ゼロの闇夜~貴族嫌いの使い魔~   作:R0

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投稿が遅れてすみません。

タイトル通り、今回は険悪な雰囲気になるので、ご了承ください。


闇夜と険悪

「ファ~……朝か……」

 

自分の顔に差す朝日にとある建物の壁にもたれ掛かって寝ていた輝夜が目を覚ました。

 

(……夢じゃなかったか)

 

起きた輝夜は周りの景色を見て、昨日のことが現実だと、改めて思い知った。あの後、輝夜は女子寮から外に出たが、辺り一帯は夜のために真っ暗だったため、何か行動を起こすのは、朝になってからでいいかと考え、そこから少し歩いたところにあった建物の壁にもたれ掛かって眠ったのであった。

 

(とりあえず、今の俺の所持品は予備のAランクの闇夜のリングとドレイクの匣とガンブレードを入れている保存用の匣だけか……)

 

輝夜は今の所持品を確認した。死んだはずの自分が生きていることと同様に壊れたと思っていたものがあることに不思議に思っていたが、今の輝夜はそれよりも気にするべきことがあった。

 

(…………金が無いな)

 

そう、これから生きていくために必要なお金が無いことだった。今、自分のいる場所が知らない土地ならば、仮にお金を持っていたとしても、使えなかっただろうと輝夜は思った。

 

(まぁ、町に行けば、働ける場所とか見つかるだろう。この世界では、別に俺は狙われている訳じゃないし、ゆっくりと考えるか)

 

輝夜はそう考えると、まず町に向かおうと考え、歩こうとした。

 

(ん?)

 

しかし、輝夜は何かに気がつき、そちらのほうに顔を向けた。そこには、1人のメイドが大量の洗濯物が入った籠を持ちながら歩いていた。

 

(ちょうどいい。あいつに1番近い町への行き方を訊くか)

 

輝夜はそう考えて、メイドのほうに向かって歩いた。

 

(……それにしても、あのメイド……。危ないな)

 

輝夜は大量の洗濯物のおかげで前が見えてないメイドのことを今にも転びそうだと危惧していた。

 

「キャッ!?」

 

「はぁ……。(やはりな……)

 

案の定、メイドは何かにつまづき、転びそうになった。輝夜はそれに呆れながらも足を地面に強く踏み込んだ。

 

「…………えっ?」

 

一方で床につまづき、転ぶと思ってメールを瞑っていたメイドの少女はいつまでも来ない衝撃に不思議に思い、恐る恐る目を開けた。目を開いた先の光景にメイドの少女は間抜けな声が出た。見知らない男性が右腕で自分の体を支えて、左手で自分がつまづいた際に落としたはずの大量の洗濯物が入った籠を持っていた。その男性はもちろん輝夜だった。輝夜は常人離れした瞬発力で一気に彼女に近づき、両腕を用いて支えたのであった。

 

「…………大丈夫か?」

 

「は、はい……」

 

メイドは目を白黒させながら、輝夜の言葉に頷いた。そして、メイドはすぐに態勢を立て直したのだ。

 

「危ないところをありがとうございます!私はここで働かさせてもらっているシエスタと言います」

 

メイドの少女、シエスタは態勢を立て直すとすぐに綺麗なお辞儀と共に自己紹介とお礼を言った。

 

「俺は光城輝夜だ」

 

それに伴って、輝夜もシエスタに名乗った。

 

「コウジョウ・テルヤ……。テルヤさんですね!よろしくお願いします!」

 

「(ん?)……あぁ」

 

輝夜は今のシエスタの言葉に僅かに違和感を感じたが、すぐに気のせいかだと思い、頷いた。

 

「あっ!?すみません!いつまでも、洗濯物を持たせて!受け取ります!」

 

シエスタは輝夜が片手で抱えている洗濯物の入った籠を見て、慌てて受け取ろうとした。

 

「いや、いい。俺が運んでやるよ」

 

「そんな!悪いですよ!」

 

それに対して、輝夜が断って、シエスタはそれに余計に慌てた。

 

「いいさ。この大量の洗濯物のせいでまた転ばれでもしたら、かなわないしな」

 

「あうっ!」

 

輝夜の言葉にシエスタは先程のことを思い出して、罰が悪そうな顔をした。

 

