遊戯王 振り子使いの少年と連鎖使いの少女   作:DICHI

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2度目の就活が始まりです。
大変ですが、前みたいな後悔しないように突っ走りたいと思います。


第49話  過去

桜 side

 

 

『おはようございます、さて本日のトップニュースです。昨日午後9時ごろ、ネオドミノシティの繁華街近くで銃の音が聞こえたと言う110番通報が相次ぎました。セキュリティが駆けつけますと道路に血溜まりが発見されました。近くに人の姿は見当たらず、セキュリティは何者かがここで撃たれ、連れ去られた可能性があるとして、殺人事件と誘拐事件の両方面で調査中です。連れ去られた人物の身元は今の所分かっておりません』

 

『朝から怖いニュースですね。市民が沢山いる時間帯に銃声が聞こえたとは』

 

「お兄ちゃん・・・・お兄ちゃん・・・・・ヒグッ・・・ヒグッ・・・」

 

「桜ちゃん・・・・」

 

ネオドミノシティの高層ビル群、トップスの最上階、そこにある私の家に軽音部、祈と恭輔、アリアが集まっていた。私はお兄ちゃんが撃たれたというショックに頭がまだ混乱している。

昨日は途中から記憶が飛んでいる。ただひたすら逃げて、アリアお姉ちゃんの家に飛び込んだ記憶しかない。

 

「よりによって昨日の楽しい日に・・・・」

 

「狙っていたような犯行ね・・・・・」

 

「クソッ」

 

「お前ら、待たせたな」

 

「皆さん、ごめんなさい」

 

リビングにお兄ちゃんのセキュリティの知り合いである牛尾さんと狭霧さんが入ってきた。

 

「血液検査が終わった。間違いない」

 

「じゃあ・・・・じゃあ遊輝は何処に!?」

 

「分からないわ・・・・何の痕跡も残ってないもの」

 

「痕跡がないって・・・・あんだけ血塗れになっている奴を運んだのにか!?」

 

「だからこそセキュリティも困惑しているのよ。何の証拠も残っていない。近くの防犯カメラを見てもどうやって逃走したのか全く見当もつかない。まるで幽霊のように消えたって」

 

「そんな・・・・・・」

 

「今の状態じゃ安否確認も取れない。まずは敵の足取りを掴まないといけない。すまないが力を貸してくれないか?」

 

「あったりまえでしょ!?仲間がやられて黙っている私達じゃないわよ!!」

 

「すまない」

 

「それと、マスコミが色々調べ始めているわ。もしかしたら勘付かれるかもしれない」

 

「チッ・・・マスゴミめ」

 

舌打ちをしたスバルさんが悪態を付ける。こんな時にテレビや新聞、メディアは本当に障害となる。

 

「まずは別れよう。遊輝の動向を探すグループと桜の面倒を見るグループだ」

 

「私が桜ちゃんの面倒を見るわ。あとは探して」

 

牛尾さんが2グループに別れることを提案して、真っ先にアリアお姉ちゃんが手を開けて言った。他の人達はアリアお姉ちゃんの顔を見る。

 

「・・・・分かった。アリアには悪いが一人で頼んでもらう。他の奴らは捜索を頼む。軽音部の皆はサングラスと帽子をして正体を隠してくれ」

 

「分かったわ・・・・・」

 

「よし・・・・行くぞ」

 

「皆さん、くれぐれも安全にお願いします」

 

牛尾さんと狭霧さんを先頭にアリアお姉ちゃん以外の人達はリビングから出ていく。この部屋には私とアリアお姉ちゃんしか居なくなった。

 

「お兄ちゃん・・・・お兄ちゃん・・・・」

 

「桜ちゃん・・・心配よね。大事な人が目の前で撃たれた・・・・」

 

アリアお姉ちゃんは私の頭を優しく撫でて、胸に寄せてくれる。

 

「ん・・・・心が和らぐ・・・」

 

「そう・・・・これで少しでも和らぐならお姉ちゃんも嬉しいわ・・・・」

 

「お姉ちゃん?」

 

