年の瀬も迫るこの時期に、α遊星人もかくやとばかりに礼号年長組をベラボーしとると
ええ感じに豚肉をドロップするさかい、何やこのところ昼は連日の豚肉祭り。
焼いた豚と茹で玉子を各種スパイス、ナンプラーなどで味を調えたカラメルで煮込んで
そこはかとなく南国の気風が在る煮豚が出来上がると言う塩梅。
まあ大豆醤油や塩胡椒でもええんやけどな、沖縄のコーラ煮みたいな感じで。
んでま、味が濃いし甘塩っぱいんで飯に合う。
「何か見ない煮豚だが、国籍はいったい何処なんだ」
「
書類を避けて置かれた昼飯に司令官が疑問を出せば、素直に答え。
「東坡肉とか、中華の角煮が歴史の流れの中で諸外国に広まったわけやけど」
日本でも豚食ってた琉球、九州あたりに伝わって現在の豚角煮へと続いとる。
「ベトナムではこんな感じに成ったってとこやな」
ココナツシュガーをカラメル化させて、魚醤入れて煮込むとかそんな感じ。
市販のカラメルソースを使うと物凄く手間が省けて簡単に作れる、お薦め。
そんな書類の山と言う現実から逃避しつつ執務室で、司令官と秘書艦組一同が
現実から逃避しつつ、逃避しつつ、まったりと白米を消費する昼時を過ごしとったら。
「龍驤せんぱあああああああいいいぃぃ」
緑の阿呆が飛び込んできた。
「飛龍が酷いんですよおおおぉぉぉ」
「いやかましいわこの爆乳」
容赦無く人の横顔を脂肪の塊で圧迫する蒼龍の、後頭部を握り絞めて引き離す。
見れば涙目に成っている有様に一体何事やと聞いてみれば、
え、頭蓋骨がミシミシ言うたから、何の事やらサッパリやな。
「たまには男気の溢れていない料理を作れとか言ってくるんです」
「作れや」
シンプルな回答に、何故か天使が通りすぎた様な静寂がしばし。
「てへぺろ」
とりあえずイラッとしたので顔面を握っておいた。
『義務で浮かべるスマイルの価値は0円』
冬と言われても気温のせいか実感がまるで無い今日この頃、島風です。
今日は新人のストンしてないジョンに誘われてお昼ご飯なのです。
何か最近のジョンは陽炎隊とよく組んでいて、すっかりと馴染み顔なのですが、
露出のせいか
まあ何ですか、米帝艦に対して思う事は無い物なのかとたまに聞かれます。
そうですね、山城さんの教導を潜り抜けた駆逐艦は魂の姉妹です、何の問題もありません。
そんなわけで昼の居酒屋鳳翔にホイホイとついていった私なんですが、
カウンターの向こう厨房側、そこに居たのは赤鉄色の髪を靡かせた正規空母で。
くわないか
しまった米帝だ。
逃げ出そうにも扉は閉まり、もはやカロリー即ち熱量を摂取せざるを得ない昼の闇。
「思うのですが、泊地と言うか日本も英国も勘違いしているんですよね」
そしてカロリーの化身が狂信的な高揚にも似た悍ましい何かを吐こうとしています。
「サンドイッチは、好きな物を食べる料理なんですよ」
何か哲学的な事を言い出した。
「好きな具を挟んで食べるものだよね」
「違います、好きな物を食べる料理です」
違いがわからない、と言うかもしやコレは理解しては駄目なヤツでは。
「パンを使っているのは手を汚さないためで、言ってしまえば手袋でも良いわけです」
洗ったりとか面倒が無いから、ついでに食べられるパンを使っているだけとか言い出した。
「まあだから、そんな余分な物をどうにかするための工夫があるわけで」
積み重なる言葉に不安を抱えている内、ジョンが駆逐艦用のドラム椅子を片づけて、
カウンター前に何もない空間を2隻分ほど作りつつ、彼女がオーダー。
イタリアンビーフサンドイッチ2隻分、
「イタリア風のサンドイッチなのかな」
「シカゴ生まれ、イタリア系移民のアメリカ料理よ」
