水上の番外編   作:しちご

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最糸話 狼娘アメリカン

 

―― これまでのお話

 

定期的に謎の魔法少女に撲殺されながらも、プラナリアよりもしぶとく、

一切の行動に迷い無きドクターヘルアカスィの資材浪費は止まる所を知らず、

 

予算編成に限界を迎えた龍驤率いる神通水雷戦隊は、泊地工廠へと突貫する

 

そこで摘発されたのは、新兵装 ―― 応急修理要員

 

【挿絵表示】

 

それは、昼なお冥き明石の地獄

 

【挿絵表示】

 

即ち白昼の悪夢であったか、それとも現実の出来事であったか

 

騒動の果てに一同が隠された真実に到達するも、僅かに生まれた隙、

伏していた夕張の奸計が形を成し、龍驤と神通は隔離された

 

孤立無援と化した二水戦陽炎隊は叫ぶ

 

何故にと問う

故にと答える

 

だが、人が言葉を得てより以来、問いに見合う答えなどないのだ

 

問いが剣か

答えが盾か

 

果てしない撃ち合いに散る火花

 

その瞬間に刻まれる影にこそ、真実が潜む

 

次回 ボクカワウソ

 

飢えたる者は常に問い、答えの中にはいつも罠

 

 

 

『万愚節番外 止めるっぽい、夕立を薄めるのは止めてほしいっぽい』

 

 

 

麗らかな書類の地獄、いつのもの提督執務室。

 

「何や今ものごっつエグい展開が在った気がする」

 

肩が赤く成るまでも無く、既に全身赤い水干の軽空母の言葉に、

相方の航空巡洋艦がしたり顔で頷いて相槌を打った。

 

「本編では入れようが無いネタの廃棄チャンスと言うヤツじゃな」

「キミら、メタ会話は止めなさい」

 

提督の的確なツッコミが飛ぶ、いつもの四月一日。

 

穏やかな晴れ模様が、突如屋根板を打ち破りそうな音を立てる

打撃力の高そうな豪雨に変わるのもよくある事で。

 

騒がしく奏でられる雨音の中、無駄に濡れ透けの制服を身に纏った

2隻の艦娘が、タオルで髪を拭きながら執務室へと入室してきた。

 

きわめて豊かな二組の膨らみが、雨に濡れて下着を透けさせている。

 

残念ながら挿絵は無い。

 

「配分おかしないかッ!?」

「だからメタるなと」

 

そんな第四の壁にチキンレースをする面々に対し、訪れた二隻の片方、

サラトガが連れてきた艦の肩を支え、凛とした表情で言葉を発した。

 

「認知してください、龍驤」

「待たんかい」

 

両肩を持たれ押し出されたのは軽巡洋艦。

 

米国籍を匂わせる制服は、白いブラウスをサスペンダーで吊るし、

サラトガと同じ色合いの髪を龍驤の様に二つに括る。

 

防空巡洋艦アトランタ級1番艦、アトランタ

 

端的に言って、サラトガと龍驤を足して二で割ったような外観である。

 

「いつかヤるとは思っていたが」

「ちょい待とか、ウチY染色体の持ち合わせ無いからな、本気で」

 

何の躊躇いも無く発言を信じた提督に、嘘臭い言葉を渡す隠し子持ち。

 

「私と言うものがありながら」

「この泥棒猫」

 

入口から顔を半分覗かせて、室内を伺う天津風と加賀が居る。

 

そっと無言で扉を閉める。

 

なにやらカリカリと、猫が爪で引っ掻く様な音を立てている扉を置いて、

濡れ透け巨乳母娘へと振り向いた龍驤が、改めてと言葉を発した。

 

「ええと、要は新人さんかな」

 

「I'm your daughter」

「のおおぉおぉぉぉッ」

 

血縁を確かに感じさせる、理力に弄ばされた親子の様な会話である。

 

「龍驤が認知してくれなかったから、防空巡洋艦などと親不孝な事に」

「え、何、空母がグレたら防空艦に成るの」

 

薄情な言葉に、泣き真似をする母親をそっと支える娘の在り様には、

国籍を問わぬ普遍的な、確かな愛情が見て取れた。

 

「つまり私も戦艦に ――」

 

軽快に扉を開けて発言した某駆逐艦が、入室してくる前に素早く扉が閉まる。

 

扉の前、疲れた気配の滲み出る軽空母に、何事かを言おうとする正規空母を、

私からと静かな声色で防空巡洋艦は押し留めた。

 

そして場の視線を集める中、アトランタが一歩近付いて口を開く。

 

「出撃してこいよ、全て叩き落してやる」

 

発言を聞いた利根が、真剣な表情で龍驤に向き直った。

 

「龍驤、お主まさか……」

「うん、今の言動で何かに気付いた様な顔をせんとこな」

 

前に出した手の指先を引き込み、血筋を感じさせる的確な挑発であった。

 

とりあえずと咳をして、意識を切り替えた龍驤が、

いつもの如くと演習場に向かうかと思われた矢先。

 

