欧州からの要請で、大西洋の深海勢力に対する反攻作戦が本土主導で行われた。
ウチらは東南アジア鎮守の一角である以上、基本的に蚊帳の外に在るんやけど、
各国の勢力争いの影響を受けて、泊地所属の他国籍艦数隻が作戦に参加しとる。
とりあえずグラ子とポーラ、べるぬいとアイオワが参加中。
「ビスマルクからはソーセージ、タウイタウイ宛てやな」
「アイオワからはチェダーですね、鳳翔の方に入れておきますか」
ウチが宛名を読み込めば、隣で赤金色の髪の空母がダンボールを開く。
うん、何かアメリ艦の複数参加を嫌がる国が多かったせいで、サラが居残り。
ドイツ艦は結構参加しとるのになあ、やっぱ大洋挟んで遠いからか。
そんなわけで、ウチと一緒に送り付け続けられとるお土産を仕分けしとる最中。
「ポーラからは、どうせ可燃性の水やろなあ」
「アルコールの入った水ですね、間違い無く」
開けるまでも無い一箱に、割れ物注意の札を張って横に除ける。
「これは横須賀組から5番泊地宛て、何やねん一体」
中身の書いていない箱を開くと、そこに見えたのは金と青。
ミッチリと詰まっとった。
ふたつ括りにされた、やや荒れた膨らみのある金髪と青い色の制服。
小柄な割に肉感的な肢体が箱に詰め込まれ、涙目で震えている。
何か、ベーイとか鳴いとる。
「………」
そっと蓋を閉める。
「WAIT、ちょっと待ってください龍驤」
ガムテで封じて横須賀宛ての伝票を貼ろうとしたら、サラに止められた。
『新しい船が来たみたいだよ、追い返そう』
サラトガの後ろにしがみ付きながら、小柄な護衛空母が口を開く。
「It's a pleasure to meet you、Casablanca級19番艦、Gambier Bayです」
たゆんたゆんの後ろで、たゆんたゆんが震えてて、たゆんたゆんが、たゆんたゆん。
もいだろか。
「えーと、同行しとったけど栗田艦隊が多すぎて箱に隠れとったと」
気を取り直し聞き取りを続ける事にする。
言われてみれば成程、5番泊地は栗田艦隊の巣窟と言われても仕方のない面子。
てっきり、横須賀のウチか大和あたりが梱包したかと思ったわ。
とりあえず豊かな小動物を落ち着けるため、飴ちゃんあたりを渡して餌付けておく。
「バストが在るのに、意外に好意的ですね」
「だってウチより背が低い空母やで」
敢えて重ねて言おう。
「背が」
拳を握り力説する、ようやくや、ようやく1万トン越え古参空母でありながら
全航空母艦中最小の称号を返上する時が来たんや、別にウチの背は伸びんけど。
「えーと、日本のキャリアーの方ですよね、お名前を伺って宜しいでしょうか」
飴ちゃんをコロコロさせた甲斐があったのか、ようやくに少しだけ顔が見えた。
「龍驤や」
「びえええええええええッ」
そして引っ込んだ。
「待て、ウチら直接絡んどらんやろ、何で泣きながら引っ込むッ」
「リュージョーって、イッコーセンじゃないですかあああッ」
そういや戦没組かこやつ。
うん、戦勝を喧伝するために過度に持ち上げられて広報された支那事変の英雄、
米軍に前代未聞の公式命令「敵前逃亡の許可」を出させた第一航空戦隊。
つまり加賀と鳳翔さん、ついでの赤城とウチや。
「ちゃうでー、ウチ二航戦やでー、蒼龍パイセンの後釜の軽空母やでー」
宥める言葉を出している内、何や弓道場の方で蒼龍の胃に穴が開いた気がする。
「まあ、私がこれだけベッタリなんだから相手はお察しですね」
「いやオカシイですよね、サラトガさんリュージョーを沈めた艦ですよねッ」
うむり、まさかウチに当ててくる爆撃が在ろうとは的な。
