輝夜とギーシュの決闘が終わった頃、本塔最上階に位置する学院長室では2人の男性が安堵の表情で息をついていた。
「ふぅ~……。圧倒的じゃったな、あの男……」
「私は生徒が無事だったことにホッとしましたよ……」
それは、ここトリステイン魔法学院の学院長であるオールド・オスマンと輝夜が召喚された際に会ったコルベールである。
輝夜とギーシュの決闘が始まる少し前に輝夜のルーンについて調べていたコルベールがある重大な発見をして、オスマンに報告するために学院長室に訪れたのであった。
その後、決闘騒ぎが起きたため、2人はその一部始終を『遠見の鏡』というマジックアイテムで見ていたのであった。
「うむ。確かにそうじゃな。子供と平民の喧嘩じゃと思って、わしも甘く見ていたわい……」
そう言って、額に手を置いたオスマンが後悔していた1番の理由はもちろん、輝夜がギーシュにトドメをさそうとしていたことだった。
オスマンもコルベールもそれを見て、『眠りの鐘』というマジックアイテムを使おうとしたのだった。しかし、結局は使う必要もなく、輝夜が勝手に終わらせたのだが。
「……それにしても、彼はいったい、何者でしょうか?」
「うむ……」
コルベールの疑問にオスマンも髭に手を当てて、先程の光景を思い出していた。
『貴族の使い魔になりたくない』という理由で自分の腕を斬ろうとしたり(実際に腕の半分を斬ったり)、死ぬ気の炎という魔法とはまったくの別物のギーシュのワルキューレを一瞬で塵と化すほどの圧倒的な力を持っていたり、結局、その死ぬ気の炎も武器も使わずにギーシュを圧倒したりなど、驚くべきことが多々とあった。
「何よりも最後、あの者、
オスマンがしみじみとそう言った。輝夜がルイズと使い魔になる話をしていた際に明後日のほうを向いていたが、その方向はオスマンとコルベールが遠見の鏡から見ていた方向であったのだ。輝夜と2人は目が合い、2人は背筋が凍ったのだった。
「……あれ、本当に気づいていたのでしょうか?偶然ということは……?」
コルベールが恐る恐る尋ねてみたが、オスマンは首を横に降った。
「いや、それはないのぅ。そうでなきゃ、ミス・ヴァリエールと話していたあのタイミングで顔をまったくの別方向に向けるのはあまりにも不自然じゃからのう。それに……」
そう言うとオスマンは目を瞑り、そのときのことを思い出しながら言った。
「あのときの
輝夜の言葉というのは、『OK。言質は取ったし、目撃者も多数いる。お互いに文句無しでいいな?』というものだった。実際、輝夜は決闘が始まる前から周りにいる生徒たちとは違う別の誰かに見られていたことに気づいていた。そして、それがこの学園の地位の高い人物だろうという予測をしていた。
そう予測した理由としては、一介の教師位なら、決闘を止めようとするだろう。どの学園も基本的に乱闘騒ぎを認めるはずがない。実際に離れたところで何人かの教師が決闘を止めようと動いていた。生徒たち、邪魔されてできなかったが。それに対して、高い地位にいる人間なら、今後のことも考えて、前代未聞の召喚された人間について観察してくるだろうと思ったのだ。
「……今回のことは無かったことにしろということでしょうか?」
「ふむ……。おそらく、そうじゃろうな。ここは、おとなしく、彼の提案に乗ろうではないか」
オスマンはコルベールにそのように提案した。正直言って、オスマンは輝夜の取り扱いに困っていたのだ。輝夜が決闘で見せたものは彼の力のほんの一端に過ぎないだろう。オスマンは理解したのだ、この学園に輝夜に太刀打ちできるものは少ないということを。居たとしても、輝夜に勝つことは難しいということを。だからこそ、そのような人物から和解の妥協案を出してくれるのは都合が良かった。コルベールもそれを理解したのか、頷いていた。
「わかりました。……ところで、オールド・オスマン。彼はやはり伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なのでしょうか?」
「それに関しては何とも言えんな。彼はほとんど、武器を使っていなかったからのぅ……」
そう言いながら、オスマンはコルベールがスケッチしてきた、輝夜に刻まれたルーンと古い一冊の文献『始祖ブリミルの使い魔達』に目を通した。もともと、コルベールが学園長室にやってきたのは、その文献には、輝夜のルーンが始祖ブリミルのありとあらゆる武器を使いこなす伝説の使い魔、『ガンダルーヴ』のものと酷似していたことを報告するためだったのだ。
