「「「「「「「憎い…憎い…憎い!」」」」」」」

 何故か友奈に向けられた、理不尽な感情。

 

 

「「「「「「「なぜ……あなたたちは愛されるの!なぜワタシは愛されないの!」」」」」」」

 

 

「何ででしょうね?……俺が聞きたいですよ」

 

 

 なぜ、という疑問。

 自分が愛されないのは何故なのか?

 千景と共に彼女の地元に行った日、景夜が感じたものは間違えではなかった。

 

 

 七つの体と七つの思考、それに意志が加わることで『七人御先』は動いている。

 だが、今は違う。一つの体に七つの思考と一つの意志。

 七つの思考が、過去に何故愛されなかったのかを考える。

 だが、答えはでない。だから「なぜ」が出てくる。

 

 

「「「「「「「なぜ!あなたたちには価値があって、ワタシにはないの!」」」」」」」

 

 

「千景先輩にも価値はありますよ、絶対」

 

 

「「「「「「「嘘よ!だったら……だったらなぜワタシは疎まれたの蔑まれたの!どうしてなのよ」」」」」」」

 

 

 体に傷が増えていく、何とか受け流しているが千景の気迫は凄まじいもので、景夜との実力差を憎悪の気持ちで埋めていた。

 それが、無性に悲しかった。

 

 

 だから、景夜は防ぐのを止めた。

 彼女の大鎌の刃が景夜の脇腹を斬る、その場にいた全員が動揺する。

 だが、景夜はお構いなしに『トロール』を使い瞬時に傷を直して千景を抱きしめる。

 千景が本格的に動揺し始める。

(まだ……意識はこっち側にあるな……なら、いける!)

 

 

 景夜が千景を抱きしめながら、話し始める。

 

 

「千景先輩、全部吐き出してください。嫌な事はぜーんぶ!綺麗サッパリ」

 

 

「な、何で……?……私はあなたのことを……」

 

 

「あれは精霊の所為ですよ、千景先輩がやったんじゃありません」

 景夜は千景の反論をバッサリと切り捨てる。

 

 

「千景先輩は愛されたいんですよね、なら俺が愛します」

 

 

「ふぇ?!……え、えっと……どういう……」

 杏が鼻息を荒くして、他の者も相応に驚いている。

 

 

「間違えました、()()()()()()()()!」

 

 

「………???」

 頭に疑問符が増える、こういうのは鈍感らしい。

 

 

「千景先輩、俺は丸亀城のみんなを家族だと思ってます」

 

 

「……ええ、知っているわ……」

 

 

「家族に色んな形があります……、それこそ千景先輩の家のように」

 少し空気が重くなる、だから景夜は声を張り上げた。

 

 

「俺の思う家族は!いつも笑顔で愛が溢れる家族です!」

 

 

「……そんなの……物語の中だけだわ……」

 千景の諦めたような声が聞こえる。

 けれど、景夜は諦めない。

 

 

「だったら作りましょう!俺たちで、俺たちみんなで!」

 景夜は息を吸って、深呼吸をする。

 

 

 そして、もう一度声を張り上げた。

 

 

「俺は千景先輩のこと好きですよ!それに、ここにいるみんなは苦手な人もいるかもしれませんが千景先輩のことが嫌いな人なんていません!」

 

 

 景夜の思いで何かが解けたのか、景夜の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。

 「なんで」、「どうして」、そんな言葉が彼女から漏れた。

 

 

 時間にして十数分、ひとしきり泣きじゃくった千景は恥ずかしそうに景夜に顔を向ける。

 

 

「その、さっきのことは……」

 

 

「気にしないでください、家族でしょう?」

 

 

「……ええ、そうね……」

 千景が立ち上がろうとすると、景夜が腕を差し伸べる。

 その腕は二本。

 

 

「千景先輩、最後の質問です。どちらの手を取りますか?千景先輩から見て左の手を取ると、俺はあなたのことを勇者・郡千景として見て一緒に居ます。右の手を取ると、俺はあなたのことを家族として友達として見て一緒に居ます」

 

 

 千景は少し考えて、笑顔で右の手を取った。

 その瞬間、友奈が千景に抱き着く。

 

 

「ぐんちゃん!」

 

 

「た、高嶋さん!苦しいわ」

 みんなが笑顔になる。

 

 

 後ろから頭を撫でられる。

 

 

「よくやったわね~、景夜くん!」

 

 

「師匠、そうでしょうか?」

 

 

「ええ、あなたは良くやった!」

 紅葉やひなたに加えて華恵まで来たせいで、案外大所帯となっていた。

 友奈が華恵に病院を抜け出したことを叱られる中。

 

 

 景夜の下に千景が寄って来る。

 

 

「あ、あのね柊君。その……景夜君って呼んでもいいかしら……?」

 

 

「いいですよ!それなら、俺も……チカなんてどうですか?」

 

 

「あだ名……ええ!それでお願い。後、敬語も……」

 

 

「分かりまs、じゃなくて。分かったよ、チカ」

 二人の間の壁は無くなった、多分他の仲間ともすぐに打ち解けるだろう。

 

 

 千景は少し、レベルアップ出来たような気がしていた。




 この、オリジナル展開でちーちゃんを救う!

 来週もお楽しみに!

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