アリアお姉ちゃんの声が震えているのが聞こえた私はお姉ちゃんの顔を見る。アリアお姉ちゃんの顔は凄い悲しそうな顔をしていた。

 

「私もね・・・・・遊輝ちゃんがいなくなったのはショックよ。桜ちゃんと比べる訳にはいかないけど、私も遊輝ちゃんに救われたから」

 

「えっ?」

 

「私もね・・・・拾われた身なのよ。こことは違う街で拾われて、叔母さんに育てて貰ったわ。だけど小学校に上がった時、劣等生のレッテルを貼られて全て投げやりになって街から逃げた」

 

「お、お姉ちゃんが・・・劣等生・・・・」

 

とてもそんな風には思えなかった。アリアお姉ちゃんは頭の回転もデュエルの腕前も一流だと思っていた。

 

「2年かな、山に篭って自給自足をしながら修行をした。それで街に帰ってきて、馬鹿にしてきた奴らを見返した、だけど今度は力をつけ過ぎた。周りが私から敬遠して行ったわ。気付いたら私はまた一人ぼっち、心の中がポカンと空いていたわ。そんな隙間を埋めてくれたのが遊輝ちゃんよ」

 

「お、お兄ちゃんが?」

 

「私の心の感情が無くなった頃に遊輝ちゃんと会ってね、始めは敵対同士だったけど私がやることなす事全てに構ってくれたから私は嬉しかった。初めて人の温もりを味わった気分だった」

 

「・・・・お姉ちゃん、もしかしてお兄ちゃんの事、好き?」

 

「えぇそうよ。私を救ってくれた恩人で、私のことを構ってくる唯一の人よ。好きにならない理由(わけ)がないじゃない」

 

「でも、お兄ちゃんって彼女がいたような・・・」

 

「そうよ、ほぼ婚約前提で付き合っているわね。だけど私は諦めたつもりは無いからね。正妻にならなくても良いと思っているから」

 

「・・・・お姉ちゃんって執念深い人なんだ」

 

「私は諦めが悪いから。遊輝ちゃんと違って逃げの一手なんか使わないわよ」

 

「ん・・・確かに」

 

「だから絶対に遊輝ちゃんを見つける。何がなんでも、どんな手を使ってでも・・・・」

 

アリアお姉ちゃんの手が力強くなって私を引き寄せる。お姉ちゃんの顔は凄い決意に満ちた顔だった。

 

「・・・・・ん、お兄ちゃんを見つける。そしてアイツらをギャフンと言わす」

 

「桜ちゃん、ギャフンなんて甘えた言葉いらないわよ」

 

「えっ?」

 

「私はね・・・・その組織、徹底的に潰してあげるわ。完膚なきまでに」

 

 

桜  side out

 

 

遊輝 side

 

 

『(・・・・・どこだ、ここ?)』

 

俺の周りには何もものがない。ただ、黒い空間が広がっていた。

 

『(なんだこれ・・・・)』

 

『お兄ちゃん・・・・・』

 

『!?桜!?』

 

何も無い、平凡な空間に桜の声が響き渡る。俺は辺りを見渡して桜を探す。

 

『桜!?何処にいるんだ!?桜!!!!』

 

『お兄ちゃん・・・・・ごめんね、さようなら・・・・・・』

 

『おい桜!?!?桜!?!?』

 

何処にいるか分からない桜は突然、さようならと言った。混乱した俺は辺りを探し回る。だけど見当たらない。

 

『桜!?さくうぐっ!?』

 

辺りを見渡しただけじゃ見つからず、走り出そうとしたが、足が何故か動かずに倒れてしまう。

 

『桜・・・・・桜!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜!!!!!」

 

気付いたら上半身だけ起き上がっていた。口の周りには人工マスクが付けられていた。服はアカデミアの制服から白い病院着みたいな物を着せられていた。

 

「っツ・・・・そうか、俺、確か両足を撃たれて・・・・」

 

鬱陶しい人工マスクを外して、両足に痛みを感じ、それで俺は意識を失う前のことを思い出した。忘年会の後、桜を狙う組織に襲われて、両足に一発ずつ銃弾を食らったんだ。布団を地面に落としてみると、両足は太もも部分を中心に包帯を巻かれている。更には両足首に脚枷が付けられて、脚枷から鎖が伸び、ベッドの側面の柵に括り付けられている。

