水上の番外編   作:しちご

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薔薇は赤く菫は青い

 

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あかん、意識が飛んどったわ。

 

今日も今日とて書類の塔が机に積み重なり、執務室の住人はハイライトの消えた

清々しい瞳で黙々と紙束を消費する、さながらお手紙を食べ続ける山羊さんの様に。

 

とりあえず至近の内容は、タウイタウイを飛び回るソードフィッシュへの苦情。

 

「いや、聞かなかった事にしていないで」

「すまんが巨乳の言葉は聞こえんのや」

 

耳にバナナが入っとるからな、南国だけに。

 

そんなウチに、後ろから絡みつく米国空母の暑苦しさと言えば何とするべきか。

などと遊んでいる内に、茶葉の香りが漂い金剛さんがカップを配り始める。

 

ミルクティー予定地って感じか、牛乳だけがチラリと入ったティーカップ。

 

「ミルクの先入れか、何か馴染みが無いな」

 

そんな事を言う司令官に、少しばかり得意気な顔で口を開く高速戦艦長女。

 

「英国が自信を持ってお勧めする、美味しいミルクティーの淹れ方デース」

 

ポットを傾け、飲み易くて美味しいのデースとか説明しながら、とは言えと言葉を繋げる。

 

「まあ私が艦の頃は、まだミルクインファーストとアフターでエキサイトしていましたが」

「結論が出たんは2003年、ざっと130年ほど言い合っとった計算やな」

 

英国、王立化学協会の発表した「一杯の完璧な紅茶の淹れ方(How to make a Perfect Cup of Tea)」から。

 

先にカップにミルクを入れといた方が、後入れよりも牛乳に含まれる蛋白質の

熱変性が少なく、新鮮なまま美味しく混ざるとか何とか。

 

「言われてみると、ミルクティーなのにサラリと飲める様な気がする」

 

そうか、ウチは乳をヒトの頭に乗せてミルクティーを啜る米国空母のせいで味がわからんわ。

 

「今日はお茶請けに、マクビティを用意出来たのデース」

「悪いが、もう一杯貰えるか」

 

そんな事を言いながら、司令官の机の横で、相手の位置を誤認しながら振り向き合う互い。

 

日本では明治製菓が販売しとる、英国、ユナイテッドビスケット社のブランドビスケット。

 

お茶請けで定番のそれは、近所の英国軍基地が経営する多国籍商店に最近、

英国から輸入が在ったとかで入荷されとったヤツやなとか口に出す暇も無く。

 

無防備になった金剛さんの胸元の高さに在る司令官の頭と、変動する位置エネルギー。

 

ポスリと、何や微妙に慎まし気な音が鼓膜に届いた。

 

 

 

『そしてお前はもう死んでいる』

 

 

 

聞けば絹を絞め殺したような力強くか細い、何とも言い難い悲鳴が聞こえたとか、

埠頭でドラム缶を転がしとった天龍がコメントを出してから暫く。

 

浮上した問題点について、泊地の艦娘に注意するために集まって貰った。

 

「あー、ウチらもヒトの身を得てそこそこ経ったわけで」

 

壇上にウチ、適当に泊地に居た聴衆を見てみれば、巡洋、駆逐の水雷戦隊組。

あと、未だに赤い顔でプルプルと小動物の様に震えている高速戦艦長女と他三隻。

 

空母組は軽空母ぐらい。

 

まあ正規空母はフリーダム言うか、門外漢と手間かからんヤツしか居らんからな。

 

「それなのに今更こんな事を言うのも何やけど、まあ何や」

 

身も蓋も無い一言に、静寂が在った。

 

「キミら、ブラ付けろや」

 

そんな静けさの中、五十鈴の膝の上で固まっていた初月がさらりと手を上げて問う。

 

「ブラとは何だ?」

 

そこからか。

 

天を仰ぎ、天井が見え、地に俯き、遮る物無く足首が見える。

 

「夕立」

「ブラジャー、つまり乳バンドの事っぽい」

 

呼べば応える秘書艦の鑑、と言うと嫌そうな顔をして遠い目をするのは何故や。

 

「流石やな、スタイリッシュ乳バンドは白派の夕立」

「下だけでなく上まで下着事情を把握されてるっぽいッ」

 

視線を集めた叫び声に、観衆のそこかしこからスタイリッシュと囁きが聞こえた。

 

「まあ他にも乳抑え、乳房バンド、乳房ホルダー、要は女性用洋装下着やな」

 

思いつくままに呼び名を連呼すれば、ようやくに皆の理解の色が見えた。

そのまま気安い風情を醸していれば、五十鈴からの追撃。

 