しかし、その後、すぐにギーシュとの決闘騒ぎが起きたため、そのことをついでに確認するために見物したのだ。だが、結局、輝夜が武器を使ったのは数回であり、ほとんどが無手の状態だったのだ。唯一、ギーシュのワルキューレを燃やし尽くしたが、それも死ぬ気の炎による影響が大きいため、参考にならなかったのだ。
「とにかく、王室のボンクラ共にその者とその主人を渡すわけにはいくまい。そんなオモチャを与えてしまっては、また戦でも引き起こすじゃろうて。……いや」
オスマンがそう言うと1度、息をつき、深刻な顔ではっきりと言った。
「貴族を嫌っていると言外に宣言しておるあの青年に意にそぐわないことをさせてみろ。間違いなく、
「は、はい!かしこまりました!」
オスマンの言っていることが、あり得なくもないことだと思ったコルベールは緊張した面持ちで返事した。
ギーシュとの決闘の後、いろいろと周りが騒がしくなっている間に輝夜はさっさとその場を離れて、学院内を歩いていた。
「テ、テルヤさん!」
「……シエスタか。(そういえば、こいつ、あの野次馬の中に混ざっていたな。わざわざ、追っかけて来たのか?)」
すると、後ろから輝夜の名前を呼ばれて、輝夜が振り替えるとどこか緊張した面持ちのシエスタがいた。実はシエスタは食堂から走り去った後、輝夜のことが心配になって、ギーシュとの決闘を見に行っていたのだ。
「あの……テルヤさん……その腕……」
「あぁ、これか」
シエスタは輝夜が自分で半分斬った左腕を見ていた。輝夜の左腕は切り口を死ぬ気の炎で焼き塞いだため、酷い火傷の跡が残っていた。シエスタはその腕を見て、息を飲んだが、すぐに意を決して言った。
「その腕を保険医の先生に診せましょう!」
「……別にいい。俺は気にしない」
「私が気にします!いいから、行きましょう!」
それに対して、輝夜は断ったが強情にもシエスタは輝夜の右腕を掴み、おそらく保険医のいる場所へと引っ張った。輝夜は振りほどこうと思えばできたが、シエスタの気の済むまでやらせてやろうと思い、おとなしく、されるがままについていった。
数十分後、輝夜とシエスタは保健室から出てきた。
(火傷の痕はしばらく経てば消える……か……)
輝夜は包帯が巻かれた左腕を見て、そう思っていた。あの後、保健室に着いて、保険医に診せたら、たいそう驚かれて、魔法を使い、輝夜の左腕を治療したのだった。ちなみに保険医がそうなった事情を聞くと輝夜に説教したが、輝夜は適当に流したのだ。
(光の炎程ではないが、普通なら一生残る痕を時間がかかるとはいえ、治るとはな。……これは、魔法を使える連中が偉そうにしているだけのことは一応、あるか……)
輝夜はその力に驚いて、この世界の魔法の価値観を再認識していた。
「テルヤさん!もう2度とあんなことはしないでください!」
すると、隣からシエスタが輝夜に怒っているという感じで言った。
「わかった、わかった」
それに対して、輝夜は片手を軽く降って、返信した。態度こそ不真面目だが輝夜とて、そう何度もあのような真似をする気は無かった。しかし、輝夜の態度に納得ができなかったシエスタが訝しげに見て、尋ね直した。
「……本当ですか?」
「あぁ、本当だ」
「……わかりました」
まだ、どこか納得していなさそうな感じだったが、シエスタは一応、そう言った。
「あの、テルヤさん……」
「なんだ?」
すると、打って変わって、今度はシエスタが申し訳なさそうな顔をした。
「あの時はすいません。逃げ出してしまって……」
シエスタは頭を下げて、輝夜に謝罪した。おそらく、食堂で輝夜がギーシュや周りのメイジたちを怒らせた時、彼女は怖がって逃げ出してしまったことを言っているのだろう。
「そんなことか……、別にいいさ」
輝夜はどうでもいいと言わんばかりに素っ気なく言った。
「お前はあいつらに抵抗する術を持っていなかったんだろ?それならば、恐怖を持って逃げてしまうのは無理もない」
シエスタたち平民は魔法が使えない。そんな人たちにとって、魔法の使えるメイジたちは恐ろしい存在だろう。我が身を守るなら、あの場面では、逃げることが最善だから間違っていない。輝夜はそう思っていたのだ。