抱いた疑問に横からジョンが答えれば、正面からの補足。
「シカゴは19世紀のシカゴ大火で更地になった後に、移民で埋まった土地なんですが」
サラトガさん曰く、シカゴはイタリア系がマフィアごと大量に移民してきたせいで、
微妙に料理もイタリアと言うか、そんな感じで生まれたシカゴ名物のサンドイッチらしい。
などと話しながら、ローストした牛を薄くスライスして鍋に放り込んでいる。
鍋の中には何か緑色の唐辛子っぽいものと、グレービーソース。
牛肉をローストした時に浸していたスープに各種スパイスで作ったらしい。
「こうやって肉を、煮込んだ肉と肉汁のスープに分解するわけです」
観ている内にも、ローストビーフの赤が熱を受けて煮込まれた肉の色に変わっていく。
「そして煮込んだ肉をパンに挟み、パンで肉汁をディップします」
ざっくばらんに切り分けたフランスパンに切れ目を入れて、
なんかとてもアメリ艦って感じに大量の肉片を挟み込み、
鍋の汁にポイですと。
「それでまあ、食べる時はまず足と脇を開くわ」
そしてジョンが隣で、イタリアンスタイルなる食べる作法の説明をはじめた。
「そして腰を引いて、前傾姿勢で両肘をカウンターに着く」
説明された通りの姿勢を保ち、二隻並んでその姿勢。
「何故に」
「服を汚さないためよ」
容赦なく汁が零れるらしい、カウンター下までだばだば流れるほどに。
しかし何だろう、この姿勢はとても危険な感じがする、乙女の尊厳的な何かが。
そんな視界がカウンターで埋まりそうな超前傾姿勢で待っていると、
サンドイッチが乗った皿が目の前にビチャンと置かれ、いや待って、何か音がおかしい。
うん、既に皿の底に染み出した肉汁が溜まって池を作っている、凄いねナニカが。
「それで顔に近い方を軽く持ち上げて、齧りつくわけです」
頭の上の方から予想可能で回避不能な凄まじい指示が飛んできたのですが。
「靴は」
「諦めなさい」
潔い。
ああ、うん。
よし諦めた。
なので限界まで水を吸ったスポンジの様なパンを左右から軽く持って、
だらだらと零れ続けるグレービーを意識から外し、大口を開けて齧りつく。
だばー
いやもう何かあれだね、だばー、肉汁が豊富とかそういう段階じゃないよね、滝だねコレ。
皿から溢れ、カウンターから零れた汁が足元でびたびた言ってるよ、どれだけなのかな。
ちょっと今、私の瞳から完全に光が消えているような気がしているよ。
そして虚ろ極まっている脳内に叩き込まれたのは、肉と言う概念。
口の中に溢れる肉汁、歯応えにかかる大量の肉片、舌の上で踊っているのは肉の全て。
うん確かに、これは好きな食べ物としか表現できないサンドイッチだ。
構成している素材全てで、肉と言う食材を表現し尽くしている。
咀嚼して、呑み込む。
「肉だ」
「肉よ」
「肉ですね」
他に何とも言い難い。
とりあえずまあそんな、靴と摂取カロリーの事は考えないようにしたいお昼時でした。
(TIPS)
何があったのか、鳳翔店内が妙に肉臭い。
昼時に捕まえた蒼龍の前に書類の山を配置したおかげで、結構早めに仕事が上がり
その後は流れるように厨房に入ったウチが、あれ、そこはかとなくおかしないか。
「何か蒼龍の魂が抜けている感じなんですが」
自問するウチの視界の先、カウンターで、司令官の隣に座っとる飛龍が言う。
反対側には蒼龍の残骸が転がっとるが、まあ些細な事や。
しかし男気に溢れてない料理言われても、どんなもんなんやろな。
「ごちゃごちゃややこしい理屈で作る料理、とかですかね」
「キミ実はかなりおおざっぱやろ」
飛龍から出たのは、何か多門丸の影響がひしひしと感じられる酷い了見。
