「諸君!決闘だ!」
魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある中庭にあるヴェストリの広場でギーシュが薔薇の造花を掲げた。それと同時に周りにいた多くの生徒たちが歓声を上げていた。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの平民だ!」
「ギーシュ!そんな平民、やっちまえ!」
「貴族の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
周りにいた生徒がそう騒いでいた。先程の輝夜の発言で生徒たちの輝夜に対する怒りが溜まっているのだ。そんな中、ギーシュの向かいにいた輝夜はめんどくさそうにしていた。ギーシュは腕を振って、歓声に応えていた。それからやっと存在に気付いたという風に、輝夜の方を向いた。そんなギーシュに輝夜はますます呆れていた。
「とりあえず、逃げずに来た事は誉めてやろうじゃないか」
「ゴミに誉められても嬉しくねぇよ」
ギーシュのお世辞とはいえ賞賛をあっさり、毒舌で返されて、ギーシュは再び怒りで顔を真っ赤にした。だが、すぐに平静を取り装って、薔薇の造花を輝夜に突きつけながら言った。
「ふん、君の貴族に対しての口のきき方、気に入らないな。主人に代わってこの僕が、躾けてあげようじゃないか」
「…………」
それに対して、輝夜は黙って聞いていた。
一方で、輝夜についてきたルイズは不安そうに2人を見つめていた。
「随分と面白いことになってるじゃない、ルイズ」
「キュルケ……」
そんなルイズに声をかけたのは、キュルケだった。隣には彼女の友人の先程、教室で輝夜のことをジッと見つめていた少女、タバサの姿もあった。
「いいの?このままで?貴女の使い魔、使い物にならなくなっちゃうかもよ」
「言ったって聞かないんだもん。危なくなったら止めるわ」
キュルケの言葉にそう返すルイズだったが、やはり不安げな表情は消えていなかった。いくら、輝夜が全く言うことを聞かない使い魔だとしても、心配みたいだった。
「ふーん。ま、あたしは面白ければそれでいいんだけどさ。彼、多くのメイジの中であれだけの啖呵を切ったもの。なかなか居ないわ、そんなの。ねぇタバサ、アンタはどう思う…タバサ?」
キュルケに話しかけられたタバサは、普段は本から目を離さないのに、今は輝夜をジッと見つめていた。
「どうしたの、タバサ?あんた、もしかして、ああいう男が好みなわけ?」
キュルケの言葉にふるふると首を振り、否定の意を表してから、タバサは小さな声で答えた。
「あの人を甘く見ない方がいい」
「「えっ?」」
タバサの言葉にルイズとキュルケは少し面食らってしまった。
「タバサ。どういうこと?」
キュルケは思わず、タバサにそう聞いたが………
「…彼にも伝えた方がいい」
タバサは、キュルケの質問には答えず、ギーシュを指さしながら、そう言った。
「それじゃあ、始めようか」
ギーシュはそう言って、薔薇の造花を振るった。すると1枚の花弁が落ち、それが見る見る内に女性の甲冑へと変貌したのだ。
(へぇ……。質量保存の法則を完全に無視しているな。そういうところは、純粋に感心するよ。それと、あの人形の造形、豪の奴が気に入りそうだな)
それを見て、魔法について、暢気に考えていた。また、ギーシュのワルキューレの造形が自分の元の世界の仲間の人形師が気に入りそうだと思った。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね」
「………」
「どうやら、恐怖で声も出ないようだね。あぁ、言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
(だが、この勘違い野郎。隙がありまくりだな。『始めようか』って言ってから、俺がその気になれば20発は殴れたぞ)
自分が無反応なのを恐怖だと勘違いしたギーシュの体勢に輝夜はそう思っていた。もう決闘は始まっているのだ。その気になれば、瞬殺も可能だった。しかし、輝夜はそれをしなかった。
「さぁ、行け!!ワルキューレ!!」
ギーシュがそう言うと、ワルキューレは輝夜に向かって突進した。
スカッ……
輝夜はそれを紙一重のところでかわした。
「ほう…。よくかわしたね。それなら、これはどうだい?」
そう言うと、ギーシュは薔薇を振るって、新たなワルキューレを出した。そして、2体同時で輝夜に襲った。
シュンッ……
シュンッ……
シュンッ……
それに対して、輝夜は攻撃が当たるか当たらないか、ギリギリのところでかわしていた。端から見れば、輝夜が不利になっている状況だった。
「ハハハッ!何だ、あの平民!避けるので精一杯じゃないか!」
「何だよ!あれだけ、大口叩いた癖にその程度かよ!」
「結局、平民は平民なのよ!」
「おい、ギーシュ!そんな平民、とっととやっちまえ!」
そんな様子を見て、周りが野次を飛ばしてきた。
「あぁ、もう!だから、言ったのに!あの馬鹿!!」
「ねぇ、タバサ?彼、結構、追い詰められているけど、あなたの勘違いじゃない?」
そして、同じように今の光景を見ていたルイズは憤慨して、キュルケは『珍しいこともあるのね』といった感じで呟いた。
(…………違う)
しかし、タバサはキュルケの言葉を心の中で否定した。
(彼……わざと、ギリギリなところでかわしている)
タバサは気づいたのだった。輝夜がワルキューレの攻撃をわざと当たるか当たらないかのところで、かわしていることを。そのことに輝夜のそれを見極められる観察眼と度胸にタバサは感嘆した。しかし、なぜそんな危ないことをしているのか、その理由はタバサにもわからなかった。
(くそっ!!なぜ、当たらないんだ!?)