「でも私、そこまで太って無いわよ」

「乳バンドをデブの補正具扱いすんな」

 

ああそうやな、戦中戦後まで乳バンドはそういう扱いやったな畜生。

 

欧米で生まれたんが1920年代、日本に入って来たのが30年代、

はみ出したはしたない乳肉を締め付ける補正具として、一部金持ちが使ってたぐらい。

 

一般に普及、進駐軍からポンポンと入って来た洋装の勢いで、

まともに下着として使われ定着したんは完全に戦後や、何てこったい。

 

つかアタゴンが頑なにノーブラなんは、そこの拘りのせいか、今更気付いたが。

 

「だいたい五十鈴は付けとったやろ、黒いのを」

「付けてまーせーん」

 

冷静に返すと頬に朱を散らしながら恥ずかしそうな返答。

何かな、腹より胸に脂肪が行く体質のくせに隠そうとすんな。

 

「だから何で下着事情をそこまで正確に把握しているんですか」

 

やりとりに呆れた風情の榛名から目を逸らす、いやさ提督ゴーストの置き土産やし。

 

「まあバタフライセットを買ったは良いが付ける勇気が無くてサラシの榛名は」

「私が悪かったので自然に暴露しないでくださいッ」

 

ナチュラルに紹介してみたら大丈夫では無かったらしい、珍しく。

 

「まあ何や、ブラジャーは乳の型崩れを防ぐための衣類や」

 

サラシではいけないのですかと質問が在る、別にええんやけどな。

 

「えーとさ、キャミソールとかじゃ駄目なのかい」

 

隼鷹が疑問を口にして、ウチがあかんと答える横で、きゃみそおるとは何ぞやと

ざわざわと騒ぎ立てるノーブラ勢、ああもう何や泣きたくなってきた。

 

「乳腺を支える、要は乳を引っ張り上げるクーパー靭帯つうのが在ってな」

 

ホワイトボードに簡単な乳の断面を書く、紐付きの乳腺が在る感じ。

再生不可能なコレが切れたり伸びたりするから、乳が垂れるわけや。

 

「まあ妊娠とかで伸びたりするのもあるが、要はデカいと歩くだけで駄目でな」

 

揺れるからな。

 

靭帯が伸びたり切れたりする勢いで、質量が激しく上下運動するからな。

 

「そうならん様に、下着で支えるっちゅうわけや」

 

キャミソールとかだと服のラインを作る機能は在っても、乳は支えれんねん。

 

「まあ血流を阻害するから動かん時、寝る時とかは外しておく感じやな」

 

適当に注意点を付け足せば、五十鈴が再度に挙手をする。

 

「正直、付けてるとキツイんだけど」

「そりゃトップバストの測り方を間違えとんのや」

 

付けとらんのやなかったんかい、この爆乳。

 

まあともあれ、とりあえず隼鷹あたりを呼び付けてトップの測り方を実演する。

頭を下げさせ胸を地面に平行に、そう平行に、乳を重力に引かせる感じで。

 

「立ったまま測ると実際よりも小さい数字に成るから、胸を締め付けがちや」

 

脇肉や胸がブラから溢れてると、実際よりも小さいサイズってとこか。

隙間が出来たりワイヤーが刺さったりすると、逆に大きすぎや。

 

何にせよ、九九艦爆をはみ出させ続けている蒼龍は今度叱っておこう。

 

「けどさ龍驤サン、何でそんなに詳しいんだ」

「おうコラ、今どこに視線を向けながら口を開いた」

 

そっと赤い俎板から目を逸らしやがる酔っ払い。

 

何とも言い難い鉛が空気に戻る頃に、一息。

 

「しかしあんだけ動き回っとんのに、垂れとるヤツ居らんよなあ」

「それそれ、修復材ってスゴイよな」

 

世の女性が血涙流しそうな結論やな。

 

「まあ何や、ブラは転圧機の様なもんや」

 

隼鷹を帰しながら説明を続ける。

 

「小さいと圧力で締め固め、大きいと往復運動で馴らし固めやがる」

 

やからまあ、発育のためにも正しいサイズを付けるんが肝要なんやと、

解説を締めたら途端に目を逸らす数隻は、皆一律に平たい胸族。

 

ああうん、わかる。

 

わかるわ。

 

自分とブラの間にスカスカな空間を作ってしまう乙女心が。

 

「頭では、わかっとんのやけどなあ」

 

ポツリと零れた言葉が、意外と良く室内に響いた。

 

 

 

(TIPS)

 

 

 

―― その頃の一航戦(サラシと褌派)。

 

 

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