ともあれ脂を敷き、熱したフライパンに入れた牛の一枚肉を、さっさと引っ繰り返す。
「牛肉は焼き固めておかないと、肉汁が漏れたりしませんか」
「肉汁なんてのはどうやっても零れるし、どう焼いても漏れる量はさして変わらん」
まあ熱が足りんで無駄に漏れるとか、下手な焼き方すると結構変わるけどな。
そんな事を言いながら、肉をぽいぽい引っ繰り返す。
「蛋白質、要するに肉は熱を与えれば変性するわけやけど」
ざっくばらんに言えば、低温で火が通り高温で硬くなる。
「高温で歯応えとメイラード反応を求めるか、柔らかさ狙いで低温調理するって感じや」
引っ繰り返しながら適当な事を言えば、司令官が会話を拾った。
「強火で軽く焼いた後に、ホイルで包んで寝かせるとか言うヤツか」
「フレンチの方の流行りやな、余熱調理で肉に限界まで柔らかく火を通すやり方や」
日本国内だと炊飯器を活用するとか、昨今にいろいろとアレンジされとるな。
「良く焼いてても、肉叩きとかで叩くと柔らかくならないか」
「あれは繊維を仏契る、要するにハンバーグが柔らかいみたいなもんやからな」
叩きや筋切りで入った傷は肉を崩れやすく、口の中で柔らかく感じさせはするが
その傷口からは内部に熱が伝わり易くなり、肉自体は高温に曝されとるわけで。
つまり気付きにくいだけで、肉は相当に硬くなっとる。
「んなわけで、どんな安い肉でも叩けばそれなりの柔らかさにはなるけど、
お高い柔らかい肉を叩いたりすると、それなりの柔らかさにまで硬くなってしもたりな」
引っ繰り返しながら肉叩きを語りつつ、さらに引っ繰り返す。
「餅かと思うほどに頻繁に引っ繰り返しますね」
会話の合間、フライパンを眺めとった飛龍が疑問を差し込んできた。
「フライパンみたいに一面から熱を与える感じの調理ってのは
面していない側、要するに上側が常に余熱調理されとる様なもんやから」
頻繁に引っ繰り返せば肉自体には低温調理の如くに火が通り、その割に
表面温度の上昇は緩やかであり、メイラード反応が起こるのを遅らせる事が出来る。
このやり方やと結構厚い肉でも火が通るし、柔らかいのに表面はキッチリ焼けて香ばしい。
「つまりガッツリ焼くのと、柔らかく焼くタイプの肉の良いとこどりやな」
悪く言えば中途半端か、まあ好みの問題や。
柔らかいステーキを食べたいけど、ちゃんと肉食ってる歯応えと焼いている香りも欲しい
なんて感じのクソ贅沢な我が侭に対応するのなら、こういう焼き方にもなるわ。
んでま、焼きあがった肉を大き目の皿に乗せ、ホイルを被せて休ませる。
そのまま冷える前に醤油だのバルサミコ酢だのをフライパンに放り込んでソース作成と。
「そしてお洒落な感じにソースをかけてー」
「ソースが皿の余白に無駄に走っているなあ」
作り置きのレモンバターも乗せて、何となく贅沢な見た目に仕上がりはしたんやけど。
のほほんとナイフを走らせる司令官の手元を眺めながら首を捻れば、飛龍からの一言。
「女子力は、無いですね」
「そやな」
何か腹の出たベテランシェフのとっておきってノリの出来栄えや。
「お、男気は溢れとらんで」
「柔らかいし美味しいぞ」
「ううん、文句のつけようも無いのですが何か違うと」
あかんわからん、女子力って何やろう、知らない食べた事無い。
つか肉を焼いて女子力とか言い出すのが間違っとんねん、ウチ悪くないきっと。
とか飛龍と一緒に目を逸らしながら平和的な結論に到達しようとしていたら、
通りすがりの川内がさらりと果物の飾り切りで薔薇を作り、皿の隅っこに乗せた。
「…………」
「…………」
「…………」
敗北感が、凄い。
そんな感じの、わけのわからんほどに肉々しい鳳翔の夜やった。