一方でギーシュは攻撃が当たりそうで当たらない、今の状況を焦れったく思っていた。ギーシュはタバサと違い、輝夜がわざと、そうしていることに気がついていなかった。だからこそ、『自分が有利なはずなのに』という考えより、余計に焦りが出ているのだった。
…………そんなときだった。
ドガッ!!
「ぐっ!?」
ワルキューレの拳が輝夜の腹に当たり、輝夜は飛ばされて、地面に倒れたのだった。それを見た周りの生徒たちは今までで1番の大歓声を上げた。
「………はっ!……ハハハ。なかなか、うまく逃げられたみたいだけど、そんなまぐれもどうやらここまでみたいだな」
今まで当たらなかった攻撃が当たり、ギーシュは一瞬、呆然としたがすぐにハッとなり、きざったらしく薔薇の造花を振り回しながら、そう言った。それを聞いた周りの生徒たちはドッと笑い出した。
「………たった1発、攻撃が
攻撃が当たったところを押さえながら、輝夜は起き上がり、そう言った。その途端、周りは一瞬、静かになり、次の瞬間、輝夜に対する罵倒の嵐が起きた。
「ふざけんな!!」
「逃げてばかりのお前が調子に乗るな!!」
「ギーシュ!!もうそんな奴、とっとと、やっちゃえ!!」
そんな罵倒の嵐の中、ギーシュは輝夜の減らず口に顔を引きつらせながら、輝夜に再びきざったらしく言った。
「ふん!負け惜しみかい?それならば、その負け惜しみを言えなくするよ」
そう言うと、ギーシュは呪文を唱えた。すると、輝夜の目の前にギーシュの錬金で作られた1本の剣が突き刺さっていた。
「さぁ!その剣を取りたまえ。これで、『武器も何も持っていない』という言い訳もできまい」
「…………」
ギーシュの言葉を聞き、輝夜は何の躊躇いも無く、剣に手を伸ばした。
「テルヤ!取っちゃダメ!!本当に殺されちゃうわよ!!」
しかし、掴む寸前でルイズがそう叫んだために剣を掴まずに、輝夜は顔をルイズのほうに向けた。そのルイズは顔を真っ青にしていた。もともと心配だったのが、ワルキューレに殴り飛ばされて、我慢の限界に達したのだった。
「へぇ……。俺のことを心配しているのか?」
輝夜は初めて名前を呼ばれたことに関してはどうでもいいと言わんばかりに、意外そうな感じでルイズに尋ねた。
「か、勘違いしないで!!あんたは私の使い魔なのよ!!心配するのは当然よ!!」
すると、ルイズは今度は顔を赤くして、輝夜に言った。青くなったり、赤くなったり忙しい奴だなと思いながら、輝夜は言った。
「ふーん。あっそ。使い魔だから心配してくれているのか……」
輝夜がそう静かに言うと…………
ガシッ!!
突き刺さっていた剣を右手で掴み、引き抜いた。
「あっ!!あんた、何をしているのよ!?取っちゃダメって…………」
「悪いけど」
勝手に剣を引き抜いたことにルイズは怒ろうとしたが、輝夜はそれを遮って、こう言った。
「何度も言うが、俺はお前の使い魔になることを認めた覚えは無い」
「っ!?」
輝夜の言葉にルイズは『こんなときまで、そんなことを言うな』と思ったが、そんなことは無視して輝夜はまだ言い続けた。
「その証拠を今、見せてやるよ」
輝夜がそう言うと、右手に器用に動かしながら、左の袖を廻り、それが終えると、剣の刃を
『!?』
「ちょ、ちょっと、待ちたまえ!?」
輝夜のいきなりの行動に輝夜以外の
「……なんだ?」
輝夜は『邪魔するな』と言わんばかりの視線をギーシュに向けながらも尋ねた。
「な、『なんだ?』じゃない!!君は今、何をしようとしているのだ!?」
「見てわからないのか?