「テルヤさん……、ありがとうございます!」
輝夜の言葉に感慨を抱えたのか、シエスタは礼を言った。
(それに、そもそも、俺はあの状況をこれからのために利用するのにちょうどいいと考えていたし、謝られる筋合いは無いんだよな)
そんなシエスタを余所に輝夜は空気の流れ的に言わず、心の中でそう付け足していた。
「そうです!せめてものお詫びに、厨房に来てください!とびきりのご馳走をご用意いたします!」」
すると、シエスタが名案だと言わんばかりに両手を叩いて、そう言った。
「……そうだな。せっかくだし、頂こうか」
それに対して、輝夜は少し思案して、「確かに小腹が空いたな」と思い、シエスタの提案に乗った。
「はい!」
輝夜の言葉を聞き、シエスタは満面の笑みを浮かべて頷いた。そして、2人は厨房へと向かった。
厨房に着いた2人はそれから、シエスタがコック長のマルトーに事情を説明して、そのマルトーが作った料理を輝夜が食べていた。だが……
(……どうも、あまり歓迎されていないみたいだな)
輝夜は周りの自分に向ける視線を感じて、そう思ったのだ。マルトーや他のコックたち、シエスタ以外のメイドたちは輝夜のことを訝しげに見ていたのだ。マルトーが輝夜に料理を作ったのも、シエスタがお礼をしたいとマルトーを説得していたためだ。
「あのテルヤさん……。その、これは……」
シエスタも周りが輝夜にどんな視線を向けているのか、気づいて、恐る恐る声をかけて、何とかフォローしようとしていた。しかし、それを輝夜が制して、こう言った。
「おおかた、さっきの決闘騒ぎで俺が仕出かしたことに対して警戒している。それか、俺の死ぬ気の炎を魔法だと思って、俺のことを貴族だと思って警戒している。もしくはその両方だろうな。まぁ、こうなることは、予想していたから、別に気にしていない。ってか、
「っ!?」
輝夜の言葉を聞いたシエスタは顔をひきつらせた。どうやら、図星だったみたいだ。マルトーたちも同じだったのか、顔を反らしていた。すると、シエスタは輝夜に頭を深く下げた。
「ごめんなさい!!輝夜さんのことを怖がってしまって!!」
「だから、気にしていないって言っているだろ」
「テルヤさんが気にしていなくても、私が気にします!!テルヤさんはあのとき、私を庇ってくれた恩人なのに……、それなのに、怖がってしまって……」
「俺がそれだけのことを仕出かしただけの話だ。それに俺自身、この炎を受け入れこそはしているものの、
「えっ?」
輝夜の言葉にシエスタは間抜けな声が出た。マルトーたちも不思議そうな顔をしていた。そんなシエスタたちを余所に輝夜はいつの間に取り出したのか、指に嵌めていたリングから闇夜の炎を灯した。
『!?』
それを見て、初めて見るマルトーたちはもちろん、シエスタも改めて驚いた。
「俺の炎は黒いだろ?俺の故郷では死ぬ気の炎は誰もが使えたが、俺のような黒い炎を使えるやつは誰1人いなかった。そんな炎を使える俺のことが気味悪がったのか、俺は物心ついたときから、産みの親に
『っ!?』
輝夜の言葉にシエスタたちは悲痛と驚きが混ざったような顔をした。しかし、輝夜はそんなシエスタたちを余所に淡々と当時されたことを説明していた。
「俺の実家は貧しくて、産みの親も浪費癖の激しい両親だったし、一桁のガキだった奴を盗みに行かせたり、それが失敗すれば、暴力はいつものこと、飯抜きに寒い外での放置とかあったな。…………って、何お前が泣きそうな顔をしているんだ?」
淡々と話していた輝夜がふと気がつくと、シエスタが泣きそうな顔をしていたのだ。マルトーたちもシエスタと同じような顔をしていたり、気まずそうな顔をしていたりするものもいた。
「だ、だって……、テルヤさん……。あまりにもかわいそう……なのですから……」
「はぁ……。別に不幸自慢したい訳じゃないんだが?俺は。……まぁ、それよりも行きすぎた力なんてものは、使い方次第で人から称えられる英雄にも人から恐れられる化け物にもなれるんだ。俺はそのことを理解している。だから、周りの連中がどんな目で俺を見ていようと俺は気にしない。そんなもの、いちいち気にするのも面倒くさい」
『…………』
輝夜の言葉に周りは静かになった。別に何かリアクションを取って欲しかったわけでもない輝夜は黙々と食事を続けようとした。
「気に入ったぜ!!」
バンッ!!