「その代わり、訊きたいことがあるのだが、それに答えてくれないか?」

 

「は、はい。そのようなことで良ければ……」

 

お互いに話が付くと、シエスタの案内の元で2人は洗濯する場所に向かった。

 

「……ところで、テルヤさんって、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう………」

 

そう言うシエスタの視線は輝夜の左手のルーンに向けられていた。どうやらこれに気付いてそんな質問をしたらしい。

 

「(使い魔になった覚えは無いがな)確かに召喚されたのは、俺だ。俺のこと、知ってるのか?」

 

「はい。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますわ」

 

そう言うと、シエスタはにっこりと笑った。それを聞いて、輝夜は世界が変わっても噂好きの奴はいるものなんだなと思った。

 

その後、洗濯する場所に着き、輝夜はシエスタに洗濯物の入った籠を渡した。シエスタはお礼を言って、輝夜の質問を聞こうとしたが、輝夜は洗濯してからで構わないと言った。別に急ぐことでもないため、そう言ったのだ。シエスタはそれを聞いて、また罰の悪そうな顔をしたが、輝夜の提案を甘んじて受け入れて、洗濯を始めた。それから他愛ない話をした。それを聞いて、輝夜はシエスタたち、この世界の平民は魔法が使えないため、魔法を使える貴族もといメイジを恐れているということを理解した。

 

(…………この世界では、死ぬ気の炎の存在は知られていないみたいだな)

 

輝夜はそう考えた。この世界の魔法がどう言ったものなのかはまだ理解していないが、死ぬ気の炎のことを知っているならば、少なくともこうも一方的な関係なはならないだろうと思ったのだ。

 

「すみません。お待たせしました」

 

そう考えていると、洗濯が終わったらしいシエスタが話しかけてきた。

 

「あぁ。それじゃあ、俺の訊きたいことだが……」

 

輝夜は町への行き方を訊ねようとした。

 

グウゥ~……

 

しかし、輝夜の腹から大きめの音が鳴った。

 

(…………そういえば、昨日から何も食っていなかったな)

 

輝夜は自分の腹に手を当てながら、そんなことを考えていた。

 

「クスッ。お腹空いたのですか?」

 

その音を聞いて、シエスタはクスリと笑って、輝夜に尋ねた。

 

「……まぁな。昨日から何も食っていなかったし」

 

「まぁ!それなら、どうぞ、ついてきてください。賄いものでよろしかったらお出しします」

 

そう言って、シエスタは輝夜の手を掴み、引っ張った。輝夜も特に抵抗せずにおとなしくついていった。

 

 

 

 

 

シエスタに連れられて、学院の厨房に来た輝夜はシエスタから賄いのシチューを貰った。

 

「…………旨いな」

 

そのシチューを一口飲んだ輝夜はあまりの旨さに思わず、そう呟いた。その言葉が聞こえたのか、シエスタは嬉しそうに「良かったです」と言った。輝夜はそのまま、シチューを完食した。

 

「ご馳走さま」

 

「お粗末さまでした」

 

輝夜がそう言うと、シエスタがそう返した。

 

「ところで、先程からのお訊きしたいことというのは、いったい何でしょうか?」

 

「あぁ、それはだな。ここから1番近い町への行き方を知りたいんだ」

 

「町への行き方ですか?」

 

輝夜の質問にシエスタがなぜそのようなことを訊くのかと不思議そうな顔をした。

 

「あぁ。実は召喚されたばかりで俺はここ辺りのことを全く知らないんだ」

 

「なるほど、そうだったのですか」

 

輝夜の嘘はついていない言葉にシエスタは納得して、説明し始めた。

 

「ここから1番近い町は東へ馬車で2 、3時間かかります」

 

「東に馬車で2、3時間か……。(馬車とはまた、時代錯誤のものが出てきたな。……いや、それよりも思ったより離れているな。夜のワープホールやドレイクで移動すれば、すぐなんだが、周りの土地勘を知りたいから、ワープホールは無し。ドレイクも飛んで誰かに見つかれば、目立つ。……まぁ、目立たないように気をつければいい話か。)そうか、ありがとうな。それじゃあ、俺はそろそろ離れるよ」

 

「はい!洗濯物のことは本当にありがとうございました!」

 

「あぁ」

 

輝夜はそう言って、厨房から出てシエスタと別れた。

 