『なっ!?』
ギーシュの疑問にあっけらかんと答えた輝夜に全員が驚愕した。誰も、自分の腕を切ることに理解ができなかったのだ。それを察したのか、輝夜は説明しだした。
「この左手のルーンで俺のことを使い魔だと認定されているんだろう?だから、ルーンを刻まれている左手を切り落として、俺が使い魔だという証拠を無くす。それだけだ」
シエスタ、ルイズ、キュルケ、ギーシュ。彼女たちは輝夜の左手のルーンから使い魔だと判断された。輝夜はその気が無くてもそれだけで使い魔だと判断されることに嫌気が差したのだった。
だから、この左手を切り落とそうと思ったのだった。そのために輝夜は食堂で多くの生徒たちが居る中で盛大に馬鹿にしたのだ。(ほとんどが本心ではあったが。)無駄にプライドが高いことを輝夜は見抜いていた。そうすれば、自分を制裁するために何かしらのことをしてきただろう。ただの制裁か決闘かは輝夜にとっても、五分五分だったが仮に制裁のほうで来たとしてもそれはそれで別の手段があったためにどうでもよかった。それよりもどちらにしても、多くの観客が居るのは間違いないだろうからそれにより最も説得力を持って、証明できるのだった。
今まで避けるだけだったのは、左手を切り落とす道具を手に入れるための建前を用意するためだった。自分の武器、ガンブレードを使っても良かったが取り出しかたが特殊なために止めたのだった。そのため、輝夜は我ながらの三流茶番を行ったのだった。
さらに言えば、殴り飛ばされたのもわざとであり、実際にはかわすこともできたし、受け身も取っていたので、ダメージはほとんど無いのである。
「だ、だからって……、その左手を切っても今度は右手に浮かぶかもしれないじゃないか……。そんなことをしても、君が使い魔だという運命から逃れないかもしれないじゃないか……」
使い魔だと思われなくたいがために、自分の左手を切り落とすことが理解できず、何とかやめさせようとギーシュはそう声をかけた。
(さっきまで制裁しようとしていた癖に、その相手が自傷するところをそんなに見たくないのか……?)
輝夜はそんなことを考えたが、輝夜と彼らではいろいろな意味で住んでいた世界が違うのだ。普通はどんな相手だろうと自分の腕を切り落とすところなど誰も見たくないのだ。
「(まぁ、いいか。そんなこと。)確かにそうだな。その場合は
『なっ!?』
輝夜の言葉に全員、3度目の驚愕だった。この時、ほとんどの生徒が輝夜のことをイカれていると思った。
「別に理解して貰おうとなど微塵も思っていない。ただ、貴族の犬になるぐらいなら、死んだほうがマシ。それだけだ」
『!?』
輝夜の言葉に全員、言葉を失った。今の輝夜の言葉には覚悟が籠っていた。それは誰の意見も聞く気ないという表れだった。そのことに生徒たち、何も言えなくなった。
「……まぁ、自害するかどうかはこの腕を切り落としてからの話だな」
そう言うと、輝夜は再び剣の刃を腕に当てた。そのことに生徒たちは驚いたがいろいろと衝撃なことがあったため、どうするべきか混乱していた。
「それじゃあ、やるとするか」
そんな周りのことを気にせず、輝夜は剣の柄を握りしめて、自分の腕に向けて、力を入れた。
「やめて!!!」
そんなときだった。いきなりの大声に輝夜は力を入れていた手を止めた。そして、声がしたほうに顔を向けた。
「……ヴァリエール」
声の主はルイズだった。そのルイズは顔を真っ青にして、涙を流しながら、先程の大声と違ってうわごとのように呟いていた。
「やめて……、やめてよ……。……いいよ……もういいよ……。もう……、あんたを
(…………これは予想外だな)
ルイズの態度に輝夜は内心驚いていた。まさか、ルイズから『使い魔扱いしない』という言葉が聞けるとは、輝夜は想像だにしてもいなかったのだ。
(それと、『せっかくの命を無駄にするな』か……。いろいろあって、考えすらしてなかったが、こいつ、一応、俺の…………)
そう考えると、輝夜はため息をついて呟いた。
「……ハァ。……予定変更だな」