「ぐっ!?」
すると、今までずっと黙っていたマルトーが大きな声を出して、後ろから輝夜の肩を思いっきり叩いた。輝夜にとってはたいしたダメージではないが、いささかタイミングが悪く料理を口に運んでいたときにやられたので思わず、吹き出しそうになった。
「……何しやがる」
何とか吹き出すのを堪えた輝夜は、マルトーのほうを少し睨み付けた。
「いや~、スマンスマン。だが、あんたの言葉には感動してぜ。力は使い方次第で英雄にも化け物にもなれるか……。そんでもって、あんたは自分のこと化け物だと思われても許容しているって訳か……。良いねぇ、良いねぇ!謙虚だねぇ。威張り散らしてるあいつらとは格が違うぜ!」
どうやら、マルトーは輝夜が謙虚な態度を取っていると思ったのか、気分よくしながら、そう言った。
「テルヤさんは化け物じゃありません!!私にとってはピンチを助けてくれた英雄です!!」
(………英雄なんて柄じゃないんだがな)
シエスタの言葉を聞いて輝夜はそう思ったが、いちいち否定するのも面倒くさいと思い、黙っていた。そして、周りではシエスタの言葉により、「熱いな、お二人さん!!」と言う者がいたり,ヒューヒューと口笛を吹いたりする者がいて、輝夜とシエスタを冷やかしていた。それに対して、輝夜は全く無関係ではないのに、自分は無関係だと言わんばかりにスルーしていたため何の変化も無いが、シエスタは顔を赤くしていた。
それからしばらく若干、宴みたいなテンションで雑談が行われた。そのときの交流から学園の平民たちの間で輝夜のことをギーシュのワルキューレを死ぬ気の炎で一瞬で燃やし尽くしたことから“我らの炎”と呼ばれるようになった。
あれから、時間が経って、輝夜はルイズのいる部屋に戻ろうとしていた。そして、ルイズの部屋の前まで着くとそこにはキュルケの使い魔のフレイムがいた。
「こいつはたしか……ツェルプストーって奴の……」
輝夜がそう呟くとフレイムが輝夜に近づいて、輝夜のコートの裾を咥えて、引っ張っていた。
「着いてこい……ってわけか…」
輝夜の呟きに賛同するようにフレイムはコートの裾をさらに引っ張っていた。おそらく、キュルケの指示だろう。それに対して、輝夜はいったい何の意図があって、自分を連れ込もうとしているのか気になって、大人しくフレイムに着いていった。そして、ルイズの部屋の隣であるキュルケの部屋に入るとそこは見事に真っ暗だった。
「扉を閉めて?」
すると、突然キュルケの声がした。しかし、それに対して輝夜はとくに驚かなかった。部屋は真っ暗だったが部屋の奥から人の気配がしていたため、そいつがキュルケだろうと輝夜は予測していたのだ。そして、輝夜は言われた通りに、背後の扉を閉めた。
「ようこそ。こちらにいらっしゃい」
そう言うと同時にパチンと指が鳴る音が聞こえた。すると、輝夜がいるところから奥へと蝋燭が順に灯り出した。その先にはキュルケがいた。彼女はベッドに腰掛け、セクシーなベビードール姿で艶かしい肌と豊満な胸を見せつけながら悩ましい視線を輝夜に送っていた。
(……どこの世界にも、変態ビッチみたいな奴はいるんだな……)
輝夜は元の世界の仲間のことを思い出しながら、若干、遠い目をしていた。これが他の男だったなら、動揺していたかもしれないが、生憎、輝夜は彼女に勝るとも劣らない体の美女にさんざん、見せつけられていたため、一切の動揺も見せず、むしろ呆れているのだ。まぁ、輝夜の場合、最愛の家族を守ることに専念していたため、そういったことの興味が人よりも薄いことも原因の1つである。
「あなたは、あたしをはたしない女だと思うでしょうね」
「………」
キュルケの言葉に対して、輝夜は黙っていた。それに対して、キュルケは気にせず、話を続けた。
「思われても、仕方がないの。分かる? あたしは“微熱”なのよ」
「そうか。それなら、本格的に酷くなる前に暖かい格好に着替えて、とっとと寝ることだな。俺は帰る」
そう言って、輝夜が踵を返して、ドアノブに手をかけようとすると、キュルケは今度は慌てて、輝夜を呼び止めた。
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!?“微熱”っていうのは、風邪のことじゃなくて、あたしの二つ名のことよ!!」
必死に弁明するキュルケの声を聞いて、輝夜はため息をつきながらも改めて、キュルケのほうを向いた。呼び止めることができたキュルケは安堵した表情を浮かべていた。そんなキュルケを怪訝な目つきをして、輝夜は尋ねた。