 

「ったく・・・こんな状態で足が動かせる訳ねぇだろ。あ〜・・・・・やっぱ動く訳ねぇか」

 

 カチャン

 

「あら、気付いたの?早かったわね」

 

枷を付けられているとは言え、一応の確認で足を動かそうとしたがやっぱり上がらなかった。そんな確認をしていたら部屋の扉が開いた。部屋に入ってきたのは俺を撃ったドゥだった。

 

「どうかしら?私の雇主は医薬会社でこういう治療面でも最高峰を自負しているわ」

 

「そもそもお前が撃たなかったらこんな治療受ける必要は無かった」

 

「貴方が私たちの言うことを聞いてくれたら良かったのよ。それと人工マスクは外しちゃダメよ。まだ安定期では無いからね」

 

ドゥは真っ先に俺の所に近寄り、俺に人工マスクを付け直す。そして地面に落とした布団を丁寧に掛け直す。

 

「普通の人ならショック死か出血多量による死、生存しても両足切断コースが、貴方のシークレットシグナーの能力で最悪の事は回避できたってお医者さんは言っていたわ」

 

「あんな事されたら本能で生きようと思うわ」

 

「とは言え、今の貴方はそのシークレットシグナーの能力は使えないはずよ。なんせ生命力が安定していないんだから」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

こいつら、俺が気絶している間に治療と俺のことを隅々まで調べやがったな。確かに今はまだ呼吸と心臓が安定せずに荒れている感じがする。血液も足りている感じがしない。こんな状態でシークレットシグナーの生命の能力なんか使ったら逆に負担がかかってしまう。

 

「医者の診断は銃弾を撃たれたことによる筋肉、ハムストリングと大髄四頭筋の破裂、萎縮病にならなくて良かったわね。それと神経の切断、他にも血管とか色々あるけど、長ったらしいから忘れたわ」

 

「別に言わなくて良い。俺も覚える気ないし、何より俺自身が動けないことがよく分かっている」

 

「普通から回復見込みなんてないけど今までの回復力で全治6ヶ月から1年だってね。良かったわね、1年経ったらまた歩けるわよ」

 

「その前にリハビリがあんだろ。俺、仕事の関係で色々と走り回らなきゃ行けねぇって言うのに」

 

「そんな事知っちゃこっちゃないわね。まぁ暫くはここで過ごしてもらうわよ。貴方は客人で大切にもてなしなさいと言うのが雇主からの命でね」

 

「ハッ、ほぼ人質扱いだろ」

 

「その減らず口を言わなければもっと手厚く歓迎できたのに・・・まぁ良いわ。もう暫くしたらご飯の時間よ。しっかりと食べないと病気は治らないからね。それと、貴方のこれ、こっちで保管させてもらうから」

 

ドゥは右の人差し指で壁を指す。そっちの方向に顔を向けると、俺の竹刀と刀、そしてデッキケースが保管されていた。

 

「暗証番号が掛かっているから貴方には取り出せないわよ」

 

「そもそもの問題でこんな状態で竹刀とか刀とか振り回せねぇよ」

 

「万が一の為よ。貴方の回復力は異常だって聞いたからね。デッキは没収でも良かったけど、雇主が置いとけって言うから取れないようにしたわ。その代わり、携帯は没収してデータ消去で粉々にしてあげたわよ」

 

「余計なお世話どうもありがとうございます」

 

「心がこもってない言葉は嬉しくないわね・・・・そうそう、私の雇主が明日貴方に会いたいって言っていたわ」

 

「・・・・・はっ?」

 

「明日は少し早めに起きてね。じゃあ」

 

「ちょっ!?まっ、うぐっ!?」

 

「あんなに大声出しちゃダメだよ」

 

ドゥを止めようとしたが、声を出そうとして心臓が痛くなった。直ぐに呼吸が乱れる。人工マスクの呼吸機械ですぐに呼吸を調えるようにする。

 

「(ハァ・・・ハァ・・・明日、桜を狙った奴が俺に会うだと?)」

 

一体何のために会うんだ?こんな状態の俺とあって何を話すつもりなんだ?