「いやあ、思えば見事に沈められたもんや、頭に腕に心臓ときっちり致命の3連撃」
「私の生涯でも、あそこまで綺麗に叩き込めた機会は2度とありませんでしたね」
互いに頷き、ハイタッチ。
「何で和気藹々としてるんですかーッ」
いやだって多分、恨みとか辛みとかは深海の方が持ってっとるやろうし。
「何じゃ騒がしいの、新顔か」
姦しい音に誘われたか、コンテナチェックに回っとった利根がやってきた。
…………あ、ちょい待て、あかん。
「―――― べーい……」
「な、何故じゃ、何故吾輩を見た瞬間に卒倒するッ」
ガンビアベイ、栗田艦隊に散々小突かれた上で、利根に撃沈された艦やった。
西方の海、深海の姫を下した艦隊が海上に法陣を展開した。
陣の光源から歩み出す姿は、やや小柄な体躯に戦艦の艤装、僅かに癖の在る白銀の髪に、
赤のシャツに重ねる白のコート、将校帽の下の整った顔立ちには、頬に一筋の傷跡が在る。
「ふん、私がガングート級一番艦ガングートだ、いい面構えだ、いいだろう」
弩級戦艦、ガングート級一番艦ガングート。
「どこかで見た顔だなちっこいの、曳航艦のデカプリスト、だったか」
「その前の段階だね、ヴェールヌイだ、宜しく同志ガングート」
同じ色彩、白を基調とした駆逐艦が迎えれば、軽い会話が続く。
「ところでだな」
そっと目を逸らしていた方向を伺いながら、戦艦が問い掛けた。
「あそこの握り拳で震えながら喜んでいる戦艦は何だ」
「たった今、艦娘最古参の座から転げ落ちた事を喜ぶ金剛だよ、日本の戦艦だ」
ガングートの進水は1911年、金剛よりも1年ばかり早い。
「そして艤装をこちらに向けたまま臨戦態勢なヤツらは」
「アイオワとビスマルクだね」
共に東南アジアのブルネイ鎮守府群に所属していると、
一切合切を無視したヴェールヌイが涼しい顔で説明する。
「ちなみに私の所属泊地には、魔王を呼べる空母が2隻居る」
「この世の地獄か何かか」
軽い口調で行われた補足に、端的な感想が告げられる。
「少なくとも、味の在る食事がとれるよ」
「天国か」
何にせよ、帰投するまでが長そうな気配が漂いはじめた海域であった。
速報を眺めながら司令官に報告をする。
「やだー、ヴェールヌイがロシア戦艦連れ返ってくるんやって」
「やだー、戦艦が増えると火力担当のローテが楽になるなあ」
おかしいな、やったーと言ったはずなのに何か違う、お互いに。
「いやさ、本土の連中、ウチを危険物廃棄場か何かと間違えてないか」
「アイオワ確保したあたりで、戻れない一線を越えた感が在るわな」
それでそこの1隻はと、前振りの会話の隙間に問うて来たので、紹介を。
何やさっきからウチの3歩後ろあたりに控えとった新顔の、
首根っこを引っ掴んで前へと持ち運ぶ、一応は見知った顔。
黒髪を後ろにリボンで束ね、白の七分袖に緋袴、左手に革手袋を嵌めている。
艦種は一応軽空母、そしてウチより背が低い、ウチより背が低い。
何、来とるの、もしかしてウチの時代が来てしもうとるの。
「龍驤さん専用外付け格納庫、春日丸と申します」
ちょっと待とうか。
「春日丸、何や今凄い単語が聞こえたんやけど」
「心は今でも、龍驤さんの格納庫です」
待って、本当に待って。
いやさ、南方で確かに艦載機積めるだけ積み込ませて引きずり回したけどさ。
仕方ないやん、空母ウチしか居なかったんやから、不可抗力やん。
つーか春日丸、改装してちゃんと空母なったらしいやん、つまりもう時効やん。
「そうか龍驤、ついに巨乳以外もインターセプトする様に成ったか」
「インターセプト言うなッ」
返す刀の様な返答の後ろ、執務室外からドタドタと騒がしい音。