(それにしても、貴族のガキ供は無駄に豪勢な飯を食っていたな)

 

輝夜は厨房を出てすぐにそんなことを考えていた。シチューを飲んでいる間、輝夜は厨房の窓から食堂を見た。食堂のテーブルには大きい鳥のローストに、ワインや鱒の形をしたパイなどが並んでいた。とても、朝食のメニューだとは思えなかった。しかも、メイジたちは食事を始める前に『偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします』と言っていた。

 

(いったい、あれのどこが『ささやか』なのやら。一度、『ささやか』という言葉を辞書で調べてみろよ)

 

その言葉を聞いて、輝夜は呆れていて、心の中でメイジたちに悪態を付いた。

 

(そういえば、あの食堂にはヴァリエールの姿が見当たらなかったな)

 

そこで輝夜は、食堂のいた生徒の中にルイズの姿が見当たらなかったことを思い出した。だが、あそこには多くの生徒たちがいたため、見逃しただけだろうなとあまり気にしなかった。………………そんな時だった。

 

「あぁー!!やっと、見つけたわ!!」

 

突如、歩いていた自分の後ろからそんな声が聞こえた。

 

「チッ(噂すれば、来やがったか。)何の用だ。ヴァリエール」

 

輝夜が後ろを振り返ること、そこには明らかに怒っていたルイズがいた。そして、輝夜の言葉にルイズはさらにキレて、周りに人が居ないものの大声で叫んだ。

 

「何の用だじゃないわよ!!あんた、何で起こしてくれなかったの!?それに洗っておいて、って言ったのに、私の服、部屋に置きっぱなしじゃない!!あんたは朝食抜きよ!!」

 

すでにシチューを飲んでいることを知らないルイズは輝夜にそう言った。

 

「(洗濯はともかく、起こせなど一言も言ってないだろ。)……それなら、真面目に仕事していたなら、俺も貴族様のような豪華な料理が食えたのか?」

 

輝夜は心の中でそうツッコミを入れて、なんとなくルイズにそんな質問をした。

 

「はぁ!?そんな訳無いでしょ!!平民のあんたには、スープとパン2切れで十分よ!!」

 

「…………」

 

ルイズの言葉に、輝夜は顔をしかめた。スープとパン2切れで十分。それは、平民の食事ではない。とても貧しい貧民か()()の食事だ。平民でももう少しまともなものを食べる。輝夜のかつての仲間で貴族の元奴隷だった日中居眠り男から聞いた話でも奴隷時代の食事がそんなものだったということを聞いた。おまけに、先程の貴族の食卓を見ただけに、思わず対比してしまった。その結果、輝夜はルイズに心底、失望した。もともと、期待などしていなかったが、今の言葉は、とても看破できるものでは無かった。

 

「…………お前、何か勘違いしているみたいだが」

 

本当は言う必要が無いと思い、黙って出ていくつもりだったが、気が変わった輝夜は淡々とルイズに言った。

 

「俺はお前の使い魔になることを認めた覚えは無いぞ」

 

その言葉にルイズは眉を吊り上げた。

 

「はあ!?あんた、何言っているのよ!?」

 

「言葉通りだが?俺は、お前が勝手に呼び出しただけであって、お前との信頼や忠誠とかそんなものは無い」

 

そう1度区切ると、輝夜はいまだに興奮しているルイズに冷たい視線を向けた。

 

「そもそも俺は貴族が嫌いなんだ。そんな連中の犬になるなんてごめんだ」

 

「なっ!?何、訳わからないこと、言っているのよ!?そりゃ、私だって、あんたなんか、使い魔にしたくなかったけど……あの召喚は神聖な儀式だから仕方ないじゃない!!」

 

「はっ!あれが神聖な儀式?身元不明の人間をいきなり訳わからないところに無理矢理連れてきて、勝手に使い魔にさせる。()()の間違いじゃないのか?」

 

ルイズの言葉に輝夜は鼻で笑って、馬鹿にしたように言った。

 

「なっ!?うるさいうるさいうるさいうるさいうるさーい!!あんたの言い分なんて知らないわよ!!あんたが何を言おうと、あんたは私の使い魔なのよ!!その左手に刻まれているルーンが証拠よ!!」

 

そう言って、ルイズは輝夜の左手の甲のルーンを指さした。

 

