元おっさんの幼馴染育成計画   作:みずがめ

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154.文化祭デート

 俺の背中に抱きついてくる女子。抱きつくっていうか、おんぶをせがまれてるのかってくらい体重を預けてくる。

 軽いのに圧倒的な重量感。そんな相反するような感触が、俺の背中で感じられていた。

 

「ちょ、当たってるって……あ、葵!?」

「ピンポーン♪ さすがはトシくん。見なくても私ってわかっちゃうんだね」

 

 そりゃわかるでしょうよ。葵がどんだけ破壊力のあるものをお持ちなのか知ってんだから。

 

「わぁ! 宮坂先輩かわいいー!」

 

 品川ちゃんが黄色い声を上げる。声の調子が江戸時代喫茶にいた時と同じような感じだった。

 

「でしょー? これ、力作なんだよねー」

 

 葵が俺から離れる。心地の良い重みがなくなったことで、ようやく振り返れた。べ、別に残念だとか思ってないんだからね!

 

「う、む……っ!」

 

 葵の格好を目にした瞬間、俺はズビガガーン! と衝撃を受けた。

 一年C組も喫茶店をやるのは知っていた。だけど葵が「本番まで秘密だよ」と笑顔で隠していたせいでその内容までは知らなかった。

 

「トシくんはどう? 私のメイド姿、気に入ってくれた?」

 

 フリル多めのエプロンドレス。短いスカートに黒のニーソックスで眩しいほどの絶対領域を作り出していた。

 さらにリボンで髪を結っていて、普段とはまた違ったかわいらしさが際立っていた。そこにヘッドドレスという組み合わせは控えめに言って最高だ!

 

「す、すごくかわいい……ぞ」

 

 なんとかそれだけ絞り出す。葵はニコッと可愛さを倍増させた笑顔を見せてくれた。

 

「ありがとうトシくん」

 

 葵のかわいい姿はたくさん見てきた。

 もう慣れたと思っていたのに、このメイド姿は俺の目を惹きつけた。新鮮なかわいいが詰まっているように感じたのだ。

 

「メイド服ってこんなにもかわいかったんですね……。宮坂先輩はよくこれほどのものを見つけてきましたよ。私はメイド服をここまでかわいらしくできるって考えたこともなかったですもん」

「ふっふっふー。これ、手芸部の人達といっしょに作ったんだよ」

「えっ!? 手作りなんですか! あ、だからさっき力作って言ってたんですね」

 

 品川ちゃんは感心したように頷くと、興味が隠せないのかメイド服をしげしげと眺めていた。

 品川ちゃんに様々な角度から観察されながらも、葵は堂々としたものである。むしろ胸を張ってアピールしている。そういう作りなのか、胸の部分はくっきりと強調されていた。

 かわいいを前面に押し出しているみたいなデザインのメイド服。なんだか前世で見たことのあるメイド喫茶の衣装って感じだもんな。いや、別に俺がメイド喫茶通いしてたわけじゃないんだけど。……ちょっとだけしか通ってないからね。

 

「あっと、すみません。せっかくのお二人の時間を邪魔してしまいました」

 

 品川ちゃんは気を遣って、すすすっと俺達から離れる。

 

「私の用は終わりましたので。では、高木先輩宮坂先輩。二人きりの甘い時間をごゆっくりお楽しみください」

「品川ちゃん、もうちょっと誤解を招かないような言い方にしてくれないか」

「昨夜はお楽しみでしたね」

「事後!?」

 

 品川ちゃんはそそくさと森田の元へと行ってしまった。なんか逃げられた気分だよ。

 

「ねえトシくん」

「な、なんだ?」

 

 葵のことは見慣れているはずなのに、今は直視できなかった。これがメイドマジックというやつなのか?

