水上の番外編   作:しちご

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撮終話 深き47mの蒼

(これまでのあらすじ)

 

「コメくいてー」

「でもやせたーい」

 

さわやかな朝のうまぴょいが、澄みきった青空にこだまする。

三女神のお庭に集うウマ娘たちが、今日も無垢な笑顔で背の高い門を走り抜けていく。

 

大人の事情で汚れを知らない心身を包むのは、淡い色合いの制服。

スカートのプリーツは乱れがちなので、見えても大丈夫な様にスパッツなどを穿いて、

 

何はともあれ走るのがここでのたしなみ。

 

もちろん、遅刻ギリギリにセグウェイで乗り付けるなんて、はしたない生徒など ――

 

―― 存在していようはずもない(強弁)。

 

府中トレセン学園。

 

昭和高度成長期時代に創立のこの学園は、もとは競バ場などで行われていた競バ学校に

端を発する、伝統ある日本ウマ娘トレーニングセンターである。

 

東京都下、武蔵野の面影の特に無いこの多摩地区で、三女神に見守られ、

中等部から何かちょっと時系列的にファジーな一貫教育が受けられる乙女の園。

 

時代は移り変わり、元号が昭和から二回も改まった令和の今日でさえ、

三年通い続ければ周回育ちの厳選漏れ培養ウマ娘が箱入りで出荷される、

 

という仕組みが未だ残っている貴重な学園である。

 

その様な学園の寮の一室で、サンイレンススズカは今日も元気に左旋回をしていた。

身体の動きに合わせ、栗色の長い髪が一定の間隔で流れ続けている。

 

サイレンススズカと言えば、とりあえず左旋回をするウマである。

 

馬と言う生き物が存在する異なる世界でも、サイレンススズカと言えば左旋回であった。

 

暇があると左に旋回する、手持ち無沙汰だと左に旋回する、間が持たないと左に以下略。

 

所謂、左旋回癖と言う症状であり、足に負担がかかるので矯正するのが望ましいのだが、

馬房に障害物を置くなどの対策をして矯正を試みても、問答無用で旋回する。

 

何があろうと旋回する、意地と根性でとにかく旋回する。

 

最終的に畳をミッチリと立てかけて身動き取れないようにするにまで至ったが、

そうしたら旋回できないサイレンススズカが ―― 恐ろしい速さで衰弱した。

 

此の世の残り3ハロンを全力疾走する勢いであった。

 

詰まる所、左旋回に命を懸けた馬である、泳げなければ死んでしまうマグロの様に、

旋回しないサイレンススズカもまた死んでしまうと言う事が証明されてしまい、

 

関係者一同は天高く匙を投げたと言う。

 

流石は一見大人しく見えつつ、本当にサイレンスの血筋なのかと訝しく思われる中、

ターフに立ったらスピードをキメた激走ジャンキーと化し納得される暴走特急である。

 

見た目と違って、基本的に我が道を征き言う事を聞かない。

 

そんな記憶と宿命を受け継いだウマ娘もまた、当然の様に室内を旋回する。

考え事をしている中で無意識に、ぐるぐると部屋を回り続ける。

 

「ひぐッ、うげふッ、ちょ、スズカさん、待っ、ぬぐぁッ」

 

何か二期で主人公から暴食担当に転職したフードファイターが足元に巻き込まれていた。

 

そんな同室のスペシャルウィークの声を聞き流しながら、思う事もまた同じウマ物の事である。

 

呼び名だ。

 

自分は親愛の情を込めて「スペちゃん」と呼んでいるのに、

何故に彼女は「スズカさん」と微妙に距離のある呼び方をするのだろう。

 

学年がちゃうからやと、的確にツッコミをいれてくれるタマモクロスなどはココに居ない。

 

深刻なツッコミ不足の影響を受け、思考は止まる事無くぐるぐると回り続け、

ついでに身体も左に回り続け、足元のスペシャルウィークも転がり続ける。

 

「……うーん、やっぱ今度のお昼にでもスペちゃんにそれとなく聞いてみようかな」

「そ、想像じゃなくて現実の私に目を向けてくださいスズカさあああぁぁん」

 

足元に絡まっているスペシャルウィークは、もはや前衛的な角度に転がされ回っている。

 

今日もトレセン学園は平和であった。

 

 

 

『万愚節番外 これを艦これと言い張る勇気』

 

 

 

「何や冒頭からめっさ浸食されとるッ」

 

赤い水干の軽空母の叫び声が響く。

そんなこんなの5番泊地である。

 