「…………こいつが?(そういえば、シエスタというメイドもこいつを見て、俺が使い魔かどうか訊いてきたな)」

 

ルイズに言われて、輝夜は左手のルーンを見た。

 

「そうよ!!それは、契約を行った際に刻まれるルーン!!あんたが私の使い魔だという証明よ!!」

 

「…………」

 

ルイズの言葉に輝夜は何も言わず、ジッとルーンを見ていた。それを言い返すことができなくなったと思ったのか、ルイズは気分良くして、輝夜に言った。

 

「ふふん。これで納得したかしら?あんたは私の使い魔よ。あんたはご主人様のために……「ちょっと、良いかしら?」…………何よ、()()()()

 

ルイズが輝夜に話している最中にキュルケと呼ばれた美少女が割り込んできた。話を遮られたルイズは再び、機嫌を悪くした。

 

「別に、あなたたちの話し声が聞こえたから、近寄っただけよ」

 

キュルケはそう言うと、輝夜のほうに目を移した。

 

「もしかして、あなたの使い魔って、それ?」

 

「そうよ」

 

「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない!」

 

(明らかに馬鹿にした言い方だな。……まぁ、俺よりもヴァリエールに向けて、言っているみたいだが)

 

キュルケの言い方に輝夜はなんとなく、そう思った。

 

「サモン・サーヴァントで平民を召喚するなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」

 

キュルケにそう言われるとルイズの白い頬に、さっと朱が差した。

 

「うるさいわね」

 

「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」

 

「あっそ」

 

「どうせ使い魔にするなら、こういうのが良いわよね~。フレイムー」

 

キュルケがそう言うと、彼女の後ろから尻尾に炎が灯っている真っ赤な大きな蜥蜴が出てきた。

 

「……ドラゴンか?」

 

それを見て、輝夜は表情に変化は無かったが驚いたように聞いた。

 

「えぇ、そうよ。でも、正確にはサラマンダーって言うのよ」

 

「へぇ」

 

輝夜はキュルケの言葉に対して、そう返すと珍しそうにフレイムを見た。

 

(どうやら、この世界ではドラゴンは普通にいるものみたいだな。それなら、一応、警戒はするつもりだが、ドレイクを出しても、問題は無いかもしれないな)

 

輝夜はそんなことを考えていると、ふと思い出したようにキュルケに言った。

 

「そう言えば、俺がヴァリエール(こいつ)の使い魔みたいなことを言っていたが」

 

「あら?違うの?でも、その左手のルーンがあるから、そう思ったのだけど?」

 

輝夜の言葉にキュルケは不思議そうに訊いた。

 

「(また、ルーンか……。)こいつは俺が気を失っている間に勝手に彫られたものだ。俺自身、了承した覚えは無い」

 

「ちょっと!!まだ、そんなことを言うの!?」

 

輝夜の言葉にルイズは憤慨した。そして、そんな光景を見たキュルケはおかしそうに笑った。

 

「あっはっはっ!何、ルイズ?あなた、自分の使い魔から信頼を得ることもできなかったの?」

 

「うるさい!!」

 

「でも、実際にそうじゃない。それに……」

 

キュルケはそう言うと、急に黙り出して、顔つきも真剣なものになった。

 

「な、何よ……」

 

ルイズがそれを見て尋ねたが、キュルケは何でもないという風に真剣な表情を崩した。

 

「別に何でも無いわ。それよりも、そろそろ授業が始まるけど良いのかしら?」

 

キュルケの言葉にルイズはハッとして、次に輝夜を睨んだ。

 

「ちょっと!!あんたのせいで朝ごはん、食べ損なったじゃない!!」

 

「それは悪かったな。(食堂で見掛けなかったと思ったら、ずっと探していたのか)」

 

ルイズの言葉に輝夜は一応の謝罪をして、そんなことを考えていた。

 

「あぁ、もう!!授業には、あんたも一緒に来るのよ!!拒否権は無いんだからね!!」

 

(……授業か。この世界のことを知るには、ちょうどいいかもしれないな)

 

ルイズの言葉に輝夜は自分に利があると思い、自分の腕を掴んで引っ張るルイズに抵抗せずにおとなしく、ついていくことにした。そして、キュルケとフレイムを含めた一向は教室に向かった。


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