「龍驤ちゃん専用外付け艦本式缶、島風参上ッ」
「え、えーと、龍驤専用曳航艦の天津風よッ」
「防諜担当ーッ」
振り向けば大淀がカラフルな菱餅のミルフィーユ的なモン食っとる。
米粉にココナツミルクを加えて蒸しあげた菓子、甘さ控えめモチモチ外郎食感。
屋台でよく見る菓子、
クエには他に、トレーに入れて固めるクエ・
コーンを練り込んだクエ・
「あー、龍驤、現実逃避するでない」
島風たちが大鷹さん久しぶりーなどと言うとる手前で、利根がウチを現実に引き戻す、
「まあ何じゃ、龍驤専用のツッコミ担当、利根じゃ」
そこで乗るな。
「龍驤専用扶養家族の加賀です」
生えてくんな。
とりあえず、加賀は簀巻いた。
単冠湾泊地、本棟東側、
祈るべき神の数と同じ
豊かな身体をアットゥシと呼ばれる青白の衣装で包み、流れる銀の髪を
側面に見える柔肌の面積は大きく、撮影器具を抱える報道の視線を釘付けにしていた。
神威型補給艦一番艦、神威。
片手の
そのため
供物と言葉を
その姿は雨で在り、春であり、狐であり、熊であり、自然そのもの、恵みとして現れている。
故に狩猟などの後には、その霊を送る
――
「
透き通る声が響き、
やがて全てを終えれば、最期に
その様な姿を眺めながら、配られた
「えーと霧島、私の記憶ではあの娘、アメリカ艦ではありませんでしたか」
ウォースパイトが困惑を伺わせる微妙な表情で問い掛けた。
「所属は日本海軍よ、名前も神威だし」
しかし建造はサラトガと同じニューヨーク造船所である。
2隻とも当時の最新技術であった電気推進システムを推進機関として搭載しているので、
艦種や所属の違いは在れど、従妹的な立ち位置と言えなくも無い。
「
困惑を深くする英国艦に、日本艦が肩を竦めて一言を伝えた。
「何でも、補助金が出るそうよ」
身も蓋も無い話であった。
言葉に静止したウォースパイトが、しばし黙考し、
先程教えていただいたのですがと前置いて、呪いの言葉を口にする。
「
杯から唇を離した霧島が鸚鵡に応えた。
「
しばしの無言の後、互いに肩を竦めて苦笑する。
違い無いと視線を合わせながらが頷き合い、互いにもう一舐めと
「意味は」
「巻き添えを食いませんように、ですわ」
酒精に火照る身体から、僅かに凍て付いた秋風が熱を奪った。
(TIPS)
執務室で司令官と島風、天津んと一緒にクエを食う。
様々な形、随分とビビッドな色合いの蒸し菓子や。
つーてもこの色彩はローズやバンダンリーフ、バタフライピーなどの植物、
花や葉っぱから色をとっとるから、別に妖しいもんやない。
「東南アジアのお菓子は甘いのが多いけど、これはほんのりで嬉しいよね」
「まあ南国式外郎言うか、南国式菱餅言うか」
島風の感想を適当な言葉で濁す。
羊羹言う人も居るな、その割には甘みが足りんけど。
外では第二次
けど執務室内のウチらからは、何も見えないし聞こえない。
何も見えないし聞こえない。
利根はベイやんに付いてった、とりあえず卒倒されない様に何とかしたいらしい。
でも何や外から、べーいとか鳴き声が聞こえるし、えらい難航しとる様や。
「何かお前がサラトガと意気投合しているから、つい忘れがちになってたよ」
鳴き声で提督を動かすか、やるなベイやん。
「つーても恨みも憎しみも、海の底に置いてきたしな」
あれは単に怯えとるだけや。
「置いてきた分が、今まさに人類に牙を剥いていないか」
何や色々と大変な太平洋沿岸、今回に砲火を交えた大西洋側を連想する。
しかし魄は深く沈み魂は天に昇る、地上のウチらに何が残ると言うのか。
「記憶に御座いません」
ならばこそ、責任も無いのが道理やな。