「何でこんな事になってしまったんだ」

「昨年に霧の列車に乗った作者が書く時間とれんなってしまったからやな」

 

「それじゃなくて」

 

メタから帰って来ない龍驤を提督が引き戻せば、

血と硝煙の香りが潮風に乗り、二人の元にまで届いた。

 

そんな二人の目の前の光景。

 

上陸した鮫は容赦なくアイオワを咥えて、ビタンビタンと蠅叩きの様に地面へと打ち付けている。

 

6つある頭を蜘蛛の脚の如くに動かして、泊地埠頭を暴れまわっていた。

 

鮫か、鮫やな、鮫かぁ。

 

既に互いの目のハイライトは消えている。

 

死んだ魚の如き目を向けていた傍観者たちの内、現実逃避から戻った平たい方が口を開いた。

 

「アイオワがな、BBQしたい言うたんや」

「アメリカ艦だもんな」

 

アメリカと言えばBBQである。

 

アメリカ人にBBQするなと言う事は、息をするなと言うのと同義であると古事記にも記されている。

 

「金髪が海辺でBBQしたら、鮫が襲ってくるもんやろ」

「そう来たか」

 

世界中の鮫映画愛好家たちの想念が、現実を夢想に書き換えている実例であった。

 

騒々しく、複数の艦娘たちが入り乱れ、騒々しい埠頭を眺めていた龍驤と提督に、

事が起こるや否や要領良く避難していたアトランタが合流して、揃ってコーラの缶を齧る。

 

「ポップコーンが欲しい」

「飛び出す立体映画やな」

 

「風と臭いの4D体験か」

 

適当な感想を口にする避難組は、菓子と飲み物を売り捌く明石から何某かと買い揃え、

空中に打ち上げられる駆逐艦などの死屍累々を眺めながら、わらわらと集まっては観客と化す。

 

そんな屍を踏み台にして、空へと舞い踊る赤金色の正規空母は誰か。

 

空中より飛び掛かったサラトガのチェーンソーは、何某かの聖剣の如き切れ味を発揮して、

爆音と血飛沫、肉片を撒き散らしながら振り抜かれ、見事にその頭の一つを斬り飛ばす。

 

アメリカ艦とチェーンソーのシナジー効果は鮫特攻なのは言うまでも無い。

 

そして切り落とされた鮫の頭は、その勢いのままに宙を飛んだ。

 

後衛、甲板を構え艦載機を飛ばしていた瑞鶴の視界に、鮫の頭が大きくなる。

 

空を飛んだ鮫の首は、回転している。

 

そのまま瑞鶴の立つ方向へと飛んで行った。

 

空を飛んだ鮫の首は回転している。

 

くるくると回転している。

 

マグヌス効果と言うモノが在る。

 

回転しながら進む物体の表面に接する流体が、粘性によって回転運動に引きずられ、

相応する循環が周りに発生し、移動方向に対して垂直、つまりは揚力が発生する現象を言う。

 

例えば野球に於いて球の回転で軌道が変化するのは、このマグヌス効果に因るものである。

 

要するに、曲がる。

 

鮫の頭は綺麗に弧を描き、血飛沫を撒き散らしながら瑞鶴に至る軌道から逸れ、

鈍い音を立てて横で様子を窺っていた被害担当の姉に直撃した。

 

ぐちゃり、ずべしと。

 

「ああ、翔鶴姉ッ」

 

何かいろいろと撒き散らしながら翔鶴が、頭を抱えた様な状態で吹き飛んでいく。

 

その果てに転がるような接地、そして ―― 爆発。

 

「あかんな、切り落とした鮫の頭が爆発するんは常識やろうに」

「前衛のデストロイヤーたちはちゃんと対応していると言うのに」

 

「あれ、言葉は理解しているはずなのに内容が理解できない」

 

どうでも良いがグラーフ、アクゥイラ、大鳳、扶桑姉妹などの泊地不運組は、

既に六頭鮫上陸時に踏み潰され、背中に鮫の鼻型をつけた状態で埠頭に転がっている。

 

【挿絵表示】

 

甘噛みされているアイオワと今の翔鶴で、丁度頭六つ分であった。

 

「選ばれた贄を捧げて、何か召喚できそうな感じやな」

「やめれ、陰陽系が言うと洒落にならん」

 

防空爆乳は我関せずとコーラを咥えている。

 

【挿絵表示】

 

「つーかキミら参戦しないのか」

 

空き缶を潰しながら提督が暇艦たちに問い掛ければ、意外に真面目な声色の返答。

 