「それで、その微熱様が俺にいったい、何の用だ?言っておくが、保身のために俺を取り込もうとする故の行動なら、残念だが無意味だぞ」
輝夜は決闘騒ぎで周りに恐怖や不安をもたらした。そのため、キュルケの今の行動が自分を惚れさせて、危険から遠ざけようとしているためだと輝夜は考えていたのだ。しかし、キュルケは輝夜の言葉を聞いて、一瞬ポカンとしたが、すぐに何かに気づき、おかしそうに笑っていた。
「……何がおかしい」
「いえ、ちょっとね……。あなた、勘違いしているわ」
「勘違いだと?」
輝夜がそう言うと、キュルケは輝夜に近づき、すっと手を握りつつ、指でなぞり始め、妖艶な表情を浮かべた。
「あたしはあなたに恋をしているのよ……」
「………は?」
キュルケの言葉に輝夜は理解できなかった。先程も言ったが輝夜は決闘騒ぎで貴族にひれ伏さない、むしろ、貴族を殺そうとした姿勢を見せたのだ。だから、貴族たちには恐怖の対象として見られるならばともかく、恋愛感情を持たれるのは、輝夜にとって何の冗談だと思ったのだ。
(オマケにこいつは今朝、俺が貴族が嫌いだって、発言を聞いている筈だろ)
今朝、食堂近くで輝夜とルイズが口論していたとき、キュルケは近くを通っていた。そして、その口論の内容がキュルケに聞かれたのを輝夜は気づいていたのだ。特に困ることではないと思っていたから放置していたのだ。だが、だからこそ、なぜそのような相手に恋をするのか、輝夜は余計に理解できなかったのだ。
「ふふ。いきなりすぎて、驚いているみたいね。そうね、あたしもそうよ。全く恋は突然ね――」
「キュルケ!待ち合わせの時間に来ないと思えば……その男は誰だい!?」
そんな輝夜の様子を見て、キュルケがそう言っていると窓の外から、不意に声が聞こえた。貴族の男子生徒が1人、恨めしそうな顔でこちらを見ていたのだ。
「ベリッソン!?ええと……、2時間後に!」
「話が違―――」
キュルケに対する反論を皆まで言わせず、キュルケはスッと胸の谷間から杖を取り出すと、何の躊躇いも見せずに男子生徒に向かって振った。ボンッと火が燃え上がるような音と悲鳴と共に、男子生徒は窓の外へ消えた。
「全く、無粋なフクロウね」
「…やけに流暢な人語を喋るフクロウだな」
「本当にそうね♪ダーリン♪」
『どこのクフフナッポーのフクロウだよ』とどうでもいいことを考えながら、嫌味を言う輝夜だったが、キュルケは特に気にせず、輝夜に抱きつこうと両腕を回そうとした―――――
が、その時再び窓から声が怒号が飛んできた。
「キュルケ!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」
「スティックス!?ええと……、4時間後に!」
その怒号の正体はさっきのとは別の男子生徒だった。強引に入ってくるその男子生徒に向かって、キュルケはまた杖を振り上げた。そして、再びボンッと勢いよい音が爆ぜると悲鳴と落下音の後、ドスンッと大きな音が立った。
「……あいつ、『今夜
「勘違いしないで、彼は友達というより知り合いね。それにあれは言葉の綾よ。あたしが本当に好きなのは、ア・ナ―――――」
「「「キュルケ!そいつは誰なんだ!?恋人はいないって言ってたじゃないか!」」」
ジト目で輝夜が再び、嫌味を言うと、キュルケが弁明していたがまたもや窓際から、妙にシンクロがかった声で部屋に響き渡った。そこには今度は3人の先程の2人とはまた違う男子生徒が、押し合いながらこちらを睨みつけていた。
「マニカン!?エイジャックス!?ギムリ!?ええと、6時間後に!」
「「「朝だよ!?」」」
キュルケの言葉を聞き、3人は再びシンクロした。それからキュルケがうんざりした声で、フレイムに命令した。
「フレイムー」
きゅるきゅると部屋の隅で眠っていたフレイムが起き上がり、3人が押し合っている窓だった穴に向けて、炎を吐いた。そして、3度目のボンッと勢いよい音が爆ぜると悲鳴と落下音の後、ドスンッと大きな音が立った。その際に鳴った音もシンクロして聞こえた。
「ふぅ…。これで邪魔者はいなくなったわね。お待たせしたわね、ダーリ―――」
キュルケが一息をついて、輝夜の相手をしようと振り向いたら、肝心の輝夜がドアノブに手をかけようとしていた。これを見て、キュルケは再び慌てた。
「ちょっと待ってよ!?まだ夜は始まったばかりよ!?」
必死に輝夜を呼び止めようとしていたが肝心の輝夜が付き合ってられないと言わんばかりに無視して、ドアノブに手が触れようとした。
「!」
しかし、輝夜がいきなり、1歩下がった。これを見て、キュルケが戸惑っていると……
バンッ!!