 

「今日は私と文化祭デートだね」

 

 かわいい笑顔が俺にだけ向けられる。彼女は俺に全力のかわいさをぶつけているのだろう。

 メイド服だって、俺のために準備してくれたのだ。葵はいつもと違う自分を見せようとしてくれている。

 気恥ずかしい。そんな風に逃げてはいけないのだ。俺はぐっと葵の大きな目を見つめ返した。

 

「ああ。今日は精一杯エスコートさせてもらいますよ。お姫様」

 

 和服男子とメイド女子。変な組み合わせで、気取った言葉も似合いはしない。

 それでも、この状況こそが俺達を非日常に送り込んでくれた。文化祭は少なからず浮ついた気持ちにさせてくれる。

 手を差し伸べる。葵は当たり前みたいに俺の手を取ってくれた。

 二人で歩き始める。文化祭特有の空気が俺達を迎え入れてくれるのであった。

 

 

  ※ ※ ※

 

 

 我が校の文化祭は二日間にわたって行われる。

 今日も明日も江戸時代喫茶のシフトが入っている。それでも一人一人の負担はそこまで大きくはない。バランスよく調整してくれた佐藤に感謝である。

 そんなわけで自由時間は葵と瞳子といっしょに文化祭を見て回る予定になっている。

 もちろん三人ではなく二人でだ。葵と瞳子が話し合った結果、初日は葵と、二日目は瞳子といっしょに回ることになった。

 

「トシくん、あそこお化け屋敷やってるよ。行ってみる?」

「お化け屋敷も文化祭の定番だよなぁ」

「中学の時もお化け屋敷をやってたクラスあったもんね」

「無理やり驚かそうとして水鉄砲持ってきた奴がいたんだっけか。撃った相手が先生でめちゃくちゃ怒られてたよな。あれって去年森田がいたクラスじゃなかったっけか?」

「そうそう。そのせいで文化祭自体がしらけそうになってたんだよね。それをトシくんと瞳子ちゃんがいきなり舞台に上がってダンスで盛り上げたんだよね。すごかったなぁ」

「葵のピアノでみんなの注目を引き込んだって感じだったけどな」

 

 思い出に花を咲かせる。中学生もいろいろ大変なことはあったけど、楽しかったこともたくさんあったんだよな。

 しみじみしていると、葵に手を引っ張られた。

 

「じゃなくて、今はあのお化け屋敷に入るかどうかって聞いているんだよ」

「あ、じゃあせっかくだから入ってみようか」

「うん!」

 

 元気よく返事する葵。まあ高校のお化け屋敷なんて怖いものにはならないだろう。

 

「次の方どうぞー。って高木くん? おおっ、着物だ」

「垣内先輩じゃないですか」

 

 受付は生徒会長の垣内先輩がやっていた。

 

「ここ垣内先輩のクラスだったんですね」

「そだよー。二年B組が一致団結して作り上げたお化け屋敷! 損はさせないから寄って行きなよ」

「怖いの期待してますよ。ていうか垣内先輩は脅かし役じゃないんですか?」

「私はほら、生徒会の仕事もあるから。着替えないで済む受付で勘弁してもらってるんだー」

 

 垣内先輩は普段の制服姿のままだ。お化け屋敷だとそれなりの格好になるだろうからそれも仕方がないか。

 

「それにしても……」

 

 垣内先輩は俺と葵を交互に見比べる。

 

「まさか高木くんが彼女さんと来るとはねー。しかもこんな美人さんと。先輩はびっくりだよ」

「はははっ」

 

 笑って誤魔化す。間違いではないんだけど、あまり突っ込まれても困る。

 

「私はてっきり高木くんは瞳子ちゃんと付き合ってるものだと思っていたからさ。うーん、同じ生徒会のメンバーとしては複雑な気分だよ」

「はははっ」

 

 また笑って誤魔化した。それも間違いじゃないから返答に困るんですよ。

 

「瞳子は生徒会で上手くやってますか?」

「瞳子ちゃんは優秀だよー。会長の私が頼りにしてるくらい。みんなともすぐ仲良くなったしね。もちろん一番仲良くなったのは私だけどな!」

 

 瞳子は生徒会で上手くやれているようだ。そして話を逸らすことに成功した。

 

「って、高木くん。もしかして話逸らそうとしてない?」

「べ、別にそんなことないですよ?」

 

 やべえばれてる。

 

「まあいいや。うちのお化け屋敷を存分に楽しんでおいでよ。それじゃあ二名様ご案内しまーす!」

 

 垣内先輩がドアを開けてくれる。その先に広がっているのは深淵を思わせるような闇だった。

 葵が俺の手を握る力を強めた。うん、高校のお化け屋敷なんて余裕だって……。

 黙っている葵を促すようにして、俺は二年B組のお化け屋敷に足を踏み入れた。

 

 

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