一歩も動かず、そっと手で指し示す。

 

「行けぃ夕立」

 

「ぽーい」

「ぬわあああぁぁッ」

 

斜め45度の角度から飛び掛かった夕立が、アトランタにしがみ付いた。

 

「航空母艦の誇りなど投げ捨てて、相手の一番嫌がることを選択する」

「流石ですね、龍驤」

 

何時の間にか解説の席に座っていた利根とサラトガが、冷静に発言する。

 

「遠征から帰ってきたわッ」

「さあ大人しく飴を寄越したまえ」

 

折良く遠征より帰投した六駆の面々が扉を開け、雷とヴェールヌイが宣言した。

 

「追撃の暁」

「よくわからないけど行くわねッ」

 

即座に長女をファンネル扱いする筆頭秘書艦。

 

そしてくるくると、踊る様に回り続ける慌ただしい3隻は、

腰回りあたりにしがみ付き離れない2隻の駆逐艦が竹蜻蛉の羽の様で、

 

その頭上にアメリカ製の豊かな膨らみが、バルンバルンと跳ね回っている。

 

「ちょ、待て、てめぇらッ」

 

などとしている内に気が付けば、左右の鉄の爪が、

2隻の駆逐艦の頬をむにりと掴み上げ、その身体を持ち上げた。

 

そのまま動きが止まり肩で息をする有様に、電の声が重なる。

 

「あれは、魔の龍驤クローなのですッ!?」

「キミら、実は出待ちしとったやろ」

 

間を置かず返しされた龍驤の発言は、先程まで居た場所からでは無い。

 

そう、アトランタの背後。

 

「え、ちょっと ――」

「ふんぬらばッ」

 

それは、6万5千馬力の鮮やかな艦娘橋(スープレックス)であった。

 

執務室に、あまり深く考えたくない感じの痛そうな音が3連に鳴り響く。

翻ったスカートは花弁の如くに広がり、その花芯をさらけ出していた。

 

火星人艦娘に転職を考えていそうな景観。

 

遠い目をした提督が、色気無いなあと呟いていたのは余談に成る。

 

 

 

(TIPS)

 

 

 

今まさに工廠ドックに資材を注ぎ込もうとしていた明石を止めた謎の超弩級戦艦。

 

【挿絵表示】

 

そう、彼女こそが行動隊長 ―― ビッグセブン!

 

「ブルネイ必殺武器だッ」

「おぅッ」

 

間髪入れずに放たれた言葉に、即座に身を翻したクラブ島風が応え、

その手にアルファベットのBを象った台座を掲げてから、床へと置く。

 

並ぶダイヤ不知火とハート天津風が掲げた車輪を、側転しながら備え付け、

最後に前転を決めながらスペード陽炎が、台座に連装砲ちゃんを設置した。

 

準備が整い連装砲ちゃんの四方でポーズをとっている陽炎隊の陣の中で、

徹甲弾を天に掲げたビッグセブンが、高らかに宣言した。

 

「ブルネイ必殺武器、ボクカワウソッ」

 

そして連装砲ちゃんに背後から、徹甲弾が装填される。

 

「ビッグ、ボンバーッ!」

 

掛け声に合わせ砲声が轟き、白煙を撒き散らし周囲の視界を遮った。

 

放たれた砲弾は如何なる原理に因るものか、

中空で爆散し、破片が変形し何物か外観を形作る。

 

無遠慮なまでに質量を感じさせる茶色の円筒の、前面に描かれた顔は、

死んだ魚の如くに濁り何の感情も感じさせない不気味な瞳を持つ、怪異の姿。

 

明石は、慄然たる思いでその物体を凝視した。

 

その、狂気に満ちた宇宙より現れた別次元の生物と思わしき悍ましき物体は、

遥か始原の時代に齎された、狂信的な高揚にも似た冒涜的な恐怖を呼び起こし、

 

自らの意思とは関係無く溢れ出る叫びは止まる事を知らない。

 

ああ、しかしヤツが。

 

響くのだ、足音が。

 

ひたり、ひたりと音を立てながら、いやあの柔らかい脚では

音など立て様はずが無い、ならば何故、何、いったいこの音はどこから響いて。

 

あああ、ボクがボクが。

 

カワウソと明石の境界が混ざり合い、混沌の中に悍ましき生命の冒涜が行われる。

 

そして明石とボクカワウソは錯乱しながら空中へと浮遊しはじめ、

やがてその上昇が頂点に達した時、激しい爆音と共に木っ端微塵に砕け散った。

 

【挿絵表示】

 

「ビーッグセブンッ」

「「「ブルネイッ」」」

 

―― かくして悪の足音は去り、泊地に平和の歌声が響き渡る。

 

だが、アレが最後の明石とは限らない。

 

もしまた提督が艦艇修理施設目当てに明石掘りなどをしたら、

その時はいったいどうすれば良いのだろうか。

 

水平線の彼方に沈む夕日に色付く明けの明星が、

血を吐きながら続ける哀しいマラソンを暗示していた。

 

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