ドンッ!!
バタンッ!!
「キャンッ!?」
扉が勢いよく開いたのだ。しかし、輝夜はそれを予知していたのか、開いた扉に膝蹴りをかまして、逆に勢いよく扉を閉めたのだった。その際に外から何かぶつかる音と悲鳴が聞こえたのだった。これにはキュルケも呆気に取られて、その場はシ-ンと静かになった。そして、すぐに輝夜が何事も無かったかのように扉を開けた。そこには、ルイズが鼻を押さえて、蹲っていた。それを見て、輝夜は一言、言った。
「乱暴に扉を開けると危ないだろ」
「乱暴に扉を閉めたあんたが言う!?」
すると、ルイズが勢いよく立ち上がって、叫んだ。ルイズの鼻は扉とぶつかったのか、赤くなっており、その痛みのせいで涙目になっていた。
「人が居ることも考えず、乱暴に開けた報いを受けただけだろ。自業自得だ。先に部屋に戻るぞ」
「あっ!?ちょっと!!待ちなさい!!」
輝夜がルイズの横を通り抜けて、部屋に戻って行こうとした。それに対してルイズが呼び止めたが輝夜は無視してルイズの部屋に入って行った。ルイズは輝夜は追いかけようとしたが、その前にキュルケのほうを向いて、キッと睨み付けた。
「ツェルプストー!誰の使い魔に手を出してんのよ!?」
「仕方ないじゃない。好きになっちゃったんだもん」
両手を上げながら、キュルケがそう言ったがルイズは信じられないという目を向けた。
「あんた……元から色ボケしていたと思っていたけど、とうとう頭がおかしくなったわけ?」
「失礼しちゃうね。……でも、まぁ、あなたの言いたいこともわからない訳じゃないわ。確かに昼間のあれで彼が冗談とはいえ貴族に平然と殺すと言ったことにあたしも恐怖を抱いたわ」
「じゃあ、なんで……」
「でも、それ以上に感銘を受けたのよね……」
そう言うと、キュルケは頬を紅潮させて、その時のことを思い出しながら、言った。
「平民とは思えない強さはもちろん!貴族相手にもひれ伏さないあの強気な態度!あたしの炎も上回る漆黒の業火!どれを取っても今まで会ったことの無いタイプの男だもの!是が非でも落としたくなっちゃったわ!」
キュルケの言葉に呆気に取られたルイズがすぐにハッと気がつき、首を横に振った。
「何よ!結局、あんたの色ボケじゃない!!もう、付き合ってられないわ!!」
ルイズはそう言うと、自分の部屋へとズカズカと歩いて行った。そんなルイズの後ろからはキュルケの「ダーリンによろしくね~♪」という言葉が手を振りながら送られた。
その後、ルイズが部屋に入るとルイズが敷き詰めた藁のベッドの上で輝夜が既に就寝していた。それを見て、キレたルイズは乗馬用の鞭を取り出して輝夜に振るったが、寝ていたはずの輝夜が起きて、素手で鞭を掴み取り、取り上げられてしまった。それを見て、ルイズは改めて輝夜のことを畏怖したがすぐに気を取り直して、輝夜に説教した。それに対して、輝夜はゲルマニアに関しては興味があったため大人しく聞いていたが、ヴァリエールとツェルプストーの因縁辺りから聞くのもばかばかしいと思い、説教のほとんどを適当に流したのだ。
こうして、輝夜の長い1日を終えたのだった。
これが平成、最後の投稿になると思います。