 

「とりあえず一発ぶん殴ってやりたい所だけど、あ〜ちきしょう・・・身体動かねえから何も出来ねぇな」

 

『マスター!!』

 

「・・・・ダイヤか。悪かったな、危ない橋渡って」

 

『危ない橋どころの問題じゃないですよ!!!死にかけの状態でしたからね!?』

 

「だから悪かったって言ってるだろ。流石に桜を逃すことに重くのせすぎた」

 

銃を使ってくることに頭を入れてなかったとは言え、言い訳もできねぇくらいにやられたからな・・・・何で生命の能力に反応しなかったのか結局分からずのままだ。

 

「・・・・そっちはどうだ?」

 

『・・・・少しは自分の心配をしてください。私たちは全員大丈夫です。ただ、この建物自体に特殊なジャミングシステムが掛かっていて、私たちの力でも抜け出すことは出来ません』

 

「腐っても金を持っている研究機関だな。つまりは外の連絡手段もねぇのか・・・・・どうやって伝えるもんか・・・」

 

『まずは治療に専念してください・・・・脱出方法は私たちの方で考えますから』

 

「・・・・・分かった。頼むわ」 

 

そう一言、返事をしてダイヤはスゥ〜と消えていった。流石にこんな状態じゃ何も出来ないことは俺でも分かる。ここはダイヤたちに任せて俺は身を流れるままに行こう。

 

ガチャ

 

「失礼いたします。お食事を持って参りました」

 

扉が開き、外から1人の女性が入ってきた。病院だから看護師かと思ったら何故か黒いタイトのスカートに白いワイシャツ、黒のジャケットを羽織り、紫のスカーフを巻いた、いわゆるスーツを着た秘書みたいな女性だった。

 

「本日より遊輝さんのお世話を担当いたしますアンと言うものです、他、部下が2〜3人ほど就かせていただきます。よろしくお願いします」

 

「・・・・・病院だろここ、看護師は?」

 

「我が社の社長の大事なお客様です。下手なナースより私の方が適していると我が社長からの命です」

 

「ふ〜ん・・・・ってことはあんたは重要役職か?」

 

「私は社長秘書を務めております」

 

「(社長秘書か・・・・・それでスーツなんだな)」

 

「ではお食事の準備をさせて頂きます」

 

 パチン

 

女性秘書・・・・アンが指を鳴らすと外から同じスーツを着た女性や男性が合計3人ほどがワゴンを持って入ってきた。俺の目の前に白テーブルを設置してテキパキと料理を並べていく。白いご飯に味噌汁、サラダに焼き魚だ。料理が並べ終えたところで俺の人工マスクを外してくれる。

 

「では、ごゆっくりどうぞ。1時間後に食器の片付けに参ります」

 

アンの後ろに部下が並び、全員が頭を下げる。そのままワゴンを持って部屋から出て行った。

 

「・・・・・・変なもの入ってねぇよな?結局食べるしかないけど」

 

不信感が拭えないが箸に手をつけて、味噌汁の入ったお椀を手に取る。そのまま口に入れる。

 

「・・・・・うっす、病院食が美味しくなったって言うけどあれは嘘だな」

 

なんかテレビで最近の病院食はレストラン出来るくらい美味しくなったって言うけど、やっぱ嘘だな。普通に考えてそんな簡単に美味しくなるとは思わんし、なによりそれが出来ても一部の病院だけだからな。

 

「(・・・・・桜、無事でいてくれよ)」




桜「お兄ちゃん・・・絶対に見つける」

アリア「私の怒らせたことを後悔させてあげるから・・・・」

スバル「しかし銃か・・・いよいよ戦争になってきたな」

アリア「勝つわよ、向こうがそういう手を使ってきたんだからこっちもそれなりの報復をさせてもらうわよ」

スバル「お、おう・・・・(この二人の気迫が凄まじすぎる(汗))」

桜「次回、『対面』。よろしく」

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