「そこはほれ、フライングシャークが来たらアトランタに撃ち落としてもらわんと」

「ゴーストシャークが出たら龍驤に対応してもらう」

 

内容はあまり真面目では無かったが。

 

「何か鮫に理不尽な攻撃力を与えている要因が、ここに二隻居る気がする」

 

気が付いてはいけない事に気付いてしまった提督が首を捻れば、

戦友への信頼の滲み出る力強い笑顔と龍驤が言葉を紡ぐ。

 

「以前に駆逐艦を授業で鮫映画漬けにしたしな、もうこれは連帯責任や」

「前にアカツキやナイトメアが、毎週頭が一個増えていくとか言ってたのはそれかー」

 

晴れがましい笑顔の横に、納得の巡洋艦。

 

「要因どころか諸悪の根源じゃねえかッ」

 

騒々しい戦の埠頭に、やるせない思いを込めた提督の叫びが鳴り響いたと言う。

 

【挿絵表示】

 

余談だが、一連の事件が終わって物事の整理が進んだ後、

諸悪の根源は、良心担当の航空巡洋艦にハリセンでシバき倒されたらしい。

 

 

 

(TIPS)

 

 

 

開店休業状態の鳳翔へと入ったのは私、島風です。

 

何か表では幽霊鮫を陰陽系総出で対処していたり、確保したフカヒレを干していたり

米利堅艦一同が容赦無くBBQを再開させていたりと、混沌とした状況でして。

 

とりあえず私は連装砲ちゃんフルスイングで鮫を叩いたりしていたのですが、

どうにも実体の無い相手になると手も足も出ないわけでして。

 

結局、駆逐艦組一同切り上げてBBQに参加と相成りました、お憑かれ様だね。

 

そんなわけで、良く焼けた竹筒を抱えて鳳翔厨房で深皿を取り出す私。

見れば提督がひっそりと一人呑みしていたので、仕方無しとわけてあげましょう。

 

「いや、竹筒持ってこられても何なんだか」

「バンブーチキンとバンブーライスだよ」

 

言いながら竹筒に蓋としてねじ込まれていた椰子の葉を取り除き、深皿にだばー。

 

「バンダルスリブガワンから密林に向かったあたりに住んでる、イバン族の料理だね」

「説明されてもまったく想像がつかねえ」

 

竹筒にタマリンドに漬け込んだ鶏肉と玉葱を入れて椰子の葉で蓋をして、

火が通るまで焼き上げる伝統料理と軽く説明をする。

 

ブルネイはもともと少数部族が群雄割拠する地域で、そこを帝国が後ろ盾となって

一つにまとまり、日本国ブルネイ県として編入されたのがはじまりな国なわけで。

 

何だかんだでまだ少数部族が残ってたりするのだ、密林のあたりに。

 

この竹筒料理のイバン族の様に、まあ分類上はブルネイ人なわけだけど、

伝統的な生活を続けている集団で土着宗教などを信仰している非イスラムだったりとか。

 

そんなわけで深皿には、玉葱の水分と肉汁に揺蕩う鶏肉玉葱。

 

「うーん、竹と椰子の香りがサッパリさを増幅している」

「密林料理って言われると、そう言う事かって感じのサッパリさだな」

 

暑い時はこうだよねって感じの作り。

 

「まあ伝統料理だけど、さりげなく日本の影響も見て取れる一品なのさ」

「どこらへんが日本なのか、ちょっとわからんな」

 

見た感じではわからないだろうと思い、素直に答えを口にする。

 

「味の素が入ってる」

「をい」

 

いや、慰問袋にも入ってたりしてたからね、味の素。

 

「んでこっちはバンブーライス、ココナツミルクで糯米を炊いてる感じ」

 

ずるりと竹筒羊羹の様に出てくるのは円柱状の糯米、竹の内側の皮が張り付いて

何か包装されてる感じになっている所を、包丁でスライスしていく。

 

そして円盤状の糯米から皮をペリペリとはがして、食む食む。

竹と椰子の香りが鼻腔を抜け、舌がココナツの甘い口当たりを覚える。

 

「コンビニの赤飯を思い出す、いや味は違うんだが」

 

などと言う提督の言葉に、ちょっとわからないなあと首を捻る事。

 

ブルネイでコンビニと言われるとミニマートだから、

コンビニで買う食べ物と言われても、バナナ、パン、屋台って感じで何か違うし。

 

これはもう後日、乳波を誘ってタイあたりで日本系コンビニを回ろうかとか。

そんな感じでコンビニおにぎりに興味を得た、そんな昼下がりでした。

 

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