これまでのおはなし
江戸時代、四代将軍・徳川家綱が天下を治めていた頃の話である。
ある日の夜、雷鳴が轟く嵐の中で空から金色に輝く物体が降り、
領内にそびえる駆逐艦・村雨に落下した。
すると、祀られていた白露型3番艦に謎の生命体が宿り、辺りに異様な叫び声が響き渡る。
謎の村雨嬢は、領内にある他の城の城主を不思議な力で支配し、それぞれに謎の玉を渡した。
玉を手にした城主たちは、その玉が持つ魔力を用いて忍軍を操り自らの領地を荒らし始める。
城主反乱の事態を重く見た幕府は、状況の沈静化と村雨嬢の調査のため、
帝国海軍の航空母艦・龍驤を呼び寄せた。
幕府からの密命を受けた龍驤は ―― 忍軍がはびこる城下へと向かう
『万愚節番外 1+2=3じゃねえ100だ10倍だぞ10倍パラダイス』
それはそれとして、今日も家主不在の隙に龍驤の布団を占拠していた島風。
枕にフロントチョークを仕掛ける攻防の最中、突如に部屋の中央に
発光現象が起こり、鋼の身体を持った未知との遭遇が果たされてしまう。
「ヤアッ僕は連装砲ちゃん、魔法世界パウダーフィールドから来た妖精なんだッ」
「名前から火薬の臭いしかしないッ」
何か普段からよく見慣れたナマ物の様な気もするが、きっと気のせいだろう。
「パウダーフィールドは夢と希望に満ち溢れた素敵な世界だよッ」
反射的に撃ち返された素直な感想を被弾し、砲塔を動かし不満を表現しながら
自らの所属する世界の名誉を守ろうと言葉を重ねる妖精が居た。
「今も3回目のパウダーフィールドの春を迎えて、民主化に沸き立っている所さ」
「前2回はどうなったのッ!?」
残ったモノは大量の避難民と横行するテロリズム、きっとそんな感じ。
「結局さ、夢と希望じゃお腹は膨れないんだよね」
「奇跡と魔法はどこ行ったのかな」
新たな権益の確保には、暴力が抱き合わせ商法なのが世の常であった。
「そんな事より、この泊地は狙われているッ」
「何か最終回を総集編にしそうな事を言いだしたッ」
大切な事は、遠くにある人や大きな事ではなく
目の前にある人に対して、愛を持って接することだ ―― マザーテレサ
そんな言葉は何処吹く風と、縁も所縁も無い妖精の国の住人が言葉を紡ぐ。
「このままだと、妖怪イッコーセンがボーキサイトを食べ尽くしてしまうんだッ」
「いつもの事だよね」
いつもの事である。
「魔人テートクとドクターヘルアカスィが鋼材を浪漫兵器に作り変えてしまうしッ」
「いつもの事だよね」
いつもの事である。
「そして闇のトンカツ職人と大和型旅館が弾薬と燃料を使い尽くすッ」
「何でウチの泊地って、浪費方向に隙の無い布陣なのかな……」
いつもの光景を脳裏に思い描き続け、島風の頭部を偏頭痛が襲った。
固まった笑顔のまま震えている赤い俎板や、魂を吐き出している特型駆逐艦。
提督関連で敵に回った姉妹をねじ伏せる金剛型四女。
―― 待て、待つのじゃ筑摩、何の躊躇いも無く主砲を撃ち込もうとするでないッ
あ、ヤバイ、利根さんも妹を止めていて動けない。
妙にリアルに思い描けてしまった光景に、壁に手を付き疲れた言葉が漏れる。
「正直な所、あのあたりは定期的に始末しておかないと秘書艦組が過労轟沈しそうで……」
「切実すぎる」
鉛よりも比重の重い言葉に、連装砲妖精が少し引き気味の感想を述べた。
それはともかくと、話を戻した連装砲ちゃんが取り出した物が在る。
「ならばこそ、この魔法の魚雷で変身だッ」
「何処が魔法なんだかわからない」
一抱えもある、駆逐艦艤装のそれよりも大きめの魚形水雷、魚雷であった。
「魔法の魚雷は雷跡が見えなくなるんだよッ」
「それって単なる酸素魚雷だと思う」
魔法である。
排気ガスの成分が炭酸ガスで海水に良く溶け雷跡を引かない様な気もするが、
それはそれとして置いておいて、どうやら魔法であったらしい。
「あと何か、ウズウズしてる」
「呪いの装備としか思えない」
よく見たら隅っこに「伊19」と持ち主の名前が書いてあった。
「納得いただけたところで魔法艦娘、
「いや納得してないよって、ルビが不穏過ぎるッ」
あと片仮名に開くの止めてなどと言い募るも、問答無用で魚雷をナマ物に押し付けられ、
さあ今こそと勢いだけで変身させようと試みる空間が生まれる。
空気の中に加速度的に増していく圧力に、わけのわからないまま
島風が魚雷を振り回し、勢いのままに何も考えずに口を開いた。
「ジュゲームジュゲームゴコーノスリキレジョリビーケチャップブロイラチキーン」
適当な変身ワードと共に、島風型駆逐艦の身体が光に包まれる。
「元ネタがマニアック過ぎてツッコミの入れ様が無いッ」
「やかましい」
溢れ出る魔法の力に、感動を籠めた言葉が連装砲ちゃんから放たれた。
そして謎空間の中で、指先、爪先と末端から中央に向かい段階的に、
バンクシーンに使われそうな無駄にクオリティの高い早着替えが行われる。
「元の露出が高いから、何か凄く微妙だね」
「やかましい」
やがて熨斗紙の付いた魚雷を抱える、普段の制服と同じ水兵服をモチーフにした
白いレオタード状の魔法少女衣装に着替えた島風の姿が其処に在った。
その、何か凄く吹雪型一番艦没案の様な姿を見止め、連装砲の妖精が感を零す。
「露出が……減った、だと……」
「やかましい」
魔法の駆逐艦、シマカゼの誕生であった。
(TIPS)
風車剣と呼ばれる連結鎌を高射装置でぽいぽいと投げながら、
薄い色合いの髪を二つに括った白露型の駆逐艦が姿を現す。
身に纏う怪しい輝きが、一切の攻撃を無効化する謎の力場を形成している。
「ふんふーん、航空兵力相手でも村雨のちょっと良いとこ」
皆まで言わせず、龍驤の砲塔が無遠慮な轟音を叩き出した。
「おるぁッ」
「物凄く痛いッ」
何の躊躇いも無い顔面狙いの砲撃を受け仰け反る村雨嬢。
「ちょ、ちょっと待って龍驤さん、それ物凄く痛いんだけどッ」
顔面から煙を上げながら、何かもう相変わらず艦種に喧嘩を売っている様な
行動パターンの航空母艦へと、疑問交じりの抗議の声があげられた。
言葉を受け、無言で愛用の副砲を横に向け視線を集める龍驤。
その砲塔には、びっしりと漢字で何某か彫り込んである。
「こんな事もあろうかと砲塔にお経を彫り込んどいたんや、名付けてお経砲ッ」
「コミカライズ版ッ!?」
宣言の後、連続する砲撃に次々と吹き飛ばされる忍軍の有象無象と、村雨嬢。
「いや待って、ほんと待って、そもそも艦載機はどうしたの、何で砲撃ッ」
「ウチの泊地に、対空カットイン装備の駆逐艦に艦載鬼飛ばす余裕は無いッ」
切実であった、主にボーキサイトの残量的な意味で。
「そしてこれが航空母艦奥義ッ」
すかさず背後から村雨の左足に、龍驤は自分の左足をからめるようにフックさせ、
右脇を潜り抜けながら左腕を相手の首の後ろに巻きつけた。
そして両の手をしっかりとロック、背筋を伸ばすように伸び上がる。
「毒蛇固めやあぁッ」
「のぎゃああああああああぁぁぁ……」
アブドミナルストレッチ、日本名アバラ折り。
コブラツイストの名で親しまれている奥義であった。
―― 村雨嬢は倒れた。
何か音がしなくなるまでへし折られた駆逐艦の身体から、
宿っていた金色の何かよくわからないものが染み出し、抜けていく。
気が付けば、何処からかベートヴェンの交響曲第9番が流れる中、
宿っていた金色のナニカと謎の玉が天へと帰っていった。
そして再び平和が……
帰投した龍驤が謎の浪費コンビ殴り倒され事件の報告を受け、即座に迷宮入りを決定、
現場に残された酸素魚雷を、感謝の言葉と共に潜水艦隊に返却したのは余談になる。
返却された潜水艦は首